表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

234/706

魔導師の遊戯 其の二

 さてさて、助っ人も来てくれたことだし! 必要なもの――私の記憶を込めた魔道具数種類――も準備し終わった。

 と、いうわけで!


 早速、おしおきといこうじゃないか! 

 異議は認めない、内容に対する抗議なんて論外だ!


 ふふ、魔導師の『おしおき』が普通なんて温いこと、思ってねぇよな〜あ?

 そもそも、呼び寄せた友人達が声を揃えて『殺っちまえ!』という状況だったんだぞ? 殺人以外は何でもありだと、それなりの覚悟をしてもらわなければね?

 そして私は本日、ティルシア――呼び捨てでいいと言われた――曰く『手駒一歩手前(=処分対象予備軍)』な状況にあった侍女達と共に、かなり広い部屋にいたり。

 ええ、広いお部屋ですよ? 馬鹿どもに机と椅子を宛がってなお、余裕がありますからね!

 そんな中、私は彼女達に向き合う形で立っていた。対して、侍女達は全員が顔面蒼白だ。

 その原因は私の背後にあったりする。私の背後から吹きつける風、重いものが揺れる鈍い音……本日も元の世界の記憶が大活躍しておりますよ!


 天井から吊り下がって揺れている、鈍く光る巨大な大鎌とか。

 

 大鎌が揺れる度に聞こえてくる、重圧感のある音とか。


 確かに感じる大鎌の風圧とか。


 一見、本物のようです。素晴らしきかな、元の世界の技術! 

 なお、ネタバレすると大変ちゃちな悪戯レベルであることは言うまでもない。


 ・大鎌……幻影。そもそも、いきなり天井から吊るせるはずなかろう。

 ・音……記憶の再現。

 ・風圧……それなりの強さの風が、大鎌に合わせて吹き付けます。


 元はゲームの中にあるトラップというか、オブジェというか。まあ、所謂そういった類の再現なのだ。ゲームの中では当たれば吹っ飛ばされ、HPが削られる一品です。

 予想以上に侍女達が怯えている原因は、あまりにも大鎌が本物に近いから。ちょっと使い込まれた感じとか、細かい傷とか……そういった拘りが、幻影と判っていても恐怖を煽るのだ。

 

 大変良い反応である! 私も仕掛け人冥利に尽きる。


 ちなみに、この大鎌を選んだのにも理由がある。

 あれです、とある処刑方法を連想させるためなのです。首をスパッといくやつですな。

 彼女達、か〜な〜り罪への認識が甘いのだ。自分達がやらかしてきたことの重大さを、未だ判っていないと思った方がいいくらい。

 これには長年、サロヴァーラ王族が甘い対応をしてきたことが影響している。ぶっちゃけ、王族に対する不敬を見逃してきたことが原因と言っても過言ではない。

 彼女達は親世代からそれが『当然』。いきなり言われたところで、その罪の重さを理解しろという方が酷だ。


 と、いうわけで。

 心優しい乙女を自覚する(今回限定)私としては、『このままじゃいけない!』と思い立ったわけですよ。

 

 あ、皆も賛成してくれました。

 エマの『処刑を彷彿とさせる環境でのお説教は、確かに効果がありそうですわ』という言葉を筆頭に、皆は笑顔で賛同してくれた。

 まあ、セイルのように『殺さないまでも、一度は本物を体験させてやればいいのでは?』という馬鹿正直な発言――振りだけではなく、『偶然の事故』が起きそうな気がするのは何故だろう――もあったけど。

 うん、それでもいいかもしれないね。でも殺人をする気はないから、お前は大人しく壁の花になっていろ。


 大丈夫! その綺麗な顔で蔑まれれば、お嬢様方には絶大なダメージになるからさ?


 だって、セイルはクレスト公爵家の未婚男性。ルドルフの直属の部下ということもあり、世間的には超優良物件です。

 こんな人にゴミを見るような目で見られた挙句、嫌われれば……普通は実家含めてのダメージになるし、彼女達の評価も噂になるよね。

 優良物件に群がるのは、ここにいる人達だけではない。しかもセイルは一人しかいないので、ライバルを蹴落とさねば得られないと誰だって判る。

 その結果、勝手に彼女達の悪口が蔓延していくわけですよ。女同士の友情の儚さが垣間見える瞬間です。

 しかもセイルは守護役なので、ライバルどもを蹴落としたところで『貴女に興味はありません』という一言で終了。『結果はありがたく受け取りますが、貴女は要りません』ということですな。


 最低です。でも、それを素でやるのがセイルだったり。


 っていうか、提案したのは私です。その私を『(様々な意味で)理想的な婚約者』とか言っちゃう奴なんだぜ? セイルは。

 これを提案した時――知らないところで『さくっ』と殺られても困るから、妥協案を出した――、セイルは大変いい笑顔だった。エリザも「まあ! セイルならば適任ですわ!」と、とても乗り気。そうか、諌めないのか。

 よってセイルは現在、適度に周囲に良い顔をしつつも、私の守護役ということは伏せている。気づいたところで守護役は『お仕事』なのだ……十分、狙えます。

 そもそも、周囲には『魔導師が呼んだのは侍女(友人)』だと手紙を送る段階で知られているものね。余計な人が付いて来たことを訝しがられたとしても、セイルは騎士。エリザの護衛扱いで十分通る。

 今もセイルは厳しい表情のまま壁に寄りかかり、侍女達に蔑みの目を向けておりますよ。侍女達が何か失言でもすれば嬉々として口を挟み、そのことを噂として周囲に流すだろう。

 セイルって見た目だけは優しげなのだ。この青年の性格が非常に歪んでいるなどと、誰が思うだろう? 

 エリザも毒の収集をしたり、実の姉妹を容赦なく断罪した前科がある。本当に、彼らは敵というものに対して容赦がない。


 恐ろしや、ルドルフの側近達。

 これまでゼブレストで何があったのかを、彷彿とさせる一面だ。


「ま、魔導師様……」


 一人の侍女が、震える声で話し掛けてきた。視線を向けると、「ひっ」という小さな悲鳴と共に、よりいっそう震えだす。

 失礼な奴である。呼んだのはお前だっつーの。

 不快に思ったのが判ったのか、「もっ申し訳ございませんっ!」と即座に謝罪する侍女。話が進まないので視線で促すと、おずおずと口を開いた。


「あ、あの、その大鎌は……本当に幻影なのですか?」

「幻影だよ?」

「そ、そうですか。ならば、危険はございませんのね」


 さらっと返した答えに、侍女は安堵の表情となる。それは私達の話を聞いていた他の侍女達も同じだった。

 ……だが。


「異世界の技術、しかも作り出した私は魔導師。この世界の幻影とは違うかもね? どう? 試してみる?」

「え゛」


 続いた言葉に、彼女達は揃って安堵の表情を凍りつかせる。エマとエリザからは拍手を貰いました。残るセイルとセシルも納得の表情で頷いております。


 安堵した後、即座に突き落とすのは基本中の基本。何故、助かるなんて考える?


 私は世界の災厄こと魔導師です。これまで関わった国の上層部の皆様からは『鬼畜』、『外道』、『性悪』と悪の言葉オンパレードな評価にございます。

 ……断罪の魔導師? それ、直接接したことがない民間人が勝手に言ってるだけだから。


「何故、無傷で済むと思うんだ? ミヅキ達は君達が日々、この国の王族たるリリアン姫を貶める言葉を口にしていたことの証人であり、王より報復を許されているんだぞ? 何より、君達が己が立場を特権階級と認識している以上、王族への不敬が『知らなかった』で済むはずないだろう」


 セシルが呆れながらも、この状況に多大なる理解を示した発言――単なる常識だ――をすれば。


「そうですよね。その程度のことさえ判らぬ愚か者など、纏めて処分してしまっても抗議の声は上がりません。寧ろ、許してしまえばサロヴァーラの常識が疑われます。今の貴女達は『魔導師自ら報復をする』ということのために生かされているのだと、いい加減自覚してほしいものですね」


 セイルがさらっと怖いことを言った。

 うん、ある意味では正しいですな。こいつらを王の権限で処刑でもすれば、『毅然とした態度をとった』という良いアピールになるだろうし。

 ただし、今後のことを考えると悪手。事情を詳しく知らない民からすれば、王への印象が一気に悪くなる。唐突過ぎるのだ。

 セイルもそれを判っているだろうに、わざと口に出して彼女達を怯えさせている。そんな姿と、仲が悪いはずのエリザとの共闘振りに内心首を傾げ……やがて『ある事情』に思い至った。

 そういえば、かつてのゼブレストも貴族達がルドルフを押さえ込んでいたっけ……。そんな経験があるからこそ、エリザとセイルはこういった輩が特に嫌いなのかもしれない。

 苦労したものね、ルドルフ。それを踏まえると、二人の『さくっと殺っちゃいましょう!』な発想も納得だ。


「はいはい、そこまで! とりあえず、説明をするよ。貴女達は私が何か言っても、異世界人という点からまともに取り合わないと判断しました。そこで私の友人であり、侍女としてプロの彼女達に指導していただこうと思います!」


 パン! と手を鳴らし、注意をこちらに向けた上で今後の方針を解説。私の言葉に、侍女達は怪訝そうな表情を浮かべていた。

 ええ、『何故、侍女として指導を受けるのか?』と疑問に思うのは当然です……貴女達にしてみればね?

 だが、他国からすれば納得の展開ですよ。だって、自分達の非常識さを突きつけられることになるのだから。


「まず、エメリナ。彼女はコルベラ王女・セレスティナ姫の侍女であり、キヴェラでの一年を唯一の侍女として、または姫を守る騎士として過ごした人」


 私の紹介に、エマが綺麗に一礼した。さすがにキヴェラの一件は知っているのか、侍女達が驚愕の表情を浮かべている。


「次にエリザ。ゼブレスト王ルドルフの側近であり、身の回りの世話を任された侍女。……いい? 彼女は『側近』という扱いだからね? その上で王であるルドルフを守り通した一人……冗談抜きに貴族達と遣り合ってきた猛者だから」

「ふふ、そのように言っていただけて光栄ですわ」


 事実のみを言ったのだが、エリザは謙遜するような言葉を口にする。……いや、エリザからすれば本心なのか。侍女という立場上、彼女が外交方面で何かを成し得ることは不可能なのだから。

 まあ、今はそこまで口にする必要はなかろう。あまりにも豪華な指導者達の登場に、侍女達は固まっているしさ。


「貴女達はリリアン様を『不出来』だの、『出来損ない』だの言ってきたもの。さぞや、自分達は『立派な侍女』なんでしょうねぇ?」

「え……」

「そ、それは……」


 嫌味っぽく言ってやれば、ざわりと侍女達がざわめいた。だが、今更言い訳など聞いてやる義理はない。


「リリアン様は意図的に教育をされなかった。『知らなければできないのが普通』なんだよ、できないのが普通なの! だけど、貴女達は侍女になる上で教育を受けているはず。『できなければならない』のよねぇ?」


 くすくすと笑いながら告げる私に、彼女達も事態の拙さが徐々に理解できてきたらしい。顔を青褪めさせる者が続出している。


「先ほどの話にもあったように、不敬罪は立派な罪。それに加えて、そんなくだらないことをしていた貴女達が『出来損ない』だったら? ……これまでリリアン様を貶めていた分、嫌悪感を抱かれるでしょうね。『出来損ないが何様のつもりだ!』って」

「そのようなことはありません!」


 面白がるように状況を説明する私の言葉に被せるように、否定の言葉が挙がった。視線を向けると、一人の侍女が立ち上がって私を睨みつけている。

 彼女は私の言い分――ここにいる者達が『出来損ない』と判断されていることが不満らしい。皆の視線が集中する中、その侍女は席を立つと扉の方へ歩いていく。


「あら、逃げるの? 王命に背くことになるけど?」

「この場が侍女としての見極めならば無意味ですわ。私は己が責務を果たしてきたと思っておりますので」


 随分とこの侍女は強気だった。おそらくは貴族令嬢なのだろう。異世界人の私主導ということに加え、侍女としてのこれまでを否定するような言葉に、お貴族様らしく高かったプライドに傷でもついたか。

 だが、そんな彼女の顔は次の瞬間、凍りつくこととなる。


 とすっと軽い音を立てて、『何か』が彼女のすぐ近くの壁に突き刺さったことによって。


 誰もが何があったのか判らなかったことだろう。判っているのは……強気な発言をした侍女の頬を掠めて、細い投げナイフが壁に突き刺さったくらい。


「いけませんわ。きちんと指導を受けていただかなくては」


 微笑んだまま、エマは片手にナイフを構えていた。その慣れた姿に、エリザが賞賛の声を上げた。


「あら、エメリナ様の方が早かったのですね。私もまだまだですわ」

「いいえ、エリザ様のナイフは一撃で仕留めることを狙うものでしょう? 私のは牽制程度にしか使えませんから、とても軽いのですよ」


 同じくナイフを手にしたエリザの発言に、エマは首を振ることで否定する。二人が微笑んで交わす会話に、侍女達は目を見開いて硬直中。教官役の二人の凄さに驚いた模様。

 馬鹿だな〜、この二人は正真正銘『武闘派侍女』だってのに。戦ってお世話できる、素敵な侍女さんなんだぞ? 護衛を兼ねてるんだってば。


「言い忘れてたけどね、彼女達は戦えるから。さっき言ったでしょ? 『姫を守る唯一の騎士』、『王の信頼を受けた側近』って。『そういう方面』もきっちり教育されていて当然だからね?」


 もっとも、彼女達は自分の意思で身につけたみたいだけど。

 そう付け加えれば、二人はその言葉を肯定するように頷いて微笑んだ。


 それが彼女達の誇りであり、覚悟の証である。


 そう思えるほど、二人は己が立場を簡単に譲ることはしない。今回の遠征はそれが『主の命』だからだ。

 つまり、彼女達にとってこれはお仕事なのであ〜る。その主達に頼んだのは私だが。


「ちなみに二人共貴族だから。エリザは伯爵夫人だし、エメリナはブリジアス領の未来の奥方ね。さて、これで『貴族だからこの二人の様にできない』っていう言い訳は使えないよ。ところでさぁ……」


 改めて事の発端となった侍女へと視線を向ける。彼女はあまりの事態にすっかり怖気づき、へたり込む寸前だった。


「あ……わた、私、は……」 

「言い訳は聞かない」


 パチリと指を鳴らす。同時に、彼女をしたから突き上げるような形で衝撃波が起こり、彼女の顔面を直撃して僅かに体を浮かせた。

 どさり、と倒れ込む侍女。顔を押さえて転がった彼女に歩み寄り、私は容赦なくその頭を踏みつける。


「拒否権はないの。刃向かわれたり、拒否された場合に、つい力が入って死ぬほどの怪我を負わせてしまうことだってあるわよね? ……いつまで自分基準で動いてるんだ、この出来損ないがっ!」

「ぐ!?」


 足に体重をかければ、先ほどの気の強さが嘘の様に呻き声を上げる。そんな彼女を助けようとする者は……皆無だった。いや、批難する視線さえある。

 大方、『貴女が余計なことを言って、魔導師を怒らせなければ』とでも思っているのだろう。


 ああ、何て脆い繋がり。その程度の覚悟しかないのに、王族を貶めることに揃って荷担していたなんて。


「ほら、さっさと席に着きなさい? 貴女達が出来損ないであることなんて今更だけど、野放しはできないからこんな手間をかけてるんじゃないの」

「そのとおりですわ。罪人の分際で、ミヅキ様のお手を煩わせるものではありません」

 

 足を退けて促すと、侍女はのろのろと起き上がる。その目には私……いや、私『達』に対する恐怖が見て取れた。

 エリザの厳しい声を受けながら。侍女は今度こそ、きちんと席に着くのだった。


※※※※※※※※※


「それにしても予想以上に酷かったな」

「でしょう?」


 エリザとエマという鬼教官の指導の下、今更ながらに教育されている侍女達を眺めていたセシルが呆れたような表情でそう口にした。

 ええ、そうですよねー……超基本の不敬罪が理解できてない時点で、期待はできないだろうけど。

 現在、私とセシルは呑気に隅でお茶しております。セイルは監視の名目で侍女どもに厳しい視線を向けていた。


 ええ、反抗的な態度を見せる度に、抜き身の剣を該当者の首元に突きつけている以外は普通です。


 掠る程度の怪我はするかもしれないが、侍女達が素直にエリザ達の言うことに耳を傾けていればいいだけである。

 あれだけ『出来損ない』だと言い切られたのに、未だ反抗する方が大問題だ。エリザ達もたまにナイフ出してるし。


「しかし、彼女達には指導だけなのか?」


 さすがに報復としては軽いと思ったのか、セシルが聞いてきた。勿論、その答えは否だ。


「この後、全員の顔全体に文字が浮かぶようにしようと思って。文字はもう用意できてるよ」


 そう言って足元の袋から『出来損ない』、『不良品』、『失敗作』などと書かれた紙の束を取り出す。

 あれです、バラクシンで教会上層部の馬鹿どもを叩き出した時に使った刺青モドキ。それを彼女達に施そうと思っている。

 個人的な報復ですもの、再び正座してお習字しましたとも。……私の行動が気になった奴は、それを使われた彼女達を見に行くだろうしね。


「だって、他の人達まで同類に見えちゃうかもしれないじゃない? それに仕事を頼む方も困るでしょ。だから差別化を図る意味でも、一目で判るようにしなくちゃ」

「違いない!」


 楽しげに笑うセシルだが、彼女とてその意味を判っているのだろう。

 女性が顔に刺青モドキの文字、しかも何故そうなったかは誰でも思い至る。実家に引き籠もるしかないでしょ、これ。


「その先も考えているけど、今はそこまで持っていくことが重要かな。……残せるはずないじゃない」

「確かに。彼女達を『罪人の自覚のない害悪』と周囲に認識させるにしても、今回の態度があれでは間違いなく警戒され続ける。君を怒らせることを避ける意味も含めて彼女達を家に引き籠もらせれば、他者に影響など与えられない。彼女達が自分の顔を人目に晒したくないなら、縁談なども受けないだろうな」


 セシルの予想に、肯定を示すように頷く。私の狙いは彼女達を更生させることではなく、ある程度の躾を施した上での『隔離』なのだ。

 あの刺青モドキがどのくらいもつかは判らないが、婚期を逃す程度の時間稼ぎができれば十分だ。まあ、罪人として名が残っているから、そういった意味でも縁談などはないかもしれないが。


「結果的に、害悪の連鎖が止まるのよ。親から子へと『王族を見下しても平気』なんて認識が受け継がれちゃったことも問題なんだから」


 私が一番拙いと思ったのはこれ。そもそも私達の脅迫に対し、怯えながらも反抗的な態度を見せる者さえいたじゃないか。

 これ自体、普通はおかしいと思う。この場は『王の許可を得た、魔導師の報復』なのだから。最高権力者の決定ですぜ?

 この状況を見ても、彼女達の意識改善は簡単ではないことが窺える。それが『当然』というように根付いてしまっているので、注意程度で直るわけがない。

 だったら、彼女達の代で終わらせてもらおうと思ったのだ。これは侍女に限らず、そういった意識を持つ者全てが該当している。

 

「痛みと共に、自分達が『出来損ない』という認識を刷り込む。『それを成したのが魔導師』という事実と、それに伴う恐怖を刻み込む、か。今後もミヅキの話は嫌でも耳に入ってくるだろうから、君への恐れがおかしな真似をしない牽制になるんだな」

 

 大鎌の恐怖と反抗的な侍女をボコったこと、そして今回の『教育』における恐怖や痛みの全て。それらが魔導師の主導で行なわれている以上、彼女達にとって恐怖の対象は私こと魔導師。

 しかも虐待や不当な暴力ではなく、『プロによる、侍女としての徹底教育』。王の許可、そしてエリザやエマの肩書きもあり、この集い自体が不当だと言われることはない。 


「結果として、要らない者の排除が行なわれるんだな」

「うん。次の世代には要らないもの」


 にこやか・和やかに話している私達の視線の先、そこには鬼教官様から直々の指導をされている侍女達の怯えた姿があった。武闘派侍女様は中々に厳しい模様。

 エリザ達は己が立場に誇りを持っている。彼女達の主直々に任された『お仕事』ならば、私の期待に応えるべく徹底指導をしてくれるだろう。

 ……どんな手を使っても。

本当の目的は『もたらされる結果』。

そして侍女達のダメっぷりが『肩書きのある侍女』の報告として

サロヴァーラや他国に流出。

「そのままで重い罰が望めないなら、状況を整えればいいだけ!」な発想の主人公。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ