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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ゼブレスト編
23/700

努力する方向が間違っています

 ルドルフに『御願い』をした翌日。

 私の元に一個の箱が届きました。送り主は不明です。


『……馬鹿だ。本当に馬鹿だ』


 その場にいた全員の心の声はハモったと思われ。

 誰がやったか知りませんが、ここは後宮なのです。外からの品ならチェックが入る上に無条件で持ち込めるのはルドルフのみ。他は内部の犯行ですよ。

 私が頼んだものはルドルフ本人が持ってくるのでこれじゃありません。

 敵・味方の行動を明確にする為に後宮のきまりを守っているのです。勝手なことをしていると言われても困るしね。


 で。


 嫌がらせの基本、定番中の定番!


 差出人不明の不審な小包!


 しかも中からは微かにカサカサ音がするよ!


 ……こんなもの馬鹿正直に開ける奴なんているわけねーだろ、普通。

 こんな嫌がらせが成功するのは物語の中だけですってば。

 ゲームの中で生産職連中が作った罠に慣れた私がこんなものに引っ掛かるはずはありません。

 ファンタジー定番のミミックの方がまだ可能性があります。

 今の私なら高性能な罠とか作れるかも? 今度試すか。


「これってさぁ……」

「はい……どうしましょう?」

「私が捨てて参ります」


 うん、エリザも困るよね。つか、触りたくないだろう。

 ここは申し出てくれた騎士さんに御願いすべきでしょうね。

 とりあえず魔術で冷やすのでカサカサが聞こえなくなったらお願いします。

 虫だったら動かなくなるはず。


「あ、念の為中身の確認と報告御願いします」

「勿論です」


 そう言った騎士さんが疲れたように溜息を吐くのも仕方が無いでしょう。

 誰だ、こんな嫌がらせが成功すると思ってる奴。

 後始末をするのは護衛の騎士なんだぞー?



※※※※※※




「あらあら、陛下がいらっしゃるやもしれませんのに何処に行かれますの」


 好戦的な目をしながら話し掛けてきた側室は取巻きらしい何人かを引き連れている。

 えーと。

 お前ら、反省って言葉を知ってる? 贈り物もこいつらか?

 たった数日で行動を起こすなんて、猿の方が賢いと思われても仕方ないよ?



 不気味な贈り物という名の嫌がらせがあった日の午後。

 後宮の構造の確認という目的の下、散策中です。エリザはお留守番してもらってセイル他二人の護衛がついてます。

 そうしたら中庭へ抜ける通路にて側室グループと鉢合わせました。つーか、アンタ誰。

 初めて言葉を交わす相手に名乗ることは基本ですよ?

 閉じこもってたのは猛省したとかじゃないみたいですね、彼女達は。

 『猿の方が賢いんじゃ……』などと思っていると挨拶代わりに嫌味を言ってきます。


「リリーナ様のおっしゃるとおりですわ」

「そうですわ。あのような暴力沙汰を起こされては困りますもの」

「ずっとお部屋に引き篭もってらっしゃいましたものね」

「そのまま陛下をお待ちになればよろしいのに。夢中にさせるほどの床上手なのでしょう?」


 言いたい放題です。あの茶会はただの暴力行為でしかないんかい。

 ふふ……では私は貴女達の言葉を自分にとって都合のいい解釈で受け取りますね?


 つまり部屋に引き篭もって悪企みしてろと。


 直接暴力を振るうのではなく悪質な嫌がらせで攻めろと。


 ルドルフもそれを容認し推奨してると。


 そして自分達が側室代表として『側室は反省していない』と伝えてくれているわけですね?


 ありがとう、側室の皆さん! 貴女達の後押しを受けて私はやる気十分です。

 ありがたく斜め上の解釈をさせていただきますとも。

 後から意味が違うとか言い出しても反論は認めません。諦めろ?

 将軍、無表情になる必要はありませんよ。言質をとりましたので報告御願いします。

 とりあえず会話を切り上げますか……しつこそうだし。


「まあ……何て品の無い」


 扇子を口元にあてて眉を潜める私に側室達が怪訝そうな顔になる。


「貴族の姫たる者が床上手などと口にするなんて。どこの娼婦ですか、貴女達は」

「なっ!」

「ここは後宮ですのよ!? 貴女とて同じ立場ではありませんか!」


 違います。……と今は言えませんな。でもこんなのと同類は嫌だ。

 そもそも娼婦の皆さんは生活の為にああいうことをしているのであって貴女達とは違います。

 彼女達を馬鹿にするつもりはありませんが、下町風の判り易い表現として使用。ごめんよ。

 すると穏やかな声で援護射撃がきた。


「ミヅキ様、我が国には『まともな』令嬢もいらっしゃいますよ?」

「そうですね、セイルリート将軍。騎士とはいえクレスト家の若君の前で口にする言葉ではありませんもの」


『まともな』と強調するその言葉に側室達は顔を真っ赤にして黙り込んだ。

 発言者が麗しのセイルリート将軍ってのも重要ですね!

 あのさ、それくらい気付こうよ?

 女の園って言っても女性騎士のいないゼブレストでは護衛の騎士も当然男性。

 床上手云々と平気で口にする女がどう思われるかなんて考えればわかるじゃん。


「貴女達と同列に成り下がる気はありませんわ。二度とお会いしないことを祈ります」

「させませんよ。国の恥ですので」


 それでは失礼しますね、と一言告げさっさとその場を離れる。

 ちらり、と振り返った先で彼女達はまだ立ち尽くしていたみたいだけど気にする必要無し。

 セイルを前にして黙っただけなので反省などしていないでしょう。

 私に対する悪口大会でも始まっているかもね。


「やはり彼女達でしょうかね、あの贈り物は」

「どうかな? 反省している素振りも無いし側室全員がそうだと思っていいと思う」

「やはり無駄でしたか……」


 苦々しく呟くセイル。まあ、真面目に務めている人にとっては頭の痛いことでしょうね。

 私にとってはやり易くなって何よりです。

 一々判別するより全員敵認定する方が楽ですって、絶対!

 ターゲット以外を巻き添えにしても良心が痛みません。元からあるかも謎ですが。


 ここが後宮である以上、私が側室ならば女同士の泥沼展開に発展するところですがね?

 私は側室ではないし、役目は貴女達を叩きのめすことなのですよ。

 ……自分から出て行きたいと思わせる程度にね。

 最後の一手は王に譲らねばなりませんし、彼女達を裁くのは国の法なのです。


「とりあえず部屋に戻りませんか? 今後のこともありますし」


 そう告げて部屋へと歩き出す私に騎士達も歩き出す。

 それなりに収穫があったので部屋から出て正解でしたね!

 さあ、部屋に戻って『可愛らしい悪戯』の準備をしますか。



 その翌日から中庭は大規模な害虫駆除の為に幕を張られて立ち入り禁止となったのだった。

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