第一王女と魔導師 其の一
部屋に乱入者どもが突撃して来てから二日後。
私は……第一王女ことティルシア姫の部屋に招かれていた。
「本当に……申し訳ございません。私如きの謝罪でお気が済むとは思えませんが、それでも謝罪させてくださいませ」
目を伏せ、深々と頭を下げる美人。その儚げな姿は見ている者の庇護欲を誘う。
今はこんな姿を見せてはいるが、謁見の間では控えめながらも王の側でしっかりと現実に向き合い、顔を上げていた。
これまでの情報とその態度から、彼女がただ守られるだけの女ではないと判る。少なくとも、私は一度も彼女が動じた姿を見ていない。
時に儚げに、時に凛とした姿を見せる美しく聡明な次期女王。それがサロヴァーラ国のティルシア姫の一般的な評価だろう。
「貴女が悪いわけではありません。謝罪は受け取りますが、私はサロヴァーラ王の手腕に期待しております」
頭を上げてください、と言いつつも……私の言葉は微妙に刺付きだ。ティルシア姫も私の言葉の意味を悟っているらしく、その表情は晴れやかとは言えなかった。
『貴女自身が行動したわけじゃないけど、サロヴァーラってクズが多いのね? 王様がどういった決着に持ち込み、馬鹿どもを処罰するか期待してるわ。勿論、見極めって意味でな』
私の言葉を意訳するとこうなる。『王の手腕に期待』が必ずしもそのまま『期待』という意味ではない典型だ。
見てるから頑張れよ? 的な警告である。激励とも受け取れるので、不敬にはなるまい。
今この部屋にはティルシア姫と私の他には侍女が一人。秘密のお話をするのには最適な環境と言えた。
そして、これこそ私が護衛騎士に依頼したものだったりする。
『貴方はこの部屋で得た情報をサロヴァーラ王に伝えればいい。ただし、本当に信頼できる者しかいない状況でね。下手に情報が漏れると、今回の乱入者事件みたく馬鹿なことをやらかす奴が出るから』
『そして、サロヴァーラ王に伝えて欲しいの。【私と第一王女が直接お話する機会を作ってください】って』
『当たり前だけど、第一王女には王に伝えた情報は秘密にしてね。私は彼女を黒幕と疑っているのだから』
『そうねー……第一王女には【サロヴァーラの不手際を詫び、魔導師のご機嫌をとれ】とでも伝えればいいんじゃないかな。一番、自然でしょ』
『そうそう、これもサロヴァーラ王の見極めに影響するから。あの人が第一王女を信じていたとしても、私達は疑っていると伝えている。その上で情報をバラすならば……サロヴァーラ王はその程度のことも思い至ることができない愚か者、もしくは共犯者と判断させてもらう』
『私達が直接サロヴァーラ王に接触すると警戒されるから、私は貴方に託す。貴方が王に信頼されているか、これまでの情報をどこまで正確に伝えられるか、そして私達の考察からどのようなものを汲み取っているか。それらが試される機会だと思って』
『言ったでしょう? 【自分達に都合のいい解釈を交えて報告しろ】って。貴方がこの国を想うならば、どんな言い方をすれば王の興味を引けるのか。それ以上に信じてもらえるのか』
『私は結果を出すよ。現時点でそれはこの国にとってではなく、【私達にとって】という括り。だから、サロヴァーラに利をもたらすならば私の共犯者となるしかない』
『さあ、頑張って。ああ、了承が得られたら詳しいことを手紙に書いて伝えるから』
以上、あの後に護衛騎士に伝えた言葉だ。その結果がどうなったかは……今、私がここに居ることからも判るだろう。
やはり、サロヴァーラ王は愚かではないのだと思う。ただ、王に向かない性格とも思った。
善良な人=良い王様ではない。国を上手く動かし、利をもたらす人こそ『賢王』と呼ばれるのだと思う。
結果ありきなのよ、要は。慈悲深い面があろうとも、それだけではない。慈悲深さなんてものは民という『舞台裏を知らない者の評価』なのだから。
例を出すならばルドルフだろうか。
ルドルフは馬鹿どもを一族単位で粛清しまくったので『粛清王』などと言われはしたが、その評価は落ちるどころか上がっている。ゼブレストの状況を踏まえるとそうした理由が明白な上、ルドルフは実行して見せたからだ。
つまり、『証拠を揃えた上での正当な断罪』。個人の感情と権力を振り翳しての粛清ではないのだ、これに気づけばルドルフ達を無能などと言えまい。
大規模な粛清が『非道なこと』ではなく、『必要なこと』として受け取られているからこその周囲の評価。それに伴って『それが可能な能力を持つ王であり、優秀な配下達が支えている』という認識ができた。
王の采配は時に全く逆の意味に受け取られる。サロヴァーラ王はそれに伴う『必要な犠牲』を嫌うゆえに、そういった策を取らなかった気がする。それがここまで響いているんじゃないのか。
まあ……本当の元凶は先代だと思うが。死ぬ間際にでもバッサリやっておけば、綺麗に世代交代できただろうに。
先がないならば、最後の最後で非情な手に出ることもできたはず。そういった意味で、本当に無能だったのは先代サロヴァーラ王だろう。
貴族達はそれが親世代から続いているから、今の世代にとってはそれが当然という認識となっているに違いない。王族を貶めることに対して、あまりにも罪悪感とか危機感がないもの。
その煽りというか、負の遺産を受け取るのは次代……とか考えなかったのだろうか。これ、時間が経つにつれて雪達磨式に増えていくものなんだけど。
駄目な奴だ。先代は本っ当に駄目な奴だ。
王なら、最後に一発逆転するくらいの気合いを見せんかい!
許されていたのではなく、最後に厳しい処罰を用意していたからだと知られれば……少なくとも警戒はされるだろう。馬鹿どもとて、あからさまな言動は避けるようになるだろうに。
「やはり、お怒りなのですね」
見極めるように眺めている私の視線を受け、ティルシア姫は肩を落とす。
いえ、私は先代サロヴァーラ王に怒りを覚えているだけです――なんて言えるはずもなく。
私は沈黙を保ったまま、肩を竦めて見せた。怒っているのは事実だが、ここで愚痴ることではない。
報復も、調きょ……教育も後からできる。今は黒幕に集中せねば。
「陛下はお優しいけれど、それゆえに……無情に切り捨てることができないのです」
「甘い、としか言いようがありませんね。それが今のサロヴァーラを作り上げた原因ならば」
即座に答えれば、ティルシア姫は益々肩を落として落ち込む様を見せた。私に向けられた侍女の視線が鋭くなる。
ただし、そこまであからさまではない。私が気に食わないのは事実だろうが、それ以上に主であるティルシア姫の意志を尊重しているのだろう。
……姫は謝罪する、という姿勢を見せているのだから。中々に優秀な存在と見た。
ふうん? この侍女はティルシア姫の腹心、もしくは味方ってことか。
それはこの場に同席させていることからも窺えた。そして思う……『私達の周囲の侍女や騎士は意図的に馬鹿どもが宛がわれてなかったか?』と。
ティルシア姫の情報が少ないのは彼らが影響しているのだ。あの馬鹿どもはリリアンを引き合いに出して『第一王女殿下は素晴らしい方なのですが』としか言わないんだもの。
つまり、一種の情報操作。盲目的な崇拝者か、リリアンを貶める要素として第一王女を使う者。
そういった連中のみが私達の周辺に集められていた可能性がある。
護衛騎士によると、平然とリリアンを貶めるようなお馬鹿さんはそこまで数が多くないらしい。ただし、そういった連中がもれなく貴族階級であるために、諌めることが難しいという面もあったようだ。
先代・今代を侮っている親達の姿を幼い頃から見た結果、負の遺産。その影響は確実に出ており、広がりを見せたのだろう。
彼らにとってはそれが『普通』だったので、そこまで重大なこととは思っていない可能性がある。処罰された例がなければ、重罪などと思うまい。
護衛騎士の忠誠も親譲りみたいだしね、幼少期からの教育は大事です。
それを伝えた時、護衛騎士は非常に納得した顔をしていた。自分に置き換えたことが判りやすかったようだ。
サロヴァーラ王が私の思惑に乗ったのも、そういった要素を伝えたからというのもあったんじゃないのかね? 『自分の甘さがどう影響してくるのか』という現実を突きつけられてしまったのだから。
私は改めてティルシア姫に視線を向けた。相変わらず、彼女から敵意は感じられない。
彼女が黒幕ならば、この表情も作られたものだろう。王に私の機嫌をとるよう言われたからなのか、それとも次の一手を考えているのか。
彼女自身の正しい情報が少ない以上、下手な探りは逆効果。ならば。
当初の予定通り、一騎打ちといきますか!
本日の目的、『黒幕さんと一騎打ち』。これを提案した時は微妙な空気が室内に満ちた。イルフェナ勢には呆れられ、レックバリ侯爵からは叩かれた。
いやいや、もう向こうもカードが尽きてるみたいだしね? 余計なことは言わずに、すぱっとやっちゃった方がいいと思うのですよ!
そのために護衛騎士をこちらに引き入れ、サロヴァーラ王を共犯者にしたんだもの。王様に期待してないと言いつつも味方に引き入れた理由……何のことはない、ティルシア姫以上の権力者が王様しかいないだけですな。
私の立場や認識的に、第一王女様との話し合いなど叶うわけがない。イルフェナ勢による王への直談判が可能だったのはサロヴァーラ側に非があっただけではなく、身分的な問題もなかったからだもの。
彼らは事前にバシュレ公爵家とレックバリ侯爵家の権力使用の許可、加えて魔王様あたりから何かを預かっていたと思われる。
助力が期待できない以上、身分は立派な対抗手段だ。私に伝えられずとも、彼らがそれを忘れていたとは考えられないしね。
何より、『話し合い』は今だからこそ有効ということもある。このまま待っていても膠着状態になるだけだろう。ならば、黒幕に新たな手ができる前に行動しておきたいじゃないか。
そんな訳で、本日は私の単独行動となっているのであ〜る。『女同士の方が気安い云々』といった言い分をサロヴァーラ王は使っているはずなので、守護役のアルさえいなくとも不審に思われない。
散々、掌で転がされたっぽいからね?
一度くらいは転がして踏みつけるくらいはしたいじゃないか!
まあ、そんな状況なので当然、私達の様子は魔道具によって監視されている。勿論、名目上は『魔導師がこの国の次代であらせられる第一王女殿下を害さないように』。
監視するのに十分な理由です。私の性格が知られてきた今現在、サロヴァーラ側からの文句も出ませんよ。
裏の意味は勿論、証拠だ。つまり、見ている人全員が『目撃者』。これで言い逃れはできまい。
後は……私がどれだけ彼女から言葉を引き出せるか。そして、それを見ている人達に第一王女への疑惑と不安を植え付けられるか。
第一王女への盲目的な信頼を崩さなければ、何を言っても無意味だろう。それどころか、こちらへの反発を招くだけ。
後がないのは、お互い様。あちらとて、私を悪役に仕立て上げられる機会を逃すまい。良くも、悪くも、条件は同じなのだ。
さあ、楽しく化かし合いをしようじゃないか……お姉様?
「少し前に南で誘拐事件がありましてね。幾つかの国に跨っていたこともあって、結構大事になったんですよ」
「あら、それは……大変でしたわね」
唐突に無関係――サロヴァーラにとって、という意味で――なことを話し始めた私に、ティルシア姫は戸惑いながらも労りの言葉を口にする。
そこに焦りは感じられない。ただ、困惑という感情があるのみだ。
「実行犯達とは別に協力者がいました。まあ……彼らは死にました。茶葉に混ぜられた毒によって。彼らに命じた黒幕は頭が回るのでしょうね、彼らに幾つか渡していた魔道具のうち解毒のみが偽物だったんですから」
「恐ろしいこと。誘拐された方は無事だったのですか?」
「ええ。少し衰弱してはいましたが、無傷です」
「まあ、良かった」
心底安堵したように微笑むティルシア姫。そんな彼女に向けて、私は微笑んだ。
「本当に恐ろしいですよね、遅効性の毒を自分の配下に躊躇いもなく盛るなんて」
私の言葉はティルシア姫にのみ聞かせているわけじゃない。聞いている全ての人へと『情報』を伝えている。
聡い人ならば気づくものがあるんじゃないだろうか?
『毒を混ぜた茶葉』、『遅効性の毒』、『切り捨てられた手駒』、そして……『偽物の魔道具』。
少し考えれば『それらを用意できる人物が特権階級にある者』であり、同時に『茶を飲むサロヴァーラの習慣が利用されている』と思うだろう。
そこまで考えれば、『殺された誘拐犯』が『サロヴァーラの人間という可能性』に気づくはず。
同時にこう考えはしないだろうか。『最近姿を見せなくなった者はどうしたのだろうか?』と。
あの犯人達がティルシア姫の命を受けていたならば、絶対に城に勤務していたはずだ。その場合、仕事を辞めている可能性は低い。
勿論、何らかの理由をつけて今は不在となっているだろうが、それでも長期に渡って姿を見ていないことに変わりはないだろう。
私達は彼らがどういった名前で、どんな交友関係を築いていたかは判らない。だから、彼らと親交のあった者達へと疑惑の種を植え付ける。
「確かに恐ろしいことですわね」
「そうですよね。『そんな任務を任されるほど、忠実に仕えていた』のでしょうし」
きっと、日頃からそんな姿を目撃されていますよね、と付け加えると……ティルシア姫の表情が僅かに動いた気がした。それを目にし、私は益々笑みを深める。
ふふ、証拠がなくとも追い詰めることは可能なのだよ? お姉様。
証拠がなければ、じわじわ周囲から疑惑の目を向けられるようにすればいいじゃない!
私達が知らない情報を持っている奴がいるかもしれないじゃないか、そういった奴の疑惑までかわすことができるかな?
楽しげな私とは逆に、侍女は厳しい表情になっていた。それでも私を諌めることはない――諌める必要など『ない』だろう、私は誘拐事件のことについて話しているだけなのだから。
ここで止めさせれば、逆に疑惑が深まる。不快だが、喋らせるしかないという本音が透けて見えるようだ。
「毒といえば……私を罠に嵌めた侍女が死んだそうですね。彼女も利用されたのでしょうか? 不審人物など目撃されていないそうですから、『同じ毒で殺されたのかもしれません』。罠に嵌めるよう命じたことも含め、以前から飲まされていた可能性がありますもの」
護衛騎士からの情報を口にした私に、ティルシア姫が訝しげな表情になった。
「……。どなたからその情報を聞いたのでしょうか? その、不審な者が牢に近づかなかったとご存知とは思わなかったものですから」
さすがにティルシア姫が口を挟む。『聡明な姫様』ならばこれに気づくだろう。だが、その疑問こそ私がこの先を告げるために欲しかったもの。
加えて、情報をくれたのは『サロヴァーラの公爵家の人間』。彼の立場上、偽りを言ったとは思われまい。
「私の護衛に付いてくれた『公爵家出身の騎士』さんですよ。犯人を死なせたことを、とても誠実に詫びてくださいました。その説明で聞いたのです。話を聞きながら思ったのですよ、犯人は『侍女が魔道具を所持していないことを知っていた』と。そして『不自然に思われぬよう事前に毒を飲ませるならば、仕事中に呼び出すしかない』ともね」
「そうかしら? 逆に目立つような気がいたしますけど」
「いいえ、目立ちません。休日ならば足取りを追われ、仕事以外で特定の行動を取っていれば不審がられる。ですが、『不自然ではない方からの呼び出しならば、仕事の一環としか思われません』もの。木を隠すならば森の中、ですよ」
再び疑惑の種を撒く。『公爵家出身の騎士の証言』はサロヴァーラ側の情報なので、イルフェナ側の言い掛かりと言われることはない。つまり『正しい情報』。
そして、あの侍女の仲間ならば……あの侍女が『仕事として呼びつけられた人物』を知っているだろう。普通ならば何の疑問にも思わないだろうが、実際に侍女が死んでいるのだ。危機感を持つのが『当然』。
情報を知っているからこそ、自己保身のために疑惑を持つ。この国ならば、そういった誘導が可能だ。
そこで再びティルシア姫が疑問の声を上げた。
「あら? 彼女はリリアンのためと言っていた気がしますけど。彼女に命じた存在がいるという根拠でも?」
確かに、あの侍女はそう言っていた。だが、普通に考えたら『姫様のため』の行動とは真逆である。
「それ、おかしいですよね。あの侍女、逃げなかったじゃないですか。何より、私達が無事な姿を見せる前からリリアン様は疑惑の目を向けられていた。考えなくとも、その行動がリリアン様を陥れるものだと判るでしょう」
これ、重要です。『私達がいなくなった時点で、リリアンに疑惑の目が向いていた』。生きてても、死んでても、全く関係なくリリアンへの疑惑が出る。
……これで『姫様のため』は無理があるよなぁ?
だが、ティルシア姫は意外そうな顔になった。
「貴女は……リリアンを疑ってはいないのかしら?」
「疑う要素がないでしょう。言葉は悪いですが、『叱られてしょげるような子に人を殺す度胸はない』。そもそも、リリアン様は日頃から悪質な嫌がらせでもしていたんですか? 私には『不出来な王女』と言われても、不敬罪を言い出すことさえしない子としか映っていませんが」
恋敵を殺そうとするなら、日頃から言われっぱなしという事態にはなるまい。
そう言い切った私に、ティルシア姫は……本当に嬉しそうに微笑んだ。予想外の微笑みに、思わず硬直する。
「ありがとう。貴女はあの子を信じてくれるのね」
「……信じるというより、事実として映っています。寧ろ、気づかない方がおかしい……いえ、見下しているからこそ都合のいいように思い込んでいる人が多いだけでは?」
「ふふ、そうね!」
上機嫌でティルシア姫は笑う。裏がないように感じる笑みは、本当に嬉しいからなのか。ただ、同時に疑問も湧く。
……。
先ほどまでとは別人のようだ。彼女が黒幕ならば、リリアンは下手をすると表舞台から退く――幽閉という展開もありえると思うのだが。
おや? このお姉様、妹は本当に大事なのか? 記憶を探ると、確かにそれらしきことはしているような。
そういや、妹の時『だけ』は助けてたよね、この人。
もしや、城にいる馬鹿どもを駆除しきるのは難しいから、隔離という形で守ろうとしているとか?
一度思いつくと、それが正しいように思える。というか、私が現在その状態だから非常に納得できてしまう。
周囲に魔王様絡みで好意的な人が多いけれど、イルフェナ全てが好意的に見ているはずはない。それでも不快な思いをしないのは……騎士寮に隔離されているから。出会わないだけです、単に。
そんな風に考えていると、ティルシア姫は微妙に笑みの種類を変えた。先ほど見せた嬉しそうな笑みではなく、もっと別の……交渉に挑む者が見せるような、そんな探るような笑み。
「貴女とは楽しい話ができそうね」
その『楽しい話』とやらは、私が望むものだろうか。それは未だ判らないけれど。
「……ええ、同感です」
私も似たような笑みを返す。どうやら、彼女は私と言葉遊びに興じてくれるらしい。まあ、それがどのような決着をもたらしても、最悪の展開だけは免れるだろう。
私には護衛騎士との約束があるから、サロヴァーラが不利になるような真似はしない。それだけは守られるのだから。
……『サロヴァーラ』という『国』はね?
漸く、本人と向き合えた主人公。
主人公の立場では、サロヴァーラ王の協力なしには不可能だったのです。
(魔導師・異世界人という要注意人物であり、身分が民間人のため)
※魔導師10巻のお知らせと特装版に付く小冊子の詳細が活動報告にございます。




