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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編

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223/705

手駒の使い方

「あ〜……とりあえず、残るは黒幕のみってことでいい?」


 与えられた部屋で皆とお茶を飲みつつ、現状確認を。はは、だれてるのは気にしないでくれ。どう頑張っても、一度でスパッと終わるはずはないんだから。

 それでも部屋に防音結界は張っている。お留守番になってしまった黒騎士達のお手製であり、餞別の魔道具だ。彼らは同行できないことを本当に残念に思った模様。


「とりあえず、事態は『色々』動いたわねぇ……」


 そう呟くと、皆は苦笑する。あまりにも直球で言ったからだろうな、これは。

 だが、漸く黒幕の目星がついた。報告を待っているだろう魔王様達にとっても、これは朗報だ。

 まあ、結局はそれだけで終わってしまったのだが。

 ――あれから。

 侍女が半ば恐慌状態となっており、サロヴァーラの皆様も侍女の言動にお怒り&これ以上おかしな真似をされたら拙いということで、速攻解散となったのだ。

 ええ、構いませんよ。私達もあれ以上の追及なんてできないし。

 悔しくなんてないやい、ちょっとばかり指で『のの字』を書きたい心境なだけだ。……そういうことにしてくれ、強がりたいお年頃です。

 ちなみに、お茶はアルが淹れてくれた。ささやかな気遣いらしい。


 下に落ちたものね、私。


 そのまま馬鹿どもを締め上げましたよ、休息なしに!


 ……いや、あのタイミングでしか〆ることなんて無理だから、仕方ないんだけどさ? 

『黒幕の上手っぷりを見せつけられて終・了☆』という情けない結果に、疲れが一気に来たのです。

 思い出すのは、これまで極力前に出てこなかった第一王女。控えめな性格と思っていたが、あれは私達に自分の情報を与えないためだったのだろう。

 現に、私達は第一王女の情報をイルフェナで聞いた程度しか知らない。サロヴァーラでの評判が『聡明な王女』『優しくて素晴らしい方』といった程度なので、こちらも役には立たないだろう。

 つまり、最初から計算されていたわけですな。勿論……私があの侍女の罠に乗ることも。



 ふふ……やるじゃねーか、黒幕もとい第一王女なお姉様?



 カップに口を付けつつ、頭の中で情報整理を。これは皆も同じらしく、会話は一切ない。

 侍女が手駒だったことは確実だろうが、ただの手駒じゃなかった。『見せ場を持たせた手駒』だったと私は思っている。

 その後の展開を見る限り、私を罠に嵌めるだけが侍女の役目じゃなかったんじゃねーの? 私が罠に嵌った後も『侍女の行動が不自然に思われないようにするため』に使われたんだから。

 それは先ほどの謁見の間での出来事も含まれる。……そこまでが計算のうちだな、多分。


「……で、お前さんの推測を聞きたいの」


 レックバリ侯爵の一言に、皆の視線が私に集中した。どうやら、イルフェナ勢はある程度の情報共有が終了している模様。

 つまり、魔王様達にもある程度の情報と憶測――私達の総意という意味で――を伝えてあると見ていいだろう。

 相変わらず仕事が速い。ただ、私の持つ情報がすこーんと抜けているから、まず私の憶測を聞くことにしたのか。ついでに先ほどの謁見の間でのことについて話し合いがしたい、と。


「黒幕の予想がついたのじゃろう?」


 にこやかに尋ねてくるレックバリ侯爵。アル達も私の言葉を待っているらしく、視線で促してきた。彼らの興味は清々しいまでに黒幕のことへと向いている。

 はは……お嬢様方よ、これがイルフェナのエリートの姿だ。私の心配どころか、地下に落ちている間のことを綺麗にすっ飛ばし――サロヴァーラ王が黒幕から外れた上に、私が護衛の騎士を疑っていない点が大きい――、いきなり結論を聞きたいということですね。


 大変素直です!


 暗に『お前、心配してないから』と言われている気がします!


 さすがは実力者の国、結果を出すことが第一なのですね! 


 ……。

 私は一応、乙女なのですが。

 ちょっと酷くね? 魔王様なら、ここでまず心配してくれるぞ? だから、過保護な親猫なんて呼ばれるんだろうけど。


「私は勿論、心配していましたよ? ですが、貴女ならば大丈夫だと思ってしまうのも事実なのです。そもそも……貴女は気づいていながら、自ら嵌りに行ったでしょう?」


 まるでフォローするかのように、アルがにこやかに告げる。頷くイルフェナ勢一同に、連中が日頃から私をどう思っているかが知れた。

 そうかい、完全に自分達と同列に認識し出したか。ある意味、理解ありまくりな人々だ。

 

「まあ、いいけどねー……今更だし。……事実だし!」

「儂が言うのもなんじゃが、お前さんもそれでいいのか」


 呆れた様子のレックバリ侯爵が突っ込む。さすがに少しは思うことがあったらしい。

 まあ、いつまでも馬鹿なことをやっていられない。とりあえず、さっきのことだ。


「黒幕は第一王女。理由はあの侍女の懇願と視線。至近距離にいた私からはサロヴァーラ王への懇願というより、王のすぐ側に控えていた第一王女へのものに見えたから」


 まず一つ。これは立ち位置によって気づかない場合がある。それに加えて、無意識の思い込みというものが関係してくるだろう。

 第一王女は基本的に前に出てこない。最高権力者である王を立てるためなのか、未だ若輩と思っているせいなのかは判らないが、『控えめ』という印象だ。

 あの時は『王が最高権力者としてあの場に居た』。ならば、普通は王に対して恩情を願っていると思うだろう。


「第一王女に恩情を願うってのが無理でしょ。助ける気があるならば、言われなくても進言してると思う」

「そうですね、リリアン様の時は彼女も動きました。侍女の時は『動く意志がなかった』、もしくは『王の決定に従う』という意思表示にも受け取れます。ミヅキがそれまでに色々と説明していましたから、周囲同様に納得していたと思われていたでしょう」


 アルも私の意見に賛同してくれるらしい。補足の様に続いた言葉に、皆は頷き合っている。

 ここまでが一般的な認識だ。これ以降は非常に個人の性格が出る『推測』なのだったり。


「じゃあ、ここからが私の推測。まず、あの侍女の利用方法。それは『私を罠に嵌めるための捨て駒というだけじゃない』」

「なんじゃと? まあ、生きておったのは不思議じゃがなぁ」


 レックバリ侯爵は一瞬視線を鋭くするも、すぐに困惑の滲んだ表情を浮かべる。レックバリ侯爵から見ても『捨て駒ならば、実行後に殺した方が確実』ということか。

 まあ、これは私も納得だ。捨て駒にするだけ、ならば。


「私を罠に嵌めた後の侍女の行動。それを何を問われても『姫様のため』としか言っていない、と仮定する。彼女が日頃からリリアンと親しく、味方になっていたとしたら……『忠誠心ゆえの行動』だと周囲に認識される可能性は大きい」

「そうですね。確かにそうも言われていたと思います」


 情報を得ていたらしいアルが頷く。それに頷き返して補足を。


「これは黒幕が入れ知恵したと私は思っている。周囲の同情を買える、とでも言ったんじゃないかな?」


 アルの情報が確かならば、この策は成功していたのだろう。だから、侍女は頑ななまでに『姫様のため』『私は姫様の味方』だと主張し続けた。

 謁見の間でさえ、この状態だったのは……『これまで成功していたから』とは思えないだろうか。サロヴァーラ王が情に厚い人物と知っていたならば、あの場でも通用すると思っていた可能性だって十分ある。

 

「侍女は事前に私が脅迫して、『私と国が納得する処罰してね!』っていう言質を取っているとは思わなかったんでしょうね。あれがなければ、罪を軽減されたかもしれないし」

「ああ……その可能性はあるのぉ」

「あの方が大変『お優しい』のは知れ渡っているでしょうからね。貴族達の日頃を知っているならば、そのように甘く考えても不思議ではありません」


 ……『お優しい』、ね。アルだけじゃなく、全員が別のことを思ってそうだ。場所や立場的な問題で正直になれないだけだろう。

 皆は頷きつつ、これまで得た情報や先ほどの出来事を思い出しているようだった。それを踏まえて私の憶測と照らし合わせている。

 

「で、次。素直に言うことを聞いたのに、謁見の間では助けることなく沈黙したままの第一王女。今回ばかりは『姫様のため』も通じないし、それどころか叱責される始末。周囲に味方はいないし、私は殺そうとしてくる。……侍女は焦ったでしょうね。それで恐慌状態になった」


 そこでレックバリ侯爵が待ったをかける。


「待て、ミヅキ。その言い方では、お前さんの行動……いや、この場合はサロヴァーラ側の対応か。第一王女がそれを予想していたことにならんかね?」


 その言葉にはっとするアル達。私は勿論、頷いた。


「そうです。正確には『イルフェナが私の行方不明に関して抗議すること』も含まれます。予想外だったのが私の生還でしょうか。これはどちらでも良かったのでしょうね、イルフェナが侍女を見逃すなんて思っていないだろうし」


 イルフェナに関する情報があるならば、アル達のとる行動も予想できるだろう。

 そうなった場合、先ほどの謁見の間での糾弾――貴族が王やリリアンに対して行なったもの――も当然起こる。

『予想された出来事』だったんじゃないのか、あれは。


「その最中の侍女の言動も予想してたと思う。侍女が自分の置かれた状況に気づけば、唯一助かる手段として王へ恩情を訴える。たとえ黒幕に訴えても、あの位置にいるならば『犯人』が『王へ訴えているようにしか見えない』」


 侍女が実行犯であることは知られている。誰が見ても、王へと命乞いをしているとしか受け取られないだろう。

 それに、あの侍女は恐慌状態になっていた。第一王女ならば、彼女の性格……追い詰められると冷静さを失うような脆さを知っていた可能性とてあるじゃないか。

 リリアンが期待されていないとはいえ、あの侍女は第二王女付きの立場だもの。仕事をミスした時の姿とかを報告されていても不思議はない。

 不適格な人ならばその立場から外すべきだし、リリアンを陥れるような奴でも困る。そう考えると『常に報告を受けていて当然』じゃあるまいか? 十分、侍女の性格を知ることが可能だ。


「しかし、侍女が命じた者の名を口にする可能性はありませんか? 見捨てられたと思ったならば、やりかねないと思いますが」


 これは他の人達も思ったらしく、まだ私の憶測に納得できないようだった。

 ……だが。


「そこが怖いところなんだよ。言い換えれば、それが『侍女だけを悪者にする最後の一手』」

「は?」


 アルは怪訝そうな顔になる。主犯の暴露が『侍女だけを悪者にする最後の一手』なんて、どうして思うだろう。

 だが、これが黒幕の怖いところだ。気づきさえすれば、全く別の見方ができる。


「あの侍女は見苦しく王に恩情を願った。その結果、初めは思うところがあった王や周囲の者達も侍女に対して、同情ではなく嫌悪を抱き始めた。……イルフェナ勢が聞いているんだもの、『これ以上、悪い状況にしないでくれ』って思うのが普通でしょ」

「まあ、そうじゃの。しかし、お前さんがいない場合はどうするつもりだったと?」

「そりゃ、自分で誘導するでしょう。『聡明な王女様』ですもの、私が指摘したようなことを言って、イルフェナに誠意を見せろと言うんじゃないですか? ……侍女が連れてこられる前に進言すれば、侍女に裏切りは気づかれません。私が居ない場合、騒ぎ立てる貴族達の姿をイルフェナ勢に十分見せつけてから、私がしたような指摘をするつもりだったんじゃないですかね?」


 今回は私がお膳立てしたとはいえ、本来ならば『イルフェナに誠意を見せる上で、サロヴァーラが自主的にやる必要があった』。レックバリ侯爵が正式に抗議している以上、有耶無耶にはできまい。

 その正式な抗議の場であの態度、しかもそれをイルフェナ勢に目撃されたことが拙いのだから。


『貴方達は何故、魔導師様の心配をなさらないのでしょう? 陛下への糾弾やリリアンへ疑惑を向ける前にすべきことがあるのでは? 貴方達の態度を見る限り、陛下とリリアンを貶めるために仕掛けたようにも見えますのよ? 何より、リリアン自身が命じた証拠はありません。証拠なき王族への糾弾は不敬罪に該当しますわ。イルフェナの皆様も貴方達を不快に思ってらっしゃるご様子……言い逃れはできませんわよ?』


 ほれ、こんな感じで言えば一発であの連中は黙るぞ? しかも傍目には、次代を担う自覚のある王女として正論を口にしているとしか思えない。

 私は部外者どころか異世界人なので反論を徹底的に潰す必要があったが、第一王女ならばこの程度で済む。事実、リリアンがやらかした証拠はなかった。イルフェナ勢があの場にいるなら、あの貴族達を追い込むことは可能だったろう。

 誘導は誰でもいいわけだ。しかもあの王女ならば、わざわざ王の言質を取る必要などない。自分で口を出せる立場だもの、周囲を納得させる理由を用意しておけば問題ない。


「話を続けるね。その後、侍女が『第一王女に命じられました!』と訴えたとして。……信じる人っているかな? この国における第一王女の評価は『聡明で優しい王女様』だよ? 『侍女が【王が駄目でも、姉姫ならば妹姫のために行動した自分を助けてくれる】と思い込んでいたとしても不思議はない。それが叶わなかったから、勝手に裏切られたと批難している』……という感じに誘導。他にも手駒がいるでしょうしね」

「……確かに。あの侍女がそういった性格の方ならば可能ですね。あの場で王に恩情を願っていましたし、その可能性は十分あります」

「ありえそうじゃのう。あの侍女が第一王女以上の人望があるとは思えんしな」


 二人は実際に王に恩情を願う姿を目にしている。それを知っていると、第一王女に対しても温い考え方をしていたんじゃないかと思われても不思議ではない。

 そして、侍女が『忠誠心がある』と思われているならば、もう一つの解釈もできる。


「それに『姫様のため』って言い続けていたでしょう? 『リリアンのために行動し、許されぬと悟ってからは主の対抗馬である第一王女を巻き添えにしようとした』という見方もできる。『罠のことは貴族の誰かが共犯者となって教えたのだろう。罪を糾弾された侍女は一人で罪を被るだけではなく、今の状況を利用する気だ』ということにすれば……」

「なるほど、そのために『姫様のため』という言葉を繰り返させた……! 大きく見れば、勢力争いから始まった侍女の暴走にも見えますね。共犯者の疑惑を向けられる可能性があるなら、誰も侍女を庇わないでしょうし」

「捨て駒にされたといっても、第二王女の支持者とかの方が疑われるでしょうね。イルフェナを巻き込んだせいで、傍目には第一王女も迷惑をかけられているように見えるから」

「主の恋敵を消すという単純なものより、こちらの方が遥かに信憑性があるの。お前さんを消すよりも騒動を起こす方が目的、と。サロヴァーラの状況を把握した上で利用し、意図的に噂を流して誘導するか」


 私の言いたいことが判ったらしいアルが、思わずといった感じに声を上げる。そう、黒幕の指示と言った理由はこれなのだ。同じく、気づいたレックバリ侯爵も視線を鋭くしている。


・侍女の言い分『姫様のため!』。

       ↓

・貴族達が王を糾弾・観賞するイルフェナ勢。その結果、煩い連中が『イルフェナに誠意を見せるため』に失脚(仮)。

       ↓

・侍女、恩情を願うも拒否される。主犯は第一王女と暴露するも、『姫様のため』に蹴落とそうとしているようにしか受け取られず。(誘導あり)

       ↓

・周囲の認識は『恩情を願った姿は建前だったかも。実際は捨て駒となってまで主に尽くし、自分を犠牲にして対抗勢力を潰そうとした忠誠心ある人じゃない? イルフェナの手前、罪の軽減はないけど』。


 単純に流れを説明するとこんな感じ。私を罠に嵌めた前後の行動がお粗末過ぎるので、こちらの方が納得できるという理由もある。

 私がちょっと暴れたことも、これに拍車をかけてしまう。『魔導師を下に落としたくらいで死ぬと思っていたのか?』、『確認さえしていないのに?』と疑問に思うだろう。

 つまり……本気で殺す気はなかった。殺す必要はなかったと思わせることが可能。私に割り振られた役目は『リリアンの恋敵』と『罠に嵌るイルフェナの一員』というものじゃないのかね?


「最初から侍女本人が頑なに言い続けていた『姫様のため』という言い分がある以上、誰かが言い出せば周囲は簡単に事実と思い込む。……それぞれの勢力が対立しているのは事実だもの。これまでの侍女の態度と合わせても辻褄は合う。『愚かだが、忠誠心はある侍女』ってのが今の評価じゃないかな?」

「我らが抗議するのも、侍女が王に恩情を願うのも、処罰から逃れられぬと悟った侍女が命じた者の名を口にするのも予想されておったということか」

「ある程度は予想できることですしね。処罰が確定されてから『第一王女に命じられた!』って言い出しても、唐突過ぎて信憑性ないですし」


 皆は私とレックバリ侯爵の考察に深く頷き、その可能性に納得する。魔王様の噂を知っている彼らだからこそ、こういったことには理解があった。

 魔王様は『非道なことなどしていない』のに『魔王』という渾名から先行するイメージ、そして自身の持つ魔力による威圧によって『物語の魔王のように恐れられてきた』。

 本人のイメージが勝手に作り上げられ、事実の様に浸透したからこそ、多くの人に『魔王』などと呼ばれたのだと思う。

 実際はイルフェナで慕われる王子様ですよ。私に対して保護者通り越した親猫様ですよ……!

 どう考えても外交の結果だけが『魔王』呼びの原因じゃない。敗北した負け犬どもの言い訳や皮肉、その他の悪意を持った噂が流された結果だ。


 ……その渾名を付けた国に報復を仄めかした時、アル達は私を止めなかったじゃないか。

 覚えとけ、いつか必ず貴様らの言い分通りに『魔王殿下の黒猫』が災厄となってくれる。


 心の日記に殺意はしっかりと刻まれました。ルドルフも情報提供者になってくれると思うので、いつか二人できゃっきゃと魔王様の報復を楽しみたいと思います。

 ふふ、元から南に属する国に『魔王様は飼い主』、『魔王様大好き!』な印象を植え付けてるからな。魔王様の本性が知れてきた今ならば、誰もが納得してくれるだろう。ああ、待ち遠しい。

 ……話が逸れた。

 まあ、そんなわけで!

 これと同じことを第一王女がしないはずはない、と思うのです。侍女が拘束されている間に、『普段は聡明な王女様が妹のことに胸を痛める、憂いに満ちた姿』でも周囲に見せておけば……同情はどちらに傾くか。

 そんなことを考えていたら、いつの間にかイルフェナ勢が生温かい目を私に向けていた。


「お前さん……元の世界では本当に民間人じゃったのか?」

「善良な一般市民です! 犯罪歴もないですよ?」

「ミヅキ、素直に言いましょう? 何故、そこまで考えられるんです?」


 こ……こいつら。完全に私を『民間人? 嘘吐け!』な目で見てやがる。おいおい、それは酷くね!?

 ま、まあ、グレンのこともあるし、私達が普通かと言えば違うと思う。

 我ら、ゲーム仲間である。仮想空間とはいえ、実際に策を練ったりするような環境ならば『慣れ』『勝つために現実世界にてお勉強』『現実世界じゃないのをいいことに、元からの性格・技能を全力で発揮』ということも当然起こる。

 だって、ゲームなのです。犯罪者になるわけじゃないのです……!

 そりゃ、様々な方向に突き抜けた奴の十人、二十人はいるわけでして。


「いや、本当に民間人だってば! しいて言うなら……」

「言うなら?」


 アルが先を促す。私はへらり、と笑い。


「自分だったらどうするかなって考えただけ! 己の立場を最大限に利用するのが黒幕なら、手駒にした侍女をどう利用するか。どういった使い方が最善かつ、自分に被害が来ないか。それを自分に置き換えて考えたら、ああなった」

『ああ……』


 素直に暴露したのに、皆は納得の表情を浮かべている。

 おい、その反応はどういうことだ?


「世界を越えてさえ、一切揺るがぬ性格が原因か。確かに、お前さんならそういった発想になりそうじゃな」

「第一王女がミヅキのように容赦ない性格の方ならば、非常に納得できますね。最後まで利用した挙句、最初から捨てる気だった……貴女なら考えそうな手です。先ほども貴族達を大人しくさせるために、詐欺のような言い方をしていましたし」


 感心半分、呆れ半分に呟く彼らにジト目を向ける。アルが言っているのは『大人しく拘束されていれば、魔導師に罠を仕掛けた犯人と思われないよ! ……ただし、どちらにしろ不敬罪でアウトだけど』な誘導だろう。後半部分を言わなかったことに気づいていたらしい。

 いいじゃないか、『賢い』という一言で済ませれば!


「じゃが、納得はできた。南の国々を騒がせ、翻弄する輩ならば……そちらの線が濃厚じゃの」

「目的は不明ですが、侍女の件に関しては合っていそうですね」


 頷き合うアルとレックバリ侯爵。皆も異論はないようだ。

 だが、私の話はこれだけで終わらない。


「で。侍女のことはいいとして、問題は誘拐事件の方なんだよね。あの事件の手駒は極力証拠が残らないようにされていた。そう考えると、今回のことは少々毛色が違う。『侍女を徹底的に犯人に仕立て上げる』ってのが今回、逆に『目立たせずに存在そのものを隠す』ってのが誘拐事件。目的が違うといえば、それまでなんだけど……」

「誘拐事件は別人の主導、という可能性もあるわけですか」

「一応、考えておいた方が良いと思って。第一王女があの侍女を何らかの理由で嫌っているなら、凄く納得するんだけどね」


 アルの言葉に返しつつ、私は肩を竦める。

 あの侍女が何かやらかしていて、第一王女の逆鱗に触れていたならば……可能性は十分ある。今回は所謂『見世物』状態なのだから。

 イルフェナ勢が正式に抗議したことで、外交方面に携わる連中の恨みを買い。

 私の行方不明に乗じて行動した第一王女の派閥からは逆恨みされ。

 見苦しく命乞いをしたことで周囲からの同情は薄れ、『それほど事態を甘く見ていた』ことと『王の甘さを利用しようとしていたこと』がバレている。

 王を利用するつもりだったって知られちゃったからね。忠誠心ある人から向けられる悪意は半端ないだろう。

 最後の足掻き(仮)をして辛うじて忠誠の人になるか、見苦しく命乞いを続けて呆れられるか。どちらにしろ未来はない気がする。

 そもそも、リリアンのためとは言っているが、どう考えても侍女一人の自分勝手な行動にしか見えん。寧ろリリアンは同情されるレベルだぞ、これ。疑われた挙句、自分の侍女だから『知らなかった』で済むはずはない。


 思うことは様々だが、最終的に多くの人がこの結論に達するだろう……『あの侍女さえ行動しなければ』と。全ての起点はこれなのだから。 

 

「リリアンの味方ってのが事実だったら、第一王女でも簡単に処罰なんてできないだろうしね。ただ、そこまでする理由が思い浮かばない」


 リリアンには味方が少ない上、彼女自身も王族らしくない性格をしている。そんな子が、日々感謝し縋っているような侍女の処罰に納得できるだろうか?

 答えは『否』、だ。あの侍女が第一王女の誘いに乗ったのも、そういった点を理解していたからじゃないだろうか。


「まあ、証拠がないからね。全てがあくまでも憶測なのよ」


 そう言って溜息を吐くと、皆も顔を見合わせて溜息を吐く。

 相手が第一王女である以上、おかしな糾弾はできない。下手な証拠で騒ぎ立てれば、こちらがサロヴァーラの人々の恨みを買うだけだ。

 それでこの国を叩き出されたら、それまでとなってしまう。そんな事態は避けねばならないし、場合によっては情報操作でこちらが悪に仕立て上げられる。そうなると何を言っても聞き入れてもらえまい。

 向こうもカードが少ないだろうが、こちらも決め手に乏しい。何とか一手が欲しいところだ。


「まあ、今日はここまでとしよう。あの侍女も再び牢へ入れられたじゃろう……この後の展開で何か見えてくるものがあるやもしれん」


 すっきりしない気持ちを抱えたまま、私達はレックバリ侯爵の解散宣言に同意し。

 漸く、本当の意味での休息を取ることにしたのだった。


 ――その数日後に、『侍女が死んだ』と聞かされるとは思わずに。

使い道は一通りに非ず。

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