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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編

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222/705

魔導師を名乗るならば

 目の前にはへたり込んだ宮廷魔術師、落とし穴の近くには半ば呆然としている貴族ども。

 そして、サロヴァーラ王は『連中を牢に捕らえること』に同意した。

 よーし、よーし、これで煩い奴らが消えた! こいつらがいると話が進まないからね、さくっと退場していただこうじゃないか。

 ちなみに『さくっと退場』とは『この場からの退場』というわけではない。

 ただ牢に繋ぐだけでは意味がないのだよ。こいつらは『家』という括りで扱わねばならないのだから。

 一族単位で抑えておかないと、捕らえられていない者達が動く可能性があるのだ。まあ、普通は助かりたいと足掻くわな。

 でも残念! 私は自分の目的のためなら手加減なんてしません!

 これまでのおさらいを兼ねて、詳しく説明してやろうじゃないか。王の同意を得た以上……サロヴァーラ王自身にも納得してもらわなければならないもの。


「拘束の許可が出ましたね。では、最初から説明させていただきます。……私が望むことを『正しく』理解して欲しいですから」


 そう告げると、サロヴァーラ王を含めたサロヴァーラ勢は怪訝そうな顔になった。拘束されるのに、これ以上の説明が必要なのかと。そう言わんばかりの雰囲気だ。

 ええ、必要なんですよね。これがサロヴァーラじゃなければ、わざわざ私が説明する必要なんてないんだけど。


「私は彼らを疑っております。貴方様を糾弾するためには私への攻撃が必要だった、ならば十分共犯という可能性があると思います。少なくとも、今後彼らが自己保身のあまり勝手に動くことは好ましくない」


 ちらり、と貴族達に視線を向ける。連中にはイルフェナ勢がガンガン視線を向けているので、すでに顔面蒼白である。

 魔王様の威圧に慣れた人々なのである。しかもイルフェナの誇る『最悪の剣』。

 そんな彼らから殺意にも似た感情を向けられているので、貴族達は震えて言葉を発することもままならないわけだ。

 

 脅迫と言ってはいけない。純粋に怒っているだけである。


 ……そういうことにしてくれ。気づいているらしい人々が何ともいえない視線を向けてくるけど、綺麗にスルー。

 私は奴らの保護者でも、主でも、抑え要員でもないのだよ。どちらかといえば『押さえ込まれる側』なのだ。何故、馬鹿貴族どもを助けにゃならん。

 それに。

 個人的にはこの状況を利用する気満々ですわ……!

 よし、そのまま硬直しとけ? だいじょーぶ、お話はすぐに済むからな?


「それに……私達は彼らが貴方様に言い掛かりをつけて王座から引き摺り下ろそうとする場面を目撃してしまっているのです。反逆罪、ですよね?」


 五割ほど盛って事実のように話し、『連中は犯罪者』を演出すれば……周囲はざわりとざわめいた。

 これ、否定が物凄く難しい。『否定するなら証拠を出せ』と言われると凄く困るし、不敬罪だけは逃れようがない。 ただ、無関係な奴はこの宮廷魔術師の様に『どちらに付いた方が得か』という基準で判断するので、こちらが有利っぽく見せればあっさり私達に傾くのだ。

 これがこの国の脆さなのだろう。信念や忠誠よりも、己が利を追求する浅ましさ。それを逆手に取っただけである。

 私の望む形にするには『この国の者達の同意』も必要。まだ迷っている人も多いようなので、もう少し後押しを。


「あら、何を驚かれるのです? 『明確な証拠もなく』、『言い掛かりに近い理由』で、あれほど責めてらっしゃったのに。ま・さ・か、ただで済むとは思ってらっしゃらないでしょう? 最低でも不敬罪ですよ、しかも他国の者に目撃されていますから『なかったこと』にはできませんし」


 普通なら切り捨てられても仕方ないですよね、と続ければ、さすがに反論の声は上がらなかった。

 それどころか、納得するように頷いている人もいる。

 よし、この状況ならいける!


「ですから、お願いしたのです。そして改めて確認を。この一件が片付くまで彼らを牢に拘束するのは当然ですが、彼らに連なる者達の行動も見張って欲しいのです。彼らの一族が何もしなければ『魔導師を害そうとした』という疑いは晴れますし、犯人が捕まれば無実が証明されますよ」

「ふむ……疑わしき者を一時拘束するだけではなく、その一族達がくだらないことをしないようにするつもりかね?」

「ええ! 家を誇る以上、一族は一蓮托生ですもの。彼らに連なる者達がおかしな真似をすれば疑惑は深まり、逆に何もしなければ疑いは晴れましょう」


 ……実は『それで何も起こらなくなったら、犯人確定』という発想もある。どのみち『不敬罪は確実』って言っているんだから、逃げ場なんてないのだ。

 事が済むまで大人しくさせておいて、その後は不敬罪で処罰。

 サロヴァーラがこのままの状態だと困るのは目に見えているので、馬鹿どもを潰せるだけ潰しておこうじゃないか。


 卑怯? 気のせいだ。

 相応しくない者には(全ての意味で)退場を願う。これ、常識。


 何より、不安要素があるのだよ。連中を残せない理由もちゃんとあるのだ。

 その不安要素こそ、私が話をしているサロヴァーラ王その人。ちらりと視線を向けた先では、サロヴァーラ王が難しい顔をして考え込んでいた。


 サロヴァーラ王は私の言葉の裏に気づいている。私が王の賛同を欲していることを判っているのだ。


 言質さえ取ってしまえば、私の予想は『確実な未来』となるだろう。誤魔化すために動く可能性がある者達も押さえ込まれている、まさに好機! これまでの行ないだって当然調べられるし、色々と出てきそう。

 その結果によっては家単位での処罰が確定。私だって関係者だもの、詳細はイルフェナにも伝えられる。そうなると当然、温い処罰で済むはずもない。不敬罪関連ですでにアウトなのだから。

 だが、一族全てが愚か者かと言われれば……間違いなく『否』だろう。

 幼い子供、真面目に貴族としての責務を果たしていた者といった無関係な者達。彼らとて巻き添えとなり、今後はどうなるか判らなくなってしまう。そこに付け込まれる可能性があった。

 自分が家族を亡くしているせいか、サロヴァーラ王は『尊い犠牲』というものが嫌いなんだと思う。本人の性格も多大な影響を及ぼしていることだろう。

 民の側から見れば『慈悲深い王』なのだろうが、他国から見れば『甘い』という評価でしかない。

 やり過ぎは確かによくないだろうが、それでも冷酷な面を持たなければいけない。それがほぼ発揮されてこなかったから、この国は王の立場が弱いのだと推測。嘗められているのだ、単に。


 だから、私はサロヴァーラ王の言質を取る。くだらない優しさを捨てさせるために。


 他国との約束事を口実にするのは些か情けないが、私はサロヴァーラ王の評価など知らん! 興味があるのは誘拐事件に絡む一連のことだけだ。だから、それだけは筋を通してもらう。

 言い方は悪いが、私はサロヴァーラ王を『そういう意味では』信頼できない。魔王様を筆頭にこれまで関わってきた王族達とこの人を同列に見ることは……ない。


 迷うから常に後手に回るのだ、たまにはサクッとやらんかい。

 情の厚さゆえに、王が付け込まれるってどうよ? 最初からガツッと躾けろや!


 私は熱い想いを込めて、じっとサロヴァーラ王を見つめた。それは向こうも同じ。

 サロヴァーラ王は私が『行動できる人間』だと、これまでの遣り取りで『知った』。見せしめのために宮廷魔術師を潰してみせたのだと、気づいているだろう。

 それを踏まえて、私は鮮やかに笑ってみせた。そうして覚悟を迫る。



 さあ、ご決断を?

 ここまでの茶番を見せられてなお、温い対応をするならば……サロヴァーラに『災厄』が降りかかるだけ。



 やがてサロヴァーラ王は深々と溜息を吐くと、はっきりと頷いてくれた。

 その決断にレックバリ侯爵は笑みを浮かべ、周囲の貴族達には動揺が走る。これまでにない厳しい決断だったのだろう。王が無関係な者まで巻き込むなど、思ってもみなかったのかもしれない。

 一番驚いたのはイルフェナ勢に睨まれている貴族達だろうな、これ。連中は王が甘いと認識していたからこそ、好き勝手していた節があるもの。


「判った。そなたの言い分を飲もう。私が選ぶのは国だ。ここで対応を間違えば……魔導師殿は『勝手に動く』のだろう?」

「あら、はっきり言ってくれていいですよ? ゼブレストでは『血塗れ姫』、キヴェラの一件では『断罪の魔導師』、そして……誰もが知る意味は『世界の災厄』。私に牙を剥いたのです、どうなるか嫌でも理解できるでしょう?」


 正しい選択をしましたね、と拍手しながら伝えれば、サロヴァーラ王は大きく息を吐く。周囲は漸く『自分達が害したのは何なのか』に気づいて青褪め、がらりと雰囲気を変えた私に怯えた視線を向けた。

 北はガニア以外に異世界人が現れたことはないと聞いている。彼らは漸く、『異世界人』という存在を脅威として認識したのだろう。

 大人しい奴ばかりじゃないぞ、個人差があって当然だ。ただ、『凶暴種』呼ばわりされる異世界人がどれほどいたかは知らないが。

 

「そなたは本当に判らぬな……リリアンの無実を指摘したかと思えば、惨酷さを見せつけ。決断を迫る過程で自分を誇示しつつ、私達を怯えさせるとは。これまでの姿は警戒をさせぬよう偽っておったのか?」

「違いますよ? 私は基本的に牙を剥かれなければ『遊び相手』と認識しません。……殺そうとしておきながら殺されるのが嫌、なんて嘗めた発想をしている人がこの国に多いだけじゃないですか」


 疲れた顔で尋ねてくるサロヴァーラ王にも、笑顔でお返事。事実です、基本的に反撃ですからね〜。

 さすがにそれは理解できているのか、サロヴァーラ王はそれ以上何も言ってこなかった。そして、私に約束した通りに連中の拘束を指示する。


「聞いた通りだ。あの者達を捕らえ、牢へと連れて行け! それから一族の者達も監視と事情聴取を。反抗するならば牢に繋いでも構わん! ……ああ、そこの宮廷魔術師も同様だ。協力者になっていたやもしれんからな」


 宮廷魔術師は何も言わない……言えない。反論すれば、私が実力行使をしてくると理解できているらしかった。

 まあ、あれだけ『知ってて何も言わないってどういうことだ?』と脅されればねぇ。

 魔術師だからこそ、私がやらかしたあれこれの異様さが理解できるのだろう。勝ち負け以前に『勝負にならない』と悟ったのだ。

 ――そうして、『要らない人達』が退場し。漸く、本命の登場となった。


「あの侍女を連れて参れ。魔導師殿の前で詳しく話してもらわんとな」

「あら、拘束はされてたんですね?」


 意外な展開に声を上げると、サロヴァーラ王の方が意外そうな顔になった。


「どういうことかね?」

「普通は逃げるんじゃないかと。捕まったら、確実に処罰ですよね? 最悪、一族郎党が」


 己の行動を恥じていない、ということだろうか。逃げる気はなく、潔く処罰を受ける覚悟だったとも受け取れる行動だ。

 サロヴァーラ王は私の言葉に納得の表情を浮かべると、目を伏せながら状況を話してくれた。


「あの侍女は逃げなかった。だが、取調べに対して『姫様のため』と繰り返しておってな……」


 んん? 同情狙いか? 周囲には『忠誠心ゆえの行動』とも受け取れるぞ?

 サロヴァーラ王がリリアンに対して負い目のようなものを持っているならば……恩情を期待できる、気がする。まさか、最初からそれが狙いだったとか? 

 だが、奇妙な点もある。あの侍女、そこまで考えていたようには見えなかった。ぶっちゃけ、賢ければあんな方法は取らない。肝心のリリアンが盛大に疑われてたしね。

 サロヴァーラ王を物凄く嘗めていた……という可能性も否定できないが、それだけで危ない橋を渡るだろうか?

 私はイルフェナの一員として来ているのだ、『あの国を相手にしてまで侍女如きを庇うのか?』という疑問だって湧くはず。

 それ以外にも、一つの疑惑が浮上する。こちらの方を私は疑っていた。


 黒幕から指示が出ていた可能性。

『姫様のため』という言葉を繰り返しているのも、黒幕の入れ知恵。



『リリアン様への忠誠ゆえの行動と思われれば、周囲から同情される。国同士の関係を拗れさせないためにも、王が取り成せば大事にはならない。何せ、異世界人は民間人扱いなのだから』



 こんなことを言われれば、あの侍女ならあっさり信じそうな気がする。これも嘘ではないからだ。

 私の場合は『ただの異世界人』ではなく、『他国の有力者達に個人的な繋がりを持つ異世界人』なので、民間人扱いといっても事情が違うのだが。

 

 しかし、この国の侍女がそれを知るはずはない。

 彼女が貴族出身ならば、民間人の命は自分達より軽いと思っていても不思議はないだろう。


 ん〜……侍女を問い詰めても無駄かもしれんなぁ、これ。黒幕に入れ知恵されていたら『姫様のため』以外に口にしないだろうし、私が色々言ったところで信じまい。

 まあ、とりあえずは会いますか。


※※※※※※※※※


「侍女を連れて参りました」


 そんな声が響き、そちらへと皆の視線が集中する。侍女は無表情を装いながらも、集った視線に居心地悪そうにしている。

 そんな彼女の目が見開かれた。


「あ……貴女はっ……」

「はぁい、戻って来ちゃった♪」


 私の姿を認めた侍女は、驚愕のあまり表情を変える。それに対して、すちゃ! と片手を上げて挨拶する私。温度差が激しい光景に、周囲の者達は微妙な表情で私達を見ていた。

 私の態度はこの場において相応しくはない。相応しくはないのだが……咎める声は上がらなかった。先ほどの脅迫が効いていると思われる。


「いきなり下に落とすんだもの、吃驚しちゃった。浮遊の術を無詠唱で使えなければ、死んでいたわよねぇ……?」


 微笑んだまま話し掛ける私に、侍女はじりじりと後退り。

 ……目が笑っていない自覚はある。獲物なのだ、黒幕への繋がりなのだ、狩人の目になっても仕方なかろう。

 

「さっきね、宮廷魔術師様が証言してくれたの。『浮遊の術の詠唱は間に合わない』って。つまり、貴女は私と護衛の騎士さんを殺そうとしたわけだ」

「……っ」


 侍女は答えない。それでも落ち着こうとしているのか、先ほど見せたような動揺は見られなかった。


「明確な殺意、自分勝手な理由、それを向けた相手は……イルフェナの一員として扱われている『異世界人の魔導師』。処罰は当然、覚悟できていたのよね?」

「……私は姫様のためと思って行動したのです。異世界人といえども、民間人如きに姫様が苦しめられるなど……っ」


 侍女の目に敵意らしきものが宿る。『姫様』がどちらを指すのかは判らないが、一応『お前、気に入らないんだよ!』という感情はあるらしい。

 ……ただし、それだけ。殺意というより敵意程度。『気に食わない』というのが一番近いと感じるほどに、彼女は迫力不足である。

 うーん……嫌がらせならばともかく、この程度で殺人までやらかすか?

 殺意を向けられた経験がある身としては少々疑問に思ってしまう。感情で動くタイプにしても、人を殺そうとするならば躊躇するだろう。そこまでの憎悪を感じないもの。


 ……これ、私に対する敵意以上に『自己保身』に関心が向いてないか?


 どうもそんな気がする。ここで取り乱したり、私を害そうとすれば、間違いなく後がない。

 それを踏まえての行動のような気がするんだよねぇ……『姫様の敵!』なアピールというか。主のためにやりました、みたいな?

 仕方ない、もっと彼女を怯えさせてみますか。


「私は確かに異世界人だし、民間人扱いだけど……守護役達がいるからね? 各国上層部にも友人達がいるから抗議くらいはしてくれるだろうし、下手な貴族よりも扱いを慎重にすべきだと思うけど」

「え……?」

「だからね、人脈が半端ないの。それに加えて実績持ちだから、恩を売る意味でも動く人達がいる」


 侍女は呆けたように私を見た。完全に予想外だったのだろう。

 わざわざ『実績持ち』と言ったのは、私の……魔導師の噂を聞いたことがあると期待して。

『その実績持ちの魔導師に恩を売るため、魔導師に味方する国がある』という喩えは非常に判りやすい。交友関係などは信じられなくても、これならば可能性を否定できないのだから。

 事実、侍女は自分の思い込みが間違っていたことを理解したのか、青褪めて震えだした。所詮は侍女一人、しかも実行犯。彼女を処罰するだけで他国からの抗議が消えるならば、やすいものである。

 

 侍女は初めて『切り捨てられる可能性』に直面したのだろう。

 黒幕が何か言ったとしても、もはやサロヴァーラだけの問題ではないのだと。


「わ、私は! 姫様の、ために! どうか、どうか、御慈悲を……!」


 縋るようにサロヴァーラ王を見つめ、懇願する侍女。けれど、サロヴァーラ王は言葉を返さない……返せない。

『利用しただけかもしれない貴族達』へと『一族郎党の処罰』を私は望んだ。ならば、実行犯であり、全ての元凶である侍女が許されるはずはない。


「お前が我が娘を想ってくれたことは嬉しく思う」

「で、では!」


 安堵の表情を浮かべた侍女だが、それは次の言葉によって絶望に突き落とされた。


「だが、お前のしたことは許されることではない。厳しく処罰されると思え」

「そん……な……」


 がっくりと膝を突き、それでも縋るような目を向け続ける侍女。けれど、王の言葉は覆らない。

 

「私は、私は姫様のために……姫様の……」

「くどい!」

 

 繰り返す侍女に、サロヴァーラ王は厳しい声を向ける。決断を鈍らせないためでもあるのだろう。

 それでも侍女は恩情があると信じているのか、縋るような目で見つめ続けている。

 ……。

 ……ん? 何か、これって……視線を向けている位置が……。

 浮かんだ一つの予感。皆は気づいてないようだけど……黒幕、判ったかも。


「私には謝罪すらしないのに、命乞いは諦めないのね」


 やれやれとばかりに肩を竦めて、呆れた目を向ける。

 そして。

 

「少し痛い目にあってもらおうか、な!」


 パチリ、と指を鳴らして侍女へと氷の刃を向ける。突然の出来事に誰もが対応できず、氷の刃は侍女の周囲に突き刺さった。

 侍女は目を見開いて硬直していたので無傷。そんな彼女の前に私は転移で移動。


「人を殺そうとするなら、殺される覚悟があるよね?」

「ひ……っ」


 空中に周囲に氷の刃を出現させる。それを見た侍女の顔が恐怖に染まった。


「た、助けて! 許して!」

「聞こえなぁい♪」

「私は姫様のために……こんなことになるなんて知らなかった! どうか、どうか、お助けください!」


 恐慌状態に陥りながらも、侍女は『ある方向』へと視線を向けた。その方角にはサロヴァーラ王。そして……もう一人。

 未だ王の恩情を願う姿に、サロヴァーラ勢は顔を顰めて侍女の醜態を眺めている。王が『処罰する』と明言しているのだ、未だに縋ろうとするとはどういうつもりだ、と。

 ……だが。

 私は侍女の行動に、確信を以て笑みを浮かべた。アル達にもそれが判ったのか、どことなく楽しそうにしている。

 ヒントは侍女の行動。彼女が縋る可能性があるのは王、そして……『自分に命じた者』。

 その人物は『この場に居て』、『状況を知ってなお、彼女を助けられる可能性がある』人物。


 リリアンはこの場に居ない、騎士にそこまでの権力はないし、貴族達の方は見てもいないから違う、侍女に覚悟があったら取り乱したりはしないし、サロヴァーラ王は処罰を明言した。


 残る人って一人しかいないんじゃないかなぁ? ただ、証拠もなければ、理由も判らないけど。

 少なくとも、私を罠にかけるよう指示した人物は判ったわけで。


 ……黒幕(予想)、見ぃつけた。

 サロヴァーラ王の側にひっそり控える女性。貴女でしたか、第一王女様?    

消去法と無意識に縋る視線で黒幕判明(予想)。

そもそも助ける意思があるなら、懇願される前に行動しているわけで。

ただし、証拠がなく理由も不明のままなので追及できず。

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