次なる一手
笑みを浮かべたまま、騒いでいた貴族達を見回す。そこに直接頭に響く声が。
……『獲物を狙う目をしてますね』だと? 煩いぞ、アル。念話で指摘せんでもよろしい。
「さあ、違うというなら証拠をどうぞ? 私達の証拠は……」
そこでサロヴァーラ王の方へと視線を向け。
「これまでの貴方達の言動、そして先ほどの『リリアン様を陥れるための罠だった』という仮説に至った経緯とさせていただきます」
貴族達は答えない。答えられるはずはないだろう、王への糾弾は誤魔化しようがないのだから。
そんな彼らに顔を向け、私はわざとらしく笑った。
「貴方達と同列に成り下がる気はございません。『証拠』、もしくは『それに準ずる情報』。そのどちらかを提示していただければ、疑いを持ったことを謝罪いたします。思い込みだけで事を起こすなど、愚かと称するのも生温い」
「なっ……」
「そうでしょう? 王族、もしくは王という最高権力者を他国の者の前で侮辱する……なんて。『間違いだった』で済むはずはありませんものね? 貴族ならば家とてただで済まないことをよくご存知でしょう?」
くすくすと笑いながら無邪気に尋ねると、貴族達は漸く自分達の仕出かしたことの重大さに気がついたらしい。イルフェナ勢は向けられた視線の意味など判っているだろうに、笑みを浮かべたまま動じる気配はない。
『今更気づいたのか』と言わんばかりの彼らはどう見ても悪役だ。浮かべた笑みも何やら黒い。
そんなイルフェナ勢の姿を目にした者達は揃って顔を引き攣らせた。――この場においてイルフェナ勢が沈黙を保った理由。それは『今、私が言った状況を作り上げるためだった』と気づいて。
声を上げれば王への糾弾が中断されてしまうからね。彼らの行動を阻害しないことで、しっかりと事実を作り上げたわけだ。
相変わらず性格が宜しくない。まあ、外交で結果を出せる奴が素直で心優しいはずはないわな。
魔王様が例外であって、こういった連中は珍しくはない。珍しくはないのだが……それは外交を担う立場だった場合。
アル達は騎士なので、まさかここまで性格が悪……いやいや、こういった面も特化されているとは思わなかったのだろう。見た目も優しげですからねー、こいつら。
「あら、今更気づいたのですか? ふふ……レックバリ侯爵はイルフェナとしての抗議、アルは私に説明をしてくれただけ。それを除けば、彼らは『目の前で繰り広げられたサロヴァーラの醜聞』の目撃者ですよ」
だって、彼らは実力者の国と称される国の人間。
国にとって『最も利のある状況』を選ぶのは当たり前。
逃げ場なんてない、言い逃れなんて許されない、どう転んでもサロヴァーラ王を糾弾した者達に待つのは破滅だ。
それに彼らは一つ重要なことを忘れている。とても有名で、けれどその脅威に気づきにくいことを。
にぃ、と口元を歪めると、警戒したのか貴族達が一歩下がる。少しでも距離を置きたいと言わんばかりの姿に、私は内心大爆笑。はは……逃げてもすでに手遅れだぞ?
「私には守護役『達』がおります。私達はとても良好な関係を築けておりますので、当然このことを伝えるつもりです。泥舟に関わらせる気はございませんし、彼らだって『私を害した者達』には憤ってくれると思いますよ? ああ、守護役でなくとも親しい方達がいますね……異世界人という立場ですから、国の上層部に限られますけど」
そう告げると、該当する貴族達だけではなく周囲がざわめいた。その意味に気づいてしまったのだ――王を糾弾した者だけではなく、迷惑を被るのが『国』であると。
サロヴァーラ王でさえ軽く目を見開いているが、私の場合は魔法云々よりもこちらの方がよっぽど厄介だったりする。魔王様が行なってくれている情報規制に協力する国があるのは、彼らにとってもそれが『使える手』だからだ。
そもそも、私の言葉は嘘ではない。破滅ルート一直線の馬鹿どもに関わらせたくはないし、彼らだってそういった情報を私が伝えてくることを期待している。勿論、もたらされた情報は利用するだろう。
『利害関係の一致は素敵な絆』とはこういった点を指すこともあるのだよ。あらゆる柵のない異世界人こそ、ひっそりと情報の共有をさせる存在なんだから。無知という言い訳が使える点も大きい。
魔王様だけではなく、ルドルフやグレンだってそれは理解している。だから私が求められるのは『何が重要な情報か判断する能力』、そして『役割を理解して動くこと』。
彼らは基本的に国が最重要。立場を踏まえた上での友好的な関係の維持にはそれなりのものが必要だ。手を組むことだってあるのに馴れ合いだけで続くわけがない。これが民間人との差なのだろう。
まあ、こいつらはそれを忘れてたんだろうね。私に関する情報規制がされている上、サロヴァーラに来てからはアルが徹底的に甘やかす姿を見せていたから。
『溺愛』という言葉が示す意味。そのフェイクにあっさり引っ掛かったのだ。
当たり前だが、日頃はそんなことはしない。基本的にアルやクラウスは魔王様の傍に居るのが当然だし、私もお仕事があるもの。騎士寮に隔離されてる状態だから、守護役でもいない限りは知らないだろうけど。
ちらり、と周囲に視線を向ける。王はこちら側寄りだし、他の人も動く様子はない。こいつらは見限られたと見るべきか。
そんな中、ほんの一瞬アルやレックバリ侯爵と視線が絡む。彼らは私の出方を待っている……いや、『お手並み拝見』といった感じにこの場を譲る姿勢を見せていた。
どうやら、イルフェナ勢も黒幕に到達できてはいない模様。つまり『何か事態を動かす一手を持ってない?』ってことですな。思わず、内心舌打ちする。
やるじゃねーか、黒幕。やはり、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないらしい。
こいつらの動きに合わせて暗躍……という真似はしなかったのか。していたらアル達はそんな行動をした者に対し、疑惑の目を向けるだろう。サロヴァーラ王がこちら側にいる以上、情報は入ってくるはずなのだから。
……まあ、私も思惑があってこいつら苛めてるんだけどさ。じゃ、期待に応えて動こうかね。
ここからは言葉遊びというか、ちょっとした引っ掛けだ。上手く食いついてくれればいいのだけど。
「しっかりと伝えますからね。『殺そうとした』と」
「ちょっと待て!」
明確な殺意があったと言葉にした途端、一人が声を上げた。
「確かに、君を下に落とした以上は害する気があっただろう。だが、貴方は魔導師だ。それを踏まえてのことならば、死ぬとは思っていなかった可能性があるんじゃないか!? あのキヴェラが敗北したのだからな!」
「あら……魔導師だから、ですか」
『そう解釈されるとは思わなかった』と言わんばかりの表情をすれば、その一人の意見を支持するかのように後がない者達――全部ではないが大半だ――が一斉に喚き出す。
「魔導師は『世界の災厄』! 魔導師ならば大したことはないのでは?」
「そ、そうだ! 魔導師でなければ、思い止まったかもしれん!」
「貴女の実績を知るならば、そう考えても不思議はないだろう!?」
口々にそんなことを口走る男達。対して私は内心笑いが止まらない。
あはは! 『殺意はない!』って主張するあまり、暗に『自分達の誰かがやったかもしれない』って意味のことを言っちゃってるよ。それでなくとも犯人を庇ってやんの。お・馬・鹿!
さて、ここまでくれば後は最後の一押しだ。
「それでは体験していただきましょうかねぇ?」
ふふっと笑ってサロヴァーラ王に向き直る。王は連中が口にした言葉の意味を正しく理解しているらしく、厳しい表情で彼らを見ていた。
「お許しいただけますよね? 殺意の証明はとても重要ですから」
「……ああ、許そう。命さえ奪わなければ大した罪にはならんと考えているようだからな!」
半ば吐き捨てるように告げられた王の言葉に、男達は一斉に黙り込む。ええ、そういう意味で言ってましたもんね。これが自分達にも適用されるなんて考えもせず。
……実はこれ、もう一個の確認というか断罪のため。一人、潰しておかなきゃならん奴がこの場にいるのだ。
そいつは今回の件には関わっていないだろう。関わってはいないと思うのだが……黒幕に諭されて敵に回ると厄介だ。舞台に上がる前に退場していただこうか。
「許可が出ましたね。それでは、早速!」
いい笑顔で指をパチリ、と鳴らす。うふふ……私は『見える場所への転移』ならば完璧だぞ? ご丁寧にも対象達はある程度纏まっていることだしな!
『……っ!?』
喚いていた男達が一斉に呆けたような表情となる。詠唱されていないので、意味が判らなかったのだろう。
だが、それも一瞬のこと。彼らの体は私達が出てきた穴の上に出現し、重力に従って落ちていったのだから。
「ひ……っ」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「た……っ……」
誰一人まともに言葉を発することができず、遠ざかる悲鳴のみが静まり返った謁見の間に響いていく。
うんうん、いきなり落ちるとこうなるよね! 判るぞ! 助けを求めようにも間に合わんよなぁ……などと呑気に思っていた私に、若干震えた声がかけられる。
「そ、その、魔導師殿? 彼らは無事なのだろうか……?」
「命は無事ですよ……多分」
「多分!?」
「ですが、詠唱は厳しそうですね。誰一人としてまともに話せていませんし」
これじゃ詠唱は無理そうね、と笑顔で話す私に周囲はドン引きした。あらあら、必要なことでしょうに。
私の答えに、声をかけてきたサロヴァーラ王は顔を引き攣らせる。……が、彼らの心境など知らん。思いやる必要もなし。
第一、私は自分の経験でしか知らない。これを説明しろという方が無理じゃないか。だから手っ取り早く『経験させる』という選択になっただけだ。
まあ、実験せずともある程度は判っている。これが『罠』になっている以上はね?
「『落ちても魔法が使えれば無事』ということを証明するためですから、体験してもらうのが一番ですよ! 彼らの場合は『詠唱が可能か、否か』という実験ですね。死なずとも落下する恐怖はあるのです……それに」
そこで一度言葉を切り、控えていた『ある人物』の方を向く。
「本来、説明すべき義務がある宮廷魔術師様が無言を貫いてらっしゃいましたから?」
「……っ」
びくり、と宮廷魔術師らしき人物の肩が跳ねた。私の言葉に皆の視線が彼へと集中する。
「その姿、騎士でも貴族でもありません。おそらくは宮廷魔術師様でしょう?」
「あ、ああ、そのとおりだ」
「まあ、やっぱり! では、お尋ねしたいことがございます」
「尋ねたいこと、ですと?」
訝しげな表情を向けてくる宮廷魔術師。王が居るこの場に控えている以上、こいつが筆頭魔術師か何かであることは間違いはない。
ただ……王に対する忠誠はあまりないようだが。それこそ、彼が口を挟まなかった理由じゃないのかね?
少し神経質そうな顔に苛立ちが浮かぶのを目にし、私は自分の考えが正しかったこと確信する。ちらちらと目に浮かぶ感情は……『嫉妬』だろうか。
魔術師にとって『魔導師』という存在は憧れであり、同時に嫉妬の対象でもあると聞いたことがあるのだ。特に自分に自信がある魔術師ほど『無条件に上位と認識されているもの』を許しがたく思う傾向にある、と。
だが、今この場においてその感情はとても『危険』。少なくとも今は地位に相応しい行動を取り、個人的な想いは隠しておかねばならなかったはず。
それができなかった以上、私に狙われるのは当然なわけでして。
自己中心的な思考に魔導師への嫉妬、まして魔法の使い手。こんな危険な輩を野放しにするはずがないでしょう?
彼の態度に『自分が最優先』という思惑を感じ取ったからこそ、私は彼を潰すのだ。黒幕と手を組まれたり、個人的感情のままに『魔導師』に反発されるのは困るもの。
さあ、皆の注目も集まった。その表情を歪める鋭い一言を贈ろうか。
「浮遊の術の詠唱は間に合うのですか? 下に叩きつけられるまでの時間はそう長くはないと思いますけど」
私の言葉に、人々ははっとして宮廷魔術師をガン見。宮廷魔術師本人も大きく目を見開き、忙しなく周囲に視線を彷徨わせている。
イルフェナ勢も私に慣れていたため思い至らなかったのか、今は興味深そうな視線を向けていた。
「貴方は知っていて当然のはず。何故、口を噤んだのです?」
「そ、それは……」
「サロヴァーラ王は誠意ある対応をお約束してくださいましたのに? それに反する行為ではありませんか。その立場は飾りではありませんよ、随分と相応しくない者がその地位に就いていられるのですねぇ?」
イルフェナでは考えられないわね、と続けて呆れた視線を向ける。対する彼は屈辱ゆえか、恐怖ゆえか、ぶるぶると体を震わせていた。
これ、意訳すると『忠誠心がない役立たずが宮廷魔術師? な・い・わ!』である。王に忠誠を誓っているなら『魔術の専門家として』説明するのが普通。良くも悪くも見解を述べるんじゃないのかい、誠実さを試されてるんだから。
というか、こいつが説明していれば連中は穴から落とされていない。連中は『ドキドキ☆落下体験』のために落としたけど、それは『いきなり落下して詠唱が可能か』を体感してもらうためだ。
だが、宮廷魔術師が口を挟めば状況は変わったはず。
いきなり落とされても詠唱できるのか実験しなくとも済むだろう。この国において『どちらの言い分が正しいか』を最も理解している人物の証言は重いのだから。
それなのに声を上げなかった=職務放棄です。それはこの場に居る誰にも判ったのか、宮廷魔術師に向けられる視線はどれも厳しいものばかりだ。
「自己保身でしょうか? それともどちらに付いた方が得か見極めていました? 国よりも自分、なんて随分性根の腐った人なのですね。……サロヴァーラ王、私は彼が信頼できません。そう判断することを許していただけますよね?」
「勿論だ。私も信頼できん」
「そ、そんな!」
問えば、頷き了承してくれるサロヴァーラ王。宮廷魔術師は悲鳴に似た声を上げるが、王の言葉が覆ることはなかった。
この時点でこいつの名誉は地に落ちている。今の地位を失うのも時間の問題だろう。それが理解できているからこそ、必死なのだ。無関係を装った果ての自滅である。
「この城の罠が魔法を用いて作られている以上、無関係では済まないのですよ。状況に応じて都合の良い方の味方をする人なんて信頼されるわけがない。裏切りそうだもの。そうそう、王がご自分の方針を明確にされている以上はこうも言い換えられますね……」
わざとゆっくり言葉を紡ぎながら、最悪の『毒』を贈る。
「反逆罪、と」
「……え」
予想外だったのか、宮廷魔術師は固まった。
「勿論、大まかに見てという状態ですが……貴方が口を噤んだことが後々響いた場合、そう受け取られても不思議はありませんもの。イルフェナは『知っていて黙っていた』者を許すほど甘くはありませんし、サロヴァーラ王とて疑惑の目で見ているじゃないですか」
サロヴァーラの状況ははっきり言って悪い。イルフェナから向けられた疑惑の目に誠意を以て応えなければならないというのに、この態度。サロヴァーラ側から見れば裏切りにも等しい行為じゃないか。
「さあ、答えてくださいな。浮遊の術は間に合うのですか?」
「……。いい、え。間に合いません」
「でしょうね。間に合うならば、罠として成り立ちませんから」
震えながら紡がれた答えに満足し、指をパチリと鳴らす。すると、落ちたはずの男達が呆然としたまま穴のすぐ傍に出現した。
最後まで落とすわけないだろー? 私が個人的に殺しちゃったら拙いじゃん!
私達は下から浮遊して上がってきた。そして落ちる時は途中まで自然落下。ある程度の落下時間と距離は判るのだよ。
そんな訳で、落ちてから即座に浮遊を使えば下への激突は免れる。ただし、事情を知らない当事者達は死ぬほど怖いだろうね。勢いがある分、いきなり落下が止まるわけじゃないし。
経験を無駄にしてなるものか。次の糧として利用しなければな……!
「お帰りなさーい! 落下体験はどうでした? 空中に留まったことも、術式を伴わない転移も初めてでしょう?」
呆然としている男達にわざわざ詳しく説明してやると、話を聞いていた宮廷魔術師の顔が恐怖に歪んだ。どうやら正しく言いたいことを理解した模様。
さて、最後の仕上げを。
「どうかな、魔導師の実力は」
「……ひっ」
いきなり――指さえ鳴らさずに――目の前に現れた私に、宮廷魔術師は悲鳴に近い声を上げてへたり込む。
「無詠唱に術の複数行使。私は貴方を信頼できないと『この場で』言った。それが覆ることはないし、貴方への疑惑……今後、犯人の協力者になる可能性も視野に入れている」
「ば……化け物……」
呆然と呟かれた言葉に、私は思惑の成功を悟って笑みを深めた。そうそう、『化け物』と思っていてね? 貴方は辛うじて『敵』になっていないだけであり、『敵になるかもしれない』とは思われているのだから。
「サロヴァーラ王。私は貴方『は』信頼します。貴方を知っているイルフェナの者達の言葉を信じる、という意味で。ですから」
そこまで言ってから、サロヴァーラ王へと向き直って視線を合わせる。
「個人的な報復は許していただきたいのです。この状況ではサロヴァーラとてそういった輩を野放しにはなさらないのでしょう?」
「ああ、そうだな……『国』という括りではないのだね?」
「ええ。お許しいただけるならば、その対象はあくまでも『個人』だとお約束しましょう」
サロヴァーラ王は暫し考えるように目を瞑った。私の報復対象が国の要人だった場合も踏まえ、どちらが得かを考えているのだろう。
やがて目を開けると、しっかりと私に視線を合わせて頷く。
「いいだろう。念のために私に一言確認をしてほしい」
「了解しました」
はい、交渉成立。お伺いさえあれば報復可能になりました!
顔色をなくしている宮廷魔術師に向かって、私は満面の笑みを向ける。
「聞いた? つまり、敵への報復は可能になったの。勿論、その協力者も含まれる。……ああ、貴方はさっき王に『信頼できない』って言われたわね。つまり、『庇われることはない』!」
「……っ」
体の震えが止まらない宮廷魔術師は縋るような視線を王に向けるが、返される王の眼差しは厳しいまま。当然、周囲から助ける声など上がらない。
「貴方は立場に相応しい振る舞いができない人だもの。期待なんてしない……ただ『良い子』にしていればいいの。いい?」
パチリ、と指を鳴らす。その瞬間、へたり込んでいた宮廷魔術師の周囲に鋭い氷の刃が複数出現した。
「私の敵になるな。なった場合は『魔導師』として相手をしてあげる。……この程度で怯える輩が私に勝てるなんて思わないでね? 私は手の内を全て見せたわけじゃないのだから」
がくがくと壊れた人形の様に首を縦に振る宮廷魔術師。その怯えきった姿を見る限り、今後は私の邪魔をしようなど思わないだろう。
「おや、さすがに貴女との格の違いが理解できたようですね」
「実力を最初から見せつけるような真似をすることこそ、愚かじゃない」
「ごもっとも」
アルの楽しげな声が謁見の間に響く。そんなアルの姿――魔導師を全く恐れていない――は、サロヴァーラの者達に『もしや彼らもまだ何か隠しているのでは』という疑惑を抱かせたようだ。
イルフェナ勢に向けられる視線に怯えが混じるも、アル達は気にした様子もない。そんな視線ごときに怯むはずはないのだ、彼らは『最悪の剣』と称される存在なのだから。
「王様。私が先ほど落とした彼らの様子から『いきなり落ちた場合は恐怖で何もできない』と推測されます。また、この宮廷魔術師の『浮遊の術は間に合わない』という証言。これらを踏まえて『殺意があった』ということで宜しいでしょうか?」
「勿論だ。その者達の様子を見る限り、無詠唱だろうとも命の危機に変わりはあるまい」
「では、あの男達を捕らえてくださいな。庇うような発言をした以上、私から見て彼らも共犯ですから」
「判った。少なくとも、全てが判明するまでは牢に居てもらわねばな」
頷き、私の意見を支持するサロヴァーラ王。これで黒幕は本格的に逃げられなくなった。すでに私は罠に落とされたのだ……今後何もなくても処罰なしはありえない。
これまでは他国だからこそ、好き勝手な真似はできなかった。ある意味、それが黒幕にとって一番の守りだったとも言えるだろう。
だが、それは徐々に崩されていった。盾に使える貴族達の排除、個人的な利によって動く可能性のある魔法のエキスパートへの牽制と脅迫、そして……王がこちらに付いたことによって騎士達や無関係な貴族達は私達に手が出せない。
『邪魔者の排除は常識よね?』
『そのとおりです。今後のことを踏まえ、我々も便乗させていただきましょう』
……私達はそんな念話を行ないながら視線を交し合う。決定的な証拠こそないが、黒幕とて残ったカードは少ないだろう。そう、確信して。
さて、邪魔者の排除は叶った。次は……本命もとい、あの侍女とお話しでもしましょうか。
じわじわ周囲を排除中。
魔術師排除を思いついたのは、コレット(クラウス母)を知っているから。
『あの人みたいなのが敵になったらめんどいなー』という心境でした。




