地道な活動も大事です(個人的な理由で)
沢山のお気に入りと評価、ありがとうございます!
茶会騒動も一段落したある日の午後。
罪人の処罰その他を伝えに来たルドルフ達とお茶してます。
つかの間の平穏ですね。
「……という感じで一通り決着がついた。ロウベント公爵家は一応、継承権七位持ってたんだがな」
「あれ、継承権あったんだ?」
「ああ。先王の妹が当主に降嫁している。イザベラもそれが自慢の一つだったな」
「……馬鹿?」
「そう思うよなー」
「……」
確かに側室達の態度はとても王に対するものではない。
だからこそ、私は先日の茶会でルドルフの事を『ゼブレスト第一位の方』と言ったのだ。
王という言葉で理解できないようなので明確な順位を突きつけたのですよ。
『国』第一位=『国』において最高位にある存在
継承権一位は『王になるかもしれない人達の中で一番王位に近い人』なので現時点で最高位にある王に劣る。
つまりゼブレスト第一位>王位継承権一位。七位ごとき足元にも及びません。
元の世界でも調べれば『順位付けされた中で一番目の位置。筆頭の位。最も優れた成績、または等級』という意味が出てくるのです、これ以上判り易い表現って無いよね。
側室達が静かになったところを見ると一応は理解できたようで何より。
……幼児レベルの頭かい、とあの後全員で脱力しましたよ。教養はどこ行った?
「ルドルフの方はこれで一応大丈夫なんじゃない?」
「女どもはな。逆に危機感を覚えた奴等の嫌味が増えた」
「……」
今度は直接攻撃ですか。嫌味ぐらいじゃ処罰できないと判っててやるとは姑息な。
……そうか、処罰できない程度の嫌がらせか。
「ルドルフ。ちょっと用意してもらいたいものがあるんだけどさ、個人的理由で」
「おう、構わんぞ? 何をするんだ?」
「……」
にこりと笑って御願いすれば実に爽やかに了承してくれる。
さすが親友です、最後の一言で普通の『おねだり』だと思ってないことがよく判ります。
湧き上がる悪戯心を抑えきれず笑顔のままルドルフに一枚の紙を渡す。
暇過ぎて嫌がらせの一環として考えていたものです、お茶の時間直前まで計画書を書いてました。
いや、嫌がらせというには些細なものなんですけどね?
まさかこんなに早く実行できるなんて……!
あ、文字は魔力を指先に込めて文字を浮かび上がらせる自動筆記ですよ。普通に文字を書いた場合、まだ読めない可能性があるのです。さっさと一仕事終わらせて習得せねば。
「ここに書いてあるものを御願い。使い道は計画書の通り」
「お前……これ実行する気か」
「可愛らしい悪戯でしょ? 死ぬことも処罰されることもないと思うよ」
「はは……女って怖いこと考えるよな」
「やだなぁ、協力してる時点で共犯じゃない」
「……」
言葉とは裏腹に大変楽しそうなルドルフ。遊び心は必要だよね!
周囲の人々も何も言いませんし止めません。前回のお説教が信頼に繋がった模様。
「よし、明日には届けさせよう。片方は即実行させるがもう片方はどうする?」
「用意できたらすぐに行動するよ。何かあったらそっちに行くから」
「わかった。いやぁ、明日から楽しみだな!」
「……。あの……」
「何?」
「何だ?」
「貴方方が仲が良いのは構いませんが、この状況は一体……?」
そう言う宰相様の手には紙に包まれたクレープ(クリーム+バナナ+チョコ)。
話に興じている私達だけでなく全員が食べていたりする。
「甘いもの食べてます」
「悪企みしてる」
「……っ、素直なのは結構ですが! ミヅキ様は一体何を考えてらっしゃるのかということですよ」
即答する親友sに宰相様はこめかみを引き攣らせた。
はっは、短気なのは良くないぞ? 甘いもの食べて落ち着け。
「暇だったから御菓子作って皆に試食させてる。生クリームが使い放題な環境だからスイーツ食べたい」
生クリームが気兼ねなく使える環境なのです、今やらんでどうするよ!?
紙を巻いておけば汚さずに片手で食べられるものなので護衛の騎士さん達も食べてます。
噛み切って食べる方法は貴族に向かないので皿に盛り付けた方がいいかもね。
その割にはルドルフは普通に食べてるけど。庶民的な王だな、おい。
なお、予想通り生クリームより輸入品のバナナの方が高かった。国内で採れる果物にした方が親しまれるかもしれない。
「アーヴィ、いいじゃないか。これも我が国の菓子として伝えるんだし」
「何ですって?」
「クリームが民間人でも手に入る環境だからこそ広めたいんだとさ」
ええ、この国じゃなきゃ無理だと思います。
スイーツを広めるならばイルフェナよりこの国ですよ、バターやクリームが手に入り易いのですし。
自分が作った物以外のスイーツを食べることを諦めてはいませんよ!
「手軽に食べれて親しみ易い。どうでしょう、異世界の甘味ですよ?」
「確かに……我が国ならではでしょうが」
「国の特産物を活かすことは重要だと思いませんか? 私も嬉しいです! 食べたいです!」
「ミヅキは最後の方が本音だけどなー」
ルドルフ煩い。本音をバラすんじゃない!
拳を握り熱く語る私に宰相様はやや引きながらも理解してくれたらしい。
暫し考える素振りを見せた後、仕事用の顔になり頷いてくれた。
「わかりました。試しに広めてみましょう」
「ありがとー! 貴族用は今度デザートに作るから!」
「良かったな! 俺も楽しみだ」
元気良くハイタッチして喜ぶ私達に宰相様は深々と溜息を吐いた。
「何故あんなに仲が良いんでしょうねー、あの二人」
「良いことではありませんか、ミヅキ様がいらしてから陛下も楽しそうですし」
「悪くはありませんが……もう少し色気のある方向にならないものか」
「それは……無理ではないかと」
宰相と将軍が揃って視線を向けた先には王と側室(仮)が楽しそうに話している。
内容が時々物騒な方向に行くのは些細なことなのだろう……多分。
そんな宰相様が頭痛を催すような『可愛らしい悪戯』が実行されるのは数日後のことである。