我ら実力者の国の者なれば
謁見の間は中々に楽しい状態になっていた。これは私が『ドキドキ☆オカルトテイストな脱出』をやらかしたから、というだけではない。
いや、両手を広げて壁に張り付いている貴族連中は笑えるけどな。蛾か、お前ら。
「アル、状況説明をお願い。皆さんは驚くあまりに口が利けないみたいだし? こちらの状況を全く知らずに報告するよりも、事前に知った上で報告した方がサロヴァーラ王も手間が省けるでしょう」
漸く一息吐いている騎士が口を開く前に、先手を打ってアルに話し掛ける。
不敬だろうが、私達にはこちらの状況が全く判らない。ならば、『魔導師が問い掛けた』ということにして情報収集をすべきだろう。
アルも当然、その意図が判っているらしい。にこりと無害そうに微笑むと――私達がここに来た直後は嬉しそうな顔をしていた。状況を動かす一手の登場が喜ばしかったと思われる――話し出す。
「まず、貴方がいなくなってから。他国で好き勝手をするわけにもいきませんから、サロヴァーラ王に報告すると共に説明を願いました。サロヴァーラ王は大変驚かれ、『誠実な対応を約束し、見つけ出すことに尽力しよう』と約束してくださいました」
「うむ、そのとおりじゃ。儂もその場におった。アルジェントの言葉は事実であり、同時にお前さんが行方知れずになったことも含めてイルフェナに報告しておるよ」
アルの言葉に続くように、レックバリ侯爵が『イルフェナ側の対応』を口にする。
ちらり、と視線を向けた先のサロヴァーラ王が口を挟まないことからも、それは事実なのだろう。
ただ……アルの方は狙って言っている節があるが。
『サロヴァーラ王』という言葉を強調しているからね、アル。王の名前ではなく立場を示す呼び方をするあたり、私に『サロヴァーラ王にイルフェナと敵対する意思はない』と伝えたいのか。
サロヴァーラ王もそれが判ったらしく、僅かに目を見開いてアルに視線を向けていた。意外な味方、といった感じなのだろう。
「へえ? サロヴァーラ王はとても誠実な対応をしてくださったのね」
「ええ。それ『は』事実ですよ」
含むものがある言い方をするアル。そのどことなく楽しげな表情に『遊びの始まり』を感じ取り、私は笑みを深めた。アルも同じく笑みを深める。
さて、イルフェナのターンと参りましょうか。
「ですが、何故か一部の貴族の方々はリリアン様を疑い出しまして。しかも、『王が責任を取るべきだ』などと糾弾し始める始末」
「あらあら……そこはまず、私達の心配でしょう? 『どうなっているのか判らず、生死すら不明』ですもの、イルフェナの客人として招かれている以上は最重要じゃない」
「ですよね。しかもサロヴァーラ王自ら『誠実な対応を約束なさっている』のです。……どう考えてもおかしいですよね?」
二人揃って、王を糾弾していた貴族達に視線を向ける。勿論、笑みは浮かべたままに。
「まず、『証拠もないのに王族であるリリアン様を犯人扱いすることが不自然』よね? 確かに私はリリアン様と口論に近い状態になってしまったけど、その後にこんな罠が用意されているなら『おかしい』。疑いを向けさせることにしかならないもの」
「それだけではありません。彼女は諌められて黙り込んでしまうような方なのですよ。そのような方に『国同士の関係を悪化させ、なおかつ殺人を犯す』という気概があるとは思えません。それに加え、リリアン様は表面的に取り繕うことも苦手のように見受けられます」
いかがでしょう、とアルはサロヴァーラ王に意見を求めた。私達の会話に呆気に取られていたサロヴァーラ王は我に返ると、即座に王の顔となって頷く。
「あ、ああ。王として証言しよう。リリアンにはそういった才が乏しい。それは先の一件でも判るだろう」
「ええ、本当に。あれが演技とは思えませんし、そういった姿を我々以上にサロヴァーラの者達は目にしているはず。まさか、あの時だけ演技が完璧だったなどとは言わないでしょう。言えるはずはありませんよね、私達でさえこの国の者達がリリアン様をどう評価していたか耳にしているのですから」
アルの笑みを向けられた貴族達は冷や汗を滲ませている。それはそうだ、この城で私達が耳にした――探ったとかではなく、普通に聞こえてきていた――リリアンの評価は悪い。
本当に上辺だけを取り繕う才があるならば、周囲だってここまで評価を落とさないだろう。こう言っては何だが、リリアン自身の悪評が彼女を助けたとも言える。
彼らの糾弾はおかしいのだ。
『無能扱いしていたリリアンが完璧な演技をして、周囲を欺いた』なんて、無理があり過ぎる。
名前だけじゃなく実績持ちですからね、私。王族を平然と貶めることもどうかと思うが、よっぽど明確な証拠でもない限り『サロヴァーラのリリアン姫は周囲を騙し、魔導師さえ罠に嵌める策略家』という設定は誰の賛同も得られまい。
彼らだってそれは理解できているだろう。単に都合よく利用したかっただけ、というのが本音だろうな。
余談だが、南に属する国は証拠があってもきっと信じてくれない。
絶対に私が誘導したか、面白がって自ら嵌りに行ったと思われて疑惑の目を向けられる。実際、今回も自分から行ったしな。
すでに『生きる非常識を諌める唯一の存在が魔王殿下』と認識されているのだ。私が被害者というだけで『嘘だろ。被害者を装った加害者だろ』で終わる。
リリアン犯人説を無理だと言い切る理由の中には、こういった自分の経験も含まれているのです。日頃の行ないって大事だね。『無理がある』ってのはリリアンだけじゃなく、私に対しても言えることなのだよ。
ただ、このまま黙っていると立場が悪くなるというのは理解できているらしく、サロヴァーラ王を糾弾していたらしい男は私を睨みつけながら怒鳴る。
「貴女達は日頃のリリアン様をご存知ないだろう! 何故、そう言い切れる!?」
ちらっと視線を向けると、アルは僅かに頷いた。この場は私に譲ってくれるらしい。
では、私のターンと参りましょ!
「耳が遠い……いえ、頭が悪いのですか?」
「な……っ」
やれやれ、と肩を竦めて可哀相なものを見る目で男を見つめる。男は怒りゆえか顔を赤くするが、私は「仕方ないですね」とわざとらしく呟いて解説を。
はは、獲物に立候補しやがった。わざわざ選ぶ手間が省けたよ、ありがとう!
この人、王の糾弾していた側のメインの一人っぽい。立場的にも、私が持つ情報的にも、手ごろな物件と見た。
じゃあ、道化君。暫し私と楽しい時間を過ごそうか?
「先ほどアルが『私達でさえこの国の者達がリリアン様をどう評価していたか耳にしているのですから』と口にしていたじゃないですか、聞いていなかったとでも? 『私達』ですよ、わ・た・し・た・ち! つまり、『異世界人』であり、『サロヴァーラの情報を全く持たない』私ですら知っている情報ということです。要は『この国に来てから耳にした』ということですよ。言い換えれば『この国の者にとって隠す情報ではない』」
それもどうかと思うが、実際に耳にしているのだ。アル達がそれに呆れていたし。
「そう受け取りますよね。その噂こそが『日頃のリリアン様の姿』では? 我々にこの情報をもたらしたのは『この国の者達』ですから、十分信頼できます。先ほど王もそう仰っていましたから」
そこにアルが加わって来る。私が民間人に該当する立場だからこそ、『公爵家の人間もその意見を支持する』という意味だろう。これで『民間人の戯言だから無効』なんて言えまい。ナイス・アシストだ、アル。
思わぬ連携プレーに周囲は呆気に取られ、男は逃げ道を潰されたことを悟ったらしく黙りこむ。ただし、未だ私を睨みつけてはいるが。
「以上、私達が『リリアン様が演技をしたとは思えない理由』でした! 普通は信じられませんが、先の謁見の間での一件で事実と確信できました。あ、それと『事実だからそんなことを口にしても咎められないんだ』とも納得しましたね」
「く……っ、事前に都合のいい情報を聞いていただけだろう! それを前提としていたから、そう思い込んだだけではないのか!?」
苦し紛れに男は叫ぶが、私はきょとん、とした顔をする。
「え、私は知りませんよ? この国の第二王女がアルにご執心、ということだけですね。だって」
そこで一端言葉を切って、蔑みを含んだ笑みを向けた。男の肩がびくり、と上がる。
「異世界人は民間人扱いじゃないですか。普通は他国の王族の醜聞なんて教えませんし、嘘を吹き込むこともありえません。私はこの国に来てから様々な人がそう話しているのを聞いたんです。それとも……イルフェナはそんな恥知らずな真似をして他国を貶める国、と言いたいんですか?」
「おや、これは報告せねばなるまいな。随分と勝手なことを申されているようですが、真実が貴方の都合のいいものとは限りませんぞ? この場で我が国を侮辱なさるとは……貴方の一族で責任を取りきれますかな?」
お覚悟なされよ、とレックバリ侯爵は笑みを浮かべた。だが、その目は全く笑っていない。
レックバリ侯爵が本気だと、男に味方をする『お仲間』は判断したらしく無言。この男を庇えば巻き添えを食らうことは明白なのだ。しかも家単位で報復すると明言までされた。
男は焦ったように周囲を見回すが、周りの貴族達は即座に視線を逸らす。
「何故、私だけがっ……他の者も口にしていただろう!」
「やれやれ、理解もできておりませんか。儂はな、『リリアン様を犯人に仕立て上げようとしたこと』を申し上げているのではありません。『イルフェナが政とは無関係の異世界人に対し、他国の王族を貶めるような嘘を教えていた』などと、『この場で発言したこと』に関してですぞ」
悲鳴のような声を上げる男に対し、レックバリ侯爵は冷静に説明する。ここ、謁見の間です。王の御前です。公の場で『イルフェナが他国の王族を貶めるような嘘を吹き込んでいた』はないだろう。イルフェナとしても否定しておく必要がある。
勿論、そのままを口にしたわけではないが……それと同じ意味のことを男は言ってしまっている。この場に居る全員が証人だ。
ここまで言われては反論もできず、漸く己が失言に気づいた男は顔を青褪めさせ黙り込んだ。
レックバリ侯爵の抗議は当然である。この男は証拠もなくイルフェナを侮辱した。だからこそ、イルフェナの代表者という立場のレックバリ侯爵が出てきたのに。
事前情報はある程度知っているのが普通。だが、私のような立場の者に全てが伝えられるわけがない。嘘を教え込むなんて大問題だ。
それこそ『異世界人を都合よく利用すること』になってしまうから。私が魔導師だからこそ、余計にそういった行為はアウトです。
この男の敗因は自分の常識が私という異世界人にも通じると思ったことである。それを事実として口にするなら、証拠を出すべきだ。
さて、横道に逸れたが本題に戻ろう。この男は撃沈したが、こいつはあくまでも『メインの一人』。本命、その他含めてまだまだ玩具はいるぞ〜う。そもそも、私の話はまだ途中だ。
「レックバリ侯爵。そろそろ、こちらの話題に戻ってもいいですか?」
「おお、横から口を出してすまんかったな」
「いえ、必要なことですもの。イルフェナの品性が疑われるならば、口を出さなければ駄目でしょう」
にこやかに笑い合って、さらっと本題へ戻る。だが、周囲の者達はもはや私達を警戒対象と認識したらしい。若干怯えの混じった目で私達を見ていた。
『言い訳すら許さず、責任を取るべき存在を明確にした』
彼らが恐れたのは、レックバリ侯爵が見せた手口である。この様子から察するに、イルフェナ勢は私達が出て来る直前までの遣り取りを黙って聞いていたに違いない。勿論、言質を取るために。
後ろ暗いことがある者達は己が発言を思い返し、戦々恐々としていることだろう。口出ししない=無関心ではないと、改めて思い知ったに違いない。
……。
楽しそうっすね、狸様。怒るべき場面なのは事実だけど、別の感情が透けて見えるような気がするのは気のせいでしょうか。まあ、いいけどさ。
気を取り直して、本題へ。
「話を戻しますね。とにかく、リリアン様が行動をするのは不自然なのですよ。彼女の手足となる者が少ない、ということも含めて。……それを踏まえて、私なりの考察を述べさせていただきます」
「うむ、申してみよ」
私が個人的感情のままにリリアンを疑っていないと知ったせいか、サロヴァーラ王は落ち着いた表情で許可を出す。
それを受けて一つ頷くと、私は一度イルフェナ勢に目を向け……皆が僅かに頷いたことを確認して話し出した。イルフェナ側の発言扱いですからね、これって。
「まず、初めから。私達を誘導して罠に嵌めたのは案内の侍女です。『貴女には姫様の視界に入って欲しくはないのです』と言っていましたが、これでは彼女が勝手をしたとも受け取れます。それは護衛の騎士の口からも聞けると思いますよ」
視線を騎士に向けると、皆の視線も騎士に向いた。唐突に話を振られて騎士は驚いたようだが、即座に姿勢を正して頷く。
「はい、事実にございます。お恥ずかしい話ですが、下に落とされた直後は私もリリアン様に疑惑の目を向けました。ですが、魔導師殿の指摘された事柄には確かに違和感を覚えたのです」
「それを裏付けるべく、私は彼と共に暫くその場に留まってみました。もしもリリアン様が行動されたならば、私達の確認に誰かを向かわせるはず。もっと言うならば、『自分に疑惑を向かわせないためには私達が生きていると拙い』。当然、死体も回収されますね。『姿を見せなければ証拠は何もない』のですから」
ここまでは宜しいですか? と軽く首を傾げて聞けば、サロヴァーラ王は頷いた。『放置はありえない』と納得できたらしい。
そこを丁寧に解説する男が一人。
「そうですね、放置したままならば自身の行ないが明らかになってしまいます。護衛の騎士が同行しているのですから、彼が共犯でない限りは脱出できますしね。『限られた者しか知られていない罠』ならば、『探索される前に手を打たないのは不自然』でしょう。隠そうともせず、疑惑を己に向かわせるなど」
「……っ」
誰かが息を飲む気配がした。いや、王を糾弾していた誰もが……というのが正しいか。
不自然と言われる根拠があるならば、当然それに反する意見にも理由が求められる。彼らはそれを用意していたのだろうか?
そんな彼らを気遣うことなく、最後まで手を抜かないのがアルジェントという男だった。
「逆に言えば……リリアン様を陥れるための策とも言えますね。この場合、ミヅキは今と同じく被害者ではありますが、『姫の恋路を邪魔する者』という扱いではなく、『イルフェナの客人を害した』という事実を作り出すために利用されたことになります」
にこやか・穏やかなアルジェントは本日も絶好調。顔面蒼白になる野郎どもには手加減など要らぬとばかりに、ザックザックと傷を広げている。
楽しそうに見えるのは気のせい。イルフェナ勢が揃って頷いているのは目の錯覚だろう。
……。
サロヴァーラの皆様よ、そういうことにしてくれ。私達にはこれが当然だが、世間的なこいつの評価が『素敵な騎士様』ってのも本当なのだから。
アルは私に視線を向けた。その意味を悟り頷くと、微笑んで最後の仕上げにかかる。
さて、とりあえずは一勝させてもらおうか。この程度では終わらないけどね?
「ふふ……ねえ、アル。先ほどサロヴァーラ王を糾弾していた皆様は『何を知っていた』のかしらね? 証拠もないまま王族を糾弾するなんて、ありえないと思うのだけど」
「ありえません。ただ……今の憶測が事実と考えると、彼ら自身の態度が十分証拠になりえますね」
「リリアン様のことで王に迫る割には、ミヅキのことは欠片も案じておらんかったからなぁ……説得力がある憶測じゃの」
『な!?』
実に興味深い、と言いつつレックバリ侯爵がさらりと暴露。それは事実らしく、誰からも否定の言葉は上がらなかった。そんな姿に、私は内心笑いが止まらない。
アホである。多少なりとも案じる言葉を口にしていれば否定できたのに……とは思うが、それほど第一王女の派閥的には盛り上がっていたのだろう。
王の退位なんて、そう簡単にできるものじゃない。目の前に巨大な餌(の幻)を見せつけられて、そのリスクに目を向けることを怠ったのが敗因だ。
揃って声を上げる男達を綺麗にスルーして、私達は会話を続けていく。
サロヴァーラ王からストップはかかっていない。つまり、王も興味があるということだ。
「ありえない糾弾、最も重要な『イルフェナの客人の安全』を無視した行動、そして……不敬罪に問われても仕方がない言い分の数々。まるで『罠に落ちたこと』だけは重要だと言っているようね? しかも『リリアン様の仕業だと周囲を誘導』して。私から見て、一番怪しいのって貴方達なんだけど?」
「おや、その根拠は?」
アルの言葉に護衛の騎士を指差す。
「その人ね、ずっと私の安全第一って態度を崩さなかったの。勿論、私がサロヴァーラに不信感を持つことも当然と思っているから、歩く時はずっと私の前。落ちた直後にしたことが、まず私への謝罪。あと、家の権力を使えるって言ってたから、それなりの家の人でしょ。身分的に民間人の私に対してその態度。誠実過ぎて、共犯者という線は消えたわね」
ええ、誠実過ぎて私の心にザクザクと突き刺さっていましたとも。カエル様にも言葉で転がされてたしな、この人。
騎士は驚いた顔をしているが、これは最初から予定のうちである。下で行動した全てが彼の評価対象であり、私なりの見極め期間だった。
騎士が罠を張った人物の手の者だったら。
サロヴァーラ王が私の死を望んでいたら。
騎士が黒幕の手の者であり、私を知るために監視しているとしたら。
はっきり言って疑惑は尽きなかった。状況的にどれもがありえそうなものだったのだから。
だが、その疑いをこの騎士は悉く壊していった。……否定じゃないよ、壊してたって言うんだ、あれは!
そんなわけで善良な騎士君には御褒美こと『サロヴァーラ王への疑い解除』が与えられることに決定。戻ってきた時もサロヴァーラ王が慌てたり苦い顔をしなかったので、捨て駒説も消えたと見て間違いないだろう。
そんな私の考えを察したのか、アルが笑顔で頷いた。
……ん? 何故、笑顔になる? 何か面白いことでもやったのかい?
「ああ! それでしたらこちらもサロヴァーラ王は疑えません。貴女のことを案じてくださいましたし、イルフェナからの正式な抗議にも納得してくださいましたから。本来ならば、一丸となってサロヴァーラへの疑いを晴らすべく言葉を重ねるべきでしょうに……何故か彼らはリリアン様や王への糾弾ばかりでしてね」
おかしいと思っていたのですよ、と言いながらアルは男達を見る。その目は全く笑ってはいなかった。『言い訳できるならばどうぞ』とでも言っているようだ。
――なるほど、サロヴァーラ王をこちら側に巻き込んだか。
さすが、実力者の国。イルフェナ勢もやるべきことはきっちりやらかしていた模様。
アルの言葉で重要なのは『サロヴァーラ王がイルフェナの言葉を受け、行動してくれた』ということ。
ぶっちゃけますと、サロヴァーラでの黒幕炙り出しが王の主導になりました。
これでサロヴァーラでの捜査も楽々ねっ♪
私達は他所様の国で好き勝手できないものね♪
最高権力者だから煩い貴族も撃沈可能! それは寧ろお手伝いしたい!
……。
おいおい……一国の王を手駒にしよったぞ、こいつら。
呆れながらも、『そういえば実力者の国って言われてたっけな』と思い出し納得する。誰も『正攻法で』とか言ってなかったね、そういえば。
勿論、アル達とて馬鹿正直に全てを話して協力を仰いだとかではないだろう。おそらくだが……私の誘拐に絡めてサロヴァーラ王の罪悪感と危機感をガンガン刺激し、丸め込んだと思われる。
『貴方自身が我々に親身になって動き、この国の正義を示されては?』
こんなことを言ってませんかねー、特にアルジェントさん。見た目は非常に真っ当な好青年に見えるだけに、こういった誘導は得意そう。
つーか、魔王様の一般的な評価の半分くらいはこいつらが作ってないか? どうも魔王様自身がこういった手を使う印象がないのだが……。
疑いを持てど、真実は闇の中である。多分、誰も教えてくれない。
まあ、それは置いておいて。
私がいない間、イルフェナ勢はかなり頑張ってくれたらしい。今後の行動が楽になったことは確実だ。
これにサロヴァーラ王が応じた、ということは『サロヴァーラ王黒幕説』が完全に消滅したと思ってもいいだろう。
自分主導にして証拠隠滅……ということも考えられるが、『イルフェナに誠意を示す』という状況だけに誤魔化しは利かないと理解できていると思う。
証拠提示を求められた時、イルフェナに疑われた方が怖いものね?
早い段階で『ごめんなさい』して、反省と努力を見せた方が許してくれる可能性も高いし。
そもそも、魔王様はサロヴァーラをどうこうすることは望んでいない。黒幕さえ撃破できればいいのだ。
「つまり、彼らが『私を罠に嵌めた可能性が高い』ってわけね! 自分達の望み……リリアン様の王位継承権の剥奪と王様の退位のために」
ぱちん! と手を合わせて「なるほど!」とばかりに笑顔になれば。
「そうですね。『疑惑のままリリアン様を犯人扱いした』のですから、私達が『彼らを疑惑のままそう認識』しても文句は言われないでしょう」
アルが笑顔のまま頷いた。レックバリ侯爵も頷いていたりする。
それを二人からの了承と取り、私は笑みを深めた。
……まずは挨拶代わりの一手。黒幕ではないと思う――小者だし、迂闊過ぎだもの――が、私達を利用しようとした報いは受けてもらわなければ。
「ところでさぁ、魔導師って『世界の災厄』と言われているのよね。勿論、私もやられたらやり返す性格をしているし……ああ、その情報は有名過ぎるから知ってますよね。『知らなかった』なんて言い訳は国の上層部に属する貴族である以上、恥ずかし過ぎるもの」
笑顔のまま、黙り込んでいる貴族達に向き直る。該当者達はじり、と後ろに下がったり、怯えたように私を凝視していた。
あら、失礼な。私は『仕掛けられない限り』、人様のテリトリーで暴れませんよ? 無差別攻撃も破壊もしていない、善良な魔導師です。
親猫様にお説教されちゃうもの……だから、これは『正当な報復』。
「私が報復するのは国ではなく、貴方達ってことでいいのかな?」
そのまま可愛らしく首を傾げて問うも、当然返事などなく。
『邪魔者』を一掃できそうな雰囲気に、益々笑みを深めたのだった。
大はしゃぎしているイルフェナ勢。
※魔導師九巻の詳細・朗読劇の追加キャスト情報が活動報告にございます。
※アリアンローズ公式サイト様にて9巻番外SSが公開中です。




