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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編

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小話集22

魔獣視点。こんな風に捉えていました。

そして、魔獣にさえ真面目さを心配される騎士。

レックバリ侯爵視点は主人公の行方不明が知れた後。

救いを見せつつ、じりじりいびり倒していたイルフェナ勢。

※魔導師九巻の詳細が活動報告にございます。

小話其の一 『ある獣の最期』


 ――ここへ来て、どれほどの時が経ったのだろう。


 そう思っても、遠い記憶はとても曖昧で。

 ただただ、内に抱え込まされた歪な力に成す術もなく翻弄されるだけだった。


『おい! 早く仕留めろ!』

『駄目だ、この程度の魔法では体が再生する……護衛はどうした!?』

『とっくに食い殺され……う……うわぁぁぁぁっ!』


 聞こえてくる声も我には何の意味もない。

 向けられる感情……恐怖、憎悪、あらゆる悪意さえ、我にとっては他人事の様に感じるだけだった。

 体は確かに我のもの。だが、それを動かすのは本能と『作られた狂気』。自我さえも時折浮上する程度だというのに、他者から向けられるものなど意味があるはずはない。


 いつしか、我の周囲から人の姿は消え失せ。

 それでも我の時間だけが続いていった。


 そんな中、無謀にもここを訪れる者から予想外の噂を聞いた。

 初めは……興味本位で地下を訪れた若者。そして、次は賊であったか。それらを食い殺し、命からがら逃げた者が口を滑らしたことが発端なのだと思う。


『城の地下には守護獣がいる』


『王族を守るために存在する銀の魔獣は決して懐かぬ』


 人は我を手に負えぬと判断したばかりでなく、都合よく利用することにしたらしい。つくづく逞しいことだ。

 我は『懐かぬ』わけでも『死なぬ』わけでもない。『歪んだ力により狂気に冒され、死ねなくされている』だけだというに。

 それでも我はただひたすらに、一箇所に留まり続けた。それはある理由からである。


 時折……我を案じるような感情と視線を感じたのだ。


 その姿も、種族も知ることはなかったが、それでも我にとっては救いである。

 そして、それを目にすることがなかったことは大きな幸運であった。

 もしも……もしも目にしてしまったら。我は即座に襲い掛かり、息の根を止めてしまうだろうから。

『殺す』という狂気に取りつかれた我にとって、目の前にある全ての命は『狩るべき存在』。

 それが本能からくるものならば押さえ込むことも可能だろうが、湧き上がる狂気は我にはどうにもならぬ。自我さえ危ういこの状況、一度目にすれば躊躇いもなく牙を剥くことは明白であった。


 ――ここから動いてはならぬ。


 狂気に支配されようとも、それだけは譲らなかった。酷く単純なれど、我にできる唯一の抗いであったから。『優しき生き物達』もそれを察してくれたのか、必要以上に近づくことはない。

 そして長い時が過ぎ。それでも我の体は朽ちることはなく、昔と変わらず動き回る。

 生ある者としては異様である。もはや、この身はどの群にも受け入れられることはないだろう。いや、それ以上に……今なお我が同族は存在しているのだろうか?

 疑問に思えど、知る術はない。時折、懐かしい過去を思い出しながらも、ただ時だけが過ぎていく。

 たやすく討てぬらしき我が身。ならば、この時間はまだまだ続いていくのだろう。

 救いは我が意識が曖昧であることだろうか。それでも、じりじりと絶望は溜まっていくに違いない。



 そのはず、だった。



 久しぶりに聞こえた足音、人の声。そして、その傍には時折感じていた『優しい生き物』の気配。

 これまで必要以上に近づいて来なかった気配が人を導いたのに驚くも、どうか来てくれるなと願うばかりであった。

 目にしなければ狩らずに済む。そう思えども我の意識は曖昧になり、我の体は狂気が支配した。

 ……だが。


『今を逃したら、次にいつ機会があるか判らない。君達の報告を受けてどこかに隠されてしまう可能性だってあるだろう。だから、頼むよ』

『……判ったよ、カエル様』


 身動きの取れぬ状態で耳にした声には、我に対する恐怖は欠片もなく。


『……さあ、眠ろうか』


 そんな声と共に響いた軽い音が鳴った直後――


 我の意識はどんどん鮮明になり。

 気がつけば、体の内に在った忌まわしい力は綺麗に消え失せていた。


 それと同時に体を疲労にも似た感覚が襲う。だが、我には判っていた……これは『正しい形に戻る』だけなのだと。

 我の命は本来ならばとうの昔に尽きていたはず。今までの状態こそ、自然の摂理に背いた紛い物だったのだから。

 死ぬのだと、ぼんやりと思った。漸く死ねるのだと……魔獣としての最期を迎えられるのだと。

 そのことが心から嬉しかった。偽りの時間など我は望まぬ。たとえ永遠の若さだろうとも、あの状態が『生きている』とは誰だって思うまい。

 

 我は魔獣に戻り、死ぬ。世界の流れに背き続けた命が正しき流れへと戻るのだ……!


 体を拘束していたものはいつしか綺麗に消え失せ、やがて我の頭を誰かが抱き締めた。

 優しく撫でる手に『我は愛玩動物ではないのだが』と呆れつつも、心地良さに目を細める。伝わってくる感情が慈しみにも似たものであることも理由だろう。

 恐れるのではなく、哀れむのでもなく。この『優しい存在』――魔力からして、この人物が我の解放者だろう――はただ我の解放を喜んでくれていた。

 その時、我の視界に映り込んだ青みがかった緑色。


 その姿に、この『優しい存在』がここへと足を運んだ理由を悟った。

『優しい生き物』が我のために、わざわざ連れて来てくれたのだと。


 向けられる感情、そして感じ取れる魔力には覚えがあった。それこそ、我が少ない正気を保ち続けた理由。

 この個体だけではなく、多くの者達が我を見守ってくれていた。我は彼らを守りたかったのだ。

 ぱたり、ぱたりと。ゆっくりと尻尾が揺れる。少しでもこの気持ちが、感謝が伝われば良いと思うのに、体はもう殆ど動かない。

 せめてと、力を振り絞って親愛を示せば……『優しい生き物』も同じように返してくれた。伝わったことが酷く嬉しい。

 襲い来る眠気に抗いつつ、もう一人にも感謝を示す。そこで初めて我はその『優しい存在』の顔を間近に見た。


 その目は暖かな焦げ茶。遠い昔に我が駆け回り、また寝転んだ大地の色。

 そしてもう一つの優しい生き物は青みがかった緑。


 水に映り込む豊かな緑、そして陽の光を受けてきらきら光る水面を見るのが好きだったと、不意に思い出す。

 微かに聞こえる水音も懐かしい記憶を思い起こさせる要因だったろう。これまではそこまで鮮明に思い出せなかった……懐かしく、また焦がれたものはここに存在しなかったから。

 だが、今ならばはっきりと思い出せる。焦がれた色を持つ者達が思い出す切っ掛けを与えてくれた。


 懐かしい記憶に埋もれ、優しい感情を向けられて。

 我は……とても幸せな最期を迎える。否、『還る』のだ……!


 ああ、長い時間の果てにこのような瞬間が訪れるなど思いもしなかった。

 僅かに残っていた元凶達への憎悪も、この安らぎの前に消え去っていく。彼らもすでにこの世にはいないだろう……我だけが憎み続けるというのも滑稽である。

 だから、少し離れた場所から見守る者よ。気に病んでくれるな、この国に生まれただけのお前には何の非もあるまい。

 我が許し、忘れるのだ。お前達とて過去の傷を悔やみ、それを糧として今があるのだろう……?

 

『ありがとね』


 聞こえてきた声に応えるように鳴き、目を閉じる。酷く眠いのだ、この心地良さのまま眠りにつきたかった。

 待ち望んだ果てに迎えた永い眠り。きっと、良い夢が見られるだろう。

 再び外に出ることは叶わなかったが、こんな最期も悪くない。


 ――共に外の世界に行けないことを、ほんの少し残念に思うがな。


※※※※※※※※※


小話其の二 『はしゃぐ者達』(レックバリ侯爵視点)


 ミヅキが行方不明になってからの儂らの行動は早かった。役割りを決めていたわけではないが、望む結果は初めから決まっておったからな。

 それはまず今来たばかりの道を戻り、王への直訴という行動に表れた。


「一体、どういうことでしょう? ご説明願えませんでしょうか」


 再び部屋を訪れるなり静かな口調で話すアルジェントは、いつもの笑みを消している。対するサロヴァーラ王は少々礼を失した我々の訪問に当初こそ怪訝そうな顔をしていたが、そうしなければならなかった事情を聞くうちに顔色を失っていった。

 まあ、当然であろうな。イルフェナの理解を得られたと思った直後に、この騒動。王女達に関する裏事情をこちらに知られている――王自身が認めているので、情報としては十分価値がある――というのに、国家間の関係に皹が入るとは。

 そんなサロヴァーラ王の様子に、儂はひっそり溜息を吐く。


 同情しなくもないのだ、王には。儂らの本音はこの茶番とは真逆なのだから。


 王女達のことはこの国の問題であり、我々が口を挟むべきではなかろう。第二王女の愚かさが意図されたものだろうとも、イルフェナには関係ないのだから。だが、少しばかり状況が悪過ぎるのだ。

 ミヅキに何らかの危害を加える可能性のある人物。その筆頭として挙げられるのは第二王女。

 これは彼女がアルジェントを想っているということもあるのじゃが、先ほどの謁見の間での出来事が周囲に多大なる影響を与えることは想像にかたくない。


 王に恥をかかせるような、礼儀のなっていない第二王女。

 魔導師を敵視している、自分勝手な愚かな娘。


 証拠の有る無しではなく、周囲は第二王女をまず疑うじゃろうな。そうされても仕方がない姿を見せてしまっているのだから。

 ただ、と内心疑問を抱く。

 第二王女はミヅキが『イルフェナからの客人として扱われていることを理解した』。謁見の間の一件で、それは十分思い知ったであろう。そこには『ミヅキを害すれば王の顔に泥を塗ることになる』という認識も含まれる。


 ――あの王女に全ての罪を被るだけの気概があるのか?


 こう思うのは儂だけではあるまい。素直というか、叱られて涙目になるような小娘にそれだけの覚悟があったとは到底思えんからの。

 王が第二王女をそれほど警戒していなかったのも、そういった面を知っているからじゃろう。一度状況を理解させれば、本当に危険なものには近寄らない。 

 良くも悪くも『力不足』。ゆえに、儂らも第二王女の指示だとは思えなんだ。

 これはサロヴァーラ王も同じ気持ちであったじゃろうて。顔色を失っているのは『それを利用できる状況であり、更にはやりかねない者達がいるから』。そういう者が存在すると、儂らに気づかれたくはなかった。

 サロヴァーラ王としては、イルフェナに内部の脆さなど知られたくはあるまい。しかも、問題はもう一つあった。


「私はリリアン様がミヅキに手を出したとは思えません。失礼ですが、そのような度胸も味方もないでしょう。ですから、サロヴァーラ内部の者がリリアン様、そして貴方様を不利な状況に陥れるために利用したと考えています」

「う、うむ……否定はできん」

「で? その場合は犯人を見つけ出し、きっちり処罰していただけるのでしょうか? ミヅキは弱くも愚かでもありませんし、敵と認識すれば容赦しない。……『世界の災厄』の名は伊達ではありません。キヴェラが敗北したことがその証」


 ……。

 もう一つの問題は今、目の前で繰り広げられていることじゃった。いや、正確にはノリノリで演技しつつも追及の手を緩めないアルジェントが問題と言うか。

 見た目は美青年、けれど内面は歪んだまま成長した挙句に修正不可能な域に達している残念な生き物なのだ。そんな現実を知る者は極僅か。

 それを平然と受け入れる人間は稀であろう。友人だろうと、血縁だろうと、目的のためには駒として使うのだから怖過ぎる。親族達が『ミヅキを逃したら次はない』と言い切るだけの理由があるのじゃからなぁ……これには同情するばかり。

 そんな問題児は、その特性を清々しいまでに発揮しておった。


 楽しそうじゃな……アルジェント。相手は一国の王なのだがなぁ?


 何を呑気な! と言われるかもしれんが、こんなことを平然とできるアルジェントもどうかと思う。人間嫌いが特化された挙句、最近ではミヅキの影響まで出てきたような気がするのじゃが……その自覚があるかのう?

 現に今も『イルフェナの人間として』一応の礼節を保ちつつも、『ミヅキの婚約者――守護役と言ってはいけない――として』の姿を大いに見せ付けておった。


 これを見た者は即座に思うじゃろう。『アルジェント個人』が動く可能性もある、と。


 たかが公爵家の三男などと侮れないのは、魔導師と守護役達の噂が事実と思われているからである。

『守護役達は魔導師を溺愛している』……『守護役【達】』なのだ、個人ではなく複数形! つまり、他の守護役達も動く可能性が非常に大きいと相手に思わせる手口なのだ。

 しかも、アルジェント本人はそんなことを口にしておらん。周囲が勝手にそう思うだけ、という逃げ道の確保もされておった。

 ミヅキの守護役達は冗談抜きに大物揃い。加えて個人的な交友関係を含むと、『異世界人だろうとも民間人』などとは間違っても言えん。

 そこに魔導師本人が報復に加わるとするならば……怖過ぎだろうが、どう考えても! そして当然、アルジェントの狙いはそれだけではあるまい。


 ミヅキの行方不明を起点として、被害国の代表達をサロヴァーラに介入させる。


 これがアルジェントの真の狙いであろう。介入理由を誘拐事件ではなくミヅキに摩り替えるあたり、アルジェント自身はミヅキを案じてはいない――いや、『その必要がない』と確信していると見て間違いはない。

 エルシュオン殿下に対しても言えることじゃが、呆れるほど強固な信頼関係が築かれているようであった。打ち合わせなどしていないだろうに、互いにやるべきことを理解している。

 ……まあ、儂もあの娘が『大人しく誘拐された』は無理があると思うのじゃがな。サロヴァーラはミヅキの現実を知らぬゆえ、たやすく騙されるしかないのだろう。

 もう一度、溜息を吐く。ここでサロヴァーラ王だけをいびっておっても意味はなかろう。ならば最後の一押しを儂が担い、正式に抗議の場を得ようではないか。


「王よ。此度のこと、すでにイルフェナには報告させてもらっておる」

「……っ」


 嘘じゃがな。

 なに、儂のこれまでを知るイルフェナの者達ならば許してくれるだろう。報告が必須というのも事実ゆえ、抗議の後か先かの違いである。

 一つ理由をつけるなら……サロヴァーラに貸しを作るため、といったところか。

 イルフェナの決定により、儂らの報告を『なかったことにする』ことも可能である。そうなれば、他国の守護役達は動けん。最小限に事を収めることができよう。

 手持ちのカードは多い方がよい。まずは一つ、としておこうか。

 ただ、サロヴァーラ王にとって『報告』という言葉は十分な効果があったようじゃの。ふむ、これならばもう少し踏み込むことも可能か。


「実はなぁ……儂が此度の訪問に選ばれたのは『ある出来事』が関係しておる」

「ある出来事……?」

「性質の悪い誘拐事件がありましてな。ミヅキは魔導師といえども異世界人であり、この世界のことを未だよく知らんのですよ。そこで儂が抜擢されましてなぁ」


 ある意味では嘘ではない。ただ、問題児達がはしゃぎ過ぎるのを抑えよ、という気持ちはあったかもしれんがの。

 儂の言葉に、サロヴァーラ王は益々顔色を悪くしていく。そんな状況だというのに、起こってしまったミヅキの行方不明事件。これで『事を内々に』などとは言えまい。


「ご安心なさいませ。イルフェナはそこまで狭量ではありませぬ」

「で、では……っ」

「現時点において、他国まで巻き込む気はないという程度ですがの」


 他国の介入は最後の手段にとっておかねばな。ミヅキが暴れる可能性とてあるのだ、こちらも痛いところを突かれては敵わん。

 ちらりと視線をアルジェントに向け、『今は抑えよ』と促す。アルジェントは一瞬不満そうにするも、儂の意向を察したのか瞬きすることで了承を示した。さて、サロヴァーラ王にも建前だけはしっかり伝えねば。


「アルジェント」

「……。判っております」


 言葉少なに、けれど頷くことでサロヴァーラ王にも了承の意を伝える。それを目にした王の顔に安堵が滲んだ。とりあえず守護役達が総出で敵になることは免れた、と察したらしい。


 ……アルジェント。お前、顔を悔しげに歪めたり、拳をきつく握ったりと芸が細かいの。


 呆れた目を向ければ、『御容赦ください』と念話にて返事が来る。どうやら、これも計算された演出らしい。

 最後の手段とはいえ、アルジェントは他国の介入を諦めてはいないのだろう。実に容赦がない。


「もはや貴方一人が謝罪すればいいというものではない。個人的なことを言うならば、貴方様を疑ってはおりませぬ。ですが、筋を通していただきたく思いますぞ」


 公にしろと……犯人を突き止めよと告げれば、サロヴァーラ王は少々怪訝そうな顔になって儂を見た。


「ふむ、意外ですかな?」

「あ、ああ。まるで私の味方をしているように聞こえるが」


 それも事実ですからな。もっとも、国家間の不仲を望まぬのは儂ではない。儂は……不器用な教え子が可愛いだけなのですよ。


「仕方がございません。エルシュオン殿下は我が国がサロヴァーラと揉めることを望みませんからな」

「エルシュオン殿下!? あ、いや、その……っ」

「ふふ、意外に思うのも無理はないでしょうな。ですがなぁ、殿下は我が国のために尽くしてこられた。それは決して他国を踏み躙ってというわけではないのですよ。儂はそれを知っておる。ミヅキもまた同じ選択をするでしょう」


 慌てるサロヴァーラ王に『エルシュオン殿下が望むから』と明確な理由を告げておく。それが事実であり、今後ミヅキが暴れた際に事を収める最強の言葉となってくれることを匂わせて。

 ふふ……サロヴァーラ王も気づいたようじゃな。驚愕を露にしていた表情を一変し、真意を探るような目を向けておる。


「……魔導師殿はエルシュオン殿下のために報復を行なわないと?」

「当然です。アルジェントも同様でしょうな」


 サロヴァーラ王の言葉に深く頷きつつ、アルジェントを促す。すると、アルジェントは不満げながら――振りじゃろうな、間違いなく――しっかりと頷いた。

 サロヴァーラ王の目に力が戻る。これでサロヴァーラは犯人を死に物狂いで探してくれることじゃろう。


「判った。そなた達の言葉を正式な抗議として受け止め、犯人を突き止めてみせよう」

「期待しておりますぞ。ああ、抗議は形にした方が良いでしょう……謁見の間で皆様にも聞いていただきませんと」


 満足げに頷きつつも、儂はミヅキへの期待を止められない。儂とてミヅキがただ誘拐されたなどとは思っておらん。しかも、それが必要だというならば……やるべきことは一つなのだ。

 ああ、老いたこの身に湧き上がる高揚感。誰かとの共闘はなんと心躍るものであることか!


 さあ、舞台は整った。どんな『遊び』を始めてくれるのか期待しておるぞ、ミヅキ。

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