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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編

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204/705

サロヴァーラについての考察

 とりあえず、サロヴァーラ行きが決定となった。私の予想が当たっても、それ以外の結果でも、何らかの進展があると思われる。向こうとの調整もあるので、出発は数日後だそうな。

 イルフェナが狙われる可能性もあるので、魔王様達はこちらばかりに気を取られるわけにもいかない。基本的にはイルフェナを頼らない、という方向になるだろう。


 自己防衛は必須なのです、今のうちに必要な情報を集めるのは当然よねっ!


 と、言っても私は最低限の情報しか聞く気がない。勿論、理由がある。

 これはアル以外の同行者が判明しているせいでもあったりする。サポートどころか、大本命ではなかろうか? という人選がされていたのだよ。

 その人選を聞いた時、騎士寮面子が嫌な感じに笑みを浮かべた……といえば状況が薄っすら判るだろう。狂信的な愛国者どもが喜んだのだから。

 ふふ……イルフェナは予想以上にブチ切れてらっしゃったようです。それに加えて私がいるしな。これも黒幕には予想外のことだろう。

 疑惑という段階でこの対応。今回ばかりはイルフェナも本気らしい……大丈夫か、サロヴァーラ。

 

 当たり前だが、私個人とイルフェナという国の対応は『別物』ですよ。

 だって、イルフェナが言い出したわけじゃないからね?


 サロヴァーラが『アルのついでに連れて来てくれ』と頼んだのです。そして魔王様はそれを受け、私に話を持ってきた。

 イルフェナ的にはあくまでも『サロヴァーラって国がアルの婚約者として呼びたがってるんだよね。一緒に行ってくれる?』という、『サロヴァーラ行きに限定したお願い』なのである。

 所詮は同じ、と思う人は甘い。

 イルフェナとしては『魔導師をサロヴァーラに向かわせる』ということに関しては責任がある――王族同士の遣り取りですからね――だろうが、それ以外のことに関しては関知しない。

 つまり、私の行動に責任を持つ必要がないのだ。私の言動が外交に影響しないという点、これは結構大きい。

 勿論、最低限の礼儀を弁えることは当然なのだが、そもそも私は異世界人。そして民間人なので、本来は礼儀作法なんて必要ないものです。その場限定の付け焼刃だ。

 きっちりしろ、というのが無理な話なのだよ。唐突に無理を言ってきたのは向こうなんだから。

 そこらへんはサロヴァーラ王も心得ているだろう。ゆえに問題になるのは第二王女が何かやらかした場合である。 

 ただでさえ、私が気に食わない第二王女が何もしないと思うか? 私はやられたら報復の一択だぞ?


 ……その予想が現実になった場合、どんな展開になる?


 イルフェナに私の同行をお願いしたのはサロヴァーラの方なのだ……自分で招いた挙句に攻撃ですよ。しかも相手は魔導師、報復されても文句は言えん。

 第二王女がいくら『無礼者!』と喚いたところで、仕掛けてきたのは王女様。私は被害者であり、『王に招かれた客人に個人的感情から無礼を働いた』のは第二王女。誰が見ても第二王女が悪い。

 イルフェナに依頼した手前、そんな事態になったら謝罪するのはサロヴァーラ王ですがな。

 おまけに私にはキヴェラを敗北させたという実績があるので、権力というものが通じない上に実力行使可能だと知れている。

 個人的な人脈も含め、敵認定されることを避ける方を選ぶのが賢明です。何をされるか判ったものじゃない。

 こういった様々な裏事情から、今回は私が報復してもイルフェナが責任を負うことはないわけだ。自分から手を出さなければ後はやりたい放題が可能という、楽な状況です。

 仕掛けてくれれば、結果的に私達の勝利が確定。とても楽しい目に遭わせてあげようじゃないか、遠慮すんな?

 ただ、『サロヴァーラ王はこういった展開を望んでいるんじゃないか?』と思う部分もある。私でもこの展開はたやすく予想できるのだから。

 親として、王として、そのくらいは理解しているのなら、わざわざ自国に不利になる招待なんてするわけがない。

 そんなわけで、前回の話し合いの時にも思った『外堀を埋める』流れ。あれから、もう少し踏み込んで考えてみたのです。


 ――『今回のことを決定打にするには、どうしたらいいか?』と。


 第二王女がどんな性格かは知らないが、今回みたいな事態を招いているなら大人しくはないだろう。そして……あまり賢くないんじゃないかなー? とも思う。

 感情的な言動って王族にとっては致命的だもの。『深く反省させる出来事』が必要と考えても不思議はない。

 そういった意味で、私という存在は非常に都合がいいだろう。ドンパチやっても『個人的なこと』で済む――外交による報復がない――上に、王が『当事者に限定して報復を許し、事を収める』ならばサロヴァーラの被害は第二王女と協力者だけ。

 私は基本的に魔王様には従順と知られているので、ヤバくなったら『魔王様にお願い!』という手を使って大人しくさせることも可能。

 ぶっちゃけ、第二王女とその協力者に『お前達の言動が国にとってどれほど拙かったか』を理解させるためのイベントのような気がするのです。致命的な失敗をすれば少しは目も覚めるだろう、と。

 もしかしたら、王同士では話がついているのかもしれない。魔王様もそういったことは必要がない限り私に教えないし、知らないのが普通。私は部外者です。

 ……それが普通な状況なのに、『ヒントをあげるから自力で辿り着け』と言うのも魔王様なのだが。

 間違いなく私の教育方針の参考にしたのは、これまでの自分だろう。できる王子様は飼い猫にも努力と結果を求めるらしい。ええ、『狩り』は上手になりましたとも。

 そしてアルにとっては魔王様が王族の基準である。つまり、王族を見る目は大変シビアなのだ。


 王族の権力って自分の我侭のために使うものじゃないぞ?


 アルを自分の物にできなかった時点で気づけよ、自国内でも万能じゃないだろう?


 っていうか、幼い頃から魔王様の傍で苦労を見てきたアルにとって、それは嫌悪する対象なんですけどね……!


 前回のことといい、今回のことといい、順調にアルに嫌われていっているのだが、何故気づかん。

 今回とて、イルフェナ勢は『誰も』アルが王女を選ぶ――権力に屈する、という意味でも――とは思ってないじゃないか。

 それに……第二王女のアルの認識が『素敵な騎士様』ということは、アルは一度も本音を見せなかったんじゃないの? その時点で個人として認識されているかすら怪しい。

 哀れなり、サロヴァーラの第二王女。貴女の認識はきっと『サロヴァーラの王族』というだけだ。

 しかも肩書き的な意味なので、個人評価は更に酷い『怒らせても別に怖くない。っていうか、奴は何もできない』という程度だと思う。

 とりあえず、同行者には私の推測を伝えておきましょうかね−?

 

 ※※※※※※※※※


 そんなわけで。

 サロヴァーラへ一緒に行くアルを伴い、ある人物と打ち合わせです。


「……こんな感じで予想を立ててみたんですけどね」

「お前さん、相変わらず発想が民間人ではないのぉ……」


 感心しているような、呆れているような、微妙な表情をしているのはレックバリ侯爵。今回は狸様こと、レックバリ侯爵が責任者なのだったり。


 この時点で、アホ猫の出番はないと思うんだ。

 私は本っ当〜に『恋敵(笑)』として、お呼ばれしたらしい。

 

 ただし、建前的な意味ではレックバリ侯爵がメイン。保護者よろしく私とアルを連れて行くわけです。

 とはいっても、イルフェナ側にも『黒幕を探る』という思惑がある。私の役割は『状況を動かす起爆剤』ってところかね。

 勿論、他にも同行者はいる。状況が状況なので、護衛として騎士寮面子が何名か。クラウスは魔王様の傍に残り、状況に応じて私達のサポートです。

 サロヴァーラはこちらほど異世界人に寛容ではないらしいので、身分的にも能力的にも安心できる人選となった模様。向こうに『最悪の剣が護衛!?』と疑われても、『魔導師がいるから』という理由で通すことになっている。

 魔導師という理由は十分納得できるものであるし、こちらとしても黒幕の可能性があるサロヴァーラに赴く以上は警戒し過ぎることはない。困ったことが起きても速攻で対処できない上に、今回ばかりは周りが全部敵なのだから。

 敵と言い切ってしまうのもどうかと思うが、誘拐事件の黒幕がサロヴァーラという『国』だった場合は間違った表現ではない。その可能性も十分ありな状況だもの。

 未だ確実な証拠はないのだ……疑ってかかるのが正解だろう。


「儂も基本的にはミヅキと同じ意見じゃな……現時点では、そうとしか言いようがあるまい」

「あ、やっぱり?」

「うむ。特に親しい国というわけでもないからの」


 暫し考えるように目を閉じたレックバリ侯爵は、目を開けると小さく溜息を吐いた。だが、その言葉と態度には僅かに苛立ちが透けている。

 レックバリ侯爵としても今回の事件を苦々しく思っているのだろう。仮定だろうとも、イルフェナを貶めることが目的かもしれない……なんて聞いて、イルフェナの上層部に属する者が黙っていられるはずはない。

 証拠でもあれば行動できるのだが、今回は証拠ゼロ。誘拐事件を解決しているとはいえ、常に後手に回っているのが現状だ。

 騎士連中でさえそんな状態、当然外交方面で活躍する皆様の見せ場などない――被害国同士の不可侵条約もあっさり纏まったらしい――わけでして。

 ストレス溜まりまくりってわけですね、レックバリ侯爵。もしや、今回の同行者って参加枠の奪い合いになったりしましたか?

 そんなことを考えていた私は、先ほどの話で気づいたことを尋ねてみることにした。


「さっき、サロヴァーラとイルフェナが親しい付き合いをしていないって言いましたよね? じゃあ、なんで第二王女はアルを知ってたんです?」


 これ、不思議に思ったのだ。魔王様は第二王子とはいえ、威圧がある。異端を排除する傾向にある国に外交なんて、わざわざ赴くだろうか? 第一印象からマイナスな気が。

 そう聞けば、レックバリ侯爵は怪訝そうになり……理由に思い至ったのか、納得した顔になった。アルも今気がついたと言わんばかりの表情だ。


「む? ……そう言えば、お前さんは知らないのが当然か。殿下達にすっかり馴染んでおるから、忘れておった。サロヴァーラの第一王女は殿下の兄上……イルフェナの王太子の婚約者候補に挙げられたことがあるのじゃよ。まあ、名が出ただけじゃが」

「へ!? 第一王女、が!?」


 思わぬ事実に声を上げる。声を上げた理由を察した二人が生温かい視線を向けてくるが、私の反応は普通だと思う。

 いや、第二王女がかなりアレな感じだしさ? その姉ってことは、もしや……。


「ミヅキが思っているようなことはありませんよ。第一王女は優秀な方なのです」


 嫌な方向に想像力を働かせ始めた私を察し、アルが即座に訂正を入れた。レックバリ侯爵に視線を向けると「事実じゃよ」とばかりに頷く。

 ……第一王女はまともらしい。レックバリ侯爵が頷いているのだ、そこは信頼してもいいだろう。

 そう、アルの言葉を信頼……。

 ……。


「あの、アルジェントさん? 今、さりげに『第一王女は』って言ったよね? 『は』ってなんだ、『は』って!」

「おっと……。申し訳ありません、聞き流してください」


 指摘すれば、誤魔化す気満々のアルが「内緒ですよ」とばかりに人差し指を唇に当てる。レックバリ侯爵も視線を泳がせていた。否定も肯定もできず、困ったらしい。

 確かに直球で『第二王女は馬鹿なんです』とは言えんわな。身分があるって大変ね。


「ま、まあ、この場でだけなら問題ないじゃろ」

「そうですとも。本番でバレなければよいのですから」


 ……アルは第二王女の評価を改める気はない模様。

 建前的には素敵な騎士様、アルジェント。どうやらその仮面が剥がれかかるほど、嫌な思いをしたらしい。

 私は一つ息を吐き、話題を変えることにする。……ひっそり『第二王女の囮に使えるな』とか思っていたのだが、止めた方が良さそうだ。この様子だと事態の悪化を招く恐れがあるもの。


「で、その時にアルを見かけたと」

「うむ。当時は殿下が公務の傍ら、さり気なく候補の女性達に接触しておってな。ま、要は見極めじゃよ。自国では問題なくとも、イルフェナでやっていけるかどうかは別問題じゃからなぁ」


 思い出すように語るレックバリ侯爵。そこにフォローするようにアルが混ざる。


「辛い思いをさせないためにも必要なのですよ。この国の王族に加われば、それなりの実力を求められますからね」

「ああ……この国は立場にあった能力が必須だものね」

「ええ。とはいっても、サロヴァーラの第一王女がイルフェナに来る可能性は皆無でした。サロヴァーラは王女が二人だけですから、跡取りという意味でもサロヴァーラは第一王女を手放さなかったでしょう。王子がいれば、また違ったのかもしれませんが」


 サロヴァーラは女性にも継承権が有るようだ。だが、やはり男性の方が継承権は上らしい。

 ……『女性が王位に就く場合は周囲を黙らせる能力が必要』ということだろうなぁ、これ。

 足場固めを兼ねて、納得できるだけの才覚を見せなきゃならんのかい。確かに、それを成し遂げれば周りから文句は出ないだろうが。

 第一王女はこれを成し遂げてしまった模様。正真正銘、才女です。

 そんな状況にある第一王女が他国に嫁ぐはずはない。アルが『手放さない』と言っていることからも、期待されている王女なのだろう。

 どうやら、『イルフェナの王家に馴染めそうな女性』というカテゴリーには入っていたけど、状況的にその可能性はなかったらしい。

 次の王妃になる以上、それに加えて認識の違いも考慮されるという点もあるだろうけどね。イルフェナからすれば、これは結構重要ですな。

 どうしても国同士の繋がりを作りたいというわけでもないみたいだし、本当に名前が出ただけだったようだ。第二王女の方が優秀ならば可能性があったかもしれないが、第二王女が姉より優秀ということはない気がする。

 ……皆の話を聞く限り、この認識だけは間違っていないと思う。そう見えるように装っている、という可能性もゼロではないけどさ。

 

「第一王女も今は婚約者を得たはずじゃ。まあ、我が国とのことは『名が挙がった程度』と言ったところかの」

「確か、サロヴァーラの方ですよね。サロヴァーラ王が選んだとは思いますが」

「うむ。まあ、妥当なところじゃろ」


 レックバリ侯爵は特に残念そうにも見えなかった。本心から『どうでもいい』と思っているらしい。

 うーん……第一王女は本当に『良い子』みたい。『優秀で、我侭も言わず、王の意思に添って人生を決める』という意味での『良い子』だが。

 本人を知らないからなぁ、私。一応、警戒対象には入れとくか。


「じゃあ、第一王女も警戒対象ってことでいいですね。後は直接自分で見ての判断かな」

「おや、儂らの個人的な見解は要らんかね?」


 話を終わらせる方向にした私に、レックバリ侯爵が意外そうな声を挙げる。これはアルも同様で、「おや」と小さく呟いていた。

 そんな二人に対し、私は肩を竦めて理由を説明。


「先入観なしで見る人間も必要かなって。サロヴァーラに対して最低限の知識で見た方が気づくこともあると思います。特に今回は黒幕が判りませんから」

「なるほど! 我々はこれまでの経験や知識に基づいた目で、ミヅキはそれらがない状態で見る。その二つを擦り合わせれば、見落としたり気づかなかったことも見えてくるやもしれませんね」


 ぽん、とアルが手を叩いて納得する。それに頷くと、レックバリ侯爵も面白そうな表情で何度も頷いていた。

 これは『立場』というものも含まれる。貴族にとって当たり前のことも、私から見れば不自然に映るかもしれないもの。

 重箱の隅をつつく勢いで不審な点を探していけば、一つくらいは黒幕の痕跡が見つかるんじゃないかな〜……と期待しているのだ。

 私がサロヴァーラを訪れることができる唯一の機会かもしれないじゃないか。黒幕が次の手を打つ前に徹底的にやっておきたい。


「ほほう、共同作業というわけか。確かに、思い込みは視野を狭めるのう……久々に楽しめそうじゃな」


 口元を綻ばせるレックバリ侯爵は実に楽しげだ。その表情はいつもと比べて随分と若々しく見える。

 それに気づいて苦笑するアルを視界の端に収め、私は生温かい視線をレックバリ侯爵に向けた。


 狸様……なんですか、その楽しそうな表情は。これ、一応はお仕事なのですが。

 もしや、『魔導師と共同作業、超楽しそう♪』とか思ってません!?

少々物騒な遠足(仮)にわくわくしている主人公達。

※魔導師八巻の予約が始まりました。


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