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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ゼブレスト編
20/699

番外・事件の後に

前回の後編というか後日談。宰相視点の話。

魔王様は裏で地味に活躍中。

「何故……何故なのです!? 娘が反逆者などとっ……!」


 必死に娘の無実を訴える男は確か下級貴族だったか。

 だが、その程度の身分など処罰を覆す要因になりはしない。

 何故なら……娘が裏切り貶めたのは我がゼブレストの王なのだから。


「貴様の言い分などどうでもいいことだ。証拠なら見せただろう」


 手元にある魔道具に視線をやる。

 イルフェナで開発されたという、音を残しておくものだ。

 仕掛けられていた場所は新たに迎えた側室であるミヅキの部屋。

 再生される音は実に不快なものだった。


『ミヅキ様の歓迎会を兼ねて茶会を催すので是非参加して欲しいと我が主より賜わって参りました』

『あら、それは一体いつなのかしら?』

『本日です』

『……そう』


 他にもあるが今はこれだけで十分だった。


「お前の娘は侍女と言う立場にありながら随分好き勝手をしてきたな? しかも『我が主』とは誰のことだ?」

「それはっ……」

「イザベラに飼い慣らされる余り本来の飼い主を忘れるとは畜生以下だな」


 男は答えない、答えられるはずも無い。

 この言葉こそ娘が愚かな証ではないか。


「ミヅキ様は即座にお気づきになられ不快を示されておいででした」

「だろうな。誰が王以外を主と呼ぶ間者に隙など見せるものか」

「ええ。それに御自分に向けられた嫌がらせなど気にも留めず断罪しておいででした」


 我ら騎士の出番などありませんでしたよ――そう告げる男の表情は明るい。

 役目を奪われたこと以上に彼女が王の味方だったことが嬉しいのだろう。


 ミヅキ。イルフェナの『天才』が妹のように可愛いと告げる異世界の魔導師。

 いくら実力があろうとも唯一人だけ送り込むなど正気とは思えなかった。

 可愛いなら尚更に他の者も付けるべきだと進言した自分にあの王子は笑みさえ浮かべて断言したのだ。


『必要ない。あの子なら大丈夫だ』


 そう言われても素直に頷ける筈は無い。彼女の死がそのままイルフェナとの国交断絶に繋がる可能性とてあるのだ、冗談ではない。

 妥協案として将軍位にあるセイルをつけることにしたのだ。

 セイル自身の実力とクレストの名があれば下手な真似は出来ぬだろうと。


 だが、予想は覆された。ミヅキにはそのどちらも不要だったのである。


 苛められて泣くような真似はしないだろうと思っていたが、それ以上に証拠も理由もなく魔術による皆殺しを狙っているわけでもない。

 正論を叩きつける上での断罪、その怪我は恐怖を煽るだけのものであって命に別状は無い。

 彼女は己が立場を利用し優位に立った上で結果と権利を王に差し出したのである。

『貴方にお任せします』という言葉はトドメを刺せ、手柄を立てろと言い換えられる。

 こちらとて証拠を揃えてあるのだから負けはしない。

 だが、あの魔導師の功績があるならそれ以上の結果を出せるのだ。


 そして策を仕掛けたのはミヅキだけではない。


 側室には厄介な者も何人か居るが、今回は徹底的にミヅキの情報を制限していた。

 伝わっていたのは精々『イルフェナより新しい側室が来る』程度。


 イルフェナの後見があると知っていたら茶会に出席しなかっただろう。


 ミヅキが魔導師だと知っていたら茶会に出席しなかっただろう。


 そしてミヅキの背後にあのイルフェナの天才が控えているならば間違っても敵にはなるまい。


『ささやかだけど協力してあげるよ』そう言って情報の制限を徹底させたあの王子の思惑通りになったわけだ。

 策に嵌った連中は見事イルフェナの後見を受ける者を侮辱し、国家間の問題にまで発展した。

 それ故に中々尻尾を掴ませない連中も攻撃に回らなければならなくなった。

 後が無いのだ、いつものように誰かの陰に隠れたままというわけにもいくまい。

 唯一の望みはミヅキを敗北させ価値を認めさせることなのだから!


『如何でしたか? 合格点をいただけます?』


 王と共に部屋から出てきた際、すれ違い様に囁かれた言葉。

 ……正直、ぞっとした。

 合格点? それどころか一人で奴等の喉笛を噛み切りそうじゃないか。

 獰猛な獣のような警戒心を抱かせるわけではない、けれど牙を剥いた時は手遅れとは。

 似ている所など無い筈なのに、あの一瞬はエルシュオン王子と重なった。


「お前の娘は我が王を裏切りロウベント公爵の間者となった。その事実は覆されることは無い」


 娘がイザベラに協力していた証拠は揃っている。

 本人も公爵令嬢のお気に入りであることを自覚し、かなり尊大に振舞っていたので証言も多い。

 そして……今回の当事者であるからこそ絶対に逃げられないのだ。

 娘の実家も終わりだろう。この男が懇願するのは何も娘の為だけではあるまい。

 だから。

 がっくりと頭を垂れた男に一欠けらの哀れみも見せず最終通告をしてやろう。


「処刑はイザベラと共に行われる。……良かったな、自慢の主と共に逝けて」


 他国の者に咎を背負わせる我々が……誰より血を被るのは当然なのだ。

『あの子なら大丈夫』と言い切った王子の言葉はきっと正しいのだろう。

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