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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ゼブレスト編
19/697

女の戦い?

今回、暴力描写があるので苦手な方はご注意くださいね。

「ミヅキ様の歓迎会を兼ねて茶会を催すので是非参加して欲しいと我が主より賜わって参りました」


 この台詞を聞いた瞬間、室温が一気に下がったと感じたのは私だけではあるまい。


「あら、それは一体いつなのかしら?」

「本日です」

「……そう」


 ふふ……いい度胸じゃねーか。

 笑みを貼り付けてはいても心の中ではブリザードが吹き荒れてますよ?

 ぴしり、と扇子が軋んだのも気の所為じゃありません。

 私はイルフェナの後見を受けている設定なのだがね?



 格下が呼びつけるなんざ、命が惜しくないと思っていいんだろうな……?



 唐突に言い渡された『お誘い』という名の『命令』にセイルでさえ顔を歪める。

 侍女は従うのが当然とばかりの態度をとっているから尚更だろう。

 だが、それを許してやるほど私は優しくは無い。


「お待ちなさい」


 用は済んだとばかりに退室しようとした侍女を引き止める。

 怪訝そうな侍女に精一杯微笑んでやりながら、ほんの少し意地悪を言う。


「貴女の主が呼びつけたのです、案内するのが当然というものでしょう?」

「……わかりました」


 舌打ちするのが聞こえますよ? 面倒だと顔に出てるのも駄目でしょう。

 でもね?

 貴女はそれ以上に出来損ないなのですよ。


「貴女はあまり賢くないのですね……」

「何かお気に障ることでも?」

「判らないからこそ『愚か』と言っているのですよ」


 くすくすと笑う私に侍女は顔を顰める。

 ねえ、侍女さん?

 私は貴方達の行動を『私を呼びつける』と言ったのですよ?

 王直々に遣わした護衛達の前で言った以上は言質を取られたも同然なのです。

 否定しておかねばとんでもないことになりますよ?

 ま、教えてあげようとは思いませんけど。


「さあ、参りましょう?」


 初戦といきましょう。

 さあ、どうなりますかね?


『ルドルフー! 早くも呼び出しきたみたい』

『お、じゃあ俺も行くか』

『宜しくねー』


 念話でルドルフを呼んでおくのも忘れませんよ。

 今回は必要ですからね?


※※※※※※



 うっわ、判り易いイビリの図!

 お茶会の会場に着くなり即座に思っちゃいましたよ。


「歓迎いたしますわ、ミヅキ様。どうぞお掛けになって」


 鮮やかに微笑みながら化粧が濃い女性が形ばかりの言葉を紡ぐ。

 くすくすと笑っている連中が彼女の取巻きでしょうか。

 ま、この状態で歓迎なんて言われてもねぇ?


 席が無いじゃん、どうやって座れと?


 一つの大きなテーブルに設えられた椅子に側室全員が座っている状態ですよ。

 私が座る場所はなし。これがやりたかったのか、こいつら。

 まあ、私としてもここから観察させてもらった方が有意義です。

 ぱっと見た感じでは主な『敵』は四人。

 一人は今回の黒幕であろう金髪の人。これは家柄自慢のアホだろうな。

 二人目は栗色の髪を結い上げた落ち着いた雰囲気の人。

 三人目は赤い髪に緑の瞳が印象的な幼い感じの人。

 この二人はあからさまな敵意を見せず、こちらの出方を窺っている。

 最後に銀髪に優しげな雰囲気の人。

 何となく気にかかるから疑う方向で。


「その前にお聞きしたいことがありますわ」


 にこり、と微笑んで今回の黒幕――じゃなかった、主催者に声を掛けると彼女は怪訝そうに応えた。


「え、ええ、何ですの?」

「私の部屋に遣わされた侍女は貴女個人に仕える者ですか?」

「いいえ、この後宮で働く者ですわ。私の身の回りのことを担当していますが……」

「そうですか」


 その言葉に笑みを消すとテーブル付近にいた先程の侍女に対し


「この、愚か者!」

「ひ……っ」


 ガッシャーン!


 手にした扇子――強化済み・鉄扇モドキでも本来の重さしかない――で思い切り引っ叩き怒鳴りつけた。

 テーブルに吹っ飛んで茶器を砕きつつ無様に転がる。

 ああ、破片が側室連中に飛んで怪我しようがかまいませんよ?

 だって今回は彼女達も同罪ですからね。


「ら……らにぼなさいあす……」

「何をするか、ですって? 貴女は自分のしたことさえ理解できないと?」


 歯が折れたか顎の骨が砕けたか血だらけの顔で抗議する侍女に魔力と共に視線を向けてやる。

 これぞ魔王様直伝の『威圧』!あの人ほどの威力は無くとも怯えさせるには十分です。

 実際、非難の声を上げようとした側室どもは顔を青くして黙り込んでしまった。


「貴女は後宮勤めとはいえ仕えるべき主は陛下ですわ。このような下らない茶番が行われるならば止めるべき立場でしょう! 先程の態度や言葉といい、随分と思い上がっているようですね」

「わ……わらひはイザベラ様の」

「それが一体なんですの? 私はイルフェナという『国』の後見を受けた者です、侍女とはいえゼブレスト王の配下が私にそのような態度をとればどうなるか」


 当のイザベラ様や侍女は未だよくわかっていないようだが、何人かの側室は事態に気付き顔を真っ青にした。

 遅い、遅過ぎる!

 参加した時点で無関係などとは言えないのだ、彼女達は。


「一貴族が国に勝るなどとお思いか? それともイルフェナはイザベラ嬢の御実家より劣ると?」

「あ……!」

「そしてその責任はルドルフ王が背負わねばなりません。勿論、イルフェナが納得する対応をせよ、ということです」

「そのとおりだ。とんでもない事をしてくれたな」


 場に加わった男性の声に振り向き礼をとる。

 後見を受けていても最高権力者を前にそのままなどということはありえません。

 貴族の常識です、これ。

 なのに何で座ったままなのかな、側室どもー? 呆然としてる場合じゃねぇぞ?


「お目汚し失礼致します。お騒がせしたこと、ご容赦くださいませ」

「いや、この状況を考えれば貴女の方が正しい。むしろ貴女への非礼は俺こそ謝罪せねばなるまい」

「その御言葉はイルフェナに向けていただきたく思います。私とて友好国を無くしたいとは思いません」

「そうか……感謝する」


『よくやった! 俺もナイスタイミングだろ!』

『おいでませー♪ イビリ現場へようこそ!』


 念話にて無駄に明るいやり取りしつつ、表面上は大変シリアスな雰囲気ですよ。

 あ、護衛の騎士達がひっそり親指立てて『グッジョブ!』の意を表してる。

 表情は沈痛な面持ちなんだが器用だね。


「ミヅキに対し『命令』できる奴など後宮にいないはずだがな?」

「お、お待ちください! 私は命令などっ!」

「黙れ。予定を聞かずに呼びつける? しかも嫌がらせ? 公爵令嬢だとて許されることではない」


 イザベラ嬢が必死に言い訳しようと口を開くがルドルフはばっさりと切り捨てる。

 いや、イザベラ嬢? あんた、それ以前にやらなきゃならんこと忘れてますよ?

 気付いてないから私も嫌がらせの一つくらいやっちゃうぞ?


「嫌がらせにはなりませんわ、陛下」


 にこり、と笑ってルドルフに寄り添う。

 ついでに念話でルドルフに協力要請。


『お、嫌がらせ?』

『うん。話合わせてね』

『はっは! 任せろ』


「王自ら望み迎えた者が押し付けられただけの女と同列などありえませんもの。席など必要ありません」

「それもそうだな、俺はこいつらの所に一度も通っていないし」

「ふふ、誰一人孕んでいませんものね。下らぬ血が混ざらず何よりですわ」

「イルフェナの魔導師殿の見立てならば誰も反論できまいな」


 その言葉に側室達が表情を変える。

 馬鹿なことしたね? これで君達が『王の子を云々』とか言えなくなったんだよ。

 魔力持ちは人体に異物があるか判るのですよ、側室全員がここに居る以上は懐妊している姫はいないことになる。


「魔導師ですからこのまま、とはいきませんね……これくらいは受けていただきませんと」


 視線をテーブルの方へ向け魔力を集中させる。

 狙いは椅子の足、木で出来ているから簡単に破壊が可能です。

 目を眇め微かに首を傾げると髪飾りに付いた鈴が澄んだ音を立てる。


 チリ……ン


 その音と同時に響く破裂音。

 突然の事に側室達は反応が遅れ一瞬呆けたような顔になり。


「ひっ」

「え……!」

「きゃ!」


 鈴の音と同時に弾けた椅子の足。側室達はそれを知る暇も無く体がどさりと床に落ちる。

 打ちつけた痛みに顔を顰める側室連中。おお、中には睨みつけてくる奴も居ますよ!

 ま、痛いだけだ。実に地味な嫌がらせです。

 今回の本命はイザベラ嬢と後宮の侍女達だしね。


「これだけでいいのか?」

「ええ、私の個人的な方は。後は国同士のことですから私は干渉いたしません」

「わかった」


 暗に『魔王様に御願い』を匂わせる私の言葉に神妙な顔で頷くルドルフも鬼ですね。

 ふ、イザベラ嬢とその実家は終わったな。

 魔王様は愛国者なのだよ、国を貶められてただで済むはずが無い。

 ルドルフも『国の為』という大義名分と共に更なる罪状を突きつけ潰す気です。


「陛下……っ、どうか私の話をお聞きくださいませ!」


 復活したらしいイザベラ嬢がルドルフに縋ろうと駆け寄ってくる。

 当然、騎士達はルドルフとイザベラ嬢を遮り剣を突きつけようと動いた。

 だが、護衛の騎士達が動こうとするのを制し、私に『行け!』とばかりに視線を寄越すルドルフ。

 ……私は凶器扱いですか、そんなに痛めつけて欲しいのか。

 ま、騎士だと叩き切るというわけにはいかないよね。

 仲間達の期待を一身に受けルドルフの前に立つとイザベラ嬢を一喝する。


「下がりなさい、この無礼者!」

「な……貴女にそんなことを言われる筋合いはっ!」


 ない、と怒鳴りつけようとしたのだろう。

 だがその言葉より私が彼女を傷つける方が早い。

 ザシュ……と鈍い音が響いた次の瞬間。


「ぎ……ぎゃあぁぁっ! 顔が、私の顔がぁぁ……」


 息を飲む側室達。

 イザベラ嬢の顔が一瞬にして切り裂かれたのだから当然か。

 実のところ怪我はそう深いものではない。自慢の顔を血だらけにする、という一種のパフォーマンスなのですよ。

 だが普段血を見ることがなく、重要な『顔』を潰されるという恐怖に彼女達は支配されている。

 ……血を拭われたら掠り傷ってわかるんだけどな、あと治癒魔法あるじゃん。

 とりあえず彼女達が気付かないうちにトドメを刺しておきますか。


「いい加減になさいませ? こちらはゼブレスト第一位の方ですのよ。護衛の騎士達を見ても貴方達がどのように思われているか理解できませんか」


 騎士達は私の傍に控えたセイル以外の全員がルドルフの周囲に集っている。

 その意味するところは明白。つまり『敵』だ。

 セイルは初めから私の傍でいつでも剣を抜けるようにしているので、私に近づいてきたら叩き切る気だったのでしょう。

 将軍様、意外と気が短いですな。

 それ以前に私は目の前で惨殺シーン見ても平気とか思われてるんかい。


「側室と言えど王と王妃に仕える立場、無礼は許されません。それが敵と認識されるほどのことを貴女達はなさってきたそうね?」

「そんなことは……」

「そうですわ! 私達は王をお慕いしています!」

「あら、媚薬を盛ることも『害する』ことに属するのですが? 睡眠薬も同様、お心当たりの方が多数いらっしゃるはずですよね」


 顔を両手で覆ったまましゃがみ込んだイザベラ嬢に近づくと扇子で両手を叩き顔を向けさせる。

 おお、いい感じに血塗れでスプラッタ!


「貴女達がしてきたことは王に対する侮辱ですわ。王の所有物如きが何様のつもりですの」

「な……!」

「ああ、ご自慢の御実家も同罪ですわね。そのような教育を施し、協力さえしているのですから」


 これが致命的にマズイのだと彼女達は理解していない。

 私の役目は後宮破壊ですが、その最終的な決定権全てを握っているのはルドルフ。

 王を貴族連中が嘗めていることが原因なのだから、それも改善してしまおうという目論見ですよ。

 私に対することも踏まえて証拠さえあれば家ごと潰すに十分です。

 ぷちっとやっちゃってください、王様! 無能扱いした馬鹿どもに今こそ制裁を!!


「ミヅキ、どうする? 全員処罰対象になるが」

「ふふ、今回の処罰はイザベラ嬢とその実家、そして後宮の侍女達でよろしいですわ。だって……」


 笑みを浮かべたまま側室達に向きなおる。

 ぽたり、と扇子から一滴の血が落ちて床に染みを作った。

 演出ですよ、これ。扇子と共に握り込んだ小さな容器に血糊が入っていて目薬みたく押すと出てくる仕掛け。

 黒騎士製作の恐怖を煽るアイテムの一つです。


「魔導師が売られた喧嘩を放置するなどありえませんわ。皆様より受けた宣戦布告に応じたいと思います」

「そうか、では負けた場合はその実家ごと責任を取らせよう」

「当然ですわ! 実家の協力の下に好き放題してきたのですから」

「……さて、この茶番はもう終いだ。後始末は騎士達に任せよう。折角抜け出してきたんだ、部屋に行っても?」

「歓迎いたしますわ、陛下」


 青ざめたままの側室達を残したままルドルフと共に部屋を後にする。

 私の腰に手が回っているあたり芸が細かい。

 あれだけ『お前達は既に罪人、処罰するから覚悟しとけ?』と脅しておけば自分から後宮を去ると言い出すか仕掛けてくるかどちらでしょう。

 このまま終わらせなかったのは私の役割が後宮破壊だからなのです、謝って済ませる選択肢なんて最初からありませんよ!

 最低でも自分の馬鹿さ加減に死にたくなるほど追い詰めなければルドルフ達の受けた精神的苦痛と釣り合いません。



 その後――


 イザベラ嬢と侍女達は処刑、ロウベント公爵家は取り潰しとなった。

 彼等はかなりヤバイ事もやっていたらしく、他の悪事が露見する前にということらしい。

 まあ、歴史ある血筋な以上は醜聞塗れで潰したくは無いでしょう。

 ルドルフとしても国の価値を落とすような真似は避けたいだろうし。

 悪事の証拠と聞いた時点で魔王様とその配下どもの暗躍が窺えますが……火の無いところに煙は立たないよね、うん。



 宰相様からは労いの高級茶葉が届き、騎士達との友情も深まったので私のやり方は間違っていないのでしょう。

 そう、騒動の二日後に魔王様から『面白い見世物だった。もっとやれ、鬼畜推奨(意訳)』という手紙が届くくらいには。

 魔王様……やっぱりこっちを観察して楽しんでたんですね!?


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