表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編
187/697

予想外の収穫

『話を聞いて来るならば許可しなければならないね。だけど目立つことはするんじゃないよ』


 そんな魔王様の言葉と共に外出許可を貰い、私は騎士sを連れてディーボルト子爵家へ。

 この台詞から判るように魔王様もクリスティーナの体調不良はその能力ゆえと思ったらしい。

 そうだよねー、日頃から騎士sの能力を見せ付けられている――しかも私のお付きなので発揮される機会が増えた――もんな。

 あれを見てたら『もしかして?』と疑いますとも。理屈ではなく結果として散々目にしているのだから。

 ちなみに。

 前回のVSグランキン子爵の時も兄弟達の能力はガンガン発揮されたらしい。クリスティーナは早々に魔術師達の巣窟・ブロンデル公爵家へと隔離されたので、その機会がなかっただけと思われる。

 情報提供は護衛をしていた近衛騎士――何故近衛騎士が護衛? と思ったら、彼らが怪我した時は『子爵程度がいい度胸じゃねーか?』という言葉と共に実家の権力発動の予定だったらしい――である。

 彼らは騎士sの兄達の護衛を担当していたらしい。ただし『俺達必要なかったよな、あれは』という状態だったそうな。


 うっかりペンを落として屈みこんだ上を石が飛んでいったり。


 突然足を止めて道を変えること数回、その先がゴロツキの出現ポイントだったり。


 しかも本人達は『何となく?』という状態で、危険が判ったとかではないらしい。

 亡き母の愛は偉大なり。今もがっつり子供達を守っておいでのようだ。


「クリスティーナは事情を聞くだけじゃなく、もしかしたらこちらの協力者になるかもしれない。その場合は魔王様がディーボルト子爵に『命令』することになると思う」

「……」


 行きの馬車の中で念のために告げておく。状況によっては十分ありえるので、この二人には事前に告げておくべきだと思ったのだ。

 酷なようだがクリスティーナとて貴族。王族の言葉に逆らうという選択肢はない。

 案の定、私の言葉に沈黙する二人。だが、その沈黙は妹を案じたものではなかったらしい。

 二人は顔を見合わせると、苦笑しつつ呆れていた。


「殿下って判りにくい守り方するよな、本当に」

「仕方ないことだと父上だって判っているのにな。どうして『身分を盾に命じる』なんて悪役紛いの手を使うんだか」


 可愛がっている妹を危険に晒すかもしれないのに、二人が呆れているのは元凶になるだろう魔王様。

 首を傾げている私に気付いたのか、アベルが小さく「ああ、お前は馴染みがあまりないもんな」と呟いた。


「王族ってのは貴族から見ても絶対なんだよ。その貴族だって上下関係があるだろ? 今回は必要なことだし、王族からの頼みなら爵位を授かっている以上逆らえない」

「だけどさ、別に殿下が無茶言ってるわけじゃないだろ? 父上だって協力すべき立場なんだ。たとえクリスティーナを危険に晒すことになろうとも当主として説得しなければならない」

「『身分を盾に命じる』って『王族としての立場を振り翳して渋る父親を脅迫し、娘を無理矢理協力者にさせた』とも聞こえるじゃないか。少なくとも殿下を恐れる奴は父上に同情的になるぞ?」


 父上が亡き母上の分まで娘を可愛がってるってのは結構知られているからなぁ、と言って二人は呆れたように微笑む。そこに命を下すであろう魔王様に対する怒りなど欠片もない。

 つまり『ディーボルト子爵はエルシュオン殿下の信頼を受け抜擢された』という認識ではなく、『無理矢理命じられた』と周囲に思われるわけか。

 こう言ってはなんだが、ディーボルト家は子爵位。クリスティーナのデビュタントの時といい、周囲が羨む人々に囲まれていると必要以上のやっかみを受けてしまう。

 さすがにアルがクリスティーナのパートナーを務めたことは状況的に『グランキン子爵関係の仕事』という認識だろうが、それ以外の繋がりは子爵には過ぎるもの。

 騎士sがこういった発想をするということは、それなりにあるのだろう。大事にならないのは彼らの能力と性格、そして……多分、魔王様のフォローゆえか。


 こんな状況で王族直々に『頼みごと』なんてされてみろ。

 その後は間違いなく身分だけの貴族達の嫉妬と擦り寄りが待っている。


 魔王様はそういった事情を考慮し『命じる』という態度をとる……と騎士sは思っているらしい。これまで私に張り付いていたこともあり、魔王様が保護者根性に溢れた人だと理解したのか。

 魔王様、理解者が増えて良かったですね。多分、貴方を見守ってきた人達は皆こんな心境だと思いますよ? 


「安心しなさいって! ここに魔王様じゃなきゃ制御できない珍獣がいるもの」


 そう言って自分を指差す。


「魔王様の親猫ぶりは一部とはいえ他国にまで知られているし、私は自分にとっての極一部以外どうでもいい正真正銘の外道ですよ? あの人以上に悪役が似合う私がいるもの、あんた達が想像している事態にはならないよ」


 さらりと言えば、騎士sは微妙な表情のまま沈黙した。

 どうした、二人とも。とても納得できるだろう、いつも身近で目撃してるんだから。


「……。明らかに殿下を庇っている発言なのに否定できん」

「お前、本っ当にその他の扱いが酷いもんな。どうにかならないのか、その性格」

「博愛主義者じゃないの。愛情には愛情を返し、敵意には敵意を十倍返しでプレゼント!」

「「やめい! お前のは敵意通り越して破滅まで一直線だろうが!?」」


 綺麗にハモった。さすが双子、私に対する認識は少しのズレもないらしい。

 いいじゃないか、売られた喧嘩は買うのが礼儀なんだぞ? それに馬鹿は権力と財を取り上げた上で『逆らってはいけない』って体に覚えさせないと繰り返すし。

 まあ、ぶっちゃけて言うと私が民間人だから負けたままという状態が屈辱なんだろうな。お貴族様はプライド重視、非常に難儀な世界に生きていらっしゃる。


 さくっと割り切って前を向けよ? 

 私なんて過去は勿論、細かいことや利用価値が無いものすらシカトだぞ?


 そんなことを話しながらディーボルト子爵家へ向かった私達は。

 同じ馬車に乗っていた執事さん――ディーボルト子爵からお迎えを命じられたらしい。今回はあくまでも『クリスティーナの友人である魔導師が心配して訪問を望んだ』となっている――に微笑ましそうな目で見られ。


「相変わらず仲が宜しいのですね。何よりでございます」


 というお言葉を貰った。

 ええ、仲は良いと思います。日頃から微妙に危機満載なあまり『戦場の絆的繋がり』はばっちりです。

 あまりにもこの状況に慣れ過ぎて、リアル戦場に送り込まれても漫才モドキを平和に繰り広げる気がしますよ……その後に三人揃って魔王様に叱られるオプション付きで。

 

※※※※※※※※※


 そして案内されたクリスティーナの部屋……の寝室。寝込むほどではないようだが、それでも大事を取って未だベッドの住人となっているクリスティーナがそこに居た。

 大分良くなったと聞いてはいたが、やはり精神的に気に病むこともあり顔色はあまりよろしくない。

 それでも私と騎士sの姿を目にするなり嬉しそうな表情になった。特にすぐ上の兄である騎士sと仲が良いらしいから、ほっとするという意味もあるのだろう。


「久しぶり、クリスティーナ。体調崩したって?」

「お久しぶりです、ミヅキ様。ええ……昔から時々あるのですけれど、皆が必要以上に心配してしまって」


 申し訳なさそうに、けれど案じてくれる気持ちが嬉しいのかクリスティーナは苦笑する。

 そうか、昔から時々体調崩してたのか。まあ、騎士sは騎士になるくらい丈夫だし、上のお兄さん達も体が弱いとは聞いていない。

 ……少なくとも丈夫な胃腸と強靭な精神と長時間の討論に耐えられる体力が必須だろうな、この国だと。


 ところでね、クリスティーナ。

 その『昔から時々あった体調不良』ってさ……グランキン子爵関連だったりしない?


 この状況が特殊能力が発揮された結果というならば十分ありえそうな話なのだが。

 あの食事会は本人が主役であり、同時にデビュタント直前という気負いもあったから平気だった気がしなくもない。『必要なこと』だったからね、あれは。

 欠席しようものならグランキン子爵達は嬉々として貶めるネタにすると断言できる。クリスティーナ以上にそれを察していたから騎士sは私を呼んだわけだし。


「とりあえず、お見舞いのお菓子作ってきたから一緒にお茶しようよ」

「わあ……! 嬉しいです、ミヅキ様のお作りになるものは珍しいものばかりですもの」

「……。うん、喜んでくれて嬉しいよ。あと、そのことは他の人に言わないでね」

「は、はい……?」


 騎士sを通じての横流しがバレますから……!

 多分、魔王様は知ってて見逃してくれていると思われる。咎めないのは『発覚したら禁止しなければならない』から。

 一応隔離されている異世界人ですからね、私。加えて個人的な付き合いがバレると、辛い目に遭うのはディーボルト子爵家の皆様だ。

 シャル姉様達は本人に文句を言える地位にある奴がいないだけ。守護役という繋がりもあるので、喧嘩を売った奴が論破されて終わりだ。

 その後は破滅コースが待ち構えてそうだけど。この国の上層部の皆様は大変おっかない。


「ミヅキ様、これは?」


 目の前に差し出された皿の上にある器を興味深げに眺めるクリスティーナ。そこには濃い茶色のソースがかかった黄色いものが入っている。


「プリンって言ってね、私が居た世界のお菓子だよ」


 あまり大きくないし、ほろ苦いカラメルがあるからクリスティーナでも大丈夫だろう。材料的にも栄養があるものばかりなので、食が細くなっているなら丁度いい。

 アイスクリームだと体を冷やすからね、今回はこちらをセレクト。都合よくあったのは本日のおやつとして作り置きしていたからである。つまり、騎士寮の皆様も本日これを食べている。

 そこで『いい年した男がプリン食って喜ぶのか!?』と思うのは尤もなのだが、奴らは喜ぶ。お代わりする勢いで食う。

 微妙に憧れの騎士様というイメージが崩れる瞬間なんだよな〜。連中への贈り物……いや、貢物って酒がダントツだし。確かに大人の男には菓子を贈るより酒だけどさ。

 なんでそんなことを知っているかといえば、彼らは実家に送られてくる酒を騎士寮の呑み会に持ち込むから。

 毒殺がほぼ無理だからね、騎士寮面子って。解毒魔法があるので割と持ち込みはオープンです。でも送り主のことは殆ど気に留めません、酒はガンガン呑んでますが。……哀れなり、贈り主。 

 そんな馬鹿なことを考えているうちに、クリスティーナは嬉々としてプリンを口に運んでいた。……大丈夫みたいだね、今度料理長さんにレシピを横流ししておくか。

 騎士sがほっとした顔をしているところを見ると、やはり食が細くなっていたのだろう。落ち込んで、ずっと暗い表情をしていたのかもしれない。

 折角だから食べ終わってから話を聞いた方が良さそうだ。騎士sに目配せをすれば二人とも小さく頷いた。


 ……そして。

 プリンを食べ終わり、少しだけ顔色の良くなった――表情も何となく明るい。世界を違えても女子にはスイーツが効果的か――クリスティーナから話を聞くことにする。

 黒騎士達からある程度の情報を得てはいるけど、クリスティーナの視点と差があるかもしれない。彼女だけが持つ情報という可能性もある。

 何より魔王様から『最近誘拐事件が多発している』『魔王様達が動いている』といった情報は伝えていいと言われれたのだ。

 協力者になるかもしれないし誘拐された友人を案じているなら、『自分ができることがある』と思わせた方が彼女のためにもいいだろう。

 それにクリスティーナは魔王様と愉快な仲間達が無能ではないと知っている。憧れではなく、己の体験として。

 つまり絶大な信頼があるわけですよ。少なくとも今よりは安心するだろう。

 とはいえ、いきなりは聞かない。まずは誘拐された友人の情報からだ。


「……アーシェ様はとても信頼できるお友達なのです。その、私はデビュタントでアルジェント様やシャルリーヌ様達と一緒に居ましたから……皆様が目当て、という方もいらっしゃいまして」

「クリスティーナを接点にして彼らと知り合いたい、と」


 直球で聞けばクリスティーナはこくり、と頷いた。騎士sは不機嫌そうにしながらも口を挟むことはしない。その様子に思わず皆へのチクリを決意する。

 おいおい……この子でさえそう思うってことは実際は踏み台として利用しようとしたんじゃないのかい?

 クリスティーナならば簡単だと思っていたのだろうが、彼女は特殊能力持ち。そういった機会は悉く失敗しているだろう。


「アーシェ様は一度もそのようなことは仰いませんでした。どちらかと言えばミヅキ様……魔導師に興味があるようでしたわ。アーシェ様のお家は学者が多いそうで、アーシェ様ご自身も大変賢く知識の深い方なのです」

「なるほど、それなら納得。私に近付きたいんじゃなく、様々な話を聞いてみたいっていう好奇心なんだね」

「ええ。異世界のお話を是非聞いてみたいと仰っていました」


 私の反応にクリスティーナが嬉しそうに頷く。おそらくは大切な友人が嫌悪されなかったことが嬉しいのだろう。

 大丈夫、その程度なら好奇心旺盛な学者予備軍として普通のことだから怒らない。基準が黒騎士達だもの、全然オッケーですとも!

 お話だけなら構わないのだよー……それを理解できるかは別として。前提となる知識の壁があるから互いに理解し合う努力が必要なのだ。

 クリスティーナの話を聞きながら私は内心首を傾げる。

 どうやら誘拐された友人は少々変わり者らしい。これなら『誘拐されたのは恋愛絡みで恨まれていたから』という可能性は限りなく低いだろう。恋のライバルにはならないのだから。

 それに『特定の令嬢達にとって邪魔だった』というのも考えにくかった。

 黒騎士情報によれば彼女はクリスティーナと同じ歳、しかも家は男爵家。誰もが憧れる男性と親しかったり、婚約者がいるわけでもない。彼女の家族も特に目立った存在ではないとのことだった。

 要は『アーシェ嬢だけではなく、家や家族もどちらかといえばスルーされる存在』ということ。これが『誘拐の目的が判らない』とされた理由だったりする。

 この時点で考えるならば、『彼女が誘拐されたのは彼女自身に原因がある』ということになるだろうか。

 しかもデビュタント後だとかなり限られてくる。それ以前から目の敵にして来る奴でもいない限り、最近の彼女の言動に理由がありそうだ。

 人を見下すタイプじゃないみたいだけど才女ゆえに無自覚にやってそう。そして逆恨み……とかではあるまいか。

 ふと一つ聞いていないことがあると思い出し、クリスティーナに声を掛けた。


「クリスティーナ。随分と性格が違う友達のようだけど、どうして知り合ったの?」

「えっと……アーシェ様に助けていただいたのです。実はあのお茶会に招待してくださった方は私を通じて皆様と知り合いたいと思ってらっしゃったようで、その、かなりしつこかったのです。そこをアーシェ様が諌めてくださったのです」

「ちなみにどんな諌め方を?」

「確か……『クリスティーナ様を利用する気満々な姿を憧れの方がご覧になれば嫌悪されるでしょうね』『そのようなことをなさっているから、憧れの方から相手にされないとは考えませんの?』でした」

「「「ああ……それは……」」」


 思わず生温かい目になって騎士sとハモった。

 随分とキツイな、おい。アーシェちゃんてば諌めるだけじゃなく、盛大に心を抉ってやがる!

 クリスティーナは気付いていないようだが、彼女は暗に脅迫していたのだろう。


『嫉妬見苦しい、お前の憧れの人は知ってるからチクってやろうか?』

『そもそも既にフラれたじゃねーか、まだ理由判ってなかったの?』


 意訳するとこんな感じ。うん、中々に凄いお友達だ。クリスティーナと同じ歳のお嬢様の言葉とは思えん。

 ああ、これは先ほどの予想が正解な気がする。嫌がらせされても自分で報復して黙らせてただろ、彼女。

 だが、それにしては奇妙な点があるんだよなぁ……。あくまで『令嬢同士の喧嘩』であって誘拐にまで発展するのはやり過ぎだろう。この国でそんな真似をすれば家がヤバい。普通は親が止める。


「その時の方……メイベル様も後日謝罪してくれまして。それ以降はお二人とお付き合いがあったのです。先日もメイベル様のお家に伺うつもりだったのに、私が体調を崩してしまって……」


 そう言ってクリスティーナは俯いた。彼女は自分だけが無事だということが許せないのか。

 メイベル嬢が現在アーシェ嬢にどういった感情を持っていたかは不明だが、少なくともクリスティーナはメイベル嬢に対して苦手意識があるわけではないらしい。

 『仲の良い友人とはいかなくても誘われれば一緒にお茶を飲む知り合い』くらいには思っている模様。

 だが、私はある確信に内心笑みを浮かべる。


 ほぉう? そういう『方法』を使ったから『情報無し』という状況なわけね?

 クリスティーナの体調不良はやっぱり能力発動だったか。


 話を聞くどころか、いきなり正解に到達してしまったようだ。そしてその予想が正しければ……効果的な罠も用意できる。

 誘導尋問したわけではないのに、この会話。やはりクリスティーナも危機察知能力に優れているのだろう。


「ありがと、クリスティーナ。もう十分。協力を頼むことになると思うけど、その時は……」

「勿論です! 私は皆様にとてもお世話になりました。それだけではなく、私自身がアーシェ様のためにできることがあるならば嬉しいのです」


 話を切り上げつつも今後の協力要請を匂わせれば、即座に頷くクリスティーナ。その表情は後悔に苛まれていた少女のものではなく、アメリアに対峙した時のように毅然としたものだった。

 心配だったから後から魔道具で映像を見せて貰ったんだよね……シャル姉様達の恐ろしさもついでにばっちり見てしまったが。


「そっか」

「はい! 私ができることならば何でも仰ってください!」


 頼もしい言葉に笑みを浮かべて頷く。これならば『少々嫌な事実』があったとしても大丈夫だろう。この子は日々成長しているらしい。

 そのまま退室し、騎士sを連れて再び騎士寮へ向かう。馬車の中まで騎士sは無言だった。私の様子が変わったことに気づいていたのだろう。


「で、お前は何を掴んだんだ?」

「話を切り上げたのは殿下に報告することができたからだろ?」


 馬車が動き出すなり二人揃って予想通りのことを聞いて来る。それに私は上機嫌で答えた。


「この事件の誘拐方法が判ったからね。あと、私が確実に囮として攫われる方法の算段がついた」

「「は?」」


 意味が判らず訝しげな顔をする二人に対し、私は人差し指を立てて横に振る。


「アーシェ嬢が誘拐されたのは茶会の帰り道。だけどクリスティーナは『茶会に行くこと』に対して体調不良になっている。つまり……」


 そこまで言えば二人も理解できたのだろう。即座に顔色を変えている。


「メイベル嬢の家が共犯だっていうのか?」

「まだ予想だけどね。クリスティーナもアーシェ嬢みたいに友人と言わないってことは無意識に警戒してる部分があるんじゃない?」 

「男爵令嬢が、か? そんな大それたことを実行するとは思えないが……」


 『実行するとは思えない』というより『権力的に実行できない』という方が正しいのだろう。カインの言葉にはアベルも同意しているようだ。

 だが、先日の私達の予想では『誘拐目的のグループとイルフェナを貶めたいグループに分かれている』という結論が出ている。確定ではなくとも、その可能性が高いと。

 ならば『個人的な恨みを持つ家をリストアップして協力を持ちかける』という手も考えられると思うのですよ。

 これならば共犯者になった家が調べられても不審な点は出ない。誘拐などしていないのだから。


「ん〜……家も関係してるだろうね、そうなると。詳しくは魔王様に報告してから話す。とりあえず令嬢達が誘拐される直前に訪ねていた家を共犯者と仮定して一度捜査してもらえばはっきりすると思うよ」


 さて、反撃の第一歩なるか?

※魔導師六巻の詳細を活動報告に載せました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ