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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
サロヴァーラ編
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解決への一歩を踏み出せ

 あれから私の意見は魔王様達により事情を知る皆様へと伝えられ。



 囮の件は保留になった。当然です。



『囮になるのは構わないけど、騎士団長の娘を拉致するような奴っている?』


『(戦闘能力的な意味で)イルフェナ精鋭軍&其々の実家の権力敵に回すって一国とドンパチかます自信があるか、とんでもない馬鹿かどっちかじゃね?』


 といった意見はやはり皆様を納得させてしまったらしい。

 うん、そうだよねー。団長さんの人気知ってたら無理があるわな。


 いくら本人がやる気になろうとも攫ってくれなきゃ意味がないわけで。


 関係国の上層部の皆様も『ああ……』と納得したらしい。自国に置き換えても難しいと判断したのだろう。

 というか、どこの国でも慕われている上司というものが存在するから理解があった模様。体育会系な人々は割とこういったノリであるらしい。

 そういやフェアクロフ家も伯爵家の割に発言力あるっぽかった。あの家は騎士連中に絶大な信頼を得ているとかではなかろうか。ジークのお兄さんも騎士らしいし。

 フェアクロフ伯爵が元王族ということもあるだろうが、そちらも無視できない繋がりだろう。個人を慕っている場合の方が裏切りも少ないものね。


「とは言っても、そのままにはできないわけで」


 騎士寮の食堂でお茶しつつ呟くと、魔王様が困ったような表情をする。


「一応、君が言ったような『誘拐される条件』を調べてはいるよ。だけど正直思わしくないんだよね……」


 他国との連携という意味でもやりたい放題などできないのだろう。イルフェナの誘拐事件だけでは条件の特定に至らない。

 ……実に上手いやり方だ。行動範囲が広いのはそういった条件を誤魔化す目的もあったかもしれない。

 そしてそれは魔王様達も疑っているらしかった。


「優秀な魔術師の存在が疑われているのはそういった理由もあるんだよ。頭脳労働を担当する者がいるんじゃないかって」

「もしくは黒幕ですね。今の段階では実行犯の一人なのか、犯人達を唆したのか判りませんけど」


 魔王様の発言を補うように口にすると、魔王様は面白そうに口元に笑みを浮かべた。


「……ミヅキから見てもそう思えるのかい?」

「思いますねぇ。そもそも犯人の潜伏先がイルフェナだと判明している時点で妙ですよ。ここまで情報を隠しておいてポカミスってのも考えにくいですから」


 たれ込みは目撃情報だったんだってさ、不審な馬車が深夜イルフェナへの道を走っていったそうな。

 しかもその情報は何の裏もない民間人――当然怪しんで調べたようだ――からのもの。

 内部が見えないように布で覆われ、御者が顔を隠すような状態だったことから余計に目に付いた、らしい。


 怪しさ満載です。どこぞの黒尽くめ戦隊の仲間か、お前ら。


 あ、黒尽くめは意図的にあの姿なんだって。あの姿が印象に残るあまり服を脱ぎ捨てれば逃亡も楽々、しかも幹部とその他の区別が全くつかないらしい。

 ……新人を盾にして逃げることも可能ってわけです。意外と考えられていた模様。

 まあ、ともかく。

 そんな怪しい馬車は当然捜査の対象となり、貴族も民間も該当するもの無しという結果になったことから『イルフェナ移動説』ができあがった。それを証明するかのように、その後イルフェナで誘拐事件が発生。

 結果として『現在誘拐犯達は攫った令嬢達共々イルフェナに居る可能性が高い』ということになったそうな。勿論、あくまでも予想なので他国も捜査を続けているんだけど。

 随分タイミングがいいじゃねーか……おかしいだろう、どう考えても。民間人に目撃『させた』と思うぞ、私なら。

 魔王様も同じ意見らしく頷く。ですよねー!


「じゃあ、君はどう考える?」

「どう、とは?」

「犯人達の目的が何かってことだよ」


 軽く首を傾げて問い返せば直球で聞いてきた。魔王様達も色々考えているらしく、一人でも多くの意見を聞きたいと思っているということか。

 確かに『異世界人』で『民間人』で『世界単位で部外者』な私の意見は他の人と視点が違っていてもおかしくはない。……彼らがそう思っても不思議はない。

 私はこれまでの情報を頭の中で整理しながら口を開く。


「そうですね……最初聞いた時はイルフェナを狙っていると思いました。実力者の国と呼ばれるイルフェナを貶めたいのかって」


 可能性としてはゼロではない。魔王様がいることに加え、魔導師を抱えているという嫉妬があるかもしれないじゃないか。ま、実際はそれだけが周囲に恐れられる理由ではないのだが。

 ぶっちゃけますとね、イルフェナって小国の割に発言力が強いという認識なのだよ。その理由を考えると、どうしても目立つ人々に目が行くわけで。

 しかし、個人の撃破は難しい。だから限定された個人や家に対してというより、彼らが属する国に対して……という可能性も捨てきれない。


 そうなると必然的に私が未だ知らない国に疑いの目が向く。


 こう言ってはなんだが、これまで拘わった国の上層部ならば私の情報をある程度持っている。友好的とかそういう意味ではなく『何が地雷か』を理解しているだろう。

 それはイルフェナに対しても同じ。こちらはこの大陸にある全ての国がこれまでの経験から『イルフェナの何が恐ろしいか』を知っているというべきだろうか。

 ただ魔王様や翼の名を持つ騎士達がいくら優秀でもそれは『この世界基準』で『立場や階級に合った能力』である以上、『有能』という一言から連想される能力もたやすく思い当たる。

 勝ち負けはともかく、ある程度の予想がつく。同じ舞台で競ってきたのだから。


 そこに該当しない『様々な意味で予想外』なのが私なわけで。

 『怒らせたら何をされるか犯人は知らないんじゃねーの?』と思うのですよ。


 キヴェラ王でさえ敗北したのは『行動・発想の予想が全くつかないから』。要はトンデモ発想過ぎて手がつけられなかっただけである。

 常に後手に回っていたからこその敗北なので、もしも今争っても結果は違ったものになるだろう。何のことはない、相手が常識人だっただけだ。

 似たようなものに騎士sの危機察知能力がある。騎士sのように前触れなく本能が発揮されるものに関して周囲が対応できないのは『理解できないから』という点が大きい。

 騎士sも無自覚で発揮されるという説明できない能力なので、ある意味無敵である。……戦闘能力のなさが惜しまれるが、だからこそ特化されていると思えなくもない。


「私が動いたらどうなるかって今まで関わった国は知ってますからね、少なくとも今は仕掛けないと思います。そうなるとそれ以外の国ですが……今回のことが民間に噂される『断罪の魔導師』を基準にしているなら出てくることも予想済み、その対策も当然考えられている」

「……つまり犯人達の過剰な防衛は最初から君を警戒していると」

「と、いう考え方もできます。これで打つ手無しだったらイルフェナだけではなく噂の魔導師の評価が落ちる。魔導師だろうとも異世界人、『依頼されて協力する』ことしかできません。ですから与えられる情報を最初から制限してしまえば……」


 魔王様は私の言いたいことが判ったのだろう。苦い顔で溜息を吐く。


「魔導師が関わったにも拘らず打つ手がなかったという事実ができるだろうね。その理由を追及していけば情報不足という事実に突き当たり、責任や叱責は私や騎士達にも及ぶだろう」


 誘拐されたお嬢様方には大変申し訳ないのだが、どうもこちらの要素が強いような気がする。

 勿論、誘拐された令嬢達にも価値があるので人身売買という可能性は高い。高いのだが……。


「今回の件って人身売買が目的のグループとイルフェナ狙いの奴に分かれてません? 頭脳労働担当がイルフェナ狙いなら、実行部隊とも言うべき誘拐犯がこの国を拠点にしているのも頷けますし」


 目的達成のために誘拐犯達を利用しているとしたら?

 誘拐犯達が手を引くような情報は与えず、一見手を貸しているような状態ならば……成功するうちに仲間意識ができて『イルフェナに隠れ家を』という言葉に乗るかもしれないじゃないか。

 勿論、『人の流れが多い』とかもっともらしい理由をつけることを忘れずに。

 そして彼らが捕らえられればゲームは終わり。知恵を貸した奴さえ辿られなければ黒幕(仮)は無関係で通せる。


 その頭脳労働担当が捕まっても『冗談だと思ったからついつい悪乗りして話してしまった』とか言い出されたらアウトなのですよ。


 これ重要。予想が当たってしまった場合、逃げ道があるのだ。

 記憶を魔道具で見るという手も『確実な証拠ではない』という認識がある上に、酒でも呑んでたら更に信憑性は下がる。

 言った本人を見つけたところで『まさか本気だったなんて……』とか言いつつ反省している態度を見せれば、厳重注意程度しかできないだろう。

 複数の貴族令嬢の誘拐って大事だもの。民間人からしたら『団長さんの娘を誘拐する奴なんている?』っていうのと同じくらい無謀ですがな。

 『酒の席での戯言なんです、実行したら命がないって普通判るでしょ!』……という言い分に納得する輩も多いだろう。

 勿論これは誘拐そのものに拘わっていない場合限定だが、ここまで捜査しにくい方向に持っていく奴が共犯の決定打となる証拠を残しているとも思えない。


「……」


 魔王様だけではなく傍で聞いていたアル達も考え込んでしまっている。元々その可能性を疑っていたのだろうが、私も同じ結論になったことで益々その線が濃厚と思った模様。


「そんなわけで私が誘拐されたところで黒幕まで到達しないかもしれません」


 まあ、まずは誘拐される条件が必要ですけどね。

 肩を竦めてそう言えば騎士達は顔を見合わせる。


「それがまず第一歩か」

「中々に難しい一歩ですね」


 クラウスとアルの苦味を含んだ表情と声に。

 魔王様は一つ溜息を吐いた。


※※※※※※※※※


 ……なんて言っていたのが二日前。

 情報は予想外の所からもたらされたのだった。

 っていうかね?


 騎士sの危機回避能力って凄ぇ! 


 の一言に尽きます。確かに解決できなきゃ様々な意味でヤバそうだったもんな。

 発動した――本人達は否定しているが私は彼らの能力というか運だと思う――ということは二人にとって友人の騎士達だけでなく、私や騎士寮面子や魔王様は大事ということらしい。

 しかも今回はディーボルト子爵一家で能力を発揮してくれた模様。友好的な関係を築いておくものですね……!


「ミヅキ、ちょっと実家に来てくれ!」


 随分と慌てた様子の二人に首を傾げるも、いきなり外出というわけにはいかない。特に今は誘拐事件のこともあるから魔王様も必要以上に私が目立つことは避けたいだろう。

 ……うっかり襲撃でもされて誘拐までいけば大勝利なんだけどさ、さすがにそう上手くはいかないだろうよ。

 心配する方向が一般的じゃない? 気のせいですよ、気のせい。私は襲う勢いで誘拐犯ウェルカムです!

 二人は視線を交し合うと、代表するようにアベルが話し始めた。


「クリスティーナの友人が誘拐されたらしいんだ。しかも彼女が参加したお茶会にはクリスティーナも参加予定だったらしい」

「は!? え、何それクリスティーナの危機察知能力で危険を回避したってこと?」

「いや、妹は前日の夜から体調を崩して当日は欠席だ」

「……」


 偶然……だろうか? これが普通なら『運が良い』で済ませるだろうが、騎士s達が母から受け継いだ能力は魔王様も認めるほど。

 いきなり『行きたくない』では誘った相手も気分が悪いだろうが、前日からの体調不良ならば仕方がないと思うだろう。事前に連絡を入れるくらいはするだろうし。

 

「それでな、妹がかなり落ち込んでいるんだ。見舞いがてら何か異世界の甘味でも作ってやってくれないか?」

「どうも一緒に行く約束をしていたらしくてな……『一緒に行っていれば』と思っているらしい」


 それは落ち込むだろう。ましてクリスティーナならば尚更に。

 確かに今の状況ならば身内に騎士がいたり、その繋がりのある令嬢は誘拐犯が避ける可能性がある。

 騎士sとしても立場上ある程度の情報は持っているから『そんなことはない!』と完全に否定することはできないのだろう。

 で、私に話を振ったと。勿論、単純に『慰めるスイーツお願い』という気持ちで。相変わらず良いお兄ちゃんだな、君達。


「構わないけど見舞いがてら話を聞くことになると思うよ? それならば魔王様も許可を出すと思う」


 情報不足の中、この好機を逃すということはない。魔王様の指示というだけではなく私もそうする。

 だが、クリスティーナは体調不良の中そういった話をしてもらわなければならない。ただでさえ落ち込んでいる子に結構酷なことだと思う。元の世界だと中学生やってる歳だしなー、あの子。

 さすがに騎士sも言葉に詰まるが、それも一瞬のことだった。一度顔を見合わせた双子は再び私に向き直り、『騎士の顔』で承諾するように頷いた。


「……。そう、だな。大丈夫だ、クリスティーナだって協力するさ」

「妹だって早く解決されることを願うだろう。被害者のことを案じているんだ、少しでも役に立てるかもしれないと喜ぶと思うぞ」


 騎士sも思うことはあるのだろうが、笑みを浮かべて口々に言う。その笑みが少々無理をしているように見えなくもないが、彼らとてこの国の騎士。優先すべきものが何かは理解できているらしい。

 そんな二人を見て私も笑みを浮かべる。彼らの願いに対する承諾であり、共犯者――実家の使用人達には批難されるかもしれないね――としての笑みを。


「それじゃ、魔王様に許可取りに行こうか」


 そう言って立ち上がると、魔王様の執務室に向かうべく足を進める。当然、騎士sも同行だ。

 さて、思いがけない『幸運』は事件解決の第一歩となるか?

魔導師六巻は十月発売予定となっております。

詳細は公式HPに掲載され次第、活動報告に載せますね。

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