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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ゼブレスト編
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協力者との顔合わせ

「遅くなりまして申し訳ございません」


 優しげな声と共にドアが開き、部屋に新たな協力者が入ってきました。

 一人は黒髪に灰色の眼をした綺麗なお兄さん。纏う雰囲気は冷徹+殺意+苛立ちです。

 見るからに切れ者という感じなこの人が宰相でしょうね。

 ルドルフと同列一位の被害者と聞いてますよ。

 あと一歩で冷酷さを習得しそうですが……他人事ながら大丈夫だろうか?


「ご無事で何よりです」


 穏やかな口調の美青年が私達を認め安堵の笑みを浮かべた。

 最初の声はこの人か。服装からして騎士なのでしょう。

 青みがかった銀髪は長めのショート、水色の瞳は温かな印象を受けます。

 あれ、色彩的にこっちの方が魔王様より冷たく見える筈なんだけどな??

 宰相も綺麗ですがこの人の顔はイルフェナの変人どもと良い勝負ですね。


 異様に綺麗+有能=変人(=壮絶なマイナス要素あり)


 ……。

 一瞬、嫌な予感が脳裏を掠めましたが忘れることにします。

 ええ、ここはゼブレストですからね!

 変人の産地じゃありません、ルドルフは普通ですから!


 最後は赤毛のお姉さん。

 男二人がかなり人目を引く容姿なので目立ちませんが、この人も美人さんです。

 背が高く凛々しい印象を受けますが、キツイ感じはしません。

 頼れるお姉さん、といった感じ。この人もきっと有能なんでしょう。


「嫌な思いをさせたな。ミヅキ、彼等が最後の協力者だ」


 ルドルフが彼等に労うような視線を向けた後、私に向き直る。


「まず宰相のアーヴィレン。基本的には俺と行動を共にしてるからあまり協力者にはならないと思うが」

「初めまして、ミヅキ様。アーヴィレン・クレストと申します」


 軽く一礼して視線を合わせられる。

 あー、目が『役に立て、結果出せ』と言っている。

 私も視線を逸らしませんよ、こういうものは目を逸らした方が負けですからね。


「ミヅキといいます。貴方の視線に怯むような弱者を『演じる』つもりはありませんよ?」

「これは……失礼を。そういう意味ではないのですが」

「お気になさらず。私は自分の役割を理解していますから」


 そう、私が演じるのは女達の戦いに身を投じる健気なヒロインじゃないのです。

 ハイエナと化したアホどもを葬る為に魔王様より遣わされた配下A。

 上司も怖けりゃ我が身も可愛い、この世界の常識無視の魔導師なのですよ!

 魔王様とその配下どものバックアップがあって負けるとか許されませんから!

 本音が駄々漏れしてる私の心を察したのか、宰相様は軽く目を見開くと冷たい美貌に微かな笑みを浮かべました。


「さすがイルフェナですね。天才・鬼才の巣窟と言われるだけはあると期待させていただきます」


 おい、間違うな。

 天才・奇才・変人の産地だ、あそこ。別の意味で普通じゃないから。

 ……ですが。


「頑張らせていただきますね」


 にこり、と無邪気に笑い返しておく。

 とりあえず今は夢を壊さないでいようと思います。

 ごめーん、魔王様。私の行いで化けの皮が剥がれるかもー?


「そっちの騎士はセイルリート。護衛をしている騎士達の上司で一応将軍だ」

「将軍? 随分と若いね」


 この人が護衛の統括してるっぽい。

 いや、でも二十代で将軍て若過ぎないか?

 実力至上主義なら十分ありえるけど、それにしたってねぇ?


「セイルリート・クレストと申します。お察しの通り家柄を考慮しての役職ですよ」

「すみません、声に出てましたか」

「いえ。誰もが思って当然のことだと思いますし」

「ミヅキ、お前正直過ぎ」

「自分に正直過ぎてゼブレストへ島流しにされた私に言う?」

「……。すまん」


 ルドルフにはこれまでの事情を説明してあるので理解が早い。

 他の面子は不思議そうに首を捻っているけど、言うつもりはありません。

 ……あれ、『クレスト』?

 私の疑問に答えてくれたのはセイルさんじゃなく宰相様でした。


「セイルは実力を認められて将軍位についていますよ。でなければ従兄弟といえど認めることは致しません」

「本当だぞー、ミヅキ。セイルは騎士連中に尊敬されまくってるからな」


 ……その顔で騎士を目指したから自衛の為に強くなって気が付いたら最強、とかいうオチじゃあるまいな?

 野郎どもの憧れの的……それは本当に尊敬だけか?


「ゼブレストの騎士達は皆努力を厭わないのですよ。私などすぐに追い抜かれましょう」

「それ以上に努力して今の地位にいるんだろうが」


 呆れ顔で「謙遜するな」と暗に告げるルドルフと頷く宰相様。

 この二人が認めてるってことは家柄関係無しに実力者ってことか。

 ならば私も先程の失礼な態度を謝罪しなければ。


「えーと……失礼なことを考えてすみません」

「お気になさらず……って、ミヅキ様!? 頭を下げたりなさらずとも……っ」

「いえ、私の気持ちの問題です」


 ええ、私の気持ちの問題です。

 勝手にBL的展開を想像して実に申し訳ない。

 ごめん、マジですまんかった。心の中で土下座しておきます。

 実力を疑う以上にこっちの方が大問題ですね! 気付かないままでいてください。


「ミヅキ様は誠実な方なのですね。貴女を御守りする任を与えられたことを光栄に思います」

「セイルは基本的にお前の護衛な。何かあったらセイルに言ってくれ」

「護衛? セイルさんを私に付けちゃっていいの?」

「家柄と顔目当てでセイルにも寄ってくるから適任だ!」


 明るく言い切るルドルフにセイルさんも苦笑している。

 餌か。餌なのか、将軍。

 宰相様ー、貴方の主が何か黒いですよー。


「適任ですね。本来ならばクレストに逆らうことは許されない身分のものばかりですから」

「いくら騎士だって言っても家柄考えたら不敬罪だよなぁ?」

「それも踏まえて罪を重くするつもりです。頭の足りない輩には理解できないでしょうがね」


 ……宰相様も同類でした。しかも利用する気満々ですね!

 空気を読んで貝になります、私。


「最後はエリザ。俺の乳兄弟で彼女がお前専属の侍女になる」

「エリザ・ワイアートと申します。宜しく願いしますね、ミヅキ様」


 おお、笑うと更に美人度アップです!

 リアルメイドさんですよ〜! 眼福です!!

 ウェーブがかった赤毛を一つに纏めたエリザさんの瞳は明るい茶色。是非とも着飾ったところを見てみたいものです。

 内心大はしゃぎの私にエリザさんは笑いかけると「ところで……」と切り出してくる。


「ミヅキ様。厨房を使用なさりたいと伺いましたので隣室に簡易のものを御用意しましたが……ご自分でお使いになるのですか?」

「ええ、そうですよ。毒殺を警戒して毒見を置くのも嫌ですし」

「それはそうですが……」

「趣味なのでお気になさらず」

「ミヅキは料理できるぞ。あ、俺もこっちに来た時は頼む」

「了解。基本的に部屋にいる人全員分作るから」


 エリザさんはまだ納得いかないようだがルドルフが後押ししてくれる。

 実はこれも事前に決めていたことだったりする。

 護衛三人とエリザさん、そして自分なので問題なしです。

 この国の料理は知らないけど食事事情改善も狙ってますよ!

 それに……毒が盛られるという状況ってやっぱり慣れません。

 自分で作っていれば防げる事態なのです、自分の為にも自炊でいきます。


「さすがに大変では?」

「材料はこの部屋に置くし、保存や冷蔵が可能な鍵付きの箱を持ってきてますから」


 他にも調味料各種所持。この国の特産でもある乳製品もガンガン使うつもりです。

 そして帰る時にはこの国の特産物を詰めて持って帰る!!

 この世界、移動や運搬が基本的に馬車なので腐り易い物は高い。

 港があるイルフェナでさえ、バターやクリームは貴族の食べ物です。

 逆にいえば酪農が盛んな国なら庶民にも手に入る。

 どうりでスイーツ系が無いと思ったよ……素材自体が高級品じゃ無理ですな。


『特産物欲しい!』

『好きなだけ持って帰れ、ついでに何時でも融通しよう!』


 こんな馬鹿なやりとりが公式の書面に書いてあるんだな、今回。

 祝・高級食材無料で確保ですよ! まともに買ってたら破産する。

 騎士sには『食い物に釣られて命を賭けるなんて馬鹿か、お前はー!!』と怒られたけどさ。


「ミヅキの料理は美味いし変わってるぞ? 期待してる」

「期待に応えられると思う♪」


 異世界の料理ですからね、とは言わない。

 レシピを幾つか残しておけばルドルフが率先して広めると約束してくれている。


「そうですか、ならば何も申しません。改めて宜しく願い致します」

「宜しく、エリザさん」

「エリザとお呼びください。貴女様の侍女ですので」

「そうですね、私の事もセイルと」


 改めてお辞儀し合う私達をルドルフは満足そうに見つめていた。

 仲良く過ごせそうです、こちらこそ宜しくね。



 ええ、宰相様が主と私達を眺めながら微かに瞳を眇めていたとしても。

 私達は『仲間』なのだから気にする必要なんて――ない。

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