憧れと現実
――処罰当日(シンシア視点)
「何故……私がこんな目に……」
現状に嘆こうとも与えられるのは侮蔑の視線ばかり。誰もが『陛下の顔に泥を塗った面汚しどもが!』と吐き捨て、侮蔑の眼差しを向けて来る。
数日前まで自分に向けられる眼差しは憧憬が殆どだったのに。そう、数日前までは……。
……。
いや、違う。一方的に嫉妬と決め付けてしまったが、中にはそうではないものも含まれていた。
今思えばあれが私達のしてきたことを知る者から向けられたものだったのだろう。
嫌悪、憎悪、そして……怒り。
騎士だからこそ、女性だからこそ許せぬという無言の訴え。
だが、と思う。
私は貴族ではないか。陥れた者達は全て私よりも格下だ。そしてそれは貴族社会において珍しいことではない。
何故、私達ばかりが裁かれなければならない?
何故、こんな仕打ちを受けなければならない?
私と……貴族達との違い、は。
一つ一つを思い出す。そして……ようやくあることに思い至った。
――あの女。
イルフェナの魔術師。あの人の婚約者だという憎たらしい女。
あの女がイルフェナからの客だから。あの人に……あんなにも大事にされ、笑顔を向けられているから……!
許せない、と思った。罪も処罰も家も……この国がイルフェナにどう思われようとも構わない。
一矢報いたい。ただ、それだけ。それにどうせなら……。
「……っ、おい!」
嘆くだけの者達など知らない。私は力の限り拘束する腕を振り払って走り出した。
先ほど耳に挟んだ騎士達の会話から、あの女が何処にいるか判っている。そこにあの人……ジークフリート様がいるということも。
「一目でもいい、どんな形でもいい……!」
あの人の目に認められたい。あの女に一矢報いたい。
私を動かしたのは、それだけだった。
※※※※※※※※※
「これで良かったのでしょうか、セリアン様」
コツリ、と靴を鳴らして現れた宰相補佐に『シンシアを追うこともせず見送った』騎士が声をかける。
「仕方ないでしょ。父上……宰相閣下の指示なのだから」
そう言ってセリアンは深々と溜息を吐いた。
何のことはない、全ては仕組まれていたことなのだ。
ジーク達の情報を漏らしたことも、わざと逃亡させたことも全て宰相閣下の狙いどおり。
『欲しい情報を与えられた猪はどうするでしょうね? 周りを見ず、疑うこともせず、目的に向かってただ走るのでしょうか』
少しでも反省していれば何も起こらないでしょうね――そう言って笑った父の姿に、呆れると共にセリアンは背筋が寒くなる。
父は……怒っているのだ。
王の顔に泥を塗ったことも、ジークを言い訳に使うことも、古い友人の誇りを踏み躙ったことも!
少しも許すつもりなどなく、徹底的に理解させるために敢えてこの茶番を用意した。
「ジーク達は当然手加減しないでしょうけど、あの小娘も、ねぇ……」
セリアンの脳裏に思い浮かぶのはイルフェナの『魔導師』。あの娘はこのことがバレても怒ることなどしないと確信できる。彼女にとってこれは娯楽なのだから。
彼女は報復を躊躇わない。
彼女はシンシアを認めることはない。
そして彼女は……自分の狭い世界を壊す者を許さない。
随分と自分勝手で恐ろしい思考の持ち主なのだと、セリアンは理解していた。逆に言えばその狭い世界に該当する者達は最強の味方を得ていることになる、ということも。
自分はどちらに属するのだろうかと、ふとセリアンは思った。様々な意味で拘わりたいとは思うが、それはミヅキ次第。
「とりあえず今度ゆっくり話をしてみようかしら。異世界の料理にも興味があるし」
野良猫を手懐けるよりも遥かに大変そうだ、と思いながらもセリアンには笑みが浮かぶ。彼はクラレンスの友人であり、立派に同類なのだ。
無意識に異世界人を『異端』ではなく同列に扱い、単純に能力評価する程度には。
※※※※※※※※※
あの騒動から数日後。
現在、クラウスと共に騎士の詰め所にお邪魔していたり。持ち運びが簡単そうな軽い机とか椅子が幾つか置かれ、私はその一つに座っている。
そして目の前には今回の報告書。イルフェナだけではなく、カルロッサにも理解してもらわなければならないので目を通してもらっているのだ。
なお、割と広い部屋なのでジークに理解ある同僚の皆様も何人か同席している。彼らは今回の騒動のカルロッサ側の協力者でもあるので、これも仕事扱いだ。
そして彼らが私達と一緒にいるもう一つの理由は、本日加害者達に処罰が下るからであったり。なにせ顔をジュッとやられるのだ……逆恨みした加害者達が逃亡して報復、なんて展開を防ぐ意味での隔離です。
意図せずとも騒動の発端になっているので、ジークは加害者達に姿を見せて刺激するなという意味でもあるだろう。
普段ジーク達はどちらかといえば城の外での任務をしているらしい――他国の者が詳しく聞いたりはできないので曖昧だ――のだが、今回は私の護衛としてここに居る。あの騒動が起きたからカルロッサ側が誠意を持って対応する、という意味もあるだろう。
うん、適材適所ってやつですね! ジークは脳筋、余計な揉め事を起こさないようにするためにも魔物や盗賊の討伐とかやってた方がいい。
今は……魔導師の監視という扱いだ。実際、ジークが守護役なら当然の義務なんだし。
「……というわけでな、ノーラ殿が詫びていた」
「随分とまともな親族がいたんですね、親がアレな割に」
「そう言ってくれるな。一応、色々言ってはいたみたいなんだけどなぁ」
キースさんから『シンシア嬢の祖母が詫びていた』ということを聞き、私の中でシンシア嬢の評価は更に下がった。
いやいや、人の話……ていうか憧れのお婆様の話くらいちゃんと聞いてやれよ。てっきり身内は全員、彼女の味方かと思っちゃったじゃないか。
ただ、お婆様に関してはその状況を聞くと同情する面もある。離れて暮らしている上に現当主に意見できる夫がすでに亡くなっているならば、彼女の言葉など聞き流されてしまう可能性が高い。
まあ、一番悪いのはシンシア嬢本人だが親も同罪だ。フェアクロフとの繋がりと娘の幸せという野心のままに行動してしまったのだから。
少なくともカルロッサではそう認識される。今後も家が残される以上は醜聞がいつまでも付き纏う。
「で、何でシンシア嬢達はそんな御伽噺みたいなことが現実になると思ったわけ? 英雄譚に憧れるのも五歳までって言った奴がいるから、そこまでお花畑思考なのも珍しいというか」
「何て冷めた五歳児……誰だ? それを言った奴」
「ルドルフ。ゼブレスト王やってる」
やや顔を引き攣らせたビルさんに答えると、微妙な空気が漂った。
「いや、それは……比較対象が悪いっていうか……」
「ミヅキ、あの国は色々大変だったんだから」
シンシアをフォローするようなことを言うキースさんとアルフさんはもう少し温い思考をお持ちらしい。
そうかー? 御伽噺なんて魔法世界であっても現実には無理だと判りそうなものだけど。元の世界なら誰でも知ってるシンデレラも相当だしなぁ?
ぶっちゃけシンデレラって記念受験ならぬ記念舞踏会というチャンスを物にした女の成り上がり物語だと思う。硝子の靴は十二時過ぎてもなくならないんだしさ、魔法使いとしては記念品扱いだったんじゃないのかい?
そもそも魔法使いは『舞踏会を楽しんで来い』くらいしか言ってないような。『王子の妃に選ばれて来い』なんて言ってなくね!? つまり魔法使いさえ期待してなかった、と。
ま、それが普通だ。元々良い家のお嬢様だったとしても、下働き扱いされていた以上は自分を磨く暇なんてないだろうし。現実的な目をお持ちです、魔法使い。
それでもハッピーエンドになったのは相手の王子が『靴の合う女性を探す』というトンデモ思考――普通に顔見て探せよ! と何人が突っ込んだことだろう――の持ち主だったから。
シンデレラを見てるのが王子だけじゃないんだから、似顔絵ばら撒くとか情報提供を求めるのが一般的だと思うのですよ。魔法使いも吃驚の、予想外の展開だったんじゃないかね?
あれは靴が合うのがシンデレラしかいなかった、という普通では考えられない事態が起きたからこそ可能だっただけだ。該当者がシンデレラ一人というのはまず考えられないもの。
そこで顔立ちが大人びた少女とかが靴を履けてしまったら、一気に王子様はロリコン扱いですよ? 年齢制限設けてない限り十分ありえる。様々な意味でドン引きだな、王子様!
……あれ? 冷静に考えるとそんな王子と結婚したシンデレラって本当に幸せ? 今後の苦労もあるというのに。
……。
色んなヴァージョンがあるし、御伽噺を現実的に考えちゃいけないねっ!
「まあ、この国だから……ってのもあるんだ。実際、フェアクロフの初代は『一般的には』物語のような展開で婚姻したらしいから」
いまいちシンシア嬢の思考に納得できない私を見かねたのか、フォローを入れるキースさん。
そういえばフェアクロフ家の成り立ちってのを聞いたような。
「あ、それ聞いた。ところで何故『一般的には』って強調するの、キースさん」
「世の中には知らない方が幸せなこともある。それが全てだ」
「……」
「それ以上聞くな。考えちゃいけない」
……英雄も脳筋だったとか、そういう裏事情があるってことですか!?
イルフェナに突撃かました現フェアクロフ当主は元王族。もしやあの勢いを持った王女にかつての英雄は狩られたんだろうか。英雄が脳筋だったら外堀埋められて絶対逃げられなさそう。
微妙な表情になる私にキースさんが素敵な笑顔を向けた。
「昔のことを気にしていたら前に進めないぞ」
「ソウデスネ」
触れられたくない歴史なんてどこの国でも抱えているもの。私は何も気付かなかった!
「ところでな、俺も一つ聞いていいか?」
「何でしょう?」
「その状態は……」
代表するかのように尋ねるキースさんはとっても複雑そう。お仲間達も敢えて何も言わなかっただけなのか、疑問を口にしたキースさんを勇者と崇めるような目で見ている。
現在の私の状況:ジークの膝の上。
何のことはない、いつもの説教される時の状態です。
ただし、何故これがそんな風に使われるのかを知らなければイチャついているようにしか見えないわけで。
「ミヅキを逃がさないため、もしくは拘束する時にはこうするぞ」
「は?」
無表情にクラウスが告げると、周囲は一斉に訝しげな表情になった。
職人よ、言葉が足りぬ。もう少し詳しく話さなければ誰が聞いても意味不明だ。
つん、と服の裾を引っ張ると言葉の足り無さに気がついたのか、軽く溜息を吐いて続きを話し出す。どうやら解説が面倒だっただけな模様。
「魔法は対象を目で認定する。特にミヅキの場合は重要だ。この状態で拘束している相手……ジークを狙うならば自分も巻き込まれるだろう」
「あ〜……まあ、そうなるだろうな」
納得したように頷くキースさん。ええ、思いっきり巻き込まれます。私の魔法ってこの世界の魔法みたく対象だけが攻撃を受けるとかじゃないもの、巻き添えは確実です。
ただ、クラウスはそこまで言うつもりはないらしい。『視界に入らないから対象認定できないんだよ!』で誤魔化すようだ。
「なるほど、お嬢ちゃんは魔導師だからこそ警戒しないわけにはいかないのか」
「国の要人と会う場合もあるからな。親しさに関係無く、そういった対応が取られていたかということが重要になる場合もある」
キースさん達は納得したような顔でクラウスの説明を聞いていた。
これは魔王様に会う時は必ずアルかクラウスが傍に居たり、ゼブレストではルドルフの傍にセイルが居ることからも窺える。守護役である以上は監視が義務であり、そして主達を私から守るという立場を明確にしているのだ。
危険人物を王族に会わせることが職務怠慢と批難される可能性だって十分ある。私が会わないだけであり、全ての人が好意的に受け入れているわけがない。
……まあ、この状態はもう一つの情けない理由があるから推奨されてるんだけどさ。
「何よりミヅキはこの状態では床に足が着かない。腕を回して拘束すれば転移でもしない限り逃げられん。その転移も現時点では短距離に限られている上、城では探知に引っ掛かるから迂闊に魔法を使うなと厳命されている」
「……床に足が」
「着かない……?」
「ほっとけ!」
クラウスの言葉に皆は私に視線を移し。
爪先と床の間にある明らかな距離に目を向け、私の顔を再度見て。
『ぶっ……』
噴出した。しかもほぼ全員!
いいじゃん! 生活の面では何の不自由もないんだから!
「も、問題児……っ……お前、確かにちまいもん、な……くくっ」
「人種の差です、性別の差です、骨格からして違うじゃんっ!」
「い、いや、可愛くていいんじゃないかな……っ」
「アルフさん、笑いながら言っても説得力ねぇっ!」
ほっとけ、マジで放っておいてくれ! ただでさえ平均身長が違うのだ、どう頑張っても差が出るに決まってる!
ま、まあ、その差が手足の長さという可能性もあるのだが。
「いいじゃないか、俺は全く気にしないぞ?」
ジークが笑みを浮かべながら慰めらしきことを口にするが、否定の言葉はない。
正直だな、脳筋よ。『自分の目から見てもそう見える、っていうか事実だね』と暗に言いたいのかい。
「ジーク……お前、一応自分が望んだ婚約者だろうに」
私と同じ結論に達したらしいキースさんが呆れた目を向けるが、ジークは不思議そうに首を傾げた。
「何故だ? 何か拙いことでも言ったか?」
「いや、正直過ぎるっていうか、もう少し言い方があるというか」
「よく判らんが、俺にとってのミヅキの評価はどの女よりも高いぞ?」
ぴたり、と周囲の会話が止み。誰もが驚いた顔をジークに向けた。
そして揃って『ジークはどんな奴か』を思い出し、次いでキースさんに憐れみの籠った目を向ける。
「ああ、うん……どうして近衛にいないのか何となく判った」
「そうかい。判ってくれたか、お嬢ちゃん……」
「言葉が足りない上に無自覚にさらっと言うから相手も誤解するんですね」
キースさんは頭が痛いとばかりに額に手を当てた。ご愁傷様です、お疲れですか? お世話係様。
一般的には『自分にとって最高の女性』的な意味に取られるが、ジーク的には『自分の足りない所を補う要素を持った人物、女性というカテゴリーにおいて最上位』。
ぶっちゃけ能力評価しただけです。『俺にとって』という言い方をするあたり自分に足りないものは理解しているみたいだけど。
なお、それを証明するのは非常に簡単だ。
「ジーク、じゃあ私とキースさんでは?」
「キースだな。長年の付き合いは簡単に超えられない」
即答。ほら、超簡単! 脳筋様は本日も平常運転、恋愛要素など欠片も無し。……あっても困るけどな、主にキースさんが。
と、その時――
「来るぞ」
短くクラウスが皆に伝える。即座に皆は笑いを収め、扉の方を見た。
今回、私達は宰相様から『ある可能性』を伝えられている。何故そんなことをわざわざ口にするとか聞いてはいけない、『案じてくれただけ』なのだから。
私もつい『そうなったら報復するので許して欲しいなっ』と強請り、快く承諾してもらっている。つまりこの件においてカルロッサに責任が発生しない。
暴れ方によっては私の方が拙いからね、裏取引みたいなものです。
「念話で通達が来た。そのうち来るんじゃないか?」
「あ〜……『何故、逃げ出せるのか』とか、『どうして聞かせるように情報を漏らしたか』って疑問に思わなかったんだ?」
「余裕がないんだろう、普通は気付くからな」
クラウスの言葉に納得。確かにシンシア嬢達の精神状態が不安定では仕方がないのかも。
即座に処罰されるのではなく数日かけてじわじわ恐怖を煽り、下された処罰はかなり厳しいっていう状態だもんね。諦めきってない限り、泣くか逆切れしかないだろう。
そんな時に私がジークと一緒に居るとか聞かされたら、ねぇ?
ジークの膝の上に座っているのは『来たら逆上するように仕向ける』という意味もあった。扉を開ければ正面に見える位置にスタンバイしていますともー!
軽いとはいえ机が隔てるように置かれているし、周囲にはキースさん達も居る。宰相様発案の罠はあくまでも『シンシア嬢の自業自得』となり、ジークに直接失望されることが狙いだ。
中々に素敵な性格をしてらしゃるようです、宰相様。本気が窺えます。
「んじゃ、皆は壁際に。この状態が良く見えるようにしてくださいな。巻き込まれると危ないし」
「お嬢ちゃん、本当に大丈夫か?」
「巻き込んで私が説教されるのヤダ」
「……ああ、お嬢ちゃんに巻き込まれるってことな。判った、存分にやれ」
呆れた顔になったキースさん達はさっさと行動を開始する。余分な椅子とかも片付けてくれたので、扉を開けたら『机を前に一つの椅子に座る私達』とご対面が可能です。
まさに至れり尽くせり。多分、ここに来るまで誰にも止められないことも含めて『罠です!』という無言の主張満載だ。
そんなことを考えていたら足音が聞こえ、勢いよく扉が開く。
そこには予想通りシンシア嬢。艶を失った髪を振り乱し、その目は正面の私達を捉えて益々憎しみを募らせる。
リアル修羅場です! わくわくの展開です!
残念な点は当事者全員、誰も恋人関係にないことだろうか。三角関係どころか『仕事です』で方がつく。一人盛り上がっているシンシア嬢には大変申し訳ない状況だ。
「どうして……貴女ごときがっ!」
そう言って手にしていた抜き身の剣――殺意を証明するために目に付く所に置いたんだろう。ところでその剣って本当に切れる? ――を振り上げて私に向かってくるシンシア嬢。ジークのことは見えていないのか、ただただ私に殺意を向けてくる。
……が。
「ていっ」
ジークの膝に座ったまま、ぱちりと指を鳴らす。狙いは目の前にある机、ただし私達側から引っ繰り返すような形でシンシア嬢へとぶちあてる。
下から空気の衝撃波を受けた机は当然――
「ぶっ!?」
バン! と結構派手な音がして机はシンシア嬢の顔面を直撃。ひらりと舞った紙をクラウスが無表情のままキャッチする。……あ、報告書乗ってるの忘れてた。
一瞬でついた決着にキースさん達は唖然とし、ジークさえも軽く目を見開いている。
「え〜と? お嬢ちゃん、今のは……」
「私の世界にある『ちゃぶ台返し』っていう伝統の技。机を相手の方に向けて勢いよく引っ繰り返す」
微妙に違うが完全に間違いではない。ついでに言うなら技かどうか怪しいが、知名度だけはあるので攻撃方法の一つという解釈でいいだろう。
「なるほど、勢いのある相手には有効だな。武器ではないから咄嗟の判断だったことにすることも可能か」
素直に感心しているのはジーク。『最初から狙ってたわけじゃないの、向こうが突っ込んできたからつい手が出ちゃったの、自己防衛です!』という手として使えると判断したようだ。
そして哀れなシンシア嬢へのコメントは当然無い。
私はジークの膝を降り、呻いているシンシア嬢へと近付く。結構勢いよく当てたからかなり痛かったらしく、未だ手を顔に当てたままだ。
「言ったでしょう? 『ジークは貴女を必要としない』って。貴女が呻いていようともジークは欠片も気にしない、興味がないから」
「う、うう……」
「つまりジークにとって貴女の価値は攻撃方法以下!」
呻いているのか、泣いているのか、座り込んだままシンシア嬢は俯く。
まあ、女に負けるならともかく『ちゃぶ台返しに負けた』ってのは屈辱ですな。っていうか、そんなものに負ける奴はいないだろうしねぇ?
「お嬢ちゃん、地味に酷いな。わざわざ教えるのかよ」
複雑そうなキースさんの言葉は無視させていただきます。
※活動報告に魔導師五巻の詳細を載せております。
地味に怖い人、宰相閣下。ただし、反省していれば何事もなく終了でした。