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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
172/696

幼い憧れ

――牢にて(シンシア祖母視点)


『私、騎士になります! お婆様みたいな素敵な騎士に!』


 幼い頃、あの娘が無邪気に言った言葉を思い出す。

 それを聞いた時の私の口から出たのは微笑ましく思う言葉……ではなく。


『おやめなさい。今はもう女が剣を持って闘わねばならぬ時代ではないのですから』


 諌める言葉だった。しかも半分以上は建前だ。

 そもそもこの国が女性騎士を認めるようになったのは、キヴェラの脅威に度々晒されてきたからである。特に先代キヴェラ王は野心家であり、守りを強固にしなければならなかった。

 決して『憧れ』や『素敵』といった感情からではない。私達に血生臭い道を選ばせたのは偏に愛国心だったのだから。

 いくら代々騎士の家系だったとしても、男児が家を継ぐ以上は最低限の数がいなければ困るのだ。責務重視で家が途絶えるなど笑えない。

 私の場合は私を除けば弟が一人だけ。政略結婚の必要もない私だからこそ、家を、国を守るために騎士となった。

 勿論、それによる功績も欲しい……という下心がなかったわけではない。だが、その欲が厳しさを乗り越える糧となったのだから必要ではあったのだと思う。


 間違っても物語に出てくるような、素晴らしい存在ではない。

 女性が憧れだけでやっていけるほど甘い世界ではないのだ。


 なのに孫娘は私が騎士としてそれなりに強かったこと、夫と出会ったことなど、良い事ばかりに憧れ騎士になりたいという。

 そうではない、そんな幸運は滅多にないことなのだと言っても聞かなかった。

 その背景にはフェアクロフへの憧れもあったのだろう。少し年上らしいフェアクロフの三兄弟は、父親を王族に持つことからも将来が有望視されている。

 初代の恋物語、優秀な血統、そして見た目も良いとくれば、女性だけではなく歳の近い娘を持つ親達にとっても無視できない存在だったろう。

 そのせいか娘夫婦は我が子の無謀な願いを諌めはしなかった。いや、父親の方は喜んだ。『フェアクロフとの接触が他より有利になるだろう』と。


 愚かとしか言いようがない。

 フェアクロフが、あの家がそんな思惑を見抜けぬと思っているのか!


 そう諌めようとも、夫はすでに亡く私はひっそりと遠方で隠居生活を送る身。

 煩わしく思われ、接触を最低限にされてしまえば現当主である娘夫婦の方が強いのは当然だった。

 娘は……私が騎士だったころの姿を知るからこそ、己が娘の願いに喜んだのだと思う。娘に甘い母親だからこそ、という面もあっただろうが。

 令嬢でしかない娘は剣など持ったことはない。武器を持つ者の覚悟、その厳しさなど知る筈もないから正しい判断ができなかったのだろう。

 私達夫婦は意識して家庭にまで血生臭い話を持ち込まなかった。それがこんな形で影響するなど、考えもしなかった!

 深々と溜息を吐く。旦那様に申し訳が立たない、そしてあの子の被害にあった者達にも。


「……こちらのようです。私もお傍に付いていましょうか?」


 控えめにかけられた声に顔を向ければ、長年仕えてくれた執事が気遣わしげに私を見ていた。

 この男も夫に恩を感じて、生涯仕えると言ってくれたのだ……今回のことも本当に情けなく思っているのだろう。


「いいえ、大丈夫です。私は家の恥と正面から向き合わねばなりませんから」


 はっきりと拒絶し、前を向く。付き添いの騎士に導かれてやって来たのは牢、その一角。

 薄暗いそこには先ほど捕縛されたばかりの『罪人』が粗末な毛布に包まって俯いていた。その正面までやって来ると、中にいる罪人に声をかける。

 

「……顔を上げなさい、シンシア」


 ゆっくりと顔を上げた孫娘はいつもの自信に溢れた表情ではなく、憔悴し怯えを漂わせていた。


「お婆様……」

「この、愚か者! 騎士でありながら陛下の顔に泥を塗るとは……どこまで思い上がっていたのですか、お前は」


 びくりと肩を竦ませるも、唇を噛んで俯くシンシアから反省の言葉はない。その姿に私は益々失望を色濃くする。


「お前が憧れたのは権力を振り翳し、気に入らぬ者を陥れる罪人なのですね。ならばこの結末も満足のいくものなのでしょうか?」

「ち、違……っ」

「物語ならば悪役ね。罪を裁かれ、全てを無くし、家さえ貶めた……そうなってさえ言い訳ですか? 本当に性根の腐った、醜悪な存在に成り果てたこと」


 罪の自覚さえないのですから。そう暗に付け加えると、シンシアは初めて私と目を合わせてきた。

 そこに浮かぶのは後悔ではなく、苛立ち。屈辱ゆえか、それとも私の言葉に苛立ったのかは判らないが、それでも未だ自分の罪を素直に認める気はないようだった。

 ……先ほどの断罪の意味を未だ理解できていないのだろう。その果てにもたらされるものは決して温い処罰ではないというのに。


「貴女は……いつだって私を認めようとはしなかった。どれほど周囲に認められても、騎士になると言った時さえ……!」

「認めるものがないのですから当然でしょう」

「え……」


 即座にそう返すと呆けた表情になるシンシア。私は更に言葉を重ねてゆく。


「お前は所詮、騎士に憧れただけの貴族令嬢でしかありません。己を律する厳しさや立場に伴う責任を少しでも理解できていれば、このようなことは起こさなかったでしょう」


 反論できず、シンシアは黙ったまま。これまでの時間全ての否定と思っているのだろうが、それが全ての元凶なのだ。


「お前は両親に甘やかされ何不自由なく育ちました。そんな幼少期を送った者に立場を何より優先し、人に尽くす側の騎士など務まるはずはない。女だから、という意味ではありませんよ? どんな家も嫡男以外は家を出て身を立てねばならないからこそ、騎士になる者が多いのです……簡単に家に戻れるお前とは意識が全く違います」


 跡取り娘の婿となる場合もその家の未来の当主とならなければならないのだから、ただ安穏と暮らせるわけではない。家の歴史を背負うという重責が待っているのだから。

 だが、シンシアはそうではない。『後がない』のではなく『いつでも戻れる』という甘えが前提だ。

 しかも両親が味方しているので、家の力など使い放題だっただろう。親としても可愛い娘を苦労させたくないという思いがあるのだから。


「周囲に認められたというのも見た目の美しさが主な理由でしょう。お前が個人的に任務を任されたことがないというならば、それは能力の無さを見抜かれていたからに他なりません。実家が煩い令嬢に怪我などさせるわけにはいきませんものね」

「……!」


 『それなりの強さ』と『見た目の美しさ』と『家の力』。シンシアに味方していた者はそれらを総合して評価していた節がある。特に『美しい女性騎士』は物語の登場人物を見るような感覚だったのかもしれない。

 この国には王女と英雄の恋物語があるのだ……そういった憧れ前提で見るならシンシアとジークフリート殿は似合いに見えたことだろう。そんな周囲の認識が余計にこの子を思い上がらせた。

 思ってもいなかったのかシンシアは絶句した。だが、それが現実だ。

 改めてシンシアの容姿に目を向ける。実力至上主義でいくならば、任される仕事は強い者ほど危険が伴うものになるだろう。そうなると手入れの行き届いた髪や肌を保つなど不可能に近い。

 まあ、その美しさを武器に情報収集などする場合は手入れにも時間をかけるだろうが。ただ、その場合でも令嬢として十分とはいえないだろう。明らかに差が出てしまう。

 少なくとも手だけは無理だ。日頃の鍛錬も含めてほっそりとした指など保てない。さすがにシンシアも指は武器を持つ者の手であったが、それ以外のものは随分と手入れがされている。

 ……この子の思い描く女性騎士とは見た目も重要視されるものらしい。騎士としての己を磨くことよりも、それは重視されるべきものなのか。


「お前は時々私に姿を見せに来ましたね。その度に私は『やはりお飾りの、騎士の真似事か』と失望していました。比較対象となるのが私自身なのですから」

「それは、どういう」

「物事の考え方でしょうか。怪我は治せてもそれは経験となり、騎士としての生活も令嬢としての甘えを叩き直すものとなる。お前は変わりませんでした。今回のことも『自分の方が上位だ』という認識が根底になければ起こさない……それは『貴族としての認識』なのですよ」


 貴族としての意識を持ち込めば当然揉め事が起こる。騎士という同列に自分を置けないからだ。

 シンシアも令嬢なりに努力はしたのだろうが、家の介入があったことから本当に厳しい状況にはならなかったのだろう。それがシンシアの『騎士として努力した』という認識を歪めている。


 一年ほど身分を全く考慮しない状況に置けばよかったのだ、たとえ命の危機になろうとも。

 そうすれば残るか辞めるか選ぶ良い機会となっただろうに。

 

「それに……私が認めようとしなかったというならば、お前は自分以外を認めることはしていたのでしょうか。自分や自分が憧れる者だけではなく、それ以外の人の努力を認めることができていましたか? いえ、できていないからこそ踏み躙ることができたのでしょうね」


 考えるように俯くシンシアに溜息を吐く。今更だ、反省したところで処罰の手が緩むはずもない。

 何より……今後は加害者達だけではなく、親達も醜聞と好奇の視線に晒されるだろう。逃げ場などないのだ、誰にも。


「一つだけ教えてあげましょうか、シンシア。私はね、先ほどの光景を魔道具を使って見ていたのです。昔から付き合いのある方が『知っておくべきだ』と仰ってね」


 思い出したのか、シンシアは顔を歪めた。それが屈辱なのか恐怖なのかは判らない。


「ジークフリート殿も映っていたわ。彼は貴女の様子など一切気に留めていなかった。陛下や婚約者の言葉には誇らしげな顔をしていたのにね。……美しかろうと惨めな姿だろうと関係ない、ただ罪人という認識だけ」


 改めて突きつけられた『現実』にシンシアが震える。だが、この愚かな娘に自分の価値を知らせる意味で伝えておかねば永遠に気付けない。


「ジークフリート殿はフェアクロフの血が強いもの、本質など即座に見抜くでしょう。それに……彼は貴女が思い描くような存在ではありません。先ほどのことからも判るでしょう?」


 『自分にとって価値のないものには無関心』。彼はおそらくそういう人だ。

 でなければ嫌悪の表情を浮かべるくらいはするだろう。それさえも、ない。嫌悪の感情があったとしても『陛下の顔に泥を塗った』という認識ゆえ。

 女性として意識されなくて当然だ。彼にとってはそれ以前の問題だったのだから。皮肉なことに敵として初めて認識されたのだろう。


「哀れな子、愚かな娘。お前が騎士として本当に立派だったならば見抜くことができたでしょうに」


 それはジークフリート殿だけではなく、婚約者だというイルフェナの魔術師に対しても言える。

 彼女は言葉によってあの場を操った。勿論、陛下達も許していたことが大きい。だが。


 笑っていた。自分のしていることを自覚しながらも、それを楽しんでいた!


 気付いた時は心底恐ろしいと震えが来た。そして疑問に思ったのだ……あれは本当に魔術師か、と。

 きっとあの娘は戦場においても冷静に最良の方法をとることができるだろう。加害者達の対応を見ながら自身の言葉を選び、追い詰めてみせたのだから。

 決められた言葉を読むのではなく、その場で考え、煽り、おそらくは国の望む方向へと持って行った。それも被害者になりかけた者の権利として。

 どう考えてもその言動は年頃の女性ではあるまい。一時とはいえ、陛下や宰相閣下と共闘してみせる人物が『優秀』という言葉で片付くとは思えないのだ。

 

「シンシア、貴女達は……『何』に牙を剥いたのでしょうね?」

「え?」

「ジークフリート殿の婚約者……婚約者? まさか……」


 不意に浮かんだ可能性に、じわりと不安が広がる。

 私の独り言にシンシアが反応するが、私はそれどころではない。恐ろしい予想に背中に冷たいものが伝う。

 『婚約者』。その括りがもしや『守護役』というものだったとしたら?

 英雄の家系、しかもその血を色濃く引き継ぐ強者であるジークフリート。彼ならば適任といえる。

 非常に仲が良いと聞いていたから、今までその考えに至らなかった。だが、それを意図的に演じ本来の立場を隠していたとしたら……。


「皆に伝えなければ……」


 加害者の縁者達にこの可能性を伝えておかなければ。

 どのような処罰だろうとも異を唱えてはならないと、情を見せてはならぬと警告を。

 もしも私の予想が正しかった場合、国の処罰は彼女を納得させる意味でもかなり厳しいものとなるだろう。そうしなければならない相手だ。

 陛下を含む皆様が魔導師の怒りを押さえてくださったとしても、抗議などすれば無駄になってしまう。

 その場合、標的となるのは国だ。現に噂の魔導師はキヴェラという国を相手にしたのだから!


「お、お婆様!?」


 呼びかける困惑した声に気付き視線を向ける。言いたいことは言った、後はこの子が処罰を受け入れるだけ。そしてこれからを反省と後悔に費やすのだろう。


「私と会うことはもうないでしょう。己が愚かさをしっかりと反省するのです。いいですね、シンシア」


 それだけを告げて足早に立ち去る。後は本人次第……何より未だ国からの処罰は言い渡されていないのだ。これ以上話をしたところで、あの子は言い訳しか口にしないだろう。

 待っていた執事に手短にその可能性を話すと、さすがに絶句した。今後下される処罰次第では皆に連絡を取らねば……そんなことを思っていた帰り際、運良くある青年を見かけ声をかける。


「……キース殿?」

「え? ああ、もしや……バートレットの」

「はい。シンシアの祖母です」


 相手は一瞬戸惑ったようだが、すぐに私が誰か判ったようだ。彼はフェアクロフ家や宰相閣下とも親しいと聞いている。ならば情報として知っていても不思議はない。

 何より彼はジークフリート殿の幼馴染だったはず。『彼女』と一緒にいるところを見かけたとも聞いているから、私の疑問にも答えてくれる可能性が高かった。


「此度のこと、本当に申し訳ございません。孫が御迷惑をお掛けしました」


 深々と頭を下げると、キース殿は困ったように笑う。


「頭を上げてください。そういえば、貴女がかつて優秀な騎士だったと宰相閣下から聞いたことがあります。そうか、彼女は貴女に憧れて騎士を目指したのか」

「昔のことですよ。数少ない女性騎士の一人として当時の王妃様をお守りしていただけですもの」


 それでも当時の誇らしさは今でも覚えている。きっと死ぬまで消えることはない。

 そして私は姿勢を正しキース殿に視線を合わせた。キース殿も何かを感じたのか表情を引き締める。


「お伺いしたいことがあります。ジークフリート殿の婚約者という魔術師殿……彼女は魔導師ではないのですか?」

「何故、そんなことを?」

「私は先ほどの謁見の間の様子を他の部屋で見ていたのです。昔馴染みが呼んでくれましてね。その様子を見る限りどうしてもただの魔術師には見えないのですよ」


 私が騎士であったと知っているせいか、キース殿は視線を逸らし沈黙した。その様子にやはり、と思う。

 公表しないのは陛下のご意志であろう。ならば彼とて迂闊にばらすことはできない。

 だからその態度で……沈黙するという形で教えてくれている。その予想は正しい、と。


「……申し訳ありません。もう十分ですわ」


 深々と溜息を吐くとキース殿が小さく頭を下げた。それに気にするなと微笑み、軽く会釈して再び足を進める。重苦しい空気のまま、私達は帰路に就いたのだった。



※※※※※※※※※


――ある部屋にて(キース視点)


「どうした、キース」


 部屋に戻るなり溜息を吐いた俺に気付いたジークが声をかけてくる。他の奴らも何かあったのかと、こちらを窺っていた。


「いやぁ、あの女……シンシア嬢の祖母殿が誰かに呼ばれたらしく来てたんだけどさ」

「ああ、親まで今回の件に拘わってましたからね。保護者枠で呼ばれましたか」


 アルフが即座に反応し、そう口にすると皆の間に『気の毒に』といった空気が流れた。

 女性騎士は数が少ない分、優秀であればそれなりに話に残る。バートレット家の前当主夫妻は二人揃って近衛を務めた数少ない例としてそれなりに知られていた。

 ある意味、憧れの存在といえるのだ。イルフェナでさえ夫婦揃って近衛となるなど滅多にないことなのだから。

 まあ、イルフェナはこの国以上に女性が近衛になることが難関であり、誇るあまり女性側に結婚願望がないという事情もあるだろう。夫婦というより良き好敵手であり仲間といった認識が強く、恋愛方向に発展しないのが原因だとか。


「で、何で副隊長はそんな顔してるんです?」


 ビルの問い掛けに俺は再度溜息を吐く。突然のことに対応しきれず、無言の肯定ともいえる態度をとったことを思い出して。


「お嬢ちゃんが魔導師じゃないかって言われてな……多分、バレてるぞ」


 ただ、ミヅキの本性まではバレていないだろう。単純に魔導師を世界の災厄として捉え、恐れ慄いたのではないかと思う。

 

 いや、実際その方が何倍もマシな気がするのだが。


 何せあのお嬢ちゃんは自分が囮役だろうと娯楽として楽しんでいた。これでおかしな真似をしようものなら、遊んでくれるのかとばかりに次の手を打つに違いない。

 イルフェナの魔導師殿はかなりの問題児なのだ……『正義? 何それ美味しい?』という台詞を素で吐く奴に恩情などを期待する方が間違っている。

 基準は『どうやったらより楽しくなるか』という一点のみ。頼むからここで例の拷問紛いは止めてくれと切に願っている。


「バートレット……ノーラ殿か。それならば気付くだろうな」

『え!?』


 続いたジークの言葉に俺を含めた全員がジークを見た。見なくても判る、全員が驚愕を浮かべているのだろう。対してジークは自分の言葉にうんうんと頷いている。


「ジーク? お前、ノーラ殿のこと知ってるのか?」


 暗に『情報として知る機会があろうとも、他人のことなんて記憶に残ってたのか!?』と尋ねれば、ジークは事も無げに頷いた。


「ああ。近衛まで上り詰めた女性は数が少ないし、当時の王妃様からは絶大な信頼を得ていたと伯父上から聞いたことがある。強く、誠実な方だったとか」

「伯父上……ああ、宰相閣下のことか。いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな。……お前、ちゃんと覚えてるんだな?」

「女性ながら尊敬できる先輩だと思うぞ?」


 さらりと答えるジークが嘘を言っているようには思えない。本心からノーラ殿のことを認めているらしかった。自分の価値観に引っ掛かってさえいれば情報として覚えているらしい。


「あの女、これを知ったら発狂沙汰だろ」

「ビル、わざわざ言いに行くのはやめようね」

「止めるってことは、お前もそう思ってんじゃねえか!」


 ひそひそと周囲で繰り広げられる遣り取りを聞きながら俺は思った。

 ――お嬢ちゃんがここに居なくて良かった、と。

ある意味、原因となってしまった祖母によるお説教。

彼女が早々に『喧嘩を売った相手は魔導師』と気付いたので、国からの処罰に抗議する者がほぼゼロ。彼女を事前に呼んだのは上層部の一人。

タイトル別名、『シンシア嬢、祖母に負ける』。騎士としてジークの価値観に引っ掛かってました。

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