最良の協力者とは
謁見の間はかなり酷い状態になっていた。
いや、酷いのは転がっている連中だけなんだけどさ。普通は『身も心もボロボロになった全裸に近い状態の罪人』なんてものは王の御前に来ないから。
言うまでもなく元凶は私なので、そのことについては後ほど魔王様からお小言があるかもしれない。
勿論、罪人に対する人権云々ではなく『王の御前で何してやがる!』的な意味で。
あの人の中では転がってる罪人どもなんざ、最初から娯楽というか課題扱い。カルロッサの対応を見るための餌です、餌。
「我が国の恥というだけではなくイルフェナへの対応も検討せねばならんな」
「そうですね。温い罰では我が国の質を問われましょう。一度この者達を牢に繋ぎ、処罰を新たに検討せねばなりませんね」
王と宰相様が冷めた目をして話し合う。これを聞き、事情を知らぬ人達も事態の重大さに顔色を悪くした。
『処罰決まってたんだけどさ、それだけだと絶対に納得しなくね? あの国の客人襲ったし』
『一度牢にぶち込んで処罰再検討せにゃアカンだろ、嘗めた対応したら〆られるのは国だ』
意訳するとこんな感じだろうか。イルフェナ、もとい魔王様の恐怖が前提となっているので、事情を知らぬ人達がビビるのも間違いではない。『質を問われる』なんて優しい対応では済まないだろうよ。
今回の目的を考えてもしっかりとした対応が必要だ。誰が聞いても納得する理由の裏付けとして、わざわざ口に出したと思われる。
ただ……処罰をより重くするために、この場でこんな言葉を交し合った気がしなくもない。
少なくとも罪人連中にとっては処罰の言い渡しが延期された上に重くなるのが確定という、大変嫌な展開になったのだから。
「連れて行け! ……ああ、人目につくようにな」
王の言葉に騎士達は奴らを無理矢理立たせて連れて行く。しかもスタンバイしていたのは近衛、異常事態だろうと誰の意向だったのかは察しがつくはずだ。
その光景に私は自分の予想が当たっていたことを確信する。
……告知する前に連中の惨めな姿を城中――これは予想だが――に見せる、ね。餌か、連中は。
そんなことを考えていたら、宰相様は私の様子に気がついたらしい。いつの間にか事情を知っているらしき者達だけを残し、後は下がらせている。
そして私を再び王の前へと呼んだ。話し合い、というより状況確認がしたいらしい。
私としても求められる役割がある以上は、彼らと今後の確認をしておきたかったので好都合だ。
「すまなかったな、ミヅキ殿。役目とはいえ馬鹿どもが迷惑を掛けた」
「お気になさらず。何より……未だ決着は着いておりませんので」
「ほう?」
謝罪する王に対し少々意味深な言葉遊びを。
私の言葉に王と宰相様は目を眇め、面白そうな顔になった。
「私が望まれた役割は彼らの排除だけではなく、その先。いえ、最も排除しにくい者達を排除するお手伝いでしょう?」
「おや、何故そう思うのでしょうか」
暈した言い方をすれば宰相様が即座に乗ってくる。カルロッサからすれば今回のことは私の見極めも入っているので、正しく理解しているのか確認したいらしい。
私は一つ頷き、与えられた情報から導き出した『ある憶測』を口にする。
「連れて行かれた連中の排除だけならば簡単です。確かに囮を使ったり、家を潰すという方法にはなるでしょうが、それで国の上層部が動けなかったとは思えない」
まず一つ。あまりにも小物なのだ、あの連中。
これでもう少し狡猾というか、犯人が判らないようにするならばともかく、誰が見ても怪しいのは奴ら。
実家の権力という守りはあるだろうが、上には上が居る。国の上層部が証拠と共に『正義』として断罪すれば、やらかしたことのクズっぷりも含めて処罰に異を唱えるのは無理がある。
「敵の姿が見えているならば別件を仕立て上げて拘束し、余罪として同時に処罰ということも可能です。こう言ってはなんですが、あの連中を処分する術ってありますよね?」
二つ目。この件のみで処罰する必要はない、奴らは国にとって不要なのだから。
これならば被害者の身分が低かろうとも、罪の一つとして組み込める。
そして……国が動いているからこそ、こういった方法が取れるだろう。優先すべきは国であり、時には正義を『仕立て上げる』。この人達、特に宰相様にそれができないとは思えなかった。
「このことから消去法で該当者を減らしていきます。同時に厄介な立場にある者、という条件も加わりますね。まず、先ほどの加害者達は論外です。次に彼らの実家も今この場に居ないということは『政において重要ではない』と推測されます」
ここまで合ってますか、と聞けば宰相様は頷いた。確認事項の会話というだけではなく、私の見極め役はこの人らしい。
……心配してくれたのも本心だけど、以前の会話の中に脅しも入ってたな。そこで乙女らしくクラウスを頼ったりすれば、さぞ私の評価は残念なものになったことだろう。
まあ、これは仕方がない。『魔導師』という存在は酷く曖昧な認識なので、本当に脅威となるのかが判らないのだから。
「残ったのは野次馬として事件を見ていた傍観者達。そしてその中でも無条件に彼女達の言い分を信じた者が最も危険視されるべきであり、処罰できぬ存在です。罪は犯していない、けれど盲目的なまでに噂に踊らされる『城の住人』を放置はできない」
「……。何故そう思います?」
探るような声音で問う宰相様に、私はにこりと微笑む。
「私は噂を使ってキヴェラを翻弄しました。冷遇映像だけではなく、城の住人から流された『情報』によって王都は本格的に混乱した。『自分達より近い者からもたらされる情報ならば真実なのかもしれない』と思い込む傾向にあっても不思議はないでしょう?」
冷遇映像だけならば噂の範囲で済んだかもしれない。だが、そこに城の住人から王太子妃逃亡なんて『冷遇が事実と思わせるような』追加情報がもたらされた。
その結果、相乗効果で夢が『真実』として人々に浸透した。噂の情報源によっては十分脅威だ。
「盲目的に信じる者が多数いる人がこんなことを言ったらどうなるでしょう? 『王太子殿下は不義の子だ』、『王には隠された子がいる』……噂で済むと思います? しかもそれを城で働く者が出入りの業者や民間に話せばあっという間に広まりますよね。噂を元に証人を仕立て上げて『真実だ』と言い出す輩が出るかもしれません」
人は『特別な立場』に弱い。特に自分にとって価値がある人から「ここだけの話だが」と言われて明かされた秘密ならば、ついつい自慢したくなる気持ちも働くだろう。それを利用されたら……?
宰相様はじっと私を見つめている。笑みを浮かべた表情の中で目だけが笑っていない。
周囲も黙って聞いているあたり、私に好きなだけ話させるということで話がついているのだろう。喩えだろうとも問題発言だものね、今のは。
「もしや、あの者達をあんな姿にしたのは意味があったのでしょうか?」
「『歓迎』の『御礼』ですよ。ただ……あんな姿を目にすれば彼女達のために抗議したり、これまで積み上げてきた信頼が崩れ失望する人が出るかもしれませんね?」
「……いる、でしょうね」
暫し考える素振りを見せた後、宰相様は軽く溜息を吐きながら肯定した。頭が痛いと言わんばかりの姿に、私の予想は間違っていなかったのだと悟る。
大変ですね、中途半端に罪人予備軍がいるって。
「私はイルフェナからの客人ですから、カルロッサとしても『厳しく』対処しなければならない。彼女達への対応に抗議してきた輩には『これまでの証拠』を見せた上で、『噂に踊らされ被害者を貶めた者も共犯者』として処罰が望めるのでは? イルフェナの手前、これ以上の問題を起こさせるわけにはいきませんもの」
「そうですね。抗議して来た者は捕らえるとして、それとは別に貴女が画策したと責める輩が出るかもしれません。……貴女には迷惑をかけてしまう可能性があります」
煽った影響は免れないと、申し訳なさそうな表情になる宰相様。
対して私はパチン、と指を鳴らしていい笑顔。
「あら、面と向かって喧嘩を売ってくれれば最高ですね! 先ほどの行動ですでに手打ちになっていますが、改めてカルロッサに抗議させていただきますよ。王が納得しているのに思い込みで私を責めるなんて、十分叱責される理由になりますし」
クラウスとジークを引き連れていたことも女性達の僻みを増長させているでしょうしねぇ?
そう楽しげに付け加えると、宰相様が呆れた顔になる。
「貴女は……あの連中を煽るためだけではなく、その後のことも考えてやっていたんですか。確かに嫉妬する輩は多いでしょうけど」
「ふふ。餌は大きい方が良いでしょう? 未だ魔導師という情報は伏せていますから、絶対に釣れますよ! 守護役は国の決定、それに抗議するなんて何様なんでしょうねぇ? 謝って許されるのかしら?」
僻んで嫌味を言ってくる人にとっては『嫉妬からの個人的な意見』だろうが、私からすれば『国の決定に文句を言われた』ということになる。
煽ったなんて言われませんよ、日頃から説教が守護役達の膝の上に固定されてのものだと知られているもの! 十分誤魔化せます、カルロッサ上層部も私の味方です。
事の重大さに慄け! それ以上に自分を恥じろ! ついでにそれが日常と化している私を憐れんでくれ……色々な意味で。
「貴女はよくてもクラウス殿は協力してくれるのでしょうか。彼は貴女の護衛ですし、そんな『遊び』に乗ってくれるか判りませんよ?」
魔王様の直属、という意味で宰相様はクラウスがそんな馬鹿な釣りに付き合ってくれるとは思わないらしい。
まあ、護衛として居る以上はそう思うよね。私がカルロッサに抗議するような出来事――批難されたり、言いがかりをつけられたり――を起こさせないようにすることも仕事のうちだ。
特にクラウスは無表情なものだから、そういった馬鹿は即座に黙らせるタイプに見える。
――だが。
「じゃ、聞いてみますか。クラウス、暫く私とイチャついて。ついでに時々姿を隠したり、事情を聞いてきた連中に『被害者を更に傷付けるなんて最低だ、そいつらも十分共犯だろう』と憤る姿を見せてくれると嬉しい」
「……」
クラウスは無言。場所が場所な上、護衛という名目なので職務放棄と捉えられる可能性があるからか。
私とてそれは理解している、理解しているとも!
「魔王様からの命令は最優先、必要事項として協力を求む」
「……まあ、そういう言い方もできるが」
「ためになる異世界のお話」
「承知した。保護者には自分で説明しろよ」
『え゛』
はい、あっさりOK! 『個人的な我侭』じゃ無理でも『お仕事であり、必要なこと』なら動いてくれるさ。
それに魔王様から『私のやり方を向こうに知らしめることも目的である』、『最良の決着がどんなものかは君に任せる』って言われた時にいたものね、クラウス。黙ってただけで。
元々護衛というより魔王様に付けられたサポート要員のようなものなので、利用できるものは顔だろうと家柄だろうと利用させていただこう。
騎士としてではなく個人的なこと――顔とか家柄――の利用なので本人の同意が必要なのだが、クラウスならば楽勝だ。私は黒騎士限定で十分交渉できる要素を備えているのだから。
そして彼は本日も平常運転、職人らしく異世界の知識で釣れました。
唖然としているカルロッサの皆様には大変申し訳ないのだが、これが私達の日常です。利害関係の一致は素敵な絆。
お手軽です、魔王様も実はそれを見越して同行者を選んでないか? 魔法に対する解説役云々とは言っていたけどさ。
「ず……随分とあっさり許可しますね!?」
「私の協力者という意味での同行でもありますから」
「いや、それとは別の意味で承諾したような」
「気のせいです」
「え……」
「気のせいです。私達は仲良しです、頼り頼られの関係なのです、素晴らしき哉、利害関係の一致!」
「最後は違うと思いますよ……」
そうは言っても私達はこれが日常だ。
キヴェラのこともレックバリ侯爵に釣られた結果なんだけどなぁ?
「では、本当にそれでいいのですね?」
呆れと諦めたっぷりに確認してくる宰相様にも笑みを浮かべて頷く。
「叱責で済む程度の連中は引き受けますから、抗議して来た共犯者はそちらに任せても?」
「勿論ですよ。処罰についての抗議ならばこちらに来るでしょうし、逃がす気はありません……徹底的に刈り取らねば。内部に残すわけにはいきませんからね」
確認の意味で尋ねれば、宰相様が力強く頷いた。役割分担が決まったようだ。
漸く処罰できる体勢が整った宰相様は笑みを浮かべているのに何だか怖い。ちらりと視線を走らせた先の王も意味深な笑みを浮かべていたり。
では、ちょっくら毒を追加してみましょうか。
「徹底的に糾弾された後に自分を被害者にできる『言い訳』を与えたらどうなるでしょうね?」
王と宰相様は揃って興味深そうな視線を向けてきた。クラウスの片眉が上がる。
クラウスよ、その『今度は何をするつもりだ』的な視線やめい。そしてジークは何故に目をキラキラさせているんでしょうね?
……英雄予備軍様、もしやマジに今回の騒動の加害者一同嫌い? 本能で嫌ってた?
「『あいつらに踊らされなければ、罪人になることも周囲の冷たい視線に晒されることもなかったのに』って」
意味が判ったのか、「ほう」と呟き今度は王が乗ってきた。
「ああ、確かに気の毒だな。しかも奴らは『家が潰されたわけでもなく』、『家に守られて引き籠っている』のだから。その者達の目には随分と優遇されているように見えよう」
「ですよね。今までとは逆に『自分は利用された』って言い出すかもしれません」
「周囲に訴えるかもしれんなぁ……盛大に。結果として奴らの悪行を知る者が多くなる」
にやり、と笑い合う私達は悪人の方が似合うだろう。あの連中が利用した噂という武器を、今度は私達が追い詰める手段として使おうというのだから。
「噂は時が経てば消えるでしょう。ですが、一度得た情報は人の中に残る。自分も被害者だと思っている者達が免罪符として口にする限り、完全に消えはしません」
「今後、こちらにとって不都合な噂が流れた際は『噂を利用した事件があったこと』を思い出させるか。噂に踊らされ、処罰された者達がいたことを思い出せば愚かな真似はせんだろう」
「そうなったら、かつて噂に踊らされた者達は自己弁護に必死になるでしょうね。そして必要以上に貶められても、あの加害者達は動けない……周囲の冷たい目は彼らの血縁へと向く」
噂のループは今後使える警告となる。無責任な噂が蔓延しかける度に『同じことを繰り返したいのか』と今回のことを出せば、人々は慎重にならざるを得ない。
同時に人々は過ぎた出来事を思い出し、再び噂するだろう。
家に閉じ籠っていようとも、それは本人だけ。血縁者達はいつまでも好奇の目に晒され続け、その憤りを当事者達に向けるだろう。しかも奴らは逃げられない。
「心に深い傷を負った被害者がいるのですから、それくらいの報復は構いませんよね?」
「報復? おかしなことを言う、罪を犯したゆえの必然であろう?」
「そうでしたね、申し訳ありません」
笑い合う私達に周囲は諌めるどころか顔を見合わせ、満足げな表情を浮かべている。
どうやら『毒』は気に入ってもらえたらしい。加えて私も合格点を貰ったと見てもいいだろうか。
「貴女は随分と毒を秘めた方なのですね、その外見と功績に似合わず」
「私は善人だと名乗ったことも、自分をそう思ったこともありませんよ?」
事実を告げれば、「失礼」と言いながらも宰相様は小さく笑う。
「褒め言葉ですよ。我々のような立場の者にとっては最良の協力者ですね……ジークのことも安心して任せられそうです」
宰相様から微妙な褒め言葉を貰いました。やはりこの国も必要なのは結果を出せる者であって、正義を叫ぶ善人じゃない模様。
ジークに関しては……キースさんが善良方向だからだろうな。さすが保護者代理、よく判ってらっしゃる。
必要な情報は出揃った。今日はこれで終わりだろう。
……ああ、一つだけやっていないことがあった。
「少しいいですか?」
「ふむ、なんだね?」
唐突に声を掛けたのだが、王は即座に返事をしてくれた。何かあったのかと、周囲が少しざわついている。
「先ほどの事、いくら協力者といえども王の御前での振る舞いとしては問題です。私はこの場で謝罪はいたしません。イルフェナへの報告の際に落とし所としてお使いください」
「いいのかね? こちらは多大な迷惑を掛けたと思うが」
意外そうに王が聞いて来るが、笑って頷く。
「今回の決着は私に一任されています。ならば『双方貸し借り無し』という形を選びます。今回は特殊ですし、それが最良かと」
ぶっちゃけますとカルロッサで起きたあれこれよりも、私の方が問題だと思います。
あれを報告したところで誰が被害者と認識するのだ、下手にイルフェナへの借りにされて後から突かれるよりも『お互い様だから貸し借り無しねっ!』と片付けてもらった方がいい。
魔王様も理解してくれるだろう。なに、その後の説教で済めば安いもの。
「……そうか。それでは、そうさせてもらおう」
「お気になさらず」
こちらこそ感謝です。心の声には気付かないままでいてください、微妙に疑いの眼差しを向けて来る皆様。
「それでは奴らの処遇は暫く再検討中ということにして時間稼ぎをするか。皆もそのように取り繕ってくれ」
そんな王の言葉と共にその場は解散となったのだった。
……その後。
クラウスとジークという『見た目と家柄だけなら優良物件』で釣りまくった結果、過ぎる暴言を吐いた者はキースさん達によって宰相様へとドナドナされ。
それ以外は美形二人による『連中の言い分を信じて被害者を追い詰めた奴って最低!』『唐突な醜聞を疑いもせず信じるとは粗末な頭だな』といった言葉に漸く現実を理解したらしく、顔面蒼白になる者が続出。
女性陣は優良物件に嫌われた――今後も十分な影響があるということも含めて――という認識からだろうが、男性陣はカルロッサやイルフェナの有力貴族から嫌悪されるという恐怖からである。後者の方が色々ヤバいだろうな、これは。
私も『ジークという婚約者がいるのにクラウスまでキープするとは何事!?』とばかりに絡まれたりしたのだが。
『割り込んだのは自分であり、クラウス殿のことも納得している』
と、ジークが馬鹿正直に言ったので撃沈したのは相手の方だった。
うん、嘘は言ってないよね。守護役っつー、単語が抜けてるけど。多分、ジークは欠片も悪気なんてないだろうけど。
なお、宰相様達の方もかなり順調に『共犯者達』を捕獲できたらしい。
捕らえた後は徹底的にやらかしたことの酷さを理解させ糾弾し、ボロッボロにした後さらりと飴を投下。洗脳紛いの飴と鞭により、見事『自称・被害者(笑)』へと仕立て上げたらしい。
未だ元凶どもが処罰を受けていないのも大きかったのかもしれない。
そして下準備が一通り終わった頃――
『利き腕を使えなくした上で、顔の一部に火傷を負わせる』
という処罰が加害者達に言い渡されたのだった。
騎士としての道を閉ざし『一生残る傷』を別の形で背負わせ、生きている限り己が罪を忘れることができないそれは……今後の時間があるからこそ、かなり惨酷な罰だろう。
しかも処刑ではないので恩情を掛けられたように見えるし、見た目だけならば変わりはない。あくまでも『使えないようにする』という処罰なのだ。
まあ、本人的には切り落とされた方がまだ諦めはつくのかもしれない。失ったなら剣を握れないどころか、動かぬ腕を目にすることもないのだから。
魔術によって暗示紛いをかけられるのか腕の腱を切るのかは不明だが、いきなり利き腕が使えなくなるので精神的にも辛かろう。
しかも治癒魔法のある世界、これまで簡単に治せていたからこそ怪我をしても同等の不自由さなど味わったことはあるまい。
罪人で、腕が不自由で、顔には醜い火傷の跡。貴族である以上、醜聞もいいところだ。
なお、顔の火傷の跡は『火傷を負わせて治癒魔法を使わない』という単純なやり方らしい。……単純だがエグい。
暫くは痛むだろうし、女性としてそんな顔で生き続けるのはどれほどの苦痛か。
「実家に引き籠るんだ、今後の生活面で何の不自由もないからできる処罰だろうな」
とキースさんは言った。そのことを踏まえて罪を忘れぬような苦痛を与えるのだと。そこに国の上層部の怒りが透けて見えるのは気のせいではないだろう。
彼らは自身の身をもって、国というものの怖さを思い知ることになるのだ。
厄介だったのは別の存在。
魔王殿下はキヴェラを翻弄した主人公ならば見抜くと思ってました。
詳しく伝えなかったのは教育者としての愛の鞭。