愚かさの代償
謁見の間には王だけではなく主だった貴族達が集っていた。妙に顔色が悪く落ち着きの無い連中は加害者達の親か何かだろう。
こちらの捕縛以前に城へと呼ばれていたようだが、内容までは告げられていなかったらしい。連れて来られた己が身内を目にした途端、顔面蒼白だ。
加害者が連行されて即座に謁見の間、なんて普通ではありえない。その意味するところは明白。
つまり――断罪の場なのだ、しかも王直々の。
拘束されている上にこの状況。どんなに鈍くてもここまでやれば気付くだろう。現に加害者どもは随分と顔色が悪い。
私はクラウスの傍に控え、とりあえずは王の裁きを聞く。……『カルロッサの対応』を被害者兼他国からの協力者として見届けねばならないのだから。
すぱっとやっちゃってくださいよ、王様! これがイルフェナへの評価に直結しますからね!?
「さて、何故こうなったか……改めて説明せねばなるまいな。貴様らの騎士にあるまじき言動、我らが気付かぬと思っていたならば随分と見縊られたものよ」
よもや若造どもに侮られるとはなぁ? そう言って笑う王の目は全く笑っていなかった。
連中にその自覚があったかは不明だが、王の言っていることは事実である。しかもそれが他国にバレているのだから『嘗めてんのか、貴様ら』と言いたい気持ちもあるだろう。
うんうん、このアホどもに侮られるって屈辱ですな。直接馬鹿にされるよりムカつくよね!
「気に入らない者を卑劣な手で貶め、挙句に自らの心奉者達を使って噂を流してまるで被害者に非があるように見せるとは。本当に性根の腐った連中ですね」
王への忠誠心など皆無なのでしょう、そのような真似ができるのですから――そう告げるのは宰相様。どうやら王と二人でいたぶる作戦らしい。加えて上層部の総意と思わせる効果も狙っていると見た。
そこへ数名の男達が王の前に進み出て、みっともなく懇願する。
「陛下! どうか……どうか御慈悲を! このようなことを仕出かした愚か者ではありますが、娘達はこれまで国のために尽くしてまいりました。その功績に免じて慈悲を与えてやってはいただけませんか」
処罰が自分達にも降りかかる可能性がある彼らも必死なのだろう。
言い方は悪いが、これまでならそれで許される可能性があった。被害者達の身分が彼女達よりも低い、という理由から。身分制度が邪魔をする。
相手が貴族だとしても勢力争いによる報復だと言い訳されれば、彼女達を重く罰することは難しかっただろう。
過去に同じ手を使った者達が罰せられていない限り、今回のみ処罰というわけにはいくまい。その場合は我が身可愛さから擁護する輩もいそうだ。
探られると困る暗部はどの国だって抱えている。
この男達もそれを判っているから甘く見ていた節がある。本格的に拙い相手なら娘達を諌めたと推測。今回は私の立ち位置が全く判らなかったからこその暴挙なのだろう。
何かあってもカルロッサという『国』が自国に不利にならぬよう動く、という思惑もあったに違いない。
まさか私がイルフェナからの協力者だとは思わなかったんだろうな〜……普通は隠すもんね、こんな恥。
「……と、彼女達の親が言っているのですが。ミヅキ殿はどう思われます?」
にこりと微笑んで私に話を振る宰相様。その目は明らかに『ご自由にどうぞ!』と言っていた。私にも玩具を譲ってくれるらしい。
……相当ムカついているようです、この御方。私の性格を知っているのに投げたよ、いいのか!?
ちらりと王に視線を向けると王も厳しい表情のまま頷く。そうか、いいのかい。
最高権力者の許可が出ました。んじゃ、参戦といきますか!
「幾つかお願いしたいことがございます」
「ほう。申してみよ」
私の考えが読めなくとも興味を引かれたのか、王が頷いた。それを確認し一度感謝を込めて礼をしておく。
「一つは私がこの場を騒がせる許可を。もう一つは今この場で私が何をしても許して欲しいのです」
「ふむ、自分の手で報復したいのかね?」
早速、『異世界人凶暴種』な方向に捉える王に微笑むことで誤魔化す。報復という意味もあるが少々違う。
「さて、どうでしょう? ですが先ほど随分と楽しい『歓迎』をしていただきましたので、私も『お礼』をしたいと思うのです」
当たり前だが『歓迎』はさっきの出来事。こういった言い方をすれば……
「なるほど。貴女は被害者ではなかった、と言いたいのですね?」
宰相様が即座に乗ってきた。王は瞬きを一つすると楽しげに笑って頷く。
「はは! それは許さねばなるまいなぁ……礼をせぬままでは心苦しかろう。よい、許そう」
「ありがとうございます」
周囲の貴族達が怪訝そうな顔をしているのは当然だろう。優位になる立場を手放す、なんてイルフェナという国の特性からは考えられないのだから。
……が。
皆さん、逆ですよ。ぎゃ・く! 連中を盛大に貶めるための下準備としてこちらが一歩下がる必要があるのだ。
その後は下がった分どころか、めり込む勢いで蹴飛ばす気満々ですぜ? さて、続イベントと参りましょうか!
私は拘束された者達、特にシンシア嬢に向きながら提案する。
「まずは彼らの拘束を解いてください。ああ、武器も返してくださいな」
私の言葉にざわり、と周囲がざわめいた。そんな人々に向かって私は笑みを向け告げる。
「ここには誇り高いカルロッサの騎士達が貴い方々をお守りするために控えております。何も心配は要りませんよね?」
「そのとおり。皆も『知っている』だろう? 我が国の騎士は腐ってなどおらぬ!」
私の意図を察した王が即座にフォロー。『カルロッサの騎士はこの馬鹿どもと同類じゃないよ!』という、王様直々のお言葉です。この言葉こそ、これから必要なのだ。
王の言葉に連中を押さえつけていた騎士達が顔を見合わせ、それでも王の意思に従うべく拘束を解いて取り上げていた武器を渡す。
連中は……全員が困惑した表情だ。ま、これは当然だろう。
「先ほどの続きをしましょう。私は貴方達を攻撃する。貴方達は避けることも防ぐことも可能、何より貴方達が一撃でも私に入れることができたら、私は貴方達の罪の軽減を願い出る。どうです?」
勿論、イルフェナからのお小言も含まれますよ、と付け加えるとさすがに宰相様も困惑を滲ませた。
クラウスは僅かに片眉を上げ、周囲は呆気にとられる人続出。ジークは……何故か楽しげだ。
「それは本当なのかしら?」
「勿論。少しなら我侭を聞いていただくことが可能なのですよ、私は」
シンシア嬢が疑い深く問うてくるのにも、しっかりと頷く。
嘘は言っていないとも、そもそもこの件自体が娯楽扱いだ。魔王様の『我が国はどのような結果だろうと一切関与せず』というお言葉もあるしね。
『馬鹿過ぎて利用価値が無い』とは言わん。通常の外交とは目的が違うのだよ、目的が。
自信たっぷりに頷く私に安堵した――ここが王の御前ということもあるだろう。偽りは許されない――シンシア嬢は武器を構える。そんな彼女を見て他の者達も武器を手にし出した。
良いぞ、良いぞ♪ イベントは盛り上がりがなければならん!
周囲の人を巻き込む気は無いので、私は彼らの方へ足を進め。彼らは私を囲むようにじりじりと動く。
シンシア嬢としては私に一発入れたい気持ちの方が強そうだ。いつの間にか殺意一杯に睨んでいるもの、処罰される前にせめて一撃と思っている感ありありだ。
楽しげな私とシンシア嬢の視線が混じり、やがて彼女が動く。同時に他の連中も動いたのは相変らず私を侮っているからだろうか。魔術師は複数を同時に相手にする接近戦が特に苦手、というのが定説なのだから。
だが――
「な!?」
シンシア嬢の武器は私が居た所を『正確に捉えていた』のに空振りするだけに留まり。彼女の困惑した声に動きを止めた人々もまた、私の姿が無い事に困惑した表情となった。
そして、私は。
「鬼さん、こちら♪」
彼らの背後に転移魔法で出現した私は、楽しげに歌うと指を鳴らして空気の刃を向ける。
彼らを下から突き上げた見えぬ衝撃波は両腕を砕き、衣服を切り裂き、手にした武器すら砕いて弾き飛ばした。一瞬の出来事にギャラリーの皆様も硬直。
殆ど衣服の役割を果たしていないボロきれを体に纏わせたまま床に転がる彼らの表情は驚愕、恐怖、苦痛が見事に混じったもの。
言葉を発することができず、状況把握もままならない彼らに向かって私は出来る限り無邪気に笑って一言。
「貴方達の負け」
ネタバレすると王様が話している間に『彼らの衣服』と『武器』に小細工して、いつでも効果が出るまでにしておいただけである。こちらの魔法で言うなら対象認定と詠唱が済んで『力ある言葉』だけを唱えていない状態だ。
衣服は繊維……つまり解体してしまえば糸となり布としての役割を果たせず、武器は金属なので分解可能。なにせ細かくし過ぎる解体を一度やっているのだ、あれより大雑把でも十分だろう。
どちらも大変イメージし易い上に相手がビビるので、逃亡旅行中に捕獲された時の手段として考えていた手だ。……武器無し、ブーツだけのほぼ全裸じゃ追って来れないよね、普通。
後はいつもの衝撃波なのだが、体を隠せないようにするため腕を狙った。相手に殺意ありまくりなので、こちらの強さを判らせる意味でも痛みは必要である。
つまり肩から腕への攻撃の影響で彼らは体勢を崩したわけですよ。ネタバレを知らないと衝撃波で服や剣までボロボロになったようにしか見えないので、術の複数行使は誤魔化せる。
「弱い、それに頭も悪い。でも、これではっきりしました……貴方達は『正規の騎士ではない』と」
「どういうことだ?」
私の言葉に即座に反応したのは王だった。周囲も言葉こそ発しないが訝しげな顔をしている。そんな彼らに向かって私は肩を竦めた。
「不思議だったのですよ。私が知るカルロッサの騎士と彼らではあまりにも差があり過ぎますから。ですが先ほど家が庇ったこと、そしてこの状況から彼らが『家の力で騎士になり、功績すら作り上げられたもの』だと確信しました」
ちらり、とシンシア嬢に視線を向ける。
「私は御前を騒がせることへの許しはいただきましたが、それは自分限定です。よって攻撃も私のみに許されたもの。罪を自覚しているならば誘いに乗ったりしませんし、何より非常事態でもなく王の御前で騎士が剣を抜きますかね?」
これは彼らへの報復というより『加害者達が正規の騎士ではない』と理解させるための茶番。まともな騎士なら私の挑発には乗らないだろうし、これ以上王に恥をかかせないためにも罪の軽減など望まない。
挑発に乗った時点で彼らには反省など皆無であり、騎士としてのあり方を理解していないのだと証明できる。
男達は騎士でありながら彼女達の家に雇われたといったところだろうか。手下なのか悪友なのかは知らないが、挑発に乗った時点で同類扱い決定。『逆らえなかった』という言い訳は通用しない。
「それに私は『イルフェナからの客人』なのですよ? 怪我をすれば国家間の問題になるでしょうねぇ。先に手を出したのは貴方達なのですから当然、正当防衛なんて言えません」
通常ならば私が怪我をすればカルロッサはイルフェナに詫びなければならない……逆も当然。今回が特殊なだけだ。
ただ、それを知らない人もいるので納得できる形にせねばなるまい。そういった意味で魔王様は課題と称したのだろう。
先に攻撃を仕掛けたのは相手、つまり魔導師だろうと私が被害者。寧ろ王に許可をもらっている上に正当防衛という点もあるので、彼らの怪我について私やイルフェナが咎められることはない。
とはいえ、提案したのが私なのでイルフェナもカルロッサに抗議などできないが。元凶が私だし。
協力者だろうとも他国の人間、好き勝手したければどちらの国にとっても不利にならないようにしなければならない。これも『やり方を私に任せる』という魔王様からの課題だ。
「フェアクロフとの繋がりを作るために娘を騎士に仕立てて功績を作って……ああ、この功績は貴女のお仲間だけではなく他の人からも取り上げているかもしれませんね?」
シンシア嬢と視線を合わせる。私の言葉に憤ったのか、その目には怒りや苛立ちといった感情が宿っていた。
「努力どころか自分を律することさえしてこなかった『騎士モドキ』。実際は国と騎士達に迷惑をかける我侭な貴族令嬢。だからジークは貴女を必要としないのに」
「違うっ! わ……私は努力したわっ!」
「貴女の自己申告なんて何の意味も無いけど?」
自身の努力まで否定されたシンシア嬢が悲鳴のような声で抗議するが、私は軽く首を傾げ王に向き直った。
「このような場を設けている以上はすでに調べがついていると思います。私の推測は間違っているのでしょうか?」
「いいや、正しい。そやつらはフェアクロフとの繋がり欲しさに送り込まれたに過ぎん。英雄に憧れる娘を利用した親にも責があるだろうが、被害者達に危害を加えたのはその者達……証言もある。言い逃れはできん!」
きっぱりと王は言い切った……『イルフェナの客人がいる公の場』で。それを聞いた彼女達の顔が絶望に染まる。これまでの自分なりの努力すら否定されて。
そしてその言葉は彼女達の実家が主犯のようにも受け取れる内容だ。処罰は確実に家にまで及ぶのだろう。
私は再びシンシア嬢に微笑む。
「ねえ、シンシア嬢? 貴方達は随分と勝手な理由で被害者達を貶めてきたよね。女性として辱め、これまで努力してきた姿を否定させ、そして……身分を盾に被害者達を泣き寝入りさせた。それって今の貴方達に似ていると思わない?」
「……え?」
痛みを耐えていた彼女は一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、やがて今更ながら自分達の現状が理解できたようだ。顔を赤らめどうにか体を隠そうとするが、腕全体をやられているのでどうにもならない。
「ああ、隠そうとしないで。人として最低の姿で牢まで行ってもらいたいの、多くの人目に晒されながら」
「な、それはあまりではっ」
「同じ女性としての情はないのか!」
言葉で、視線で、親達が批難をするが、私は顔さえ向けずに続ける。
「だって貴方達も同じ事をしてきたんだもの。理解できなかったんでしょ? それがどれほどのことか」
そこで言葉を切ってちらりと先ほど批難した男達へと視線を向ける。
「『情はないのか』ねぇ? ……じゃあ、少しだけ王様にお願いしてあげる」
実際はより最悪の結果になるだけなんだけどね――と内心呟きながら王へと近付く。王ももはや私が彼らを助ける気が無いと理解しているのか、面白そうな表情を隠そうとはしなかった。
「お願いを聞いていただけますか?」
「なんだ、申してみよ」
「加害者達の命だけはお助けください。家も潰すことは避け、格を下げるだけにしていただきたいのです」
そう言うと王は益々興味深そうに目を眇め、口元には笑みすら浮かんだ。……意味が判ったらしい。
それを確信し私も笑みを深めると王は一つ頷いた。
「そうか、そう思うのだな。よい、許す。『命だけは助け』、また『家を潰すことはしない』と約束しよう。なに、我侭を聞くことは私からの詫びだと思ってもらいたい」
「ありがとうございます。それから処罰後は修道院ではなく実家預かりにした方が宜しいかと。問題を起こしそうですから」
「そうだな、家を残す理由が必要だろう。責任を持って監視してもらおうか」
クスクスと笑う私に笑みを深めた王。周囲は意味が判らず困惑気味だが、この場で口を挟む者はいなかった。
側近達とて馬鹿ではない。王の様子から何か察するものがあるのだろう。
私達はシンシア嬢達に顔を向ける。加害者やその親達は罪を軽減されたかのような妙な展開に、怪訝そうな顔をしていた。
「私は貴女の努力も功績も『無かったこと』にして、女性どころか人としての『尊厳を踏み躙り』、唯一残った『貴族としての価値さえ落とす』」
「……!?」
唐突な暴露に彼女達が凍りつく。あまりな内容といえば内容だ、彼女達のこれまでを否定すると言っているのだから。努力してきた自覚があるならば簡単に受け入れられるはずはない。
「なんてね!」
故意に明るく声を出す。楽しげな私とは対照的に彼女達の表情は凍りついたまま。それでもまだ何か言われるのかという恐怖からか、視線は私に注がれている。
「ああ、そんな顔しないで。今のは『貴女達が本当に努力して騎士となっていた』っていう前提なんだから。最初からそんなものないじゃない! 無いものは失いようがないもの。それに」
一度言葉を切って王に視線を向け。
「この場でカルロッサの最高権力者が『そのとおりだと認めた』んだよ? だから『それが正しい』の」
王の言葉は重い。だから王族は己が言動に気を付けねばならないのだから。
私の言葉が徐々に理解できてきたのか、僅かに震えるシンシア嬢にもう一度告げてやる。
「貴女達は『騎士じゃない』、努力もせず家の力で騎士になったつもりだった『我侭な貴族令嬢』、『功績は作られたり誰かのものを奪っただけ』であり、処罰を受けるのは騎士としてではなく『国を貶めた貴族』として」
実際はそればかりではないのだと思う。英雄に憧れて騎士を目指すくらいだ、シンシア嬢とて努力はしてきたと思われる。ただ……『貴族のお嬢様にしては』とつくだろうが。
「処罰された後は実家に監視付きで軟禁、当然婚姻なんてできない。『貴女達の監視のために家が残される』のだから『貴族としての誇りある死』も無理。そして家が残る限り『多くの人の記憶に残り続ける』よね、醜聞として」
貴族にとって最も恐ろしい化け物は噂。しかも王に恥をかかせ、騎士達の名誉を地に落としかねないことをした彼女達が忘れ去られるなんてことはないだろう。教訓としても人は記憶に留めておく。
「後、その惨めな姿が話題になるわよねぇ? どれほど屈辱的だろうとも自業自得、その姿を見た人は衝撃のあまり『悪意無く噂する』でしょうね……下卑た噂も当然出るだろうけど」
クスクスと笑いながら告げる私に周囲の人々は驚愕と……僅かに恐怖を滲ませた表情だ。
表情の変わらぬ面子は『王は判っていて賛同した』と気付いているからだろう。寧ろ納得し、口元に笑みが浮かぶ者さえいる。
「騎士として、人として、女性として、貴族として、それ以上にこの国に属する者として。徹底的に否定され貶められた気分はいかが?」
「こ……こんなっ……み、認められなっ」
震えながらの反論は唐突に終わる。私が指を鳴らすと同時に現れた、小さくも鋭い氷の刃に綺麗な金髪をザクリと切り落とされて。
頬には薄く血の筋が走り、無造作に切られた髪の残骸が床に散った。その鋭さは容易く喉にも向けられる――止める暇さえないのだと。はっきりと『死の恐怖』を突きつけられた彼女はとうとう涙を滲ませた。
「怖い? だけど貴女達が喧嘩を売ったのは『そういう人間』なの。これまでの遣り取りで判らなかったかなぁ? 惨酷さがなければこの結末にはならなかったと思うけど」
心優しい人間ならば標的にされた段階で泣きじゃくっているだろう。
義務でこの場に付き合ったならば、個人的な意見など言わない。
まして『被害者であり他国の者』という特権を利用して追い込むことなど、普通は考えつかないのだ……本来、私には口を出す権利などないのだし。
王を巻き込み、立場を利用して。『敵』をより最悪な方向へと誘導した。
その事実に気付いていれば途中で口を噤んだろうに。下らない言い訳を繰り返すから徐々に首が絞まっていった。
全ては……彼らの自業自得。私はほんの少しの切っ掛けを与えただけ。
「これからは外に姿を見せることなく、けれど決して醜聞を忘れられることもなく。……人の噂に怯えながら惨めに生きていけばいい」
王様からの処罰も楽しみね――そう微笑みながら告げた言葉は、沈黙の落ちるこの場に酷く冷たく響く。
クラウスが『はしゃぎ過ぎだ』とばかりに呆れた眼差しを向けてくるけど、娯楽なので後悔はしていない。楽しゅうございました。
※女性騎士のみに向けた場合は貴女達、男性含む加害者全員の場合は貴方達や彼ら。
性質の悪さと性格の悪さが彼女達を楽勝に上回る主人公。上には上がいた。
謁見の間のイベントは加害者退場の後、もう少し続きます。