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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
169/696

罠×罠

 地道に周囲への根回しと情報ばら撒きを繰り返した結果――


「是非、魔術についてお話を伺いたいと思っているのですが……宜しいでしょうか?」


 金髪美女と取り巻きの皆様が見事に釣れました。言葉は丁寧、表情もまさに友好的ですが、民間人だと気付かない程度に目が笑ってません。

 夜会で探りを入れてきた令嬢ってこんな感じだったんだよねぇ、表面的には上手く取り繕っているから言葉の刺が意図的なのか判りにくい。

 でも今回は撒いた餌がはっきりしてるので間違いなく敵認定。一人で居る時を狙って来てるしね。


 ――当たり前だが罠である。


 印象付けたなら次のステップに行くかー、とばかりに第二段階に移ってイベントをこなしてみたのだ。ただし、これは確実に問題の彼女達が出て来るだろう地雷要素。

 どうしても許せない事ってあるよね? とばかりに心を抉ることを実行してみたり。


 ジークの膝に座って談笑したり。


 ジークの頬にキスしてみたり。


 本能で空気を察したジークが微笑んで私の額に口付けたりと!


 『誰から見てもバカップル、イチャついてるから邪魔すんな』な空間を演出してみたのだ。

 娯楽の少ないこの世界、こんなことを城の庭でやらかせば目立つ。特に人々の情報伝達は素晴らしいので、ばっちり目的の人物が見学に来た。ひっそりしてるなら殺意は隠せ。

 なお、恋するお嬢様にとって『想い人が他の女と触れ合う』という出来事の威力が凄まじいと学んだのはゼブレスト。

 ルドルフに抱き締められつつ――実際には捕獲だが――頬にキスして煽ったら、アデライドは大ダメージを受け。

 セイルに愛の告白(笑)をされたらオレリアがキレた。


 つまり条件が揃えばとんでもなく破壊力のある地雷。爆発必至。

 うっかりしてようと意図的だろうと、一度で殺意はMAXだ。


 ルドルフの場合は単なるお茶目だが、セイルの『あの』わざとらしい告白(笑)ですら効果あり。……セイルは仕事で私に付いていた上、そういった雰囲気がそれまで皆無だったのに、だ!

 そもそもジークはそういった行動をするタイプではない。ここ数日がおかしいだけ。それでも釣れるのだから、やはり彼女は『ジークを所有したい』的な発想なのだろう。

 私達に騙されたとしても失恋したと思ったら泣くか落ち込むだろ、まず最初に。お気に入りの玩具を取られた子供じゃないんだから。


「あら、私は単独行動はできませんよ?」

「私達が同行しますわ。お強いでしょうし、手合わせもしていただきたいわね。鍛錬場へ行ってみませんこと? あそこなら結界も張られていますし」


 彼女の台詞に私は僅かに目を眇める。『ジークの婚約者ならば当然』と言わんばかりに強いと決め付けてはいるが、当然本心からのものではない。

 通常、魔術師には詠唱が必須です。接近戦には向かない。それを知っていて手合わせとは。


 つまり『ボコりたい!』ということですね! 


 大変素直で宜しい。ライバル悪女はそうでなければいけない。

 個人的にそういった立場のキャラはスペックの高い美女が多いと思っているので、その点も文句無し。何よりその殺る気十分な姿勢が素晴らしい!


 さすが物語を盛り上げる準主役(予定)である! 

 ヒロインに立ち塞がる壁(仮・実質生贄)として十分な逸材だ!


 ……イベントが起こらないと勝利EDとか無理だしな。今回、彼女達が悪役にしてED到達までの最高の功労者であることは間違い無い。しかも自己犠牲によって、だ。

 彼女達の賢いところは『複数』で『他の人も見ていると知っていて誘っている』こと。普通は呼び出しなんてこっそりやるもの、まさか堂々とやるとは思うまい。

 後から『彼女とは楽しく話して別れました。送ると言ったのですが、一人で大丈夫だと断られてしまいまして』とでも言って悲痛そうな顔でもしてれば容疑者からは外れる。

 日頃の評判と彼女側の複数の証人、加えて私が勝手な行動をしたという周囲の認識が彼女たちに有利に働くから。


 ……が。


 繰り返すがこれは罠である。ある部屋ではキースさん達が魔道具でひっそり見学中。

 ジークは囮として宰相補佐様の傍に姿を見せているし、クラウスは王様や宰相様とお話中……という設定だ。実際にはクラウスはキースさん達と一緒に居るんだけどね。

 こちらも目撃証人、証言要員、映像に音声各種と準備はばっちりよ♪

 手を取り合って『お約束』なイベントへ挑もうじゃないか!


「そうですね。貴女達がいらっしゃるならば大丈夫でしょう」


 お願いしますね、と微笑めば相手も笑みを浮かべて頷く。方向性にズレがあっても、イベントを起こしたい者同士は表面上のみ友好的。


「では、ご案内しますわ」


 そう言って背を向けた彼女の後を追うべく私も足を進める。私の周囲を取り巻くように彼女の『友人達』が囲んだのは……逃がさないようにするためと姿を隠すため、ですかねー?


※※※※※※※※※


――一方その頃、舞台裏 (キース視点)


「ふ……どうなってんだ、お嬢ちゃんの頭の中は」


 遠い目になりながら手にした紙に視線を向ける。それはミヅキによる今回の計画書であり『正しいイベントへの道!』と書かれていた。

 途中まではいいのだ、途中までは。相手を誘き出す手段も周囲への下準備も納得できる。

 問題は現在進行中の第二段階……『悪役一同捕獲の手引き 〜獲物は向こうから来るものだ〜』と命名されている作戦だ。


 何故、狙われる側が獲物を狙う目になるのだ。


 命さえ危うい可能性があるのに何故喜ぶ。


 っていうか、「王道悪役再び……!」ってどういう意味だ?


 はっきり言ってミヅキは彼女達が仕掛けて来るのを歓迎している。……役目とは別に喜んでいる。

 女性として死ぬより酷い状況になる可能性があると知っているのに、怖がるどころかやる気満々。どう見ても連中の方が獲物として狙われている。

 ビル達などはミヅキが嬉々として彼女達と交わす会話に「何やってんだぁっ、あの問題児は!」「まさか完全に警戒を解いてる……なんてことはない、よね!?」と頭を抱えていた。

 ……楽しそうなのだ。警戒どころか嬉々として相手の策に乗っているようにしか見えないのだ、ミヅキは!


「なあ、お嬢ちゃんはいつもあんななのか?」


 隣にいた黒髪の美青年に聞けば。


「いつものことだ。しかもミヅキが楽しそうな時ほど相手にとって最悪の結果になる」


 ……余計なことまで言われた。そうか、この程度で動じては守護役なんて無理なのか。

 呆れと共に深々と溜息を吐くと、青年――クラウス殿は軽く首を傾げて聞いて来る。


「何か問題があるのか? ミヅキは相手に情報を喋らせ逃げ道を塞いでいるが」

「なんだと?」


 その言葉に俺だけではなく部屋にいた者達がクラウス殿に顔を向ける。


「個人の記憶を見せるだけでは『作り出した』と言われる可能性がある。ミヅキは魔導師だしな。だが、今聞いている会話はミヅキが『知らない情報』であり彼女達の嘘を暴く証拠となる。逃げ道はないぞ」


 親しげに交わされる会話はミヅキを安心させるためだろう。だが、その何処に重要な情報があるのだろうか?

 意味が判らず怪訝そうにする俺達にクラウス殿は続けた。


「ミヅキは自分達が歩いている場所、その周辺について尋ねているだろう? 『彼女達が何処に連れて行こうとしたのか』、『その方向に彼女達が誘った場所はあるのか』。連中はミヅキを誘ってからこれまで目的地への道のりを解説しているんだ」

「……! そういうことか!」


 そもそも私刑を行なうなら人目につかない場所を選ぶだろう。ミヅキは城やその周辺の詳しい情報などないのだ、だから連中は安易に連れ出せると踏んでいる。

 そして何食わぬ顔で『ミヅキと別れた後は知らない』とでも言う気なのだ。一緒にいたことは否定していない上、誘き出す役割だけだったらそれは事実となる。


 ミヅキの記憶を見せるという手は『幻覚を見ていた』『魔道具の映像は確実ではない』という言い訳が使えてしまうので、確実な証拠としては弱い。それを支持する者がいることも含めて。


 映像として魔道具に記録されていようとも『それがいつのものか』を証明できねば意味がない。彼女達はミヅキを誘ったことを隠していないのだ、以前の映像を私刑前に繋げたと言われる可能性がある。


 自分達も尾行しているわけではないので、現場を押さえた時に彼女達が居なかった場合は実行犯と彼女達が共犯という証拠を得られない。彼女達はきっと実行犯を切り捨て逃げるだろう。



 だが、最初から目的地が誘った場所と違うと証明できたら?



 彼女達自身の口から辿った道が語られているのだ、そこに本人達の証言とズレがあれば嘘を吐いた事になる。そうなると連れて行った者達とて私刑の共犯と思われるのが普通。

 声の似ている協力者を募って彼女達を陥れようとした……という反論も無理があるだろう。『個人』ではなく『全員』なのだ、都合よく見つかるはずはない。

 何より『ミヅキは城の詳しい構造など知らない』のだから。

 『今回初めて城を訪れた』という情報は『事実』である。しかもジークの婚約者として来ているので、ミヅキを疑えばフェアクロフが婚姻前にそういった情報を他国に漏らしたと疑われるのだが……かの家だからこそ、その疑いを晴らすことは可能だろう。現当主が王弟であることも大きい。

 そんな事情から彼女達は『ミヅキにそういった情報はない』と思っているので、会話の中で尋ねられても不自然に感じないのだろう……好奇心が強い、程度の認識で。

 現場を押さえた際に彼女達がその場にいなかった時を想定しての罠か、これは。どのような方面からの反論にも対処できるよう徹底し、逃がすつもりはないらしい。


「まずは共犯としての証拠だな。これで逃げ道は塞がった、後は主犯としての言葉が欲しいところだ」


 無表情で語られる言葉に俺達は言葉もない。

 これがイルフェナの『最悪の剣』。

 彼らを守護役に持つ異世界の魔導師にとっての『当たり前』。


『敵に味方が多いからこそ、より確実な証拠を』

『惑わせ引き込み、徹底的に堕とせ!』


 ぞくりとしたものを感じつつ俺は……ジークが妙に彼らに好意的な理由を理解した。『本当に強い』のだ、彼らは。英雄に相応しい戦闘能力を持つジークから見ても。


※※※※※※※※※


 綺麗なお姉さん達に囲まれて連行された先は――鍛錬場ではなく、今は殆ど使われていないという部屋でした。割と広いから多少暴れても大丈夫な上、声も外に届きにくいという素敵な場所です。

 勿論、ここに来るまでお姉さん達にはナビゲートしてもらいましたとも。加えて『皆さん背が高くて羨ましいです、囲まれて歩くと埋もれてしまいますね~』と口を滑らせ連行されたことも実況、連れて行かれた感をアピール。逃げられなかった被害者を演出です。

 悪意ある方向に捉え過ぎ? 気のせい、気のせい、数の暴力というものがあるじゃないか。

 この部屋は鍛錬場と同じく端にあるから目指す方角だけは同じ、つまり人に見られていてもばれにくい。ただし、ルートは違うし人が訪れる頻度も全然違う。

 なんで知ってるかといえば、宰相様達から犯行現場になりそうなスポットを聞いていたからなんだけどね! 事前に全ての場所に記録用魔道具を仕掛けておいたので、証拠となるような言動に誘導さえすれば自動的に証拠ゲット。

 

 さあ、レッツイベント! 

 『何故か』部屋に居た男達もまさに悪役、狙いどおりでいい感じ♪


「あら……鍛錬場へ、というお誘いでしたけど?」


 扉と私を遮るような位置にいる彼女達に尋ねると、先ほどとは違った小馬鹿にした表情を向けて来る。


「嘘に決まっているでしょう。何故、私が貴女如きの相手をしなければならないの」

「ジークに気に入られる秘訣でも聞かれると思ってましたが」


 ぴしり、と何かに皹が入るも私は笑顔。ふふ……お嬢さん方、綺麗な顔が引き攣ってますよ?

 やだなぁ、そこは即座に怒鳴るくらい元気がないと!

 男達も少々唖然としているようだが、今はスルー。綺麗なお姉さんの方が好きです、私。

 全く怯える様を見せない私に焦れたのか、彼女達は口々に罵り出した。


「あ、貴女ごときが何故……エルシュオン殿下に願いでもしたのでしょう!」

「王族から打診されれば断れませんもの」

「ジーク様とて国のためならば……って、貴女はなんて目でこちらを見ているのよ!?」


 バレた。気にすんなよ、ものすっごく生温かい目で見ているだけだ。

 さすがに気持ちまで察してくれるとは思わないので、馬鹿正直に話してあげよう。


「現実を知らないって可哀相だなーと憐れんでます。物凄く生温かい目で可哀相な人達を眺めてますよ、現実を知らないって凄ぇ!」

「……どういう意味かしら?」

「貴女達の思い込みと現実は違うってことですよ。まず最初にこの話はどちらから来たのか。私は受けた側です。殿下経由で話を持って来られました」


 そう言って肩を竦める。


「貴女達が言うようにカルロッサ王からのお話しでしたから簡単には断れません。個人的には『何故来た、どうしてそうなった、名前すら知らないのに王族経由で結婚話が出るってどういうことだ』と突っ込みました」


 ほぼ嘘ではない。それに加えてフェアクロフの当主が土下座する勢いで懇願したので、それまでの警戒も含めて一気に脱力したのは記憶に新しい。


「次。貴女達の言う素敵なジーク様……って誰の事ですか?」

『なっ!?』

「私の知る限りそんな人は居ません。好みは人其々と言いますが、いくら顔が良くても強くても寂しい頭の出来で一気にマイナスです」


 だってプロポーズ(一応)の言葉が『俺の背中を守ってくれ』だぞ? 共に戦場を駆ける友が欲しいんかい、としか思えん。

 婚姻方向に考えたのは性別が女だったからだもの、男でも似たようなことを言われただろうよ。

 私だけではなくイルフェナ勢の誰にも意味が通じず、揃って首を傾げるという素敵な現象を引き起こした台詞である。しかも互いに名前を聞く前です。

 ……と馬鹿正直に言ってみたのだが、お嬢様方は気に入らなかったらしい。怒りも露に睨みつけて来る。ならばトドメを言ってあげようか。


「このように大変残念なフェアクロフ家の三男ですが……私を選んだ事は事実ですから」


 益々強くなる視線――殺意だろうな、もう――を気にすることなく、問題の女性である金髪美女へとにっこり微笑む。


「釣り合う家でなくとも、興味を示さずとも、好かれる努力をするどころか名前すら知らない状況でも。妻に、と欲したのは私なのですよ。……ジークは貴女を必要としなかった。女性としても騎士としても興味がないから一切関わらなかったんです」


 視界の端にすら映っていないと思いますよ、と締め括る。

 その言葉に彼女はぎゅっと拳を握り美しい顔を酷く歪め、射殺さんばかりに私を睨んだ。周囲のお友達は私を睨みつつも彼女にちらちら視線を向ける。

 ザックリ心を抉ったからねぇ、私。言い換えれば『貴女が何をしても無駄』と言い切ったようなもの。


 『私を害しても無駄よー! 貴女なんて見ないわー! ざ・ま・あ!』という現実です。


 遠回しな言い方なのはこの遣り取りが証拠として残ってしまうからである。説教の種は残さぬ。

 楽しげな私に対し、お嬢様方はリーダーもとい金髪美女を窺っている。今までにない反応にどうしていいのか判らないのかもしれない。男達も女同士の言い争いにやや引きつつ困惑中。

 金髪美女よ、覚悟しろ? 貴女には欠片ほどの価値もないのだと、目を背けてきた事実を徹底的に突きつけてやろうじゃないか。彼女達に行動してもらわにゃ困るしな。 


「そう……そうなのでしょうね」


 ぽつりと静かに呟く。その口元には歪んだ笑み。


「だから誰だろうとあの方の隣に立つ資格を失わせることを躊躇わないわ。……貴女もその一人」

「そこまで言うなら自己紹介をどうぞ、負け犬さん。どうせ今までも邪魔者を排除してきたんでしょ?」

「そうよ、本当に憎らしい子ね。私はシンシア……バートレット伯爵家の者よ。噂くらい聞いたんじゃないの?」

「え、全然知らない」

「……っ」


 どこか得意げに言う彼女をさくっと突き落とす。多分『ジークの相手候補として噂されている』的なことだと思うが、そんな嫌味など私は気にしない。ノーカウントです、利用価値ないもん。

 これまで名前を暈していたのは噂を知ってると思っていたからなのか。名乗れば警戒されるだろう、と。


「こ、この……」

「あ、ついでに聞いておきたいんですが。この男性達は貴女の愛人ですか?」


 さらっと尋ねると彼女は絶句し、即座に顔を赤くして否定。私のあまりな言葉に周囲も呆気に取られている。


「違うわよ!」

「だってバレたら大変じゃないですか~。じゃあ、報酬で雇った? コネか、金か、もしくは貴女達の体とか……」

「か、体って……そんなはずないでしょう! あ、貴女、本当にジーク様の婚約者なの!?」

「悲しいけれど現実を受け止めようよ。強くなろうぜ?」

「馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」


 はっは、怒るな、怒るな。美貌が台無しだぞ〜う。

 いや、悪気はないよ? ちょっとばかり国の上層部の皆様に今の会話を聞かれているから、受け狙いも必要かと思っただけで。

 念のために男性達に視線を向け「本当に?」と尋ねると、ぶんぶんと首を縦に振る。


「じゃあ、参加理由は?」

「あ、ああ、金とか、コネだな。シンシアに気に入られたいってのもあるが」

「後は弱みを握るためかな? 彼女の醜聞ならバートレット伯爵家に使えるものね?」

「そんなことなど考えていない! 俺達がバートレット家を裏切るなんて……あ」


 勢いのままつい口を滑らせ、彼らは表情を強張らせる。

 はい、実家絡みの証言ゲット。報酬がコネと金で『裏切らない』発言=実家も協力者、もしくは主犯。コネなんて家絡みじゃなきゃどうしようもないし、背後の存在が庇うと判っているから妙に堂々としてるのか。

 彼女が騎士になれた……いや、評価されたのもこういった裏がありそうだ。本人の希望もあっただろうけど、実家からすればフェアクロフと縁続きになる手段だもの。

 魔王様が『遊んで来い』と言った理由も『騎士とは認めてない』って思ってるからじゃないのかね? アル達が身近にいるから余計にそう思ってそう。

 そんなことを呑気に考えていたら両腕を男達に押さえつけられた。視線を向けると楽しそうなシンシア嬢。どうやら復活したらしく、本来の目的を思い出したようだ。


「その子と楽しく遊んであげて。彼女が誘ったと私達が証言しますわ」

「シンシアはどうするんだ?」

「私は見学するわ。その女が泣き叫ぶ様が見たいの」


 どこの悪役だよ、おい。

 そう突っ込みたい衝動に駆られるが今は我慢。今この状況こそ、私にとって望んだ展開だ。


「皆で遊ぶのは私も賛成ですよ」

「え?」

「だからね」


 にこおっと笑い。男の一人が慌てて私の口を手で塞ごうとするが、不意に自分の足元を見て硬直する。

 ――やけに冷たい足元に、凍りついたブーツを確認して。


「皆で遊びましょう、ねっ!」


 指を鳴らすことなく衝撃波で鍵のかかった扉を壊す。ぎょっとして皆がそちらに顔を向けると、そこからキースさん達が突入してきて即座に全員を拘束した。

 キースさんは押さえ込まれたシンシア嬢に嫌悪の視線を向けている。ジークを大切に思っているからこそ、彼女の自分勝手さが許せないのか。


「イルフェナからの客人に対して随分な振る舞いだなぁ? ……話は全て聞いていた、俺達が突入した時の状況から見ても『彼女が誘った』なんて言い訳は通用しないぞ!」

「な、何故、ここに」


 狼狽するシンシア嬢にキースさんは肩を竦めて私を指差す。


「その子は凶暴と評判でな、監視は必須とイルフェナから言われているのさ。お前達とて護衛としてエルシュオン殿下の騎士が付いて来たのは知っているだろう?」


 ……私が凶暴だということで盗聴を正当化させるようです。魔王様だろ、この発案。

 そしてキースさんは私に向き直る。


「すまないな、馬鹿どもが迷惑をかけた」

「お気になさらず」

「しかし、何で扉を破壊した? お嬢ちゃんならこいつらを仕留めると思ったんだが」

「え、だってカルロッサの恥を雪ぐ意味でキースさん達に見せ場を譲らないと」


 カルロッサという『国』のせいにされちゃうかもしれないもの、と正直に言ったら何ともいえない顔をされた。何故。


「じゃあ、俺達が外にいるってどうやって知った?」

「私は『単独行動は許されていない』。正確には『指定された人物以外との行動は許されていない』。だから彼女達と行動した時点で報告されるし、誰かが動く。後は……時間稼ぎをしていれば最高のタイミングで突入してくれるでしょう? だから私は合図をするだけでいい」


 得体の知れない生き物、もとい部外者を放置するはずはない。監視はあった、ただそれだけのこと。

 だが、私達の会話を聞いていた何人かは薄っすら状況を察したらしく益々顔色を悪くした。『監視』、『タイミングの良過ぎる助け手』、『まるで怖がらなかった私』に『カルロッサに不利にならないよう動く他国からの客人』。

 これだけの要素が揃えば誰の主導だったのか嫌でも想像がつく。……最高権力者の許可が必要ですものね、他国の協力者なんて。

 そんな中、私はシンシア嬢に近付き微笑んで耳元に囁く。


「さあ、遊びましょう?」


 今度は私達のターンですよ! 

『魔術師は接近戦が苦手、敵が複数では特に勝機なし』と侮ったのが彼女達の敗因。

『皆で遊ぶ』=『主人公が加害者達で遊ぶ』。間違ってはいない。

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