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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
167/697

凶悪さは標準装備です

――ある部屋にて (エルシュオン視点)


 柔らかな陽の光が室内を明るく照らしている。風も心地良い穏やかな日……とは真逆に。

 室内は非常に居心地の悪い空間となっていた。正しくはフェアクロフ伯爵夫妻限定で。


「わざわざイルフェナに来られたのだ。下らないことを口にしないよう願うよ」


 暗に『きちんと状況を理解して、言って良い事と悪い事の区別をつけてきたんだろうね?』と告げれば、夫妻はびくりと肩を揺らした。その様子に内心ひっそり溜息を吐く。

 こちらの怒りは判っているらしい。ならば何故最初から相応しい行動を取らなかったのか。

 彼らの憂いは一応調べがついているので、多少は同情しなくもない。しなくもない、のだが。


 それを勝手な言い分を通す理由にされても困る。

 他国の、しかも無関係な者を犠牲にするなどふざけるにも程があろう。


 当たり前だがミヅキはそんな甘さを持ち合わせてはいない。そう教育したことも含めて、あの娘にそんな泣き落としが通じるはずがないのだ。

 何せ本人が必要ならば騙す側となる――キヴェラ王都での噂の誘導は騙す事に罪悪感を抱くならば不可能だろう――のだ、身分のある相手であれば特に警戒する。

 まあ、今回はミヅキにも思うところがあるので、最終的な結果としては彼らの願いである守護役就任は叶うのだけど。

 

「本当に身勝手なことを申しました。どうか怒りを収めていただきたい」

「申し訳ございませんでした」


 夫妻はそう言って頭を深々と下げる。

 その光景に私は……私はいっそう笑みを深めた。


「それは『何』に対しての謝罪だろうか」


 傍に控えていたブロンデル公爵が微笑みながら穏やかに問う。


「貴方達は何に対してエルシュオン殿下に謝罪しているのだろうか? 身勝手な事を言ったことかい? それとも我が国を侮ったこと? ああ、他には彼女を通じて守護役達を利用しようと狙ったことだろうか」


 穏やかな声とは裏腹に告げられた『可能性』は非常に悪意満載だ。これには夫妻がぎょっとして顔を上げる。


「わ、私どもはそのようなことなど考えておりませんでしたっ!」

「うん、実現しなければ何とでも言えるからね? 私はフェアクロフ一族、もっと言うならカルロッサという国が『魔導師の守護役を推すことから考えられる利点』も含めて聞いているんだ」


 だって、それだけの価値があるのは事実じゃないか――そう言って笑みを深める。

 事実なのだ、これは。そう疑われるだけの要素が十分にあるのだから。

 そこに笑いを含んだ声が混じる。声の主はシャルリーヌ・バシュレ、アルの姉だ。


「ふふ……公爵様、裏がない場合も考えて解説して差し上げなければ。お二人はその『身勝手な望み』がどういった影響を及ぼすのかも理解されてらっしゃらないようですもの」

「おや、そこまで説明が必要だったかな」

「私達を基準に考えてはいけないのですわ。その結果が今この場での謝罪なのですから」


 ねえ、そうでしょう――と、美しい笑みを向けるシャルリーヌに夫妻は言葉もない。私は静観することで彼らに場を譲る……咎めないことで自分も同じだという意思表示を。


 この二人、完璧に遊んでいるのだ。


 優しい声音で組み上げられる刺のなんと鋭いこと! 夫妻の至らぬ部分を補うように状況を教えつつも、実際はこれ以上無いほどに馬鹿にしている。

 これでは伯爵が本来の身分を振り翳し「無礼だ!」と言ったところで、「貴方達が気付いてくだされば言う必要はなかったのですが」と返されて終わるだろう。

 ここは謝罪の場、彼らは反省して挑んだはず……二人の言った事を把握できていないフェアクロフ伯爵夫妻が悪いだろう、どう考えても。


「あらあら、お二人ともお顔が真っ青よ? ここはシャルリーヌ様と旦那様に感謝をするところですのに」


 苦笑しつつ夫妻を気遣うのは筆頭魔術師のコレット・ブロンデル。ブロンデル公爵の奥方にしてクラウスの母、そして……ブロンデル一族を束ねる女傑。

 彼女は仕方ないとばかりに小さく笑うと、怪訝そうな表情の伯爵夫妻を諭すような口調で語りかけた。


「お二人はわざわざ口にすることで貴方達が愚かな事を口にしないよう、諌めてくださったのですわ。先ほど殿下は『下らないことを口にしないよう願う』と仰ったでしょう?」

「え、ええ。確かにそう仰られました」

「ですからね? もしもそれが叶わなかった場合は……反省とは口先ばかりと判断されて、殿下の怒りを買うことになるとは思いません?」

「それ、は……っ」


 コレットの示す『可能性』に伯爵夫妻は益々顔色を悪くしてゆく。

 だが、それで終わるようならば彼女は賢さの代名詞とも言える魔術師達の頂点になど立っていないわけで。


「それにね、殿下は先ほどから沈黙を保ったままでしょう? シャルリーヌ様達の発言をお許しになられているのは殿下の優しさよ? 同時に貴方達の見極めもなさっていることでしょう」


 そして軽く首を傾げ。


「貴方達がこれでも理解できなければ、エルシュオン殿下の御好意を無碍にしたという『事実』も加わるわね? いくらフェアクロフ伯爵が元王族と言っても庇いきれるものではないわ」


 トドメを刺した。いや、逃げ道を塞いだのか。

 彼らには期待していないので、私は別にどうこうする気はないのだが……それを理解した上でより恐怖を煽っているらしい。

 何よりコレットの言葉を『悪い方向に捉えただけ』とは言えない証拠がある。


「以前の訪問は非公式とはいえ、カルロッサ王の御意思が確かにありましたからなぁ……。守護役とは国の決定ですぞ? 守護役制度を持ち出した以上はその非は貴方達だけではなく国も背負うことになる、とは考えませんでしたかな?」


 レックバリ侯爵はちらりと視線を夫妻に向け、探るように目を眇めた。

 日頃はからかうような遠回しな言い方しかしないくせに、今日は随分とはっきり言っている。どうやら侯爵は守護役を理由にミヅキを利用するというカルロッサの思惑を疑っているらしい。

 これは夫妻の考えというわけではなく、カルロッサという国が望んでいるという意味だ。

 尤もそう考えるのはレックバリ侯爵が特別悪意を持っているわけではない。どちらかと言えばそう受け取る方が自然なのだ。


 まあ……単にこの場で最も効果的な発言をしただけかもしれないが。


 キヴェラの一件は元を辿れば侯爵の依頼だ。個人的な思惑があったにせよ、侯爵がそれを成し遂げたミヅキの味方になっても不思議はない。寧ろセレスティナ姫達の事も含めて可愛がっている節がある。

 そんな侯爵から見ればフェアクロフ一族は関わらせたくない者達なのだろう。無自覚に情に縋る真似をしそうなだけに排除する気は満々と見た。


「さて、改めて聞かせていただこう。貴方達は何に対して詫びているのか」


 ブロンデル公爵の言葉に皆が揃って二人に視線を向ける。答えを迫る微笑みは伯爵夫妻にとって見えない刃を突きつけられたも同然だ。

 ……間違うことは許されない。『気付かなかった』なんて逃げ道はもうないのだ。

 周囲を固めてから答えを迫る我が国の精鋭達に、私は笑みを浮かべたまま成り行きを見つめた。その表情が『楽しそう』と称される類のものであることを自覚しながら。


「そう、でしょうな。そちらから見ればそのように警戒される……いえ、我々が愚かと思われるのが当然なのでしょう」


 さすがに自分達の浅はかさが理解できたのか、宰相殿に相当きつく言われたのか……伯爵は顔色を変えても反論するような真似はしないらしい。

 彼の態度はどこまでも先日の行動を恥じるものである。


「どのような意味での謝罪かと言われれば全てに関してです。政に関わる者として、元王族として、そしてそれ以上にジークの親として。何一つ理解していなかったのですから」

「おや、随分と素直なことで。てっきり貴方は王弟であることを振り翳すと思っていましたが」


 ブロンデル公爵が面白そうに問う。

 彼の身分は公爵であり相手は伯爵、通常ならば不敬を問われることはない。だが、伯爵が王弟という立場を示せば状況は少々変わってくる。

 彼らは伯爵夫妻を様々な意味で見極めようとしたからこそ、あの発言なのだろう。あれで激昂するならばそれまでの人物ということだ、こちらもそれなりの対処をする。

 だが、伯爵はそんな言葉にも苦笑を浮かべるだけだった。


「全てにおいて未熟な私達が責められるのは当然でしょう。こう言ってはなんですが、魔導師殿が面識のないジークでさえ助けてくれるような方でなければ報復されても不思議はない」


 伯爵の言葉に思わず私は視線を逸らして視界から夫妻を消し。

 なにやら胸に突き刺さるものを感じて、ひっそりと溜息を吐く。

 いや、うん、普通は……そういう解釈をするんだろうね、ミヅキの行動は。

 だが、現実は伯爵の想像とはか〜な〜り違う。


 躊躇うどころか利用する気満々で助けてたよね、あの娘。


 優しいというのも限定された範囲では正しいよ。それ以外の扱いは酷いけど。

 

 たまに味方も利用できる駒と言い切ってるよね、何の躊躇いもなく。


 そもそも慈愛の心溢れる人間ならキヴェラに復讐しようとは考えない。


 真実を知っても伯爵達は同じ台詞を言えるのだろうか? いや、真実を知ったら知ったで今後の報復に怯えそうだが。

 保護者としては非常に反応に困る台詞である。教育方針を間違ったかな、と時々頭を抱える自分としては特に。

 私の胸の内を察してか、皆は何も言わない。言わないが……その視線はなにやら生温かい。現実を知る者として真実をこの場で口にしないのは彼らなりの優しさなのだろう。多分。


「あの娘は優先順位がはっきりしていますからなぁ……状況を理解していたならば特にご子息を助けねばならんと理解できていたのでしょう」

「そうですね、確かにあの状況でジークが死んでいれば大蜘蛛の被害は拡大したでしょう。話を聞く限り並みの騎士の手に負える存在ではなかったようですから」


『いや、そっちの意味じゃないから!』


 伯爵夫妻以外の皆の心の声がハモった気がした。いや、絶対にハモった。

 レックバリ侯爵の言葉を意訳するならこうなるだろう。


『ミヅキは自分にとってどういった展開が有利か理解できていたでしょう。そのためにジーク殿が必要だったんです、自分達がカルロッサを通過するための駒として』


 少しは案じた気持ちもあるだろうが、あの時点での最優先はカルロッサを無事に通過することだった。イルフェナの魔術師と知られていたのだ、足止めを防ぐ意味でジークフリート殿が必要だっただけである。

 そもそも術の複数行使が可能なミヅキならば一人で倒せただろう。報告書を読む限り本人に蜘蛛に対する怯えや危機感は皆無だったみたいだし。

 それなのに大怪我を負った怪我人を無理矢理治して闘わせるとは、なんとも外道な行いだ。

 良心は何処に行った? それでも年頃の乙女か。


「貴方は理解できているようで何よりだ。今後には期待できると判断させていただこう」


 わざとらしく頷きながらそう告げると伯爵は驚愕の表情を浮かべた。だが、即座にそれは突き落とされる事となる。


「夫人の方は信頼できないけどね」


 付け加えられた言葉に黙ったままだった夫人が面白いほど肩を震わせた。

 ……甘いよ、伯爵夫人。私達は不安要素を見逃してやるほど優しくはない。


「母としての情とは随分と都合よく利用できるものなんだね? だけどブロンデル公爵夫人は一度もそんなことを息子に言っていないんじゃないかな?」

「……え?」


 視線をコレットに向けると、彼女はにこりと微笑んだ。


「ええ、息子は自分の意思で殿下の配下となり仕えておりますもの。……我が子である以上に個人として認めているのです。殿下のためならばクラウスは私や夫を利用するでしょう」

「逆もあるだろう?」

「当然ですわ。親子の情に縋らずとも、私達は国に仕える同志ですのよ。優先すべきはそちらですもの」


 伯爵夫人はジークフリート殿を国の駒とすることを憂えていたという。だが、彼女はフェアクロフなのだから誰よりもそれを納得しなければならなかったはず。

 彼女はジークフリート殿だけを国の駒と思っていたようだが、彼女とてそれは同じなのだ。

 そういった扱いと教育をして息子に嫌われることが嫌だったのだろうが、彼女自身がフェアクロフに恥じない姿を見せていればジークフリート殿とてその扱いに納得するだろう。

 親であるならば子の手本でなければならない。フェアクロフならば特に。

 だが、彼女の態度はまるで物語に出てくる悲劇のヒロインのようじゃないか。役目と個人の感情の剥離に葛藤し涙する……そんな中途半端な態度を見せればジークフリート殿とて国の駒としての在り方に不満を持っても不思議はない。

 もっと言うならば『そこまで自身を犠牲にする価値を国に感じない』。意思のない人形ではないのだ、他者から押し付けられた英雄という茶番に付き合う必要などないと思うだろう。

 彼は英雄の子孫であって英雄本人ではないのだから。国は手放したがらないだろうが、フェアクロフは他にもいる。全てを捨てて自由に……という選択もあるのだ。

 しかも彼は脳筋である。余計な思惑などなく、自分の感情に素直に行動する。その弊害を家族に背負わせても何とも思わないあたり、彼の家族に対する情は母と同じく中途半端なものでしかない。


 嫌っても憎んでもいないが、特別ではない。


 おそらくはそれが全て。そういう扱いをされてきたのだから彼に非はないだろう。

 執着も忠誠もないならば存在理由として刷り込むしかないのだが、そこを徹底しないから妙なことになるのだ。


 常に『国に仕える者』という態度を崩さないコレットに、ジークフリート殿に対してころころと都合よく態度を変える伯爵夫人。


 どちらが信頼されるかと言えば間違いなく前者だ。信念にブレがないのだから。

 だから私は伯爵夫人を信頼しない。……できない。

 彼女自身が変わらない限り、家族の情に縋ってミヅキを利用しようとする――本人的にはお願いだろうが、実質利用だ――だろう。しかも無意識に。



 故に微笑みと共にその可能性の排除を。私達はあの黒猫が可愛いのだから。



「それにね、ミヅキから伝言を預かっているんだ」

「それは……私達に会う気がないということでしょうか」

「それもある。だけどそれ以上の意味もあるんだ」


 会って謝罪するつもりだったらしい伯爵夫人は悲痛な表情で俯く。伯爵は……何となくこの展開を予想していたのか随分と落ち着いていた。

 やはり情に縋ってきそうなのは夫人の方らしい。だが、伯爵がこの態度ならば押さえ込んでくれるだろう。

 にこりと私は微笑む。彼らにとっての最終通告を。


「『顔も見たくない!』と。ああ、これは貴方達の謝罪を拒絶するだけじゃなく、今後の付き合いも拒否する意味だから。都合よく解釈しないでね」

「……っ」


 伯爵夫人が息を飲む。そこまで、と小さく聞こえた気がするが、ミヅキからしてみれば当然だ。


「あの子はキヴェラを敗北させた魔導師だよ? 下らない柵……自分にとって価値の無い関わりは即座に切り捨てる。その判断が出来ない子ではないよ」

「当然ですわね。ミヅキ様は交渉ごとも得意としていますもの」


 外交に携わるシャルリーヌの援護射撃に伯爵は溜息を吐いて俯いた。それが個人的な感情からの言葉ではなく、『外交』もしくは『魔導師という立場』を踏まえた発言だと理解して。


「とりあえず守護役の話は受け入れる。けれど軽率なことをしたカルロッサを試す機会も必要だね」

「は……? 宜しいのですか?」

「ジークフリート殿とキース殿はミヅキに合格点を貰っているからね」


 逆に言えば彼ら以外は信頼できないということだ。宰相殿や宰相補佐殿も大丈夫だと思うが、ここでそれを言えば下らないことを言い出しそうなので黙っておくことにする。


「一度カルロッサにミヅキを向かわせよう。女性騎士がいるのにジークフリート殿が決して目を向けなかった理由とか……王の手腕を見る意味で丁度いいと思わないかい?」


 カルロッサにも数は少ないが女性騎士がいる。だが、彼女達はジークフリート殿に必要とされなかった。極一部の者達が嫌悪の対象になっているからだと聞いている。

 こちらに知られていたことに驚愕を露にする伯爵、そして私は更に畳み掛けた。


「ミヅキを知る意味でも好都合だろう? 王がそのことについて動いているのは知っているからね、協力者として向かわせようじゃないか。ジークフリート殿の婚約者という肩書きならば彼女達が釣れるだろうしね?」


 フェアクロフ、そしてジークフリート殿は大変魅力的な存在だろう。彼の婚約者という立場を巡って裏で色々と画策する輩がいるのは、ある意味自然な事だ。

 ミヅキが現れることで騒動が起こるだろう。それをどう料理するのか……カルロッサ王のお手並み拝見といこうじゃないか。


「しかし……それはイルフェナの魔術師という立場で、ということですよね。危険では?」

「その程度を乗り切れない馬鹿は要らないよ。魔導師を名乗る資格などない」

「で、ですが……っ、魔導師様が傷付けられるやもしれませんのよ!?」

「それが何か? 命の危険も含めて我がイルフェナは一切そのことに関して抗議しないと約束しよう」


 切り捨てるような私の発言に伯爵夫妻は絶句した。

 協力者と言えば聞こえはいいが、実質囮である。貴族どころか単なる魔術師であればどれほど風当たりは強いことか。最悪、命を狙われる。

 カルロッサがそういった方法を取れなかったのは危険過ぎるから。それをミヅキにやらせようとするのだから、伯爵夫妻の態度も当然と言えた。しかもミヅキの言葉がある以上、彼らはミヅキに関われない……守りにすら動けない。


「ジークフリート殿が守護役になるなら一度は煩い連中を黙らせる必要がある。これはミヅキを利用できないと知らしめるためであり、それ以上にカルロッサが『使えるか』を見極めるものだ。だからいいんだよ」


 そう告げると伯爵夫妻は何ともいえない表情で黙り込む。

 周囲の者達は私の提案に面白そうな表情を浮かべ、誰も反対はしなかった。寧ろ楽しそうだと、賛同している様さえ見受けられる。

 ……知っているのだ、彼らは。ミヅキにとってそんなものは娯楽でしかないのだと。


 私の『猫』は見た目に反して凶暴だ。それ以上に賢くもある。

 『こちらが望む状態』を提示した上で向かわせれば、楽しみながらも望んだ結果を出してくるだろう。

 

 カルロッサは一度そのことを理解すべきだ。大規模な破壊も殺戮もしていないミヅキは過去の魔導師達と比べて異端であり、嘗められがちになる。それは間違いだと気付かせねばなるまい。


「準備が出来たら向かわせるよ。護衛は報告役も兼ねてクラウスをつけよう」


 護衛というかミヅキの魔法に対する解説役だ。向こうも理解できずに報告書を作れないという事態は困るだろう。

 それに……迂闊に野放しにすると妙な魔法を自己流に使い出しそうで怖いのだ。『呪いについて知りたい』と言い出した前科がある上に、未だそれを諦めていないようだし。


「楽しくなりそうだね」

「おや、それが本音ですかな?」

「さあ、どうだろうね?」


 私とレックバリ侯爵の言葉に皆は楽しげに笑う。伯爵夫妻はその様を不安そうに、少々不気味そうに眺めるばかり。そんな態度こそミヅキを侮っている証拠だというのに。 


 魔導師という存在に対する思い込み、見た目で侮る愚かしさ……全てを壊しておいで、ミヅキ。    

保護者達も十分おっかない。主人公達と同類です。

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