王様は苦労人
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「ミヅキ、だったか? 俺がゼブレストの王ルドルフだ。ま、宜しくな!」
魔王様からろくでもない『御願い』という名の命令を賜わって十日後。
案内された客室にはやたらと友好的な青年がおりました。
明るい茶色の髪に同色の瞳の王様は確かに整った顔立ちをしていますが、変人どもが無駄に顔が良いので普通に見えます。
魔王様と違って威圧感も在りません。
……あれ?
立場的にはこの人の方が上のはず。
モブ顔とは言いませんが民間人に馴染めそうですね。
え、この人が後宮破壊計画を立てちゃった人??
※※※※※※
「初めに謝っておく。……突然こんな話を持ってきて申し訳ない」
そう言って深々と頭を下げるルドルフ王。
おいおい、座ったままとはいえ王が簡単に頭を下げちゃマズイでしょうが。
まあ、厄介事を持ってきた挙句に敬えなんて抜かしやがったら〆るけど。
国の不祥事なのです、本来なら他国に協力なんて求めませんよ。
「聞いていると思うが、後宮に入り込み側室どもを滅ぼしてくれ」
「滅ぼすんかいっ!」
「すまん、つい本音が。適当に痛めつけて追い出すのが最善だな」
「その場合の私の罪状は?」
「絶対に奴等から仕掛けてくるから問題ない。あっても俺が握り潰す」
武力行使大前提みたいです。いいのか、それで。
「実家を出してきた場合は? 厄介なんでしょう?」
「貴族なんて歴史のある家ほど表沙汰にしたくない部分があるのさ。それも踏まえて家を潰す」
「……殺る気ですか」
「勿論!」
最後の『勿論!』は親指を立てて大変いい笑顔ですよ。
どうやらかなりストレスが溜まっている御様子。
魔王属性じゃないっぽいのに容赦がありません。
バカ女どもよ、一体何をした? いや、実家もやらかしてるんだろうけど。
呆れる私に何か思うことがあったのかルドルフ王は深く溜息を吐き話し出した。
「……後宮ってのはな、女の戦場なんだよ」
「まあ、そうでしょうね」
「綺麗に着飾って俺に媚びてもな、その裏でどんな事をしてるか判ったもんじゃない」
「それは仕方がないんじゃ……」
「だけどな!?」
ダンっ! と力一杯テーブルを叩くルドルフ王。
「派閥を作って陰湿なイジメや実家を巻き込んで泥沼な展開されたら関わりたくねーよ! 俺を駒としか見てないしな。それに奴らを養う金って国の金だぞ? 税金だぞ!? 無駄もいいとこだろ」
「王の権力でどうにかならなかったんですか?」
「無理。何せ俺を仕える主じゃなく、獲物と思って狙ってくる連中だしな。出所のヤバイ媚薬とか既成事実を作る為の特攻とか日常茶飯事だぞ?」
あれですか、本来の目的を忘れて自分が勝つ為に何でもありな状態なのですか。
あ〜……それは嫌かも。
寵を競うんじゃなく、獲物(ルドルフ王)を狩ることに全力投球だもん。
普通の男なら女に嫌気が差すわな。
しかもルドルフ王って女が自分を取り合うことを自慢するようなタイプに見えないし。
「お気の毒です。その状況でよくぞ無事でしたね」
「ありがとう! 毒見や護衛を増やすことで何とか持ち堪えてる。そして最近は弊害も出てきた」
「弊害?」
「俺の側近連中ってさ、全員若くて顔が良くて有能なんだよ。そいつらがな……」
「そいつらが?」
「女に希望を持てないとかで女嫌いになる奴続出。次の王の側近候補は奴らの息子を狙ってるのに!」
それは笑えない。
王族は血を残すことが義務だから諦めもつくが彼等は違う。
長男だろうと子がいなければ兄弟の子に家督を継いでもらえばいいのだから。
だが、その継いだ子が期待に応えてくれるかは怪しい。
父親が有能であれば息子を次代の側近候補として幼い頃から躾るだろう。
今現在側近になれてるってことは教育方針も血筋の面も問題なし。
その最有力が消えるとどうなるか?
「わぁ……次の王は側近集めから苦労が決まってるんですか」
「……最悪の場合、留学させて側近候補を捕獲させるしかない」
「捕獲……」
「有望株はどんな国だって手放したくないだろうしな」
ごもっとも。
ああ、それで滅ぼせって言ってるわけね。
次の世代の負担を少しでも軽くする為に目障りな貴族を潰して最低限の環境を整えたい、と。
「そんな親心以前に俺が女嫌いになりつつあるが」
「いやいやいや、それ困る! ほら御役目でしょ! 義務でしょ!」
「実はな? もうさっくり滅亡させてもいいとか思っちゃう時があるんだよ。王制なくして民間の代表者に政を行ってもらうのもありなんじゃないかな〜と」
「え〜と……お気持ちは理解できますが」
「そうか、賛成してくれるか!」
がしっ! と私の手を握るルドルフ王。
「賛成してません! 人を国の終焉を願う賛同者に仕立て上げるな!」
「国は終わらん! 新しい時代を迎えるだけだ!」
「他国との関係どーするんですか! 民間主導なんてことになったら侵略されるかもしれませんよ!」
「うっ……!」
そう、思ってもできない事情がこれ。他国との関係悪化。
王族・貴族は横繋がりなのだ、他国との婚姻でその血は国外へと流れている。
そんな奴等が正当な血筋だと大義名分を掲げて乗っ取りをしてきたらどうなるか。
ルドルフ王は肩を落として深々と溜息を吐く。
「間違いなく負けますよ。後ろ盾の無い民間主導なんて」
「だろうなー、俺もそのことがあるから無理だと思ってる」
「外交どころか国の運営方針も最初は荒れるでしょうしねぇ……友好的な国も味方をするわけにいかないし」
「エルシュオン殿下が推すだけはあるな……そのとおり。誰が好き好んで英雄(=生贄)になるもんか」
「ああ、英雄譚に夢は見ない方なんですね」
「現実問題として無理があるだろ。憧れるのは現実を知る五歳までだな」
一番の問題、友好国が消える。
王制をとっている以上は民間主導の国を支持するわけにいかないのだ、自分の国へ飛び火したら目も当てられん。
英雄譚では「その後、英雄達は新たな国を作りました云々」とあるが、現実は甘くない。
明確な『悪』である国を打ち倒した実績を持つ『正義』の英雄達でさえ地盤固めに生涯を費やしているのだ。
よく英雄の恋人がどこぞの姫になっているのは彼女の持つ権限や他国との繋がりを評価してのことじゃないかと思われる。
つまり政略結婚。取引ですよ、と・り・ひ・き!
夢を壊して大変申し訳ないが現実とはそんなものなのだよ、お子様達。
余談だが私は幼き頃にマッチ売りの少女の感想を『お金って大事なんだね』で済まし親を呆れさせている。
お金があれば辛い思いしてませんよ?
お金があれば現実逃避して幻覚見てませんよ?
それ以前にマッチ売ってないしね。ほら、話が始まらない。
現実的に捉えるか感情的に捉えるかの差で感想が大きく違う御話ですね。
まあ、とりあえず。
「わかりました! 全力で馬鹿ども根絶やし計画に協力させていただきます!」
「感謝する! いやぁ、良い友人になれそうな気もするしな!」
「ああ、そう思ってくれます?」
「おう! あ、俺のことはルドルフでいいぞ。言葉遣いも身内だけの時なら普通でいい。これから戦友になるんだし」
「りょーかい。宜しくね」
硬く握手を交わして笑い合う。
護衛の騎士達が顔を引き攣らせてるがそんなことは無視。
後宮破壊計画の発案者と協力者(実行担当)に一般的な会話なんて求めちゃいけません。
っていうかさ、ルドルフ王って多分私と同類だよ?
魔王様の友人やってる人ですよ?
お堅い王族様であるわきゃないよねー、それは。何を今更。
そんなわけで明日はゼブレストに出発です。
さて、どうなるかなー?




