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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ゼブレスト編
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準備しましょう

『御願い』を承諾してから。


「最低限で構いませんので踊れるようになってください」

「……宜しく御願いします」


 厳しそうな講師の女性は視線で『やれるものならやってみろ』と言っている。

 ふ、原因はアルさんか。アルさん狙いの一人なのか。

 アルさんもどことなく苦笑してる。

 夜会があるからダンスが踊れないと困る、ということでまずはダンス教室開催ですよ。

 相手役にアルさんを選ぶあたり魔王様はよく判ってらっしゃいますね……絶対に足は踏まん。

 まずはお手本ということで講師組、嫉妬の視線を浴びつつ次に私達です。

 おお、睨みつけてますな! 私で気付くくらいだからバレてるぞー、嫌われるぞー!

 睨まれても仕事なので仕方ないんだけどねぇ?


「睨まれちゃいました♪」


 じゃあ期待に応えてアルさんに寄り添って更に煽ってあげよう。


「大丈夫ですよ、私がいますから」


 おお、アルさんもノリノリで抱き寄せてくれるじゃないか。目的が判ってますね!

 あ、講師組が足踏んだ。はっは、些細なおちゃめです。気にしないで下さいよ♪


 で、次は私達。

 ステップの解説もなく初心者にやらせようとするあたり性格悪いな、講師。

 相手の人は何か言いたげだけど口を挟むことは無い。

 身分的なものか本人が怖いかどちらかと見た。


「できるだけで構いませんから」

「あー……はい、努力します」


 素敵な騎士様らしくリードとフォローをしてくれるようです。

 ありがとアルさん、優しいね。

 一応、初心者だと自己申告はしてありますよ。

 そう、実際に踊るのはこれが初めてなのです。普通は無理です。

 そんな私が踊れるわけ……


「あ……あら?お上手ですのね……?」

(……踊れるんだな、これが)


 理由は私が廃人プレイヤーの一人だったオンラインゲームにある。

 当時のオンラインゲームは殆どが仮想現実体感型でまさにゲームの中で生きている状態。

 致命的な怪我こそ負わないものの、現実と変わらない体験ができるというものだった。

 戦闘においての血の演出など年齢制限がかけられるようなものまであるのだから。

 その技術は軍事訓練などにも使用されているので『たかが疑似体験』などというレベルではない。


 故にゲーム内のスキルと言えども現実に身に付いてしまうものがあるのだ。勿論、現実世界にあるものに限り、だが。


 その中で『舞踏』というスキルがあったのですよ。普通は勿論使わない。

 ところがこれ、貴族以上のNPCと関わる場合は必須スキル。無いと困る。

 貴族の招待や国主催の晩餐会で人脈を作っておくと個人的に仕事を任せてもらえたりするんだな。

 当然、仲良くなるには上流階級の教養が必要になる。

 ふ……スキルレベル上昇の為に練習したのも良い思い出。

 戦闘系ギルドの筋肉上等! なアニキ達も死んだ目になりつつ鍛錬(練習)したと聞く。

 そんな光景を見てしまった奴等も涙目だったらしいけど。何を考えてたんだ、あの運営。

 ま、結果としてスキル習得→体で覚えて現実でも踊れる……なわけです。

 私が魔法にすんなり馴染んでるのもゲーム内で生活してたからだしね。


 ただね……このスキル『舞踏』は私にとっては黒歴史。

 事情は男性キャラで登録したのに踊れるのが女性パートという理由から察すべし。

 自キャラが女性的な外見だったとしても寒々しい光景ですな。

 意外な所で役に立ったからいいんだけどね……うん。


「お上手ですね。これならば安心です」

「色々ありまして……ええ、良かったです」


 安心したように、けれどどこか残念そうなアルさんに曖昧に微笑む。

 深く追求しちゃいけません、特殊な環境でスキルとして習得したなんて説明できません。


「上手な方に教わったのでしょうね。凄くやり易いですよ」

「ソウデスネ……」


 パートナーはβ版からの相棒でしたよ、良い奴でした。

 事情があっただけでBLな関係じゃありませんよ、両方男っていう寒い状態でも。

 誤解を招きそうな事態なだけに沈黙したいです。貝にならせてください。


「貴女のお相手を務められた方に嫉妬してしまいそうですね」


 だから聞ーかーなーいーでー!!



※※※※※


 次に必需品揃えるかー、ということになりました。

 そりゃ、そのまま行くのは無理だろうよ。

 ところが作るのは特注ドレスと装飾品だけだとか。

 曰く、殺るか殺られるかの状態になるから魔法付加のドレスが必須だそうな。

 へー、物に魔法を定着させることってできるのね?

 何でも魔力で描いた呪文を定着させるらしい。

『声』だと一瞬で消えるけど『文字』そのものを描くことによって効果を持続できるみたい。

 つまり術者が居なくても結界が張れるってこと。


 普通、この世界の魔法は基本的にその場に術者が居なければならない。

 術者の魔力が元になってるから当たり前ですな。手紙を送った簡易版もこれに該当。

 だけど結界や転移法陣みたく場に置いてくものも当然存在する。例外として魔石に魔法陣や呪文を組み込んで持続させる手段があるってことですね。

 他の魔道具も魔石が動力源となっている。つまり魔石=電池みたいなものだろう。

 魔石の質や術のレベルにもよるけど魔道具は値が張るらしい。製作できる技術者が圧倒的に少ないんだそうな。

 ……。

 ああ……そりゃ、そうだろうね。

 まさに見て覚えろ・フィーリングで覚えろって状況なんだし。

 説明されても魔力を使っての加工なんて理解できんわな。基本自力で成功させるしかないんじゃなかろうか?

 そしてもう一つが衣服そのものに魔力を帯びた特殊素材を使用した『魔術付加衣装』がある。

 こちらは布そのものに魔力が宿る形なので魔石は必要ない。

 身分の特に高い人達はこれを纏って暗殺を防ぐとか。

 ただし……高いんだとさ、これ。下手すると貴族の館が建つ。


 で。


「ふむ、サイズは丁度いいな」

「……」


 サイズを測らせた記憶も無いのに試着させられました。

 作った人? ……クラウスさん率いる黒騎士達ですよ?

 黒騎士達、どこまで器用なんだ。

 普通の仕事もしてたってことは夜な夜な手縫いか、皆でお裁縫か!?

『最初から魔導師だと言っておくから黒い方がいいね』という魔王様のよくわからん一言で色は黒、胸元の開いたマーメイドラインのデザインです。

 そうか、魔女とかそっち系のイメージですか。悪の女幹部扱いなのですね?

 全力で悪役になりきってみせますよ! やることが後宮破壊だしな。

 そして幾つか作られる装飾品。折角なので自分でも製作。

 そうそう、これは『魔法』ではなく『魔術』と言うのが正しいらしい。

『魔法』だと全体を指す事になるけど魔道具に攻撃魔法は組み込めないからなんだって。

 確かに、ターゲットが確認できないなら無理ですね。危険だし。

 だから結界や解毒などの装備者に効果があるものだけってことになる。

 他の理由としては職人としてのプライドらしい。

 クラウスさん曰く


『術式を組み込む技術を誰でもできるものと思われるのは我慢がならない』


とのこと。魔術師と魔導師の差……みたいなものか。で、私の作品は。


 名前:ヴァルハラの腕輪

 製作者:ミヅキ

 効果:治癒・毒分解・万能結界


 元の世界でやってたオンラインゲームで装備してたもののレプリカですよ。材料が違うけど見た目だけ同じ。

 装飾が施された銀の腕輪に魔石が一つ付いている程度なのであまり目立たない。

 魔道具の製作は『魔術定着・形成』の感覚でイメージすればできるっぽいね。

 銀と魔石を魔力で加工し、その過程で付属効果を組み込んだから生産スキルに近いかも?

 使い方は魔石に所有者の血を一適垂らして健康な状態を認識させるだけ。これで毒をくらっても怪我をしても体力を消耗して自動的に治癒や毒分解が発動してくれるようになる。

 これは解毒や治癒というより『元の状態に戻す』という感じなので本人しか使えない。

 本物はステータス上昇な上に毒・麻痺・睡眠無効という優れもの。ギルドの生産職の最高傑作だった。

 ステータス上昇なんて無理だし、毒も無効じゃなくて解毒効果か……うう、現実は厳しい。

 形状・性能を理解している明確なイメージの産物でも自分が使えない魔法は無理でした。

 この世界の解毒魔法が使えればよかったんだけどなー。だって一気に毒が消えますよ? これを組み込んでおいたら『毒無効』になっただろう。

 私ができるのは体から毒を抽出する転移の方法、もしくは毒を分解して無害なものに変える方法のみ。仕込むなら毒分解しかない。

 ちなみに『毒』を『本来体に無い異物』として扱ってるから薬物全般対象ですよ。

 ゲームに出てくるポーションや毒消しがリアルにあったら物凄い価値があると気付いた今日この頃。


 ところが。


「おい、これどうやった!?」

「え、普通に魔術付加させましたけど?」

「違う! 複数の魔術付加なんて聞いたことが無い!」


 あれ〜? ないの? マジで?

 ゲーム世界じゃ装備品のステータス上昇や複数耐性付属って珍しくないけど。


「無理なんですか?」

「当たり前だ。属性や相性の問題があるから至難の業だな」

「魔法を重ねてかけるのは難しいってこと?」

「それもあるが……重ね掛けすると上書きしたことになるんだ」


 魔道具一個につき一種類ってことだろうか。

 ふむ、これも本来ならありえないことなのか。


「だからこそ複数の魔術を組み込むという発想がない」

「なるほど……『重ね掛けできない』っていう常識が邪魔になるんですね」


 先生が言っていた『この世界の常識を持つからこそできない』ってことか。

 私はその常識が無い上、ゲーム世界とはいえ実際に装備して実物があると知ってるからできたわけね。

 つまり迂闊にこの世界で作っちゃいけない、と。

 おお、黒騎士さん達がじっくり見てますよ。

 技術者が夢中になる価値があるのか、あれ。

 理解しました。自分や特定の人達にしか作らないよ。

 だからさ?


「あの……いい加減に返してくださいな?」

「「「もう少し見せろ!!」」」

「……。お好きにどうぞ」


 研究・製作大好きな黒騎士達よ、それは私のだ。

 帰って来てからでいいなら君達の分くらい作るからさ……お仕事しようよ?

主人公が魔法に限り万能系なのは想像の産物でしかないゲームの世界を基準にしているから、というお話。

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