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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
147/696

惜しまれる存在ならば 其の一

長くなったので、分けます。

 バラクシンの騎士達が集う訓練場。

 普段は暑苦しい野郎どもが集うそこは、今や異様な雰囲気に包まれていた。


「ほらほら、満足に習った事もできないの? 本っ当に無能なのね」

「ぐ……貴様、がぁっ」


 反論を押さえ込むように手にした鞭でピシリ、と頬を叩く。

 クラレンスさん曰く『ミヅキは非力ですし、扱い方を習ったこともありませんから大した威力はないでしょう』とのことだったが、やはり引っ叩く程度の痛みしかないらしい。

 まあ、それでいいんだけどね。一撃で落ちてもつまらないから。強く振ればもう少し威力が出るだろうし、脅しには十分だろう。

 現在、獲物達のリーダー――もとい、喧嘩を売って来た騎士は跪いて項垂れている。

 謝罪の仕方も知らないみたいなので、土下座を躾け中なのだ。

 

 自分が悪かったら『素直にごめんなさい』は基本。


 異世界だろうと謝罪は普通にあるに決まっているじゃないか。


 人として当然のことすら理解できない頭なら痛みと共に体に覚えさせねばなるまい。


 そんな使命感を覚えて教えてみたのだが、やはり無駄なプライドが邪魔するのか素直にやろうとしなかった。

 きつく睨みつける視線に呆れた目を向け、鞭を男の顎の下に差し入れてその顔を上げさせる。

 

「お馬鹿なのもいい加減にしてくれない? あんたは負けたの、敗者なの、私に狩られたの! まったく、自分で仕掛けておいて見下す、ねえ? そっちがその気ならもっと酷い事をしてもいいけど?」

「ぐ……貴様、などに。貴様ごときに……!」


 その言葉に顎から鞭を外し、辛うじて体を支えていた男の腕を鞭の一閃で振り払う。

 びたん、と腹から落ちた男は呻くが私はその体を片足で踏みつけた。


「あ? 貴様……?」


 すい、と目を眇めて聞き返すも男からの言葉はない。

 その代わり大きく体が跳ねた。体が震えているのは屈辱か、それとも恐怖ゆえか。

 どちらにせよ誰が見ても『支配者はどちらか』はっきり判る光景だろう。


「ま……魔導師殿っ! お疲れでしょうから椅子をどうぞ!」

「あら、ありがとう」


 なにやら怯えながらも簡易の椅子が一人の騎士から提供された。お礼を言うとぶんぶんと首を盛大に横に振られ、即座に離れて行く。

 ありがたく座らせてもらおう……どれくらいかかるか判らないから。

 まあ、ぶっちゃけ『椅子に座っていればそこから動かない=自分達の安全確保』っていう思惑なんだろうな。

 大丈夫、安心してくれ。私が好き勝手できるのは連中だけだ。

 なお、他の連中は叩き起こした後に立たせて腕を含めた胸のあたりまで氷で覆ってみた。

 非常に軽い罰だが死んでも困る。できれば『国のために仕方なく』という大義名分の下、バラクシン王直々に処罰してもらいたい。その方が家ごと処罰できそう。

 と、言っても連中には既に気力は無さそうだ。


「ミヅキ、先ほどのことは本当なのか?」


 ちらりと連中に視線を向けるとクラウスが話し掛けてくる。 

 クラウスの言う『先ほどのこと』……それは私が彼らに向けた言葉だった。


 体を凍らせ身動きできない状態での『ためになるお話』の講義開催。


 ただでさえビビってる連中相手に『人間の体って脆いんですよ? 少しの体温の変化に耐えられないほどに』と一般的な常識を伝えてみたり。

 すなわち……『体温下がり過ぎたら死ぬかもね?』と恐怖のみを伝えてみた。正確に言えば現在進行形で爆上げされつつある魔導師への恐怖に上乗せ。

 いや、実際に人の体って平熱から六度ほど前後するだけで命の危機だからね? 嘘は言っていない。

 ボコられなくても迫っている命の危機は教えておくべきだと思ったのですよ、僅かばかりの良心と多大なる悪戯心から。

 判りやすい例として『貴方達だって野営で肉を調理するでしょう? 大した温度じゃなくても色が変わったりするじゃないですか、あれと同じです』と言ってみたら理解できたようだ。

 極度に『熱い』『冷たい』というものが命に関わるとは知っていても、その程度ですら命の危機に陥るとは知らなかった模様。

 その後、すっごく怯えて必死にもがきつつ命乞いされたけどな!

 ……実は彼等の服と氷の間には薄い空気の膜があったりするのだが。でなければ極僅かとはいえ、動けるはずなかろう!

 そこらへんに気付かないあたりが『お馬鹿さん♪』と言われる所以だ。凍りついてたら動けるはずないじゃないか。

 勿論、善意からではない。気付く奴は気付くもの、報告するならその方が笑いを取れると思ったからである。


「人間の体が体温の変化に弱いってこと? うん、本当。最悪死ぬ」

「それでもあの状態なのか?」

「うん」


 呆れた目を連中に向けるクラウス――哀れみなどは一切ない――の言葉にも迷いなく頷く。

 だって、そろそろ保護者様方が来そうだしねぇ……気絶してたらつまらないじゃん?

 そんな会話をしていたら、扉が開いて保護者様一同が到着。随分とゆっくりしていたようだ、立ち上がってひらひらと手を振ってみる。

 魔王様は一目見て連中の状態を察し溜息を吐くと、つかつかと私に近寄り。


「この、馬鹿猫!」

「あたっ」


 頭を叩いた。酷いですよー、私は被害者。当然の権利です!

 恨みがましく見つめても魔王様は「文句があるかい?」と言わんばかりに平然としてらっしゃる。


「その……魔導師殿。我が国の騎士が迷惑をかけた」


 おそるおそる……といった感じでバラクシン王が謝罪する。

 ふーん? 知らせに走った騎士から連中の暴言を聞いたな?

 でなければここまで会話がスムーズにいくはずはない、失言の拙さが国単位だと理解できているのだろう。

 私は敢えて笑みを浮かべてパシッと鞭を自分の掌に軽く打ち付けた。


「ふふ、化物扱いされましたから。彼等限定で私が何をしても処罰されませんよね?」

「そ、それは」

「されませんよ、ねぇ……?」


 向けた威圧か鞭が怖いのか、バラクシン王は青褪めた。

 そこに魔王様の声が割って入る。その指先は私の持っている鞭を指していた。


「ミヅキ。それ、どうしたの」

「クラレンスさんが貸してくれました! 護衛として行くなら武器があった方がいいって」


 手首だけで振って見せると魔王様は「クラレンス……!」と呟き、それはそれは深い溜息を吐いた。

 鞭が必要かはともかく、クラレンスさんの言い分は間違っていないので怒れないらしい。


「さすが義兄上です! 武器を扱えないミヅキにもそれなりに使え、ダメージも大した事がないと踏んで鞭を選ぶとは……!」


 対してアルは大絶賛。アルの言葉により周囲の騎士達に『そういや魔術師って非力だもんな。似合うとかじゃなく、そういった意味で貸したのか』という雰囲気が広がる。

 ……言葉にせずとも表情が語っているの。さっきまでは『誰だ、あの女に滅茶苦茶似合う武器渡した奴は!?』な目で見られていましたからねー、私。


「アル、君は別方向に絶賛してないかい?」

「そんなことはありません、義兄上のセンスに感動しているだけですよ」

「それ、『バシュレ家に相応しい逸材』って意味だろ」

「勿論です! 素晴らしい逸材だと我が家では絶賛されていますから、彼女」


 きっぱり言い切ったアルに、魔王様は頭痛を耐えるように額に手を当てた。思わず私も生温かい視線を向ける。何それ、嬉しくない。初耳だ。

 意味が判らん人々は『武人の家系バシュレ家』として受け取ったようで納得しているが、実際はSな属性のことだろう。実力者の国の真実が伝わる日は遠い。


「ですが、ミヅキ本人の報復を抜きにしても少々許し難いですね」

「すまない。君は彼女に好意をもっていたな……暴言については深くお詫びしよう」


 ライナス殿下がアルに謝罪すると、アルは「いえ、御気になさらずに」と簡潔に返す。

 ただし剣呑な視線は転がった男に向けられたまま。ライナス殿下達もそれ以上は言えず、気まずげに目を伏せる。

 ただし、イルフェナ勢からはアルに生温い視線が集中した。


『お前は奴を羨ましく思っているだけだろ、代わりたいんじゃないのか!?』


 心の声が綺麗にハモっているのは気のせいじゃない気がする。

 それでも見た目は『国と婚約者を侮辱され怒りを抑えきれぬ美しい騎士』に見えるのだから、顔は確かに外交上で有効なカードなのだろう。

 あの、バラクシンの皆さん? 申し訳無さそうにしなくていいからね!?

 だが、そんな心の声が聞こえるはずもなく周囲は一気にシリアスモード。間違っても真実を暴露できない空気に魔王様が視線で『何も言うな』と指示を出す。

 ……誤解に次ぐ誤解にイルフェナという国の真実は更に遠ざかったようだった。


「……で。そこで凍り付いているのは一体何故そこまで怯えてるのかな?」

「え、状況を理解できるよう『ためになるお話』を聞かせてあげただけですよ? こんな風に」


 話題を変えるような魔王様の疑問に、彼らの傍に近寄って一人の喉元に鞭を突きつけ顔を上げさせる。


「人の体って意外に脆くてね、体温が六度以上下がると命の危機なのよ」


 わざとらしく、にこりと笑い。


「貴方達、大丈夫かしら?」


 数歩歩いて別の人に狙いを定め、先ほどと同じように鞭を突きつけ顔を上げさせる。


「内臓まではいかなくてもね、手足が凍傷になってしまう場合もあるの」


 再び無邪気に笑い。


「今解除して、手足はちゃんと動くかな?」


 連中は鞭を突きつけられたのが自分でなくとも恐ろしいらしく、全員涙目だ。

 バラクシン王が居るのは見えているから、相当精神的にボロボロなのだろう。

 そこまでやると、私は再び魔王様の傍に戻り。


「……という感じでお勉強を兼ねた脅迫を」

「脅迫は止めなさい、脅迫は! 奴等以外も怯えているだろう!?」

「……あ」


 あら、ほんと。自分じゃなくとも『体が無事だといいねえ?』な脅迫は普通に怪我をするわけじゃないから怖いみたい。

 と言うか、実行しているのが異世界の魔導師なので得体の知れない恐怖なのだろう。つまり『貴方の知らない未知の恐怖』に怯えて口を挟めなかった、と。


「大丈夫ですよ? ちゃんと生かしますって。狩った獲物は生きていなければ使い道がありませんし」

「いやいや、獲物って何かな!?」

「主に使い道は人体実験。何事も尊い犠牲が必要ですが連中ならば罪にもならず、私も心が痛みません」


 だって自分達から『私が法に触れない』って明言しましたから! と明るく言い切ると、さすがに諌めようがないのか魔王様も押し黙る。

 勉強不足は彼らのせい。少なくとも他国からの客に対して騎士に相応しい態度をとっていたら問題は起きなかった。

 誰が聞いても私は被害者。報復で向こうが涙目になってようとも私が被害者。


「猫だって狩った鼠を玩具にすべく、簡単には殺しません。私が同じ事をしても不思議はないでしょう?」

「ですが、彼等を生かしておく価値がありますか?」


 魔王様達を納得させるべく言葉を続けていると、アルから突っ込みが入る。

 思わずぎょっとするバラクシン勢。何かあったのだろうか? 妙に怯えてるみたいだけど。


「いやぁ……保護者にも来てもらわなきゃならないし」

「ああ、一族郎党滅する気なのですね!」


 なるほど、と笑顔で言い切るアルに私も似たような笑みを返す。

 こいつらを〆たところで『お馬鹿な』(重要!)教会派貴族はまだ残っているのだ。それを一掃するくらいに盛大な事をしなければ魔導師として情けないじゃないか。


「災厄の名に相応しいでしょ?」

「確かに。結果的にはバラクシンのためでもありますしね」


 にこやか、和やかにろくでもない会話をする私達に魔王様とクラウス以外がドン引きした。

 やだなぁ、災厄の婚約者になりたがる奴が普通であるはずないじゃない!

 さすがにそのままにはできないと思ったのか、バラクシン王がやや顔を青褪めさせながらも提案する。


「保護者、つまりそいつらの家の家長を呼び出せばいいのかね?」

「ええ! 何か言い分があるかもしれませんし? じっくり、詳しく言い訳してもらいたいですね。どうせ今回の処罰って家単位でしょうし」


 『発言の拙さに気付いてますよ』な私の言葉に王も頷く。

 何せ私の交友関係は他国上層部にほぼ限定されている。うっかり彼らにバラされた日には冗談抜きに国の危機だ。

 そういった意味でも魔王様も聞いているこの場で『処罰する意思があること』を明確にしておきたいのだろう。


「では部屋を用意しよう。この者達は……」


 王は嫌悪を滲ませながらも凍りついている騎士達に視線を向ける。

 と、その時――


「このような行いを許すのですか! 民間人ごときに我が国の貴族が侮辱されたのですぞ!」


 転がっていた物体が声を上げた。

 まあ、ある意味間違いではない。ただし、『私が異世界人ではなく、彼らが失言をしていなければ』。

 事態に気付いている人達は嫌悪を露にし、中には蔑みさえ含まれているようだ。ただ、王は男の言葉に未だ認識のズレがあることを理解したらしい。


「貴様達の魔導師殿に対する暴言。あれは二百年前の大戦を引き起こした国と同じ思想だ。それを見逃せば危険思想を持つ国という認識は免れまい。まして今我が国には異世界人が居るのだからな」

「な……」


 漸くその事を理解しかけた男に王は更に畳み掛ける。


「いいか、守護役制度が婚約になっているのは『異世界人を我らの法に当て嵌めるため』だ。貴様らは自らそれを否定した。国の為と言うなら、お前達に限り魔導師殿の行動を咎める事などできんのだ!」


 強い口調で言い切られた内容に男だけではなく凍りついている連中までもが青褪める。漸く身分制度が何の意味もない事と一族郎党が処罰される可能性を実感したらしい。

 まあ、本人だけってのはありえんよね。そういう教育をされたって思われるだろうし。

 に、しても。

 ああ、やっぱりそういう『この世界側の事情』もあったのね? 魔王様に視線を向けると軽く頷いて肯定する。

 私の場合は守護役連中と和気藹々としているので忘れがちだが、彼らは監視役だものね。何の問題もなければ監視役なんてつかないだろうよ。


「君達は理解していなかったみたいだけど常識だよ? それにね、これまでの態度からも他国から擁護は出ないだろう」


 呆れを多大に含んで魔王様が言えば、男は悔しそうに魔王様を睨みつけ――ごく小さく「魔王が」と吐き捨てた。

 即座に反応したのは私、アルの二人。クラウスは距離があるし、バラクシン王は聞こえなかったのだろう。突然動いた私達にぎょっとしたような表情になる。


 私は体を起こしかけていた男の両腕を鞭でなぎ払い頭を踏みつけ。

 アルは剣を抜いて踏みつけられた男の首筋に突きつける。


「誰が発言を許可したの? 国の面汚しの底辺騎士は無様に転がってろ、穢れるから私の保護者に視線を向けるな」

「騎士の前で主を侮辱するとは……よい度胸です」

「治癒魔法は得意だから安心して? 保護者との話し合いまでに『とりあえず』体が見れる状態であればいいもの、何だったら手足切り落として生えてくるか試そうか?」

「ああ、それは楽しそうですね。治癒魔法の限界に挑戦させましょうか」


 ギリギリと踏みつけた足に力を込めながら無表情で言う私に、妙に迫力のある笑みを浮かべて賛同するアル。

 クラウスも事態を察したのか凍りついている連中にいつでも魔法を撃てるようにしているらしい。高まる魔力の気配に魔力持ちらしい騎士達が顔色を変えて王の傍に集っている。

 誰が見ても本気だと判る状況に尤も慌てたのは――何故か魔王様だった。


「やめなさいっ!」

「やです」


 つん、とそっぽを向くと魔王様は近寄ってきてぺしっと叩いた。

 ええ〜、悪者私かよ!? だが、見慣れたその光景にアルとクラウスは一応殺伐モードを解除したようだ。怒りは未だ継続中のようだが、主の言葉に従うらしい。


「君達が怒るのは嬉しいけどね、この場は抑えなさい」


 不満たっぷりの視線を向けるも魔王様はがしがしと頭を撫でるだけ。あれか、もしや猫をとりあえず撫でて落ち着かせる的な意味か。

 ……バラクシン勢は呆気にとられているけどな。魔王様の私の扱いに加え、私までもが『待て』に従ったことが意外だったらしい。

 でも足は退けない。今もギリギリ継続中。呻き声は無視です、無視。


「……これ以上の失言をさせないためにも行動した方が良くありませんか?」

「そ、そうだなっ、すぐに呼びつけよう」


 突如魔王様に話を振られ慌てるも、王もそれが最善と判断したらしい。即座に部屋の手配と保護者どもの拉致を手配してくれた。

 ちなみに意訳ではない、本当に「拉致して来い」と言った。本音が出てますね。


「そいつらは……」


 騎士達に運ばせよう、とでも続くはずだった言葉を私は笑顔で遮る。


「こいつだけ代表として私が引き摺って行きますから、主な保護者の招集と案内だけお願いします。他の連中はここに置いておきますから」

「そのまま、かね?」

「ええ! 仮にも騎士ですから体を鍛えているでしょうし」


 連中が縋るような目を向けてくるも華麗にスルー。口を開かないのは目の前で「許可なく口を開くな」と言われた例があるからだろう。学習能力はあるようだ、めでたい。


「ですが、女性には重いと思いますよ?」


 案内してくれた騎士さんが心配してくれるけど、それも問題はない。


「コルベラで簀巻きにされた王太子を引き摺りまわした挙句、吊るしたのは私ですよ? 軽くする方法があるので問題ありません」

「は、はあ……」


 騎士さんは納得したというよりも『何それ怖い』と顔で語っている。そして私はちらりと転がった物体に視線を向けながら、更に付け加えた。


「ですが、ちょっと手が滑って……落としてしまう事があるやもしれません。責任を持って運びますから気になさらないでくださいね?」

「え゛」

「御気になさらずに」


 ルーカス君達も何度か落としたものね、私。今だけドジっ子設定で宜しく。

 当たり前だが落としても良心は全然痛まない。寧ろ階段とかでは手を離した挙句にうっかり蹴飛ばしたい。

 この場では収めたけど、この程度で済ます気は最初から無いのだ。保護者を呼んでもらってからが本番です、保護者が居る限り同じ事の繰り返しだろう。


 娯楽に溢れた世界を嘗めるなよ?

 二度と教会派なんて名乗れないようにしてやろうじゃないか。

 

 でもさっきの魔王発言――愛称ではなく、化物的な響きだった。だからアルも動いた――を許す気もないわけでして。

 保護者がくるまでちょっくら恐怖の運搬作業と行こうじゃないか。邪魔は許さない。


「ふふ、まだミヅキもお怒りなのですね」

「当然! 結界張って運ぶからダメージ無いし恐怖だけだよ。アルも何かやったら?」

「貴女の近くに居れば偶然こちらに来る事もありそうですね。その際にはつい日頃の癖で反撃してしまうかもしれません」

「騎士だから仕方ないんじゃない?」

「そうですね、仕方ないですよね」


 復讐の機会とは窺うものではない、自分で地味に作り出すものだ。

報復は保護者を交えてからが本番です。

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