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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
139/696

下される処罰

「で、そうなった時に貴方はどちらの味方をするんです? 優しい母親? それとも妻?」


 そんな言葉をかけられたフェリクスは固まったまま無言。

 まあ、そうだろうな。彼は妻と母親が争う未来なんて想像していなかっただろうし。

 サンドラ嬢は……まだ呆然としているようだ。自分が知らなかった事実が一気に来たのだから仕方ない。

 

「……というか、それ以前に処罰が待ってますけどね」

「え……?」


 フェリクスは未だぼんやりとしたまま首を傾げる。


「だ〜か〜ら! イルフェナへの侮辱に対する処罰ですって。該当者は貴方達三人と中途半端な情報を齎して私との接点にしようとした伯爵、その家丸ごとですね」

「そうだね。考え様によってはいいのかもしれないよ? 場合によっては君が選ばなくてもいい事態になるかもしれないのだから」


 魔王様が暗に『三人揃った未来は無いかもね』と言って彼等の不安を煽る。

 受け取り方によっては『選ぶ以前の問題だから責められることはないかもね?』と宥めているようにも聞こえる、大変嫌な責め方である。

 それに全ての決定はバラクシン王にある――イルフェナが納得できる処罰、という前提だ――のだから、人々の視線は自然と王へと向いてゆく。

 王は未だ厳しい表情をしたまま、無言。彼の中で処罰は既に決定されているのだろう、迷いは感じられなかった。


「エルシュオン殿下。イルフェナの代表として私が下す処罰を見届けて欲しい」

「勿論です。私は今回その為にバラクシンへと参りましたから」


 王の問い掛けに魔王様は笑みを浮かべたまま、しっかりと頷く。

 その表情に先ほどまでの厳しさは感じられない。どことなく面白そうな、王を見極めようとするかのような感じだ。

 その言葉を受けて王はフェリクスへと向けて言葉を放つ。


「フェリクス、お前の王籍は抹消する。義務を果たせぬ輩を王族にしておくわけにはいかん。通常ならばお前自身が持つ爵位を名乗らせるところだが、お前にはそれもあるまい。バルリオス伯爵家と養子縁組させる」

「おやおや、『優しいお爺様』の元に預けると?」


 からかうように問い掛ける魔王様。だが、どうやら王の言葉の裏にあるものを察しているようだ。

 甘い処罰だと失望する様は見受けられなかった。


「フェリクスに子供は作らせん。……いや、『できない』。エルシュオン殿下は我が言葉の証人となってくれるのだろう?」

「勿論ですよ、王。今後、彼ら夫婦に子供が生まれても王家の血とは認められない。ああ、『できない』のでしたね。王自身が公の場で、イルフェナという国の代表に明言しましたから。万が一、王家の血筋が儚くなっても他国より血縁関係者が迎えられるでしょう」


 にやりとした笑みを浮かべる魔王様は美しくも極悪だった。王も反論しない。

 フェリクスとサンドラ嬢は目を大きく見開き固まった。特にサンドラ嬢は告げられた言葉を信じたくはないのか、ゆるゆると首を横に振っている。

 『母にはなれない』。それがサンドラ嬢に与えられた罰なのだ。御伽噺のような恋に憧れ現実を見なかった彼女は、夫の子を産むという未来を永遠に失った。

 尤も養子を迎える事はできるから、落ち着けば孤児院の子供を引き取ったりするかもしれない。サンドラ嬢は元々奉仕活動に熱心だったみたいだし。

 フェリクスもショックなのだろうが『優しいお爺様』の元へ行く分、安堵も混じっているように見える。その様に魔王様はひっそりと笑みを深めた。

 ちなみにこれ、一見甘く見えるようで壮絶に重い処罰だったりする。


・王籍抹消・子供は『絶対にできない』

 本人の王族としての価値を徹底的に無くした挙句に子供が持てない。出来た場合は妻の不貞を疑われるオプション付き。問題児フェリクスを『薬などでそういう体にしてある』とも取れるし、男として欠陥があると暗に公表されたようなもの。

 しかもそれをイルフェナという他国に対して王が明言しているので、自称フェリクスの子孫が後に王族として王家に戻ろうものならば『過去の王の証言』という『事実』によって偽物扱い。血筋を疑われた上に先祖の所業も暴露され、他国からも王族としては認められないので下手をすれば処刑。


 王家の血の流出……とはならないだろう、今回の場合は。普通に養子縁組ならば教会派に王家の血を渡す事になるのだろうが、フェリクス本人に子供が作れないという疑惑がかけられているから。

 万一出てきても王が否定すればアウト。『王宮内で薬盛ってました!』は他国でも使われる手口だし、実際に行なわれたかは関係者にしか判らない。いや、今後『そんな体にされる』かもしれないのだ。

 教会派が欲を出して子供の存在を主張したとしても、既に対処法が決められているだろう。

 フェリクスが女ならば産婆の証言などで実子と主張できるかもしれないが、男の場合は子を生んだ女の証言や子供の顔立ちとか色彩に頼るしかない。幻影を纏わせて相手がフェリクスだと思わせたという手も使えるのだから、女性側の証言も確実な証拠とはならないだろう。

 そうなると魔術による確認ということになるのだが、それを行なう魔術師は王家側……絶対に『血を引いていないことにされる』。一度でも王が他国の王族に『子が出来ない』と明言した以上は『それが正しい』のだから。

 結果、王家の血を騙った罪人として証拠隠滅……じゃない、一族郎党処刑です。小細工するより普通に王族との縁談狙った方が確実だろうな。

 しかも利用価値を徹底的に無くした上で『優しいお爺様』に丸投げ――今後問題を起こさないとも限らない――だ、これまでと同じ関係でいられるとは到底思えん。

 母親との関係に続き、『優しいお爺様』との関係も確実に変わるだろう。

 ……と言うか、フェリクスは王家を出て一体どうやって暮らしていくつもりなのだろうか? 伯爵家に養子に入ったとして領地経営を手伝えるとは思えないのだが。

 おそらくは今後の伯爵家での扱いも罰として組み込まれていると推測。フェリクスが王子時代にしてきた事が反映される罰である。つまり、何もしていなければ――人脈作りとか領地経営を学ぶとかですね――無能な居候でしかない。今後は完全に本人の努力次第だ。


 王様、かなり厳しくやりましたね。

 処刑や幽閉にならない分、処罰が軽く見えるから反対意見も起こらないだろう。

 フェリクス個人をピンポイントで狙った処罰は判る人にとっては納得のいく重いものだ。現に母親はその処罰の本当の意味に気付いてないっぽいし。

 ……ある意味、処刑とか幽閉の方が楽なんだけどなぁ?


「サンドラはフェリクスについて行くしかないとして。カトリーナだが……実家に帰るがいい。側室でいたくはないのだろう? 私にとっても王家にとっても不要だ」

「……っ」


 本当に興味無さそうに告げる王にカトリーナは息を飲む。まさか、これほどまでにあっさり側室をやめられるとは思わなかったのだろう。

 普通は無理だと思うよ? 普通はね。

 そしてこの場にはその理由を詳しく教えてあげる親切な人がいらっしゃった。


「そうだね、彼女自身に価値は無いだろう。先ほどの様子からも思い込みと妄想が殆どで重要な情報など持っていないと誰でも判るし、政に関わってもいないと王が明言しているものね」


 別名、魔王様とも言いますが。うちの上司は天使の笑顔で毒を吐く。

 ……いや、今回は思いっきり事実だけどさ。

 公の場で王と他国の王族――外見と能力は素敵な王子様です――に『価値の無い女』と言われる屈辱は如何程でしょうな、カトリーナ。

 ああ、真っ赤になって肩を震わせている。悔しいか、やっぱり。

 だが事実だ、諦めろ。二人に反論したら身分制度を盾に更なる報復が待っているから、やめとけ。


 ちらり、と視線を向けた先に居る王はカトリーナの様子にさほど興味が無いようだった。王としても息子を失う元凶に向ける優しさは無いらしい。フェリクスと違って救いが無いもんな、この罰。

 カトリーナへの罰も本人にとって最も屈辱的であり、これまでの行いが自分に跳ね返るというものだ。当然、それが側室という立場からの解放……というだけで済む筈はなく裏の意味がある。

 カトリーナは先ほど『選ばれる努力をした人達全てを侮辱している』のだ、それはアルにもはっきり言われている。

 全てを側室になった事の所為にするなら『側室にならなければ素敵な人に選ばれた! 望んだ生き方ができた!』って言い切ったようなものだもの。凄い自信ですな、政略結婚を嘗めてるとしか思えない。


 そんな彼女が今後社交界に受け入れられるだろうか?


 答えは否、だ。頭の軽さもばっちり見られているので、王家の不興を買うことを避ける意味でも相手にされまい。

 彼女は永遠に華やかな世界から爪弾き決定である。出会いの場がなければ彼女の王子様(笑)も現れないだろう。彼女は身分にも拘るタイプのようだし。

 そもそも脳内御花畑な彼女がそれなりに扱われたのってフェリクスという王子の母親である事と、側室という立場からだ。側室って一応王の妻という立場だし、伯爵が後ろ盾に居る事から下手な扱いができなかっただけだと思う。

 『王子の母』と『側室』という重要なステータスを失った彼女に残っているのは醜聞だけだ。人目を避けて過ごすならば実家に引き篭もるだろうし、そうなると必然的に息子夫婦と顔を合わせることになる。

 当然、嫁姑戦争が勃発するだろう。彼等には家の中ですら安らぐ場所が無い。

 あるとするならばカトリーナが自身のこれまでを反省し、息子夫婦を見守る『優しいお母様』になった場合なのだろうが……そう簡単に『女』であることを捨てられないだろうね、彼女は。


 そして。

 これに加えてバルリオス伯爵への処罰というものが待ち構えているのだったりする。今この場に居ないからこそ、処罰を言い渡されないだけだ。当然、バルリオス伯爵家も只で済む筈は無い。

 フェリクスとカトリーナの安堵は『バルリオス伯爵家が今のままであること』が前提なのだ……

 

 安心させておいて落とす!

  

 後から追撃で一気に現実問題へ直面!


 あ、家の力は削がれるだろうけど伯爵家は残るよ? イルフェナの貴族達が玩具にするという理由で。

 外交の矢面に立たせてズタボロに……というつもりらしい。バラクシンからも無能扱いされるだろうしな。イルフェナでは後続組が待ち構えていたり。

 まあ、慎ましく生活するだけの財産はあるだろうから――元王子が居るから。さすがに潰したり路頭に迷わせると拙いらしい――贅沢しなけりゃ暮らせるだろう。地味に酷いというか、扱いの不当さを訴えることが難しい対応だ。

 表向き情報提供者に過ぎないからこそ逃げられると思っていた伯爵よ、貴方は甘い。その為の対策はちゃんとあるのだよ。


 カトリーナが『側室になんてなりたくなかった!』ってこの場で言っちゃったもの、つまり全ての元凶はそれを仕組んだ父親。フェリクスへ情報を流した事も含めて無関係だったという言い分は通るまい。


 伯爵の手駒によるイルフェナ勢へ向けた黒幕の暴露とも受け取れますな、これ。

 これを元に『じゃあ、なんで側室に? そいつは普段何をしてたのさ?』という流れに持っていけば、伯爵が長年彼等に干渉していた事実が明るみになる。

 これに『魔導師に接触する事が目的』という情報を加えると一気に今回の黒幕というポジションへと祭り上げられるのだ。『フェリクスとカトリーナの信頼を受けた立場を利用し、自分にとって都合のいいように動かした人物』……という感じ。間違ってはいない。

 フェリクスが魔導師に関する正しい情報を持っていないことからも、接触を望んでいたのは情報を与えた伯爵だと誰もが思うだろう。

 話の流れ的にも無理はない。何より双方の王族達が認めてしまえばそれが『事実』。伯爵もフェリクス達への長年の干渉が黒幕と思わせる要素になるとは想像していなかっただろう。

 茶番は側室本人の口からこの台詞を言わせるために追い詰めるような状況にしただけである。当時の状況を調べる事で裏付けが取れるだろうしね。

 その前にがっつりお説教が待ってるけどな!


 やがて王が私の方へと顔を向ける。


「魔導師殿。今回はイルフェナ同様、貴女にも迷惑を掛けた。……すまなかった」


 そう言って頭を下げる。周囲はざわめくが魔王様達は何も言わない。

 ……当たり前だ。魔導師は『災厄』と呼ばれる存在。イルフェナとて同じ立場になったら国の為に頭を下げて許しを乞うだろう。

 私はキヴェラを敗北させた実績があるので、決して馬鹿にはできないのだ。


「頭を上げてくださいな。今回のことは既にエルシュオン殿下が動いてくださっていますから、バラクシンという国をどうこうしようとは思いません」


 そう、『国』はね?

 そう内心付け加えるが表情には出さない。ライナス殿下に続いてこの『お兄ちゃん』の好感度は高いのだ。追い打ちする気はありませんとも。


「アリサの事があってから城の侍女や騎士、貴族は勿論すべての存在に欠片も信頼を抱いていませんでしたが、貴方様はエドワードさんやライナス殿下に次いで信頼できる方のようですから。迷惑を掛けようとは思っていませんよ」


 そう言ったのに何故か一斉に青褪めるバラクシン勢。

 やだなー、アリサに好意的な人達以外は私にとって何の価値も無いよ。今現在二人が暮らす家に居る使用人達は好きだけど。

 

「ふふっ、皆様は何を驚かれているのです? 私も異世界人なのですから……貴方達が彼女を別種族扱いした挙句にろくな教育も施さず愚かと蔑んだ事を知っているなら当然でしょう?」

「そ、それは……」

「ああ、大丈夫です。貴方達が異世界人に対して期待しないというのは私にとってとても都合のいいことなのですから。だって、私も貴方達の人権を気にする必要が無いんですもの!」


 人扱いする必要無いですよね! と笑顔で言えば周囲は益々青褪めた。

 はっは、アリサに手を出したら脅迫くらいじゃ済まないぞぅ、覚悟しとけ?


「折角なので言っておきますね。アリサ達に手を出した場合……ああ、これは後見のライナス殿下も含まれます。その場合は家単位で潰しますから。魔法の実験と称して死んだ方がマシな目に遭って頂きます」

「……殺さないのかね?」


 意外だとばかりに近くに居た男性が言葉をかけてきた。それに対して私は笑みを深める。


「殺すなんて優しさは私にはありませんよ。死ねばそこで終わりじゃないですか。ま、殺すのも簡単ですけどね」


 指を鳴らして会場全体に無数の氷の飛礫を出現させ、即座に砕いて消す。その光景に息を飲む人々は私の言葉が事実だと悟ったのか、何人かが気を失ったりしているようだ。

 ……ライトに照らされた氷の飛礫がいい感じに光ったもんな、あれに貫かれる自分を想像でもしたんだろう。数が多いのも怖かった一因か。

 ライナス殿下にも手を出すなよー? 教会派貴族ども。この世界で生きる以上はアリサにも保護者が必要だ、それを潰そうとすることは己が一族の最期と知れ。


「はは、ミヅキはやると言ったら確実にやるからね。覚悟した方がいいよ、この子は凶暴だから……実際にキヴェラの件で色々とやってるし」

「やだ、魔王様。災厄と呼ばれてこそ魔導師じゃないですか! 凶暴は褒め言葉ですよ」

「うん、そうだよね。君にとってはそうだろうね」


 楽しげに忠告する魔王様に恥ずかしげに答える私。大変わざとらしいやりとりに周囲は『何この子怖い。ってゆーか、この二人怖い』とばかりにドン引き。

 ……バラクシン王、貴方まで引いてどうする。少しは諦めの境地で溜息を吐くだけにとどまっているライナス殿下を見習え。

 アル、クラウス。そこで『そのとおりです!』とばかりに頷かなくていいから。


「あ、でも折角ですから今から私がする事は見逃して欲しいのですが」

「ん? まあ、殺人でないなら構わんよ」

「勿論ですよ。では、早速!」


 王の許しに笑顔で答えて振り返る。その先にはフェリクスとカトリーナ。

 二人に向かって微笑みながら指をパチっと鳴らす。次の瞬間、空気圧縮による衝撃波が二人の顔面を直撃した。仰け反って転ぶ姿が無様だね。

 二人とも何が起きたか判らず顔を押さえ、周囲は呆気に取られ。

 魔王様達は「やっぱりねー」とばかりに苦笑。


「私、馬鹿って嫌いなんですよね。敵だろうとも実力者ならば相手にするのは楽しいですし」


 にこにこと笑いながら近寄り二人を見下ろす。私の影に気付くと二人はびくりと体を跳ねさせた。


「魔導師を自分に都合よく利用? ヒルダ嬢の時間を無駄に浪費させておきながら悪役扱い? ……『クズな私の為に申し訳ございませんでした』くらい自主的に言えないのか、お坊ちゃんが!」

「ひ……っ」


 がつ、と未だ立てぬフェリクスの肩を踏みつけ威圧を向けながら凄むと怯えたような声が微かに聞こえた。これで二度と馬鹿なことは考えないだろう。ヒルダ嬢にも暴言を吐くまい。

 不敬罪? 見苦しい場面を見せる事への許可は王にとりましたよ?

 フェリクスは既に王族ではなくなっているのだ……つまり養子縁組の手続きが済むまでは平民扱い。

 私とフェリクスに身分の壁は存在しない! この時を待っていた!

 そして同じように蹲ったままのカトリーナにも視線を向ける。彼女も罪人扱いされているので、王が許した以上は不敬罪が適用されない。


「あ……貴女は、人を、何だとっ……」

「煩い、現実と御伽噺の区別がつかない道化は黙ってろ」

「なんですって!?」

「女としての事実を言われるのは不満? じゃあ、教会派の駒の失敗作」


 顔を押さえていた手を離し真っ赤な顔で――鼻血も出てるんだが、いいのか?――私を睨みつけるカトリーナ。しかし、現実は更に非情だった。


「事実ですよね」

「貰い手になろうという酔狂な奴が居なかったんだろ」

「一体、あの自信はどこから来るのでしょうね?」

「妄想だろう、自分こそが主役でありたいようだからな」

「相手にだって選ぶ権利があるんだけどね……君が選ばれる要素って何? 顔や能力や性格じゃないよね? 君の憧れる御伽噺って『美しい娘』や『心の綺麗な娘』が主役だけど、君はどちらでもないし」


 アルとクラウスというイルフェナ優良物件の遠慮のない言葉に、その呆れた視線に。

 カトリーナより綺麗な顔した魔王様……もとい憧れの素敵な王子様からの痛烈な言葉に。

 カトリーナは今度こそ心が折れたのか、がっくりと肩を落とし沈黙したのだった。


※※※※※※※※※


「……なかなかに面白い処罰でしたよ、王」

「そう言ってくれると助かる。イルフェナはこの決着に納得したということだからな」


 三人が連れて行かれた後、部屋に移動して休憩中。この後はお説教があるので、とりあえず一息吐こうということになったのだ。


「魔導師殿ならばどういった対処をするんです? 貴女の意見が聞きたいな」

「私?」

「ええ」


 王太子殿下が好奇心一杯に尋ねてくる。おそらくはキヴェラの件を正しく知っているのだろう。頭脳労働的意見が聞きたいらしい。


「……と言うかですね、フェリクス達と王家にとってできるだけ醜聞とならない方法ってあるんですよ。ついでに母親諸共伯爵家を落とす事も含めて」

『は!?』


 バラクシン勢は綺麗にハモり、イルフェナ勢は面白そうに私を見つめた。

 え、あるじゃん。物凄く確実で誰の助けも要らない方法。


「……聞かせてくれ」


 バラクシン王がかなり真剣に聞いてくる。私は魔王様に一度視線を向け、頷いたのを確認した上で話し始めた。


「フェリクスが精神病だったってことにすればいいんですよ。これまでの問題行動も徐々におかしくなったってことにできるし、婚約解消も有能な人材を惜しむゆえ。ヒルダ嬢もこれなら醜聞にはなりません」

「う……うむ、それで?」

「サンドラ嬢は愛する夫に付き従う形で二人揃って離宮あたりに幽閉すれば表舞台には立たず、二人も生活は安泰。王家にそういった人が他に出ていなければ母親の言動から『原因は伯爵家の血』ということにできます。ほら、お手軽」


 さらっと言ったら全員沈黙して私をガン見。

 いや、今回はフェリクスが行動しちゃったけどさ。行動していなければ私……と言うか魔導師どころか誰の助力も要らんのよ、この問題。

 尤もバラクシン王が『フェリクスに子を作らせない』と言ったからこそ、可能だとも言える。この方法だと子供が生まれた場合は養子縁組させないと、子供が親の被害を受ける事になっちゃうから。

 そう付け加えると『確かに……』と誰もが黙り込む。

 私達は部外者なのだ、バラクシンとて全ての情報は提示できまい。ましてそれが身内の醜聞ならば。

 あくまでも『フェリクスがイルフェナを侮辱しなかった』ということが前提。


「確かにそれならば同情も誘えるね。フェリクスとその母親のこれまでの言動を逆手に取るのか」

「ええ。フェリクスが病人扱いですが、サンドラ嬢との事を『献身的な夫婦愛』として広めれば本人達の希望どおり誰もが憧れる物語の主役になれますしね。まあ、フェリクス達には罰にならないやり方なのですが」


 魔王様もなるほどと頷く。今回、魔王様はイルフェナの代表として処罰を見届ける必要があるから、こういった方向には考えなかったのだろう。


「……。君が敵にならずに済んで本当に良かった」


 やや引き攣りながら王太子殿下が口にすると、護衛の騎士も含めたバラクシンの人々が一斉に頷く。


「ふふ、相変わらずですね」

「お前、本当にこういった事は得意だな」


 頭脳労働なのですよ、魔導師は。権力が無いならば知恵と暴力でカバーします。 

御伽噺の王子様は恋に生きる御花畑な人多数ですが、現実の『素敵な王子様』はとってもシビアです。

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