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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
137/696

恋人達は現実を知る

 二人して戻った広間は先程よりも穏やかな雰囲気になっている。

 おそらくフェリクス達は無難に挨拶を終えたのだろう。反論でもしていれば今頃は周囲の視線を集めている筈だ。


「……こちらに向かって来ていますね。エル達も、ですが」

「あれ、もう来ちゃうの?」

「一緒にではありません。後ろからです。いつでも介入できるようにする為でしょう」


 私よりも背の高いアルからは見えたらしい。つまり今度は魔王様達が出てくるのか。

 

「あらら、本番を始める気?」

「長引かせても結果は変わらないと判断したのでは?」


 更生コースは却下されたらしい。気まずさはあっても反省は見られなかったのか。

 まあ、正直さっきの出来事程度でこれまでずっと『そう育てられてきた』フェリクスが変わることはないだろう。フェリクスが基準のサンドラ嬢も同じく。

 ……彼女は侍女を失う事は嘆いても『何故それが必要なのか』ということまでは理解できなかっただろうから。


 王族、しかも他国の者の前での失態。それを許してしまえば国そのものが価値を落とす。


 だからこそ、イルフェナからの評価を落とさぬ為には必要な事なのだ。

 決して侍女を憐れまないわけではない。彼女が主を守りたい一心だったことはきちんと理解しているのだ、王族とて。


「どうせならもう一人の獲物も来て貰いたいわね」


 そう呟くとアルは面白そうに目を細める。


「おや、『彼女』もお望みで?」

「だって話にならないと思うわよ? 魔王様がこっちに来るならクラウスも居るでしょ、好都合だわ」

「ふふ……確かに」


 私がやろうとしている事の想像がついたのか、アルは楽しげに笑う。共犯者様も中々にやる気らしい。

 

「このような場ですが、しっかりと見せ付けられることは嬉しいですね。クラウスも喜んでこちらの挑発に加わるでしょう」

「挑発? ただの事実だわ」

「ご尤も。私達も皆の期待に応えなくてはいけませんからね」


 緩く口角が吊り上り笑みを刻む。それは絶対に『素敵な騎士様』のものではない。

 ぶっちゃけ『彼女』が元凶其の二だもんなー、魔王様に忠誠を誓うアル達が許す筈はないのか。

 ……『翼の名を持つ騎士』は複数の部隊が存在する。当然他にも存在するのだが、私が隔離されている状態なので会わないだけだ。

 例外的に会ったのはキヴェラの時にお世話になった商人さん達だけ。私と接触していない人が望ましいので魔王様が借りてきました。

 基本的に王族が率いる形で魔王様の直属の部下が私が生活する騎士寮の皆さん。年齢からして魔王様達の学友あたりで構成されているのではないかと推測。……黒騎士はクラウスの類友な気がするが。 

 まあ、ともかく。

 今回はイルフェナという『国』を侮辱したので彼等も当然お怒りだったらしい。

 だが、魔王様が出向く事からアル達に一任されたそうだ。それもフェリクスの不幸に繋がっているのだったりする。

 

 だって、魔王様率いるアル達が一番性質悪いみたいだもの。

 ついでにオプションで私が居ます、彼等の部隊には。


 少なくとも商人の小父さん達は割とまともだった。

 翼の名を持つ騎士が全員こいつらと同類とかではないのだろう。忠誠心はMAXぶっちぎってそうだが。

 そんなことを考えているとフェリクス達がやって来た。どうやら未だに友好的な関係にもっていきたいらしい。

 ……姑息な。

 『誰かを頼ることが前提』ならば愛を貫きたいとか言うなよ。三流恋愛小説の主人公達だってもっと自力で何とかしようと足掻くだろうに。


「……魔導師殿、先ほどは申し訳ありませんでした」


 頭を下げながらフェリクスが謝罪する。サンドラもやや顔を青褪めさせながらもそれに倣った。

 ふぇ〜り〜く〜すぅ〜?

 王族に頭下げられたら『御気になさらず』しか返答できねぇだろう!?

 多分、フェリクスはそこまで頭が回らない。裏など無く素でやっている。


「……御気になさらず」


「もう期待してませんから」と内心付け加え謝罪を終わらせる。アルもそれが判ったのか苦笑気味。

 フェリクス達は安堵の笑みを浮かべているが、実際には地獄巡りが始まっただけである。エンディングまでノンストップだ、覚悟しとけ。


「では……」

「お話の前に」


 フェリクスの言葉を遮りサンドラ嬢に視線を向ける。サンドラ嬢はびくりと肩を揺らしたが、それでも笑みを浮かべて見つめ返した。


「サンドラ様に伺いたい事がございます。……貴女は御自分の選択を後悔していらっしゃらないのですか?」

「え? ええ、実家から絶縁されることは辛かったですが後悔はしておりません」

「そう、ですか」


 やはり絶縁されていたか。彼女の性格を知り、その温い思考が王族には適さないと考えたのならば当然だろう。娘が可愛くとも家ごと破滅させるわけにはいくまい。

 対してサンドラ嬢は己が言葉の意味を理解していないのか、頬を染めている。彼女からすればフェリクスへの揺ぎ無い愛とやらを問われたとしか思っていないらしい。

 だが、私はそんな夢を見せてやるほど優しくは無い。


「サンドラ様。貴女は教会派の貴族であると伺いました。王家に嫁ぐと言う事は教会派の裏切り者となって王家につくということか、教会派の一員として王家に牙を剥くかのどちらかです。貴女はどちらを選ぶのですか?」

「え……?」

「王家の一員となれば教会派の孤児院には寄付できなくなります。個人の資産ではなく、『国の資産を王子の妃として使うことになる』からです。その状態で教会に寄付をすれば単なる税金の横領ですよ」

「な!? わ、私はそんなつもりはっ」


 今初めて知ったように青褪め慌てるサンドラ嬢。フェリクスは驚愕しながらも、サンドラへと視線を向けた。

 ……気付いてなかったな、こいつら。


「国が運営する孤児院ならば公務として訪れることが可能です。ですがそれも特定の孤児院を贔屓するのではなく平等に回り、寄付……これは物資に限定されますね。その寄付も国からの物であって貴女からのものではありません」

「そうですね、王子の妃たる方が個人的に親しいからといって寄付に差をつけるわけにはいきません。何より民の税を個人的に使うなど許される筈も無い。己に与えられた予算は『王子の妃として』のものであり、個人の所有ではないのですから」


 私とアルの追い打ちにサンドラ嬢は漸くこれまでの暮らしができなくなると悟ったらしい。

 本来ならば王子の手を取るか否かという段階でしなければいけない選択だったろう。

 フェリクスは理解していなさそうだし母親も同様だろうな。それに彼女の家族もフェリクスを前にしてこんな発言はできまい。下手をすれば『二人を引き裂く為に言っている』と受け取られ、不興を買ってしまう。


「『個人』としてではなく『王族の一員』として生きる。そんな生活を納得されたのでしょうか、本当に」


 アルは幼馴染としてずっと魔王様の傍に居た。だからこそ、半端な覚悟で王族を名乗る輩が許せないのだろう。普段よりも随分とキツイことを言っている。


「わ……私は、フェリクス様から、そんなことは……」

「先ほどのフェリクス殿下を見て疑問に思いませんでしたか? 殿下は王族としての義務など理解されていないように見受けられましたが」

「!?」


 私の言葉にサンドラ嬢は先ほどのやり取りとライナス殿下の言葉を思い出したのだろう。つまり……『フェリクスが王に挨拶をする常識すら理解していなかった』と。

 益々青褪めるサンドラ嬢。彼女は漸く自分が選んだものの危うさに気がついた。

 ……が。

 予想外の人物が突如会話に割り込んでくる。


「そのくらいにしていただけませんか? いくら魔導師といえど我が国では何の地位もありませんのよ」


 視線を向けた先には気の強そうな金髪の美少女が私を睨みつけている。

 ……誰、この子。フェリクスは顔を顰めているけど。

 訝しげになる私達を他所に美少女は更に近寄り、私にしっかりと視線を合わせた。

 

「お初に御目にかかりますわ、魔導師様。わたくし、エインズワース公爵家のヒルダと申します。先ほどから聞いていれば少々言葉が過ぎるのではございませんか? 下賎の者ごときが王家の方に過ぎた口を聞くなど許されることではありません! 去りなさい!」


 キツイ口調での糾弾は私に向けられている。アルならばギリギリ許容範囲だが、民間人でしかない私はアウトということらしい。

 侍女の処罰に対して身分制度を語ったならばこの言葉も受け入れろと言う事だろう。確かに正論だ。

 だが、フェリクスは不快感も露にヒルダ嬢に噛み付いている。


「ヒルダ! 元婚約者とはいえ、でしゃばるな!」

「……殿下、わたくしは殿下の為にしていることですわ」

「それが余計だと言っている!」


 ……。

 私は無視かよ、お二人さん。一応、当事者なんですがね?

 それよりも私はヒルダ嬢の言動が気にかかる。

 『身分制度の強調』に『フェリクスから遠ざける』、『殿下の為にしていること』……?


 ……うん? 彼女の行動ってかつてのエレーナと似てないか?


 下賎と罵ることで『周囲にこの国の貴族が軽んじられてはいないと判らせる』。

 フェリクスとの会話を止めさせることで『フェリクスがこれ以上の恥を晒す事を止めた』。

 去れと促す事で『私達をフェリクスから解放させようとした』。

 ……。

 自分から悪者になってこの場を収めようとしてないか? この人。

 彼女の言い分は正しいし、私はイルフェナの汚点とならない為にも彼女の言葉を受け入れ謝罪するしかない。

 そんな姿を見れば周囲とて先ほどの『第四王子にすら無視される貴族』という状況に対する批判もある程度は和らぐだろう。私が『貴族を格下扱いしてません』的な姿勢を見せているのだし。

 この行動で彼女が得る物など無い。自身の評判――特にフェリクスから――を落とすだけだ。

 そもそも彼女は私が魔導師だと理解できていた。それなのに敢えて悪印象を抱かせたのはフェリクス達以上に自分を敵と認識させる為じゃないのか?

 災厄の代名詞に喧嘩を売る馬鹿は居ない。抗議されれば国に被害を向かわせない為に処罰とて十分ありえるからだ。彼女はその役をフェリクスから引き受けたように見える。

 『元婚約者』だとフェリクスは言った。あの態度なのだ、それを望んだのは当然王家だろう。

 彼女は……フェリクスの『御守り役』だった……?

 そんな私の考えを他所にフェリクスはヒルダ嬢と口論している。自分の為に起こした行動という言葉の意味を考えることさえ無いのか、フェリクス。


「魔導師殿! 彼女の言う事を聞く必要など無い! この女は私のする事全てが気に入らないだけなのだからな!」

「わたくしは常に殿下の味方であっただけですわ」


 その言葉に自分の推測がほぼ正しい事を悟る。彼女は常に忠告しフェリクスの間違いを正してきたのか。

 尤も当のフェリクスはそれを小言としか受け取らなかったらしい。

 『全てが気に入らない』って……それ、『王族として未熟だからヘマをしないよう見張ってた』ってことじゃないんかい。


「魔導師殿? どうかしたのか?」


 呆れた視線を向けるもフェリクスは意味が判らず困惑。アルも同じ結論に達したようでやや蔑みの視線をフェリクスに向けている。そして私は深々と溜息を吐いた。


「もう結構です。呆れ果てましたわ、フェリクス様には」

「え?」


 きょとんとなるフェリクスを放置し、ヒルダ嬢に向き直る。


「御苦労されてきたのですね。御自分を悪者に仕立て上げてまで貫く忠誠、お見事だと思います」

「一体、何のことですの?」


 ヒルダ嬢は表情を崩さぬまま平然と問い返すが、やや焦りが見える。やはり彼女の狙いは別にあるようだ。


「我等はそう愚かではございませんよ? 『得をするのは誰か』『この状況の結果どうなるか』。それに思い至れば貴女の思惑に気付くかと」


 しっかりと目を合わせ言い切ると、彼女は諦めたかのように険しい表情を消す。その表情は先程よりも幼く見えた。こちらが本来の彼女なのだろう。


「……。そ、う……気付かれたのですか」


 寂しげに、それでも誤魔化そうとした罪悪感からかすまなそうにヒルダ嬢は目を伏せる。


「ヒルダ嬢。我々は『王の許可を得ております』。己を犠牲に出来る貴女の忠誠と優しさは尊いものだと思いますが、我々とて譲れぬものがある。……御理解ください」

「そう、ね。この程度で済まそうなど、随分と虫のいい話でしたわね」


 アルの言葉に私達の行動の意味を悟ったのかヒルダ嬢は小さく溜息を吐いた。

 ただ、フェリクスとサンドラ嬢だけが理解していない。彼らには彼女の言葉の意味など理解できないのだろう。

 彼らにとってはヒルダ嬢は『悪役』。それが一度決定されてしまえば簡単には覆らない。

 特にフェリクスの婚約者だったという点が大きいのだろう。物語では愛し合う二人を邪魔する悪役ポジションなのだから。

 

「一体何の事を言っているのです? 魔導師殿?」


 フェリクスの問いは私達が答えてやろう。ヒルダ嬢からの言葉など彼らは絶対に信じないのだから。

 ヒルダ嬢に視線を向けると「御願いします」というように軽く頭を下げた。それを受けてアルが口を開く。


「ヒルダ嬢の言動は本当に貴方の為だったのですよ、殿下。貴方がこれ以上醜態を晒さないように、先ほどの事からミヅキが貴族達より批判を受けぬようにする為に、そして私達が貴方達から逃げられるように」

「な……そんな筈はっ!」

「……貴方達以外から見ればとても判り易いですよ? 彼女は自分の評判を地に落とすどころか、魔導師の不興を買うことも覚悟で会話を終わらせようとしたのですから」

「勿論、その場合は処罰されることも覚悟の上でしょうね。……これまでもそうやって苦言を言い、憎まれ役になろうとも貴方を守ってきたのでしょう」


 私とアルの言葉が信じられないのかフェリクスは戸惑うような表情を浮かべている。

 だが、アルの予想は間違ってはいないだろう。フェリクスを支える事を前提として婚約者は選ばれているだろうし。

 そしてそこに割り込んでくる人達が。


「そのとおりだ。……ヒルダ、そなたには随分と苦労させてしまったな。すまない」

「陛下! そのようなお言葉は不要です。わたくしは役を与えられた以上は御期待に応えるべきと思っただけですわ。わたくしこそ望まれた役目をこなせず……」


 頭を下げるバラクシン王。そして跪き王に謝罪するヒルダ嬢。

 そうだよねー、王として国の為に必要だったとはいえ父親としては土下座したくなる事態だわな。

 年頃の娘さんに問題児を押し付けたようなものだもん、しかも最終的に勝手に婚約破棄されてるし。

 王の顔に泥を塗り、公爵家に喧嘩を売ったようなものだろう。王子の婚約者でいた時間、彼女は拘束され続けていたのだから。助けられていた事に気付きもせず邪魔者扱い、はっきり言って最低。

 しかもヒルダ嬢はこれから急いで嫁ぎ先を探さねばならんのだ。にも関わらず再びフェリクス達を助けようとしてくれた。私から見ると聖人に等しいぞ、この御嬢様。

 王はフェリクスに厳しい顔を向けた。ヒルダ嬢の事は予想外だったが、王がフェリクスに対する断罪を止めることはない。


「お前がこれまで何とかやって来れたのは、お前が間違おうとする度にヒルダが止めていてくれたからだ。その事に気付かぬとは何と情けない」


 王から向けられる明らかな失望にフェリクスは肩を震わせた。

 やはりそれなりに説教はされたのだろう。だが、これからは説教などというレベルではない。


 『王』が『王子』に対し明らかな失望を隠そうともしない。

 しかもそれを見せつけるように『他国の者が居る場』でそれを行なう。


 言葉こそかけぬが魔王様達も傍に来ている。予定とは少々違った展開になったが、それは単に王からの断罪が早まったに過ぎない。

 ヒルダ嬢は場の雰囲気を察したのか、改めて一礼すると離れていった。今回の共犯者ではない彼女はここに居るべきではない。


「魔導師殿達が言った事は事実だ、サンドラ。家族の気持ちを理解しなかったお前の居場所はもはやフェリクスの隣しかない。……勝手に婚約破棄までしたのだ、今更逃げられはしないぞ」


 王の言葉にサンドラ嬢は俯き肩を震わせている。

 恋や愛のままに行動して幸せな結末を迎えるのは物語だけだ。幸せになったとしても勝手をした苦労は絶対について回るのだから。

 支え合って生きていくのが最良なのだろうが、そうするにはフェリクスがあまりにも頼り無さ過ぎる。


「魔導師殿がこの場に居るのは私がエルシュオン殿下を招待し、殿下が己が護衛兼手駒として連れて来たからだ。勿論、私も了承している」

「え……な、何故そんなことに!?」


 うろたえるフェリクスに王はいっそう厳しい目を向けた。意味の判らぬまま、フェリクスは視線を彷徨わせる。


「フェリクス。お前、面識の無い魔導師殿に夜会の招待状を送ったそうだな? しかも後見人であるエルシュオン殿下には何も告げず、イルフェナに伺いすら立てず」 


 様子を窺っていた貴族達がざわり、とざわめき驚愕を露にする。彼等はその信じ難い行動の意味するものが判ったらしい。一斉に顔色を変えている。


「保護している国を無視するなど馬鹿にするにもほどがあるだろう! ……ああ、魔導師殿も侮辱したかったのか? 必要が無ければ淑女のマナーなど異世界人は学ばないからな。仮にも王族からの招待だ、恥をかくことになろうともイルフェナの顔を立てる為に魔導師殿は応じなければならない」

「わ……私はそのようなつもりは……」

「通常ならばイルフェナを通して魔導師殿本人の意思を聞き、参加の意思があるならばドレスや装飾品などをこちらで用意せねばならん。加えてイルフェナには淑女のマナーを教えてくれるよう頼み込んでな」

「それだけではない、最終的には私の許可が必要になってくるよ。彼女の守護役達の都合も含めてね」


 バラクシン王の傍に居た魔王様がクラウスを伴って現れ、王の言葉に続く。

 後見人の許可が無ければ来れないからね、私。監視、もとい守護役の同行も当然必須。

 そういった意味でも『御伺い』は必要なのだ、アル達とて仕事があるのだから。


「随分と我が国を馬鹿にしてくれたじゃないか。さすがに王が許したとは思えないからね、問合わせをしたら即座に謝罪してくれたよ……頭を下げてね」

「う……」


 フェリクスは突きつけられた事実に顔を青褪めさせ何も言う事はできない。いや、これ状況だけの所為じゃないな。

 原因、多分魔王様だ。綺麗な顔は笑みを浮かべてはいるが宿る感情はものの見事に反比例。

 魔王様、威圧の制御が甘くなってますよ。フェリクスが倒れたら困ります、押さえてください。


「自分達に味方が居ないから名を上げた魔導師に味方になって欲しかったのかな、君達は。……ミヅキ、君は彼等の味方になる?」

「絶対に嫌です、なんで利用されなきゃならないんですか。それに味方が居ないのって自業自得だとはっきりと判るじゃないですか」

「そうだよね、あれほど勝手な振る舞いをすれば教会派の貴族達とて味方はしないだろう。彼等にだって貴族としての誇りがあるのだから」


 これは私が不思議だったことでもある。教会派貴族が味方をしていないなど明らかにおかしいじゃないか。

 だが、この国に来てその答えは知れた。フェリクス達に都合よく頼られても困るのだ、誰だって共倒れは嫌だろう。

 

「だからね、私は王に見極めの場を持つ事を提案したんだ。もしも君達が我々の推測とは全く別の……国にとって必要な事の為ならば王の謝罪で事を収めようと。だが、それは無駄なことだったようだね」


 美しくも恐ろしい断罪者にしてイルフェナの第二王子は、魔王という呼び名に相応しく周囲を圧倒する。 

 声で、言葉で、顔で、その圧倒的な魔力で。

 同じ王子でありながら全てがフェリクスとは桁違いの存在感を見せ付けているのだ。実際に国への貢献も桁違いだろうしね。

 何よりそんな存在を怒らせた。その事実がこの場に集っている者全てに知れ渡る。


 さて、フェリクス。

 貴方達が味方して欲しかった私は魔王様の手駒でしかないのだよ。

 その魔王様本人が直々にここまで来たのだ、ただで済むとは思ってないよね?

味方が『居なかった』のではなく、味方だと『気付かなかった』だけ。

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