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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
魔導師の受難編
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和やかな一時……?

 さて、やって来ましたバラクシン! 

 ……と言っても夜会は数日後。とりあえず事情を聞かねばならんと、イルフェナ組はこっそりライナス殿下の館に滞在。

 ここならフェリクス殿下が来ないんだってさ。一番フェリクス殿下に厳しいのが叔父であるライナス殿下なんだとか……つまり避けられているってことらしい。

 本当に甘やかされた王子様なんだねぇ、フェリクスって。魔王様やルドルフが基準となっている私から見ると存在が許されているのが不思議。

 ある程度の事情をライナス殿下に説明され、次は王を交えて今後についての話し合い。

 

「本当に申し訳ない!」


 そして目の前で頭を下げるのはバラクシン王。隣の王太子殿下も同じく頭を下げている。

 座ったまま、非公式とはいえ国の最高権力者達の謝罪。そうか、そんなにイルフェナや私が怖いのかい。


「謝罪は受けておきますよ。とりあえず『貴方達』に対しては何かをする気はない」


 やや厳しい表情で告げる魔王様。普通に考えてフェリクスのした事は魔王様……ある意味国が馬鹿にされたとも取れるから笑顔にはなりませんな。

 でも言うべきことはしっかりと言っている。『元凶の馬鹿どもはがっつり〆るけどね』と。私も今回止められてないしね。

 向こうもそれは判っているのだろう。だからこその『この場』なのだ。

 ……非公式とはいえ記録は残せる。王家としては謝罪をして許されていると同時に、イルフェナ勢がフェリクスに対し報復しても黙認する、と。

 明確な証拠を残しておかねば国が責任を負う事になってしまう。伯爵の目的が私と接触する事だというなら、それも計算されていた筈。

 つまり『勝手な事をしたフェリクス達の罪は王家が背負う』、『魔導師と接触し取り込む美味しい所は自分』といった認識なのだろう。伯爵にとってもフェリクスは王家の血筋という以外に使い道はないらしい。

 まあ、懐かせる為とはいえ頭の出来があれでは期待しないか。


「ありがたい。今回はこちらが一方的に悪い……彼等に関しては咎めることはいたしませんぞ」

「了解しました。その言葉をお忘れなきように」


 ほっと息を吐くバラクシン勢は即座に返された魔王様の言葉に暫し固まる。

 ……。

 魔王様ってば、おちゃめさん。『身内くらいきちんと躾けとけ!』とお説教するなんて温い真似はしないのですね?


 『やっていいって言ったよね? 報復推奨したよね!? 言い逃れは許さないからね?』としっかり『言質取りました』と強調しますか。


 誰が聞いても『約束破ったら報復します』としか聞こえない脅迫なのだが、言葉だけなら事実の確認。

 裏の意味を正確に受け取る事も王族としてのマナーです。迂闊な事が言えん立場だしな。


「と……ところで! その、魔導師殿なのだが……」


 引き攣ったまま、バラクシン王は私に視線を向ける。


「何故、ライナスをずっと見ているのかね?」

「話はちゃんと聞いてますよ」

「いや、気になるのだが」


 私はずっとライナス殿下を見つめております。本人はとっても居心地悪そうだ。

 いえいえ、前回お会いしてから初めて顔を合わせますし?

 私としては言いたい事とかあるわけですよ。


「そうですね……アリサの所でお会いした時に少し御話させていただきましたが、『何故か』私の居ない間にイルフェナを個人的に訪ねたそうで」


 びくぅっ! とライナス殿下の肩が跳ねる。


「ええ、勿論個人的なお付き合いとか御忍びも有りだと思いますよ? 『わざわざ』『魔王様』に用があったのかなって。……ま・さ・か『探りを入れに来た』なんて思いませんでしたが」


 笑顔で続ける私とは逆にライナス殿下の顔色は悪くなってゆく。

 事情は知っていても本人からは何も聞いてないぞぅ、このまま流すものか。

 そもそも『私は魔王様達に感謝してますよ』とあれほど言ったのだ、その直後に来た以上は事情があろうとも嫌味の一つや二つは覚悟すべきだろう。


「そ……その、すまなかった」

「ふふ、事情は王様からのお手紙で知っていますし謝罪の言葉も頂きました。……で」


 にこおっと笑い。


「『お兄ちゃん呼び』は? 私はまだ聞いていないのですが」

「は?」

「だから『お兄ちゃん』と呼ぶ姿が見たい、聞きたい、それまで許さない」


 その言葉にイルフェナ勢は面白そうな顔になり――連中は基本的に楽しい事が大好きだ――、何故かバラクシン王は目を輝かせ、ライナス殿下はがっくりと肩を落とした。

 

「そうだな! 魔導師殿はまだ聞いてないものな!」

「……嬉しそうですねぇ、王様」

「うむ! 兄上とすら中々呼んでくれなくなっていたからな。魔導師殿の提案は実に喜ばしい!」


 ……。恥辱プレイにはならんかったか。別に喜ばせたかったわけではないのだが。

 まあ、黒騎士情報でライナス殿下の少々複雑な家庭事情は知っている。現に王太子殿下とは叔父と甥ながら兄弟にしか見えない。

 そういう背景事情もあり、明確に臣下と位置付ける意味で『陛下』とか『王』としか呼ばなくなっていったんだろう。

 だが、兄は寂しかったらしい。今も嬉々として『昔からどれほど可愛く良い弟だったか』を語っている。ライナス殿下は下を向いて完全に沈黙。

 哀れ……真の敵は兄だったか。すまない、これは予想外だった。


「えーとですね、盛り上がっているところを申し訳ないのですが。もし、この場で『お兄ちゃん呼び』をしてくれたら今後この話題は振りませんし、『魔王様達が動けない方面』で結果を出して差し上げますよ?」


 私の提案に王様はぴたりと話を止め、ライナス殿下は怪訝そうに私を見た。


「魔王様達が許されたのはフェリクス殿下に関して、ですから。それ以外は私が適任では?」

「おや、ミヅキ。伯爵を相手にするのかい?」


 魔王様は意味が判っているらしく、面白そうに尋ねて来る。だが、バラクシン勢は難しい顔をしたままだ。


「できるならば頼みたいが……それは難しいだろう」

「どうしてですか?」

「教会とて一枚岩ではない。それに今回フェリクスにはイルフェナを軽んじた罪があるが、伯爵は罪に問えるほどの事をしていないのだよ」


 現時点では、ということか。確かに伯爵はフェリクス殿下に情報を流しただけだろう。『フェリクス殿下が都合のいい事だけを聞いていました』と言われればそれまでだ。

 だが、バラクシンの皆様は重要な事を忘れている。


「やり方はいくらでもありますよ? 過去の罪をネチネチと暴く、フェリクス殿下との連帯責任、煽って怒らせ喧嘩をふっかけてもらう、寧ろこちらから『下らない情報を流して馬鹿を煽るな!』と問答無用にボコる……ほら、手は事欠きません」

「待て待て待て! 最初の方はともかく、段々おかしな方向になっていないかね!?」

「え、別に? そもそも魔導師って災厄扱いじゃないですか。利用される事を黙って受け入れる方が不自然ですよ」

「た……確かにそのとおりなのだが。君の方が悪役に聞こえるぞ?」

「それに何か問題が?」


 さらっと告げればバラクシン王は呆気にとられ、ライナス殿下は深々と溜息を吐いた。ただ、王太子殿下は興味深そうに話を聞いている。どうやら魔導師の手腕に興味があるようだ。

 

「面白い人だね、魔導師殿は! 君は他人の評価など気にしないと?」

「親しい人達にとっては今更ですから。恐怖伝説を築いていくのも一興です」


 何かの役に立つかもしれないじゃないか。

 ここは一つ、リアル災厄を演出してみてもいいと思うのですよ!

 だってアリサに手を出そうとする奴の牽制になるじゃん? ライナス殿下も後見として残ってくれなきゃ困るし。

 

「はは! ミヅキは自分とアリサの今後の為にも言っているんだね。後見のライナス殿下は必要だし、教会派も鬱陶しい、ついでに魔導師の脅威を知らしめたいと」

「そんな感じです、魔王様。バラクシンの為というより主に個人的な事情ですね」

「実に魔導師らしい答えだね」


 親猫様は本日も平常運転、面白がるだけで今回ばかりは目的が判っていても止めはしない。

 イルフェナには何の恩恵も無いが、止めないってことは今回の事が相当頭に来ているのだろう。もしくは下手に教会派の伯爵を無視すれば、後々同じ事を考える輩が出ると思っているか。 

 どちらにせよ、折角バラクシンに来ているのだから脅しの一つや二つはしておきたい。


 今こそ、災厄の名を使う時!


 過去の魔導師様達、貴方達の行動を見習わせてもらいますね!


「あ〜……判った、私は何も聞かなかったことにしよう」


 やや目を逸らしながらバラクシン王が告げれば、王太子殿下も苦笑して頷く。

 やりぃ、(多分)許可出た! 待っててねー、伯爵様!


「で。決まった以上は言ってくれますよね?」


 一人顔を背けるライナス殿下に皆の視線が集中する。バラクシン王は皆の前で言ってもらえるのかと妙に嬉しそうだったり。


「く……」

「バラクシンの平穏」

「う……」

「教会派に煩わされない王家の今後」

「……」

「アリサの幸せが壊された場合は国滅亡の危機」


 最後は冗談ではないと悟っているのか、ライナス殿下がぴくりと反応した。

 王太子がぎょっとしたような顔になるが、気の所為だ。どうやら上層部は脅しじゃないと理解できているらしい。

 そして。


「お……お兄ちゃん……」

「うん、何かな。弟よ!」


 やや小さな声で聞こえた『お兄ちゃん呼び』にバラクシン王は満面の笑みで応えたのだった。ライナス殿下は顔真っ赤。

 いいじゃん、兄弟なんだしさ? あの様子だと今後も呼ばされるだろうから、そのうち慣れるって! 

 それにしても。


 嬉しそうだねぇ……お兄ちゃん。王として『国の為』だと命令するっていう方法もあったのに敢えて無視したな、この人。

 気付いていないのは精神的に余裕の無いライナス殿下ただ一人。皆が王に生温い視線を向けたのは言うまでも無い。

主人公は単に『お兄ちゃん呼び』が聞きたかっただけ。

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