王子様は外見天使な魔王様
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港と豊かな実りを有する王国イルフェナ。首都は港町ガルティアである。
それは小国ながらも大陸に存在する多くの国にとって無視できない存在である。
一つは物流の面において。
港を介して各地へ運ばれる物の中でイルフェナは特に食料方面に重きをおいて行われている。
日用品ならばともかく、飢えては生きていけないのだ。
特に贅沢に慣れた特権階級にとっては辛い話だろう。
次に外交面において。
有能な人材の多いイルフェナはその能力に比例する如く愛国心が強い。
下手な真似をすれば簡単に隠し持った牙を剥き出しにするのだ。
切り札となる情報を幾つも握った上での交渉……どんなに理不尽だろうと受け入れる他は無い。
相手が仕掛けた事実さえ手駒に変えて報復されるので結果的にイルフェナが正義となる。
最後に軍事面においての強さ。
イルフェナは軍事国家というほど力を入れているわけではない。
問題なのは王家直属の黒騎士団と白騎士団なのだ。
王族直属の親衛隊であり、その名の通り白と黒の騎士服を身に着けた精鋭。
近衛とは扱いが別であり、現在のイルフェナの騎士服は基本的に青を基調としたものである。
その成り立ちはガルティアが国として存在していた頃に遡る。
元々イルフェナはガルティアという長年に渡り友好関係を築いてきた隣国があった。
王族・貴族の婚姻関係も深く、後継ぎに恵まれない際には隣国から迎えたりするのだから仲の良さが知れるものである。
国の紋章も似ており、イルフェナが白い鷹でガルティアが黒い鷲。
民も第二の故郷と互いに口にするほどだったという。元は同じ民族だったのかもしれない。
ところが二百年前に大陸全土を巻き込んだ大戦が起こり、防衛に徹した二国もかなりの被害を負ってしまった。
大戦が終結したとはいえ元々小国だった二国はそのままでは潰されると判断、民の承認を得た上でイルフェナに統合されることとなった。
その際、イルフェナの首都をガルティアとし国の名を残すことにしたという。
イルフェナは白、ガルティアは黒の騎士服を纏っており、新たな国として歩む際に青に変更されたが名残として一部に残されることとなった。
それが王族直属の機関である『白き翼』と『黒き翼』である。
実力だけを基準に選ばれた愛国者達の集団であり、最優先は主の命。貴族でさえ干渉できない。
彼等は自分の持てるあらゆる権利と能力を使って主の命を叶える、『国』の所有する最悪の剣なのだ。
……彼等が動いた果てに手痛いどころではない被害を被った国は少なくない。
これらが小国ながらもイルフェナが他国に一目置かれ、大陸において比較的強い発言権を有する理由である。
※※※※※※
「……という国なのですよ」
「へー……凄いんですね」
現在、客室にてアルさんにイルフェナについての講義を受けてます。
先生と騎士sは其々別行動で報告や挨拶に行っている。
なのでアルさんが私の護衛兼見張り。うむ、丁寧な解説ありがとう。
「まさか城下町に入るなり聞かれるとは思いませんでしたが……」
「いや、だって気になるでしょ」
城下町に入るなり思わず聞いちゃったんだよねー、私。
『よく狙われませんね? これほど豊かなのに』
ほら、豊かな国は狙われて滅亡フラグが〜というお約束ですよ。
港もあり作物も豊か、しかも小国とくれば、ねぇ?
後は姫とか主人公になりそうな人物がいれば完璧ですね!
ま……流石に『滅亡フラグ立ってませんよね?』とは聞けませんがな。
その後、折角なので解説してもらい今に至ります。
そうか、天才・奇才な変人どもを敗北させることができなかったから生き残ったのか。
あ〜……確かにそれだけの功績を残してれば変人だろうと『よくある事』で済ませるね。
歴史的な背景にまで話が拡大するとは思いませんでしたよ。
二つの国の名残が白騎士と黒騎士。青い制服が一般的な騎士服でしたか。
そう、歴史ある精鋭部隊……。
……。
……。
先祖達に詫びろ、お前ら。
「歴代の騎士達も似たようなものだと聞いていますよ?」
「私、何モ言ッテマセンヨ?」
「ふふ、今更ですからお気になさらず」
無駄に爽やかだな、おい。
思わずジト目になるも相手はにこやかなままだ。
うーん……この人、内面見せないよね。特殊な面を除いて本音が見えないや。
対人においてかなり有能なんじゃないだろうか。
自分の立場を利用することも戸惑わないだろうしねー。
村でも城へ招待する為に平気で貴族や騎士を差し出そうとしたもんな。
絶対に敵に対して容赦無いよ。
……私もこれに関しては同類だしね?
そうじゃなきゃ生きていけないでしょ?
「私からも伺って宜しいですか?」
「はい、どうぞ?」
「貴女は……人を殺せますか?」
「……」
アルさん、器用だね。目だけ笑ってませんよ?
「殺せるでしょうね、間違いなく」
「そうでしょうか? 襲撃者でさえ殺していないのに?」
「『殺せなかった』というより『必要がなかった』んです」
「ほう?」
「だって無駄でしょう? それに……」
キィン……という微かな音と共に一筋の氷結を行う。
氷の刃をアルさんの首筋付近に出現させて微笑う。
「無詠唱での魔法の危険性を私は『知っていた』。先生がいるといっても治癒魔法程度で間に合わないことも『理解できていた』。この二つと今の状況から考えてくださいな?」
「話してしまって良いのですか?」
「無駄でしょう、気付いている人の前で隠しても意味がない。私は『自分を選べます』よ?」
そう告げてから氷を消すとアルさんは嬉しそうに笑った。
……しまった、今の演出も萌え要素だったか!?
「嬉しいですね! 本当に貴女は期待以上の人です。……これは絶対に諦めきれませんね」
おーい、アルさーん!
話が全然見えてこないんですがー?
あと、最後の方は要らんからな?
「……以上です。殿下、これで彼女への評価はお話した以上だと信じていただけますか?」
「……? 殿下??」
「エルシュオン殿下ですよ。……申し訳ありません、ミヅキ。貴女を試させて頂きました」
試すも何も……この部屋には私達以外の誰もおらんがな。
もしや、盗聴? 魔法世界で盗聴ですか? できるの!?
今のは抜き打ちテストですか!?
「勿論だよ、アル。……初めまして、異世界の魔導師殿?」
そう言いながら部屋に入ってきた人は黒い騎士を従えていた。
この人が殿下。黒騎士はアルさんと同じく団長だろうか?
おお、まさにテンプレどおりの王子様が目の前に!
緩やかなウェーブがかった金の髪に青い瞳、女性と見まがう美貌……幼い頃はマジで天使のようだったでしょうね!
ええ、天使の如き色彩と容貌なのですが。
……。
王子様、微笑んでらっしゃるのに貴方は何故そんなに威圧感ありまくりなのでしょう……?
うん、子供が視線を合わせたら泣く。何て言うか雰囲気が怖い。
「大丈夫ですよ」とアルさんが頭を撫でてくれてますが……そもそも『大丈夫』って言葉が出る方がおかしくね!?
緊張してるわけじゃないのは気づいてるよね!?
何か危険があるみたいじゃないのさ!?
「……殿下、少し抑えてください」
「ああ、すまない。つい楽しくてね」
「楽しい……?」
抑えるってのは魔力か何かだろうか。
黒騎士さん、気遣いありがとう。殿下、その楽しいってのは一体……?
「だってこんなに可愛く怯えるんだもの」
「私のことか! それは私の怯えっぷりのことですか!」
「うん♪ 資格十分だと証明した矢先にこれだしね」
「苛めっ子ーっ!! 悪魔だ、いや魔王だ、アンタ!」
最初から楽しんでたってことですね!
不敬罪? 知るか、そんなもの!
くすくす笑っていた殿下がおや、と更に笑みを深める。
え、今の台詞の何処におもしろ要素が!?
「うん、魔王って呼ばれてるんだ」
「は?」
「魔力が高過ぎてね? 普通の魔法も危険だし体に負担が掛かるから使えないんだけど……内包する魔力が威圧感を与えるみたいでね……」
……。
リアル魔王様でいらっしゃいましたか。
天使の外見の魔王なんて斬新ですね。
角とか翼はないんですか?
世界征服は私が帰ってからにしてくださいね?
「折角だから私も色々利用してるんだよ」
だって楽しいじゃないか?
付け加えたように聞こえたのは気の所為じゃないでしょう。
魔力の所為だけじゃねぇ……中身も魔王だ、この人。
わぁ……流石イルフェナ、変人の産地です。
先生の話を聞く限り愛国者……だけど鬼畜な王子様とか普通に居るんですね!
思う事は自由なので心で叫んでおこうと思います。
勇者ーっ!! 属性・勇者の人何処ーっっ!!
ラスボスがいますよ、貴方の出番ですよーっっ!!!
たーすけてーぇぇぇぇっ!!
えー……私、この人に御世話になるんでしょうか?