表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
120/696

女子会は姦しく

猛者しか居ない女子会。別の意味で男性厳禁。

 ゼブレストでの謝罪も終わり、私は今コルベラに来ている。イルフェナでの交渉に魔導師が関わっていないと証明する為なので、暫くのんびり過ごしていいらしい。

 交渉自体はもう終わってるのだが、予想外の事態にイルフェナ内部がごたごたしてるのだ。一体何をやったんだろう……はしゃぎ過ぎじゃないかな、イルフェナの皆様。

 そんなわけでどの国も慌しい雰囲気が漂っている中、比較的落ち着いているコルベラにお邪魔中なのだ。コルベラはもうセシルの件が片付いてるしね。

 ちなみにエレーナも一緒。魔王様達とアディンセル伯爵は今後の調整を兼ねて再びイルフェナに戻ったのだが、エレーナは新たな事実も含めてのコルベラへの説明役となったのだ。

 本人もセシルに詫びたいと言っていたし、コルベラへの事情説明も必要なので丁度良かったらしい。

 当たり前だがエレーナの謝罪する姿勢と後宮内での行動はコルベラの皆様に絶賛された。比較対象が王太子という事に加え、セシル達の唯一の守りだった彼女に批難が向くはずは無い。

 セシル達が彼女の行動を怪しんでいた事もあり、早くも割と仲良しです。どうせ私のお迎えが来るまで一緒だしな、楽しくやろうぜ?

 そんなわけで本日、セシルの部屋にて四人で女子会です。キヴェラ関連苦労組の打ち上げとも言う。

 ……護衛の騎士が不要な面子だな、おい。居ても涙目かもしれないが。


※※※※※※※※※


「そうだ、エレーナに聞きたい事があったんだ」


 酒のグラスを順調に空けつつエレーナに聞いてみる。対するエレーナも……訂正、全員が酒に強いらしく誰も顔色を変えていない。


「あら、何ですの? 魔導師様」

「あ、もう魔導師様呼びはいらない、ミヅキでいい」

「そういうわけには……」

「私達もそう呼んでいるからいいんじゃないか? 身分的な事を言ってしまうとミヅキは民間人だぞ?」

「そうそう、誰も呼び捨てできなくなっちゃうから気にすんな」


 ぶっちゃけた話、身分を気にしていたら堅い会話しかできない。それをやると間違いなくセシルが拗ねるので、この部屋の中では平等です。

 エレーナも暫し戸惑ったようだが、全員の本来の身分を思い出し「そうですわね」と口にする。納得したようで何よりです。


「わかりましたわ、ミヅキ。それで聞きたい事とは何ですの?」

「キヴェラの王都だと王太子とエレーナって『身分によって許されぬ悲劇の恋人同士』って扱いだったんだけどさ、あれは一体どうやったらそんな認識になるの?」


 キヴェラ王都では冗談抜きに当初はそんな認識だった。上層部が噂を流したという事もあるだろうが、どう頑張っても王太子の性格が『悲劇の王子様』には見えないのだ。


「だって物凄く短気じゃない、王太子。悲劇の王子様になるにはもう少し、こう……暗い影とか悲壮感が必要だと思うんだ」

「ああ、それは私達も思いましたわ! 食料を買いに町へ出かけた際に偶然見かけた事があったのですが、普通に笑顔でしたもの」


 エマも騒動が起こる前の王太子を思い出したのか、話に乗ってくる。

 そうだよね、不思議だよな!?

 王太子はアホの子、もとい演技力など皆無なのだ。王族だし表面上は取り繕えると思っていたのだが、コルベラでの謝罪を見る限りそれは無い。

 自制心の無さが直結しているのだろうが、恋人を前に『王に強制された結婚に嘆きつつ、恋を捨てられない男』を演出できる筈はあるまい。

 エマだって『笑顔だった』って言ってるもんな、それでどうやったらあんな認識をされるのか。

 二人揃ってそう言うと、エレーナは何故か遠い目になった。……おやぁ?


「ふふ……あれにはどうしようかと思いました。私の役割は『贅沢が大好きな悪女』でしたが、何故嘘泣きをしてまで王太子を操らねばならなかったのでしょうね?」

「「「は?」」」


 エレーナ以外の声がハモる。何だ、それは。


「エメリナ……エマの言うとおり、王太子殿下に悲哀などございませんでしたわ。ですが、私が涙を見せれば心配はしてくださいますし、憤ってもくれましたの。……的外れな理由が大半でしたが」

「ああ……そういうこと」

「それは、その、大変だったな」

「あらあら、やはり裏方さんがいらっしゃいましたのねぇ」


 つまりはエレーナに関連付けてそういう演出を試みたらしい。私も含めてセシルとエマも同情的な目をエレーナに向けている。


 おおぃ、ボンクラ王太子ぃっ! 寵姫は幼稚園の先生じゃ無ぇんだぞ!?


 いや、エレーナに対しそういった姿を見せるなら一応恋人に誠実とは言えるのか。

 でも彼は王族、しかも王太子。王族は国第一でなければならないし、次代の王がその状態……もっと言うならそういう姿勢を民間に見せる事は拙いだろう。

 何せ王都には他国の間者が潜んでいるかもしれないのだ。そんな姿を見せればキヴェラの弱点が王太子だと気付くだろう。

 と言うか、気付かれてたよな。間違いなく。


「目的がある以上、私が寵姫であり続けるには民を味方にする必要がありました。王とて民の声はそう簡単に無視できませんもの、万が一王太子でなくなろうとも妃の立場に在れば目的は果たせるのですから」


 そう一息に言い切ると、エレーナはグラスの中身で口を潤す。


 そして。


 ダン! と拳をテーブルに叩きつけ、怒りの表情を浮かべた。


「ですが! その度に私は悔しくて情けなくて仕方がありませんでしたわ! このような下らぬ輩に御爺様や御父様……多くの者達が見下されるなどっ! このような輩が次代の王として立つ国に虐げられたなど……!」


 よほど怒っているのか、ギリ……とグラスを握り締める音さえ聞こえてきそう。

 私達は半ば呆気にとられながらも、ひそひそとエレーナの言い分に同意する。


「あ〜……うん、それは怒る。只でさえ復讐誓ってる人に、王族失格な姿を見せつけるって最低」

「あの王太子殿下では無自覚に暴言を吐いてそうですしねぇ」

「……。間違いなく暴言を吐いてるぞ、私は他国を侮辱する王太子の言葉を聞いた事がある」

「うっわ、クズだわ。エレーナだけじゃなく、復讐者の小父様達の逆鱗を逆撫でしまくってそう」

 

 暫くして私達の視線に気付いたエレーナは、恥ずかしそうに頬を染める。可愛いぞ、この人。


「も……申し訳ございません! つい、このような話ができる事が嬉しくて」

「気にするな、エレーナ。ここは私の部屋なのだから外には漏れん」

「そうそう、それ以上の事を公の場で言ったわよ、私」

「はは、あれは傑作だったな」


 エマは微笑みながら、労わるようにエレーナのグラスに酒を注ぎ足している。彼女達はある意味同志。王太子に対する怒りは十分過ぎるほど理解できるらしい。


「もう少しボコっておくべきだったかね〜? エレーナとは恋人だと思っていたから、修羅場を期待して引っ掻き傷程度に留めちゃった」

「今からでも行くか?」

「無理。イルフェナの交渉も終わってるから、追加でってのは厳しいね」

「そうか……」

「この話を他国の王族・貴族の知り合いに広める程度が限界かぁ」


 セシル共々残念そうに締め括ると視線を感じた。そちらを向けばエレーナが期待に満ちた目を向けてくる。


「是非! 是非御願いします! 自尊心の高いあの男には十分なダメージになる筈ですわ!」

「あはは、よっぽどストレス溜まってたんだねぇ」


 そんな私たちを見守りながらセシルとエマは。


「エレーナが王太子に全てを暴露するのが一番だと思うのだが」

「さすがにそれはできませんしねぇ。ミヅキの案でも十分屈辱だと思いますわ」


 止めるどころか応援してた。

 その案は止めを刺すものだと思うぞ、セシル。

 ……良家の御嬢様(約一名除く)が集った筈のこの女子会、『傷心の王子様に味方する心優しい乙女』は存在していない模様。寧ろ追い討ちする気満々です。

 

※※※※※※※※※ 

 

「……それでミヅキは私に何を聞きたかったのでしょうか?」


 あれから暫く飲み明かし、酔い覚まし――誰も酔ってなどいない――のデザートを食べているとエレーナが微笑みながら聞いてくる。

 さっきと似たような台詞だが、今回はその奥に『知りたい事があるのでしょう?』という意思が見え隠れしている。


「……ミヅキ? 他にも聞きたいことがあるのか?」


 セシルとエマは思い当たらないらしく、首を傾げて私とエレーナに視線を送る。

 この件を『終わった事』と考えるならば、セシル達の認識は正しい。だが、正確には『コルベラの王女の解放とキヴェラの元凶が手を引いた事』に過ぎないのだ。

 私の視線を受け、エレーナはにこりと微笑む。それは全てを理解し決めているように見えた。


「エレーナ。貴方達アディンセルはこれからどうするつもり?」


 『アディンセル父子』……いや、『復讐者達の今後』を私は知りたいのだ。

 彼等の望みによっては私が動く事が可能なのだから。


「ミヅキはどうすると思います?」

「私? 私が貴方達の立場なら……英雄でいられるうちに人生を終わらせるわね」

「「な!?」」


 予想外だったのかセシルとエマが揃って声を上げる。だが、エレーナは嬉しそうに微笑んだ。


「貴女ならその答えに辿り着くと思っていましたわ。そのとおりです。私達は誇りと勝利を抱いたまま、舞台を降りるつもりですわ」

「そう……」

「驚かないのですね?」

「私は貴方達が『ブリジアス王家を最上級に定めている事』と『愚かでは無い事』を知っているの。その二つを考えれば最良の結末は何か答えがでるんじゃない?」


 エレーナ達復讐者は望みを叶えた果てに何も無いからこそ、あのような手段をとれたのだ。もしもブリジアス王家、若しくは国が残っていたのなら別の方法を考えた事だろう。


「貴方達は復讐者ではあるけれど、同時に『キヴェラの貴族』でもある。だから、復讐を遂げた以上は何処にも居場所が無い」

「ブリジアス領があるだろう!?」

「セシル、『受け入れてくれる場所がある』っていう問題じゃないの。アディンセルが『その国に属しながら裏切り者になれる』ってことが重要なんだよ。しかも復讐を遂げた実績があるってこともね」

「え?」

「ブリジアスという国が再興できるならば再び仕える未来があった。だけどブリジアス領はアルベルダ……『他国』なの。裏切る可能性を持つ貴族を受け入れる国は無い」


 厳しいようだが、エレーナ達が復讐を成し遂げてしまったからこそ招き入れる事はできないのだ。彼等は入り込んだキヴェラを裏切ったという実績があるのだから。

 ウィル様も敢えてその事を口にしなかったのは不可能だと判っているからなのだろう。王が個人的な感情で国を危険に晒す事などあってはならない。


「ですが、エレーナ達の評価は忠臣として高いですわ。何とかなりませんの?」

「それも要因の一つなんだよ、エマ。エレーナ達は覚悟を持って苦労してきた。だけどその子孫は先祖の功績をそのまま受け継ぐ事になる。もし……ずっと後にアディンセルの子孫達がブリジアス王家を担いでアルベルダを乗っ取ろうとしたら……?」

「そんな可能性は」

「無いって言い切れないでしょ? 多くの国に認められた忠臣の一族が掲げる『正義』……信じる民はどれほどいると思う? それこそキヴェラと似たような状態になると思わない?」


 勿論、アルベルダに感謝しそんなことが起こらない可能性もある。だが、確実ではないのだ。

 キヴェラとて最初は国を纏め上げた英雄扱いだった筈なのに、その苦労を知らない子孫達が先祖の考えを都合よく解釈してあの状態だった。弱者であった頃を知らない者達が経験の無いまま、生まれながらの強者として振舞ったゆえの末路だ。


「アディンセルは愚か者に成り下がるつもりはありませんの。咎も誉れも全て抱えて逝きますわ」


 微笑みながらも、きっぱりと言い切ったエレーナに死への恐怖はない。

 その理由は『主にいらぬ疑惑を向かわせない為』だ。アディンセルが居なければ、ブリジアスの名はアルベルダの貴族でしかない。

 鋼の忠誠を持つ貴族と称えられていようとも、復讐者を名乗った以上は『罪人』の名も背負う事になる。だが、忠誠だけを主に示し消えればそれが『今後ブリジアスを助ける美談』になるのだ。


「しかし……! どうにかならないのか? ミヅキも居るのだし……」

「私はエレーナの意思を尊重するよ、セシル。言ったでしょ、私がエレーナの立場ならば同じ道を選ぶって」

「な……本気か!?」

「うん」


 頷く私にセシルは驚愕を露にする。エマは……何やら思う事があるらしく黙ったまま。


「ミヅキ。貴女はセシルを納得させる理由を考え付いているのでしょう?」

「まあね。これはエレーナ達が始めた復讐劇の幕引きだから」


 笑みを深くし頷くエレーナに私はセシル達を納得させるべく、初めから説明を始める。


「まず復讐者達の目的。彼等はね、最初から『終わりを目指していた』んだよ。その後に続く物語には自分達の姿が無いことを前提にしてね」

「……未来を望まなかったと?」

「そう。彼等にとっては正義でも巻き添えは必ず出る。実際、キヴェラは大変な事になっているでしょう? エレーナ達は自分達がその切っ掛けになった以上、自分の罪から逃げる事を良しとしない」


 この状態で自分達だけ逃げのびるようならば祖国の復讐など選んでいまい。

 エレーナ達が平然と他者を犠牲にできる人なら別だが、彼等は違う。だからこそ、キヴェラが許せなかった。自分の人生を犠牲にしてもいいと思うほどに『頑張れた』。

 

「責任をとるってそういうことだよ、セシル。事を起こした以上は最期の決着は自分達で。それに今回の事は絶対に『英雄』扱いしちゃいけないんだ、許される事ではないから」

「そのとおりですわ。私達は裏切り者。国の内部に入り込み、王を裏切った最悪の悪臣。私達がキヴェラの貴族であった事もまた事実なのです、いかな理由があろうとも国に招き入れてはならぬ存在」

「復讐者を称える声は聞こえるけど、それはあくまで『民の声』。他国の王族・貴族からは国に招く声は無いでしょ? 『復讐を遣り遂げる力を持った裏切り者は国に招く事ができない』んだよ」


 イルフェナでさえそういった声は聞こえない。彼等は愛国精神が強いからこそ、余計にそういった存在は受け入れないのだろう。

 セシルとて第三者ならば同じ判断を下したのだろうが、今回は自身の命の恩人という事もあって何とか助けたいと思っているというところか。


「エレーナ達復讐者の代表が消える事でその協力者達は他者に利用される価値が無くなるってこともある。復讐者を名乗った四人以外は名が知られていないだろうしね」


 彼等は仲間達を助ける意味でも死を望む。復讐劇に付き合った協力者達はエレーナ達の遺志を守る為にも生きるだろう。表舞台に名が出なかったからこそ可能なのだ。

 『協力者だった』と偽る輩が出ても、他国の上層部が本物を把握していない以上は全て『偽物』扱いだ。その際は民からも厳しい罰が望まれるだろう。


「それに私は体で王太子を誑かした悪女ですわよ? 貴族令嬢にとって婚姻前の清らかさは必須ですし、まともな殿方ならば婚姻を望みません。寄って来るのは功績を我が物にしたい愚か者のみですわ」

「それは……そうなんだが」

「ああ、気になさらないで。私は後悔してはいませんし、恥とも思っていないのですから。貴女達を守れた事も含めて良かったと思いますわ」


 晴れ晴れとした表情を見せるエレーナに陰りは無い。それは彼女が本当に望んだ結末――ブリジアス王家の生き残りが居た事は嬉しい誤算だ――なのだろう。

 セシルも未だ納得できないようだが、反論できず黙ったまま。こればかりはエレーナも苦笑するしかなく、私はセシルの頭を撫でた。

 その時、ずっと黙っていたエマが「判りましたわ」と呟くなり顔を上げる。


「エレーナの覚悟、しっかりと理解いたしましたわ。セシル、ミヅキとて辛いのですから何時までもごねるものではありません。それに……エレーナが私のお願いを聞いてくださるならばアディンセルの名は残りますわ」

「え?」


 唐突な提案にエレーナは目を瞬かせる。私とセシルは意味が判らず無言。

 そんな私達に「お任せくださいませ!」と微笑むと本日最高の問題発言をかます。


「実はブリジアス領の新しい領主様との縁談が来ておりますの。セシルでは少々問題がありますし、身分的にも私が最適だったのですが……決意しました! 私、ブリジアス領に嫁ぎます!」


 ……。

 婚約確定っぽいんだが、拍手すべきなのはエマの思い切りの良さの方かな。

 あ、セシルやエレーナも驚いてる。誰にも言って無い内々の話だったな、これ。


「ブリジアス領と言っても領主の就任自体がまだ暫く先ですし、私が嫁ぐのはそれ以降です。それにまずはブリジアスの後継ぎからですから、本家アディンセルの血筋と疑われる事もございません」

「う……うん、わかった。それで?」


 思わず先を促す私にエマは輝くような笑顔を向けた。


「二人目以降の子供の誰かに分家としてアディンセルを名乗ってもらうのです。血筋に縋るならばミヅキやエレーナの懸念するような事態が起こりかねませんが、『忠臣の名を受け継ぐ者』であれば愚かな振る舞いはできないのでは?」


 ああ! そういうことか!

 誰もが知るような一族の名を背負う以上は周囲の目も当然厳しくなる。血縁以外がアディンセルを名乗る以上は『理想を違える事が許されない』のだ。

 血を継いでもいないので先祖の功績に縋ることもできないし、何よりブリジアスはアルベルダに恩がある。

 アディンセルは本来貴族の理想とも言える一族だし、求められるのは忠誠心であって能力じゃないから貴族として相応しい振る舞いをしているなら問題は無い筈だ。


「血を継ぐなら子孫ってだけで傲慢になるかもしれないけど、名乗る事を許された一族なら逆に戒める枷になるのか!」

「ええ。それに分家ですからブリジアスを支えるのは当たり前の事でしょう。……エレーナ、私の一存では確約できませんが、再びブリジアスにアディンセルが寄り添う事を許していただけませんか?」 


 エマは未だ呆然としているエレーナに話し掛ける。エレーナは思ってもみなかった提案に思考が追い着かないらしい。


「それならば私もブリジアス領に助力できるな。エメリナは我が国の者でもあるのだから」

「あ、私も干渉できる。ウィル様が動けなくともグレンに頼めるし、エマが居るなら私が直接動いても問題無いや」

「……え、と……あの……いいのでしょうか、こんな……」


 セシルと私の言葉にエレーナは更に混乱したようだ。でも、エマが居るなら確実に私達は動くからなぁ?

 ……あ。


「エマ、セシル。エレーナはそうしてもらう理由が無いから戸惑っているのかも」

「ああ、そういえば……」

「今更過ぎて思い至りませんでしたわ」


 ぽん、と手を打つと二人もエレーナの状態に納得できたらしい。いや、馴染んでるからすっかり忘れてたんだよね。そもそもセシルやエマとは改めて言うことじゃなかったから。


「今更だけど友達になってよ、エレーナ。私達三人と」

「宜しく頼む」

「申し訳ありません。すっかり御挨拶した気になっておりました」


 手を差し出す私にぺこりと頭を下げる二人。そしてエレーナは。


「と、友達? 私の……」

「うん。キヴェラの王太子を掌で転がす貴女だから言ってる。って言うか、私は冗談抜きに女友達が少ない! 主に守護役連中の所為で!」


 ……何故かセシルとエマだけでなくエレーナからも憐れみの視線を貰った。イルフェナで何かを知ってしまったらしい。

 ふふ、やっぱり主な原因は奴等じゃねぇかっ! のの字書いちゃうぞ!?

 そして私が遠い目になっている間にエレーナは落ち着いたようだ。頬を高揚させ、嬉しそうに何度も頷く。 しっかり私の手を握ってくれているので、エレーナにとって魔導師である私は恐ろしくは無いらしい。 


「はい……はい! 嬉しいです! 是非!」

「……? 何だか凄く嬉しそうだな?」

「私……復讐者という立場もあって、情報を入手する相手という意味が強かったのです。貴族社会は相手の探り合いが普通ですし、こんな風に過ごす事など無くって」


 あ、そりゃそうか。よく考えたらエレーナは生粋のキヴェラ人じゃない上に王太子の寵姫。擦り寄ってくるか妬まれるかの、どちらかしか無かったのか。

 だからっていきなり暴露上等の女子会ってのもぶっ飛んでるだろうけどね!


「それでは改めて。私の提案を受けて戴けますか?」


 エマの再度の問いにエレーナは今度はしっかりと頷き。


「ありが……とう。ありがとう、貴女達にはどんなに感謝しても足りないわ……っ……」

「こちらこそ、ありがとうございます。最期の時まではまだ時間があるのですから、皆で楽しく過ごしましょうね?」


 ぼろぼろと涙を零しながらも笑顔を見せた。実際にはアディンセル伯爵にも許可を得なければならないが、エレーナがこの様子なら反対はすまい。

 とりあえず魔王様やウィル様には手紙送っておくか。こういう時に直通で手紙が送れるようにしてくれているって便利。他国の承認が必要ならゼブレストと、何かをやらかしたらしいバラクシンを脅……協力させてもいいだろう。持つべきものは人脈だ。大物しか居ないけど。


「セシルも納得しなさいね?」

「判っている! エレーナの分もブリジアス領を気にかけるようにするさ」


 若干拗ねたまま、御子様セシルもエレーナ達の在り方に納得する。

 ……女子会がその後一晩中続いた事は言うまでも無い。

大団円を望む人が多いでしょうが、これも復讐者となった忠臣ができる最期の事。自分勝手な決着だからこそ、主人公も支持。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ