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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
全ての始まり

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12/705

お料理しましょ

 青い空、広い平原。

 馬に乗った騎士は凛々しく人は思わず足を止めて彼らを見るだろう。





 ……人が居るならね。




 現在、城への旅路である。

 一度ラグスの村に戻って荷物を纏め、再出発という感じ。

 村の皆は城へ行く事に驚きながらも喜んでくれた。

 曰く、辺境の村ではまず満足な知識が得られない、危険だ、など。

 私を案じてくれる人々の好意に深く感謝し、ささやかながら城から貰った報酬――あの黒尽くめ戦隊は賞金首だったらしい――を全額渡しておいた。

 金は何かの時に必要になるかもしれないしね?

 実の所、自給自足の村なだけに金はあまり蓄える必要はないのだ。

 だが、何かの時にものを言うのは金である。持っていて損はない。

 そう言うと皆は大層感激して黙り込んでしまった。

 いいんですよ、皆さん。私が異世界に来て生き長らえたのは貴方達のお陰です。

 今後も何かあればご恩返ししたいと思います。

 ……まあ、何を勘違いしたか白騎士連中が


『不自由はさせません、養いますのでご安心を!』


 などとのたまい、微妙な空気にさせていたけど。

 おい、感動の場面に何しやがる。


 その後は少ない荷物を纏め村を後にした。

 いや、荷物は結構な量になった。主に旅する間の食料で。

 餞別に戴いた干し肉や蜂蜜――砂糖は貴重だそうな。だが、高いだけで手に入らないものではない――調味料各種。

 この世界の調味料は塩・砂糖・胡椒が基本なのでそれ以外の調味料は本当にありがたい。

 まあ、ここが香草が簡単に手に入る環境だからこそあったわけですが。

 そして旅に出て現在に至るわけです。




「先生、あと何日くらいで着くんです?」

「ふむ、この分ならあと二日ほどだな」

 沈む夕日をほけーと眺めつつ隣の先生に問うと即座に答えが返ってきた。

 うん、暇なのだよ物凄く。周囲に何も無いし。

 本日の『お仕事の下準備』も終わっちゃったしなー。

 現在、私と先生、騎士sは馬車に揺られている。『旅は慣れないと大変だから!』と言って渡されたマットに重力緩和の魔法をかけてるから快適です。

 先生は言わずもがな、騎士sも驚いた顔してるけど無視。説明するなら『世界には引力といって〜』から始めなきゃならん。無理です、普通に。

 そのマットは荷台部分に敷き詰めてあるので眠る時も当然快適。

 騎士の皆さんには申し訳ない状況です。皆、笑って気にするなと言ってくれるけどさ。



 で。



 あまりに申し訳ないので食事係を願い出てみました。先生の強い後押しによりめでたくお仕事ゲットです。

 実はこれには個人的な事情もある。


 この世界、何故か調理方法が基本的なものしかないのだよ。材料はあるくせに。


 酵母パンはあっても食パンや中に何かを入れたものは無し、調理方法は基本的に焼く・煮るのみ。

 ……パンがあってサンドイッチがないとは思いませんでしたよ。

 パンは手で千切って食べるもの……というか、パン自体が一つの完成された料理だと思ってるみたい。

 パンの食べ方がそれ一択なのです。他の料理も同様。なので料理のバリエーションがとっても少ない。

 どうやら異世界より伝えられた技術=最上級の法則が成り立つらしく、応用が全くないらしい。

 先生の家で居候させてもらう代わりに料理を作ったら感動されました。

 作ったものがペペロンチーノとドレッシングをかけたサラダだったんですが……。

 そこから料理の話になり驚愕の事実を知ったわけです。

 おいおい、今まで料理人が召喚されたことはなかったのか!?


「そろそろ野営の準備をします。ミヅキ、申し訳ないのですが……」

「はいはい、止まり次第準備しますよ」


 そんなわけで本日も夕食の準備に取り掛かりたいと思います。

 騎士さん達もなにやら嬉しそうです。

 えーと……君達貴族だったよね?

 キャンプ並みの食生活を楽しみにしちゃっていいのかーい??




「美味しいです!」

「我が家のコックに迎えたいほどですよ」

「はあ……喜んでいただけて何よりです」


 それ以外どう言えと? な状況です。

 本日のメニューは野菜スープとボリュームのあるサンドイッチ。

 誰でも作れる簡単メニューですね、真に申し訳ありません。


 サンドイッチの中身は薄切りして焼いた肉と玉ねぎとレタス、味付けはマヨネーズと塩胡椒。どうせなら挽肉作ってハンバーガー作ってみよう。城に着いたら厨房借りて作るか。

 野菜スープは小さく切って乾燥させた携帯用野菜を鳥ハムと一緒に煮込んだもの。

 鳥ハムは鶏肉に塩と蜂蜜(砂糖)と胡椒を馴染ませてできるだけ真空パックにして冷蔵庫に放置、二日くらい経ってから軽く煮て作る簡単料理です。美味しいですよ!

 肉に下味がついてるし、調味料がついたままの状態なので野菜と煮込むだけで十分。

 時間短縮の魔法を使ってるので短い時間で簡単調理。


 この魔法って本来は植物などの育成に使われるんだそうな。ちなみにこの世界の植物は生物と認識されていない。植物は植物なのだ。

 この魔法、植物以外の生物にも使えるんじゃ……と心配したけど、例によって制御の中に『生物に使用禁止』的な言葉があって生物には無効です。

 まあ、成長が一気にきたら体が耐え切れず死ぬわな。偉大なり、古代人。

 ちなみに私が『状態維持』だの『時間短縮』なんて特殊魔法を使えるのは偏に映像化された状態で『それがどんな効果か』を知っているからだったりする。

 はっきり言えば元の世界の映画やドラマの知識。

 先生曰く『この世界にそれらがあったら魔術師は天才揃い』らしい。確かに、魔法はその効果を理解することが重要なんだから最高の解説書かもしれない。

 イメージできなくて魔法が不発に終わった人間がここにいるわけだし。


「時を留め現状を維持し……」

    ↓

「時ってどんなものですか?」

    ↓

「……(説明に困る)」


 なんて状況が結構あるとか。明確な形の無いものを説明するのは難しいよね。

 いかん、脱線した。今は料理の話。


 ああ、生肉をどうやって持ってきたかって?

 密閉性の高い箱に状態維持と弱い冷却の魔法をかけて簡易冷蔵庫にしたので問題無しです。

 電気や物がなければ魔法で応用ですよ、素晴らしいね!

 肝心のパンは食パンの型と生地を事前に作ってあるので焼くだけ。焼くというより周囲の温度を上げているので熱が均一に掛かるオーブンみたいな状態です。

 パンの型は村で広めた時に予備と称して沢山作ったから一度に数斤焼ける上に時間短縮が可能。凄いな、魔法! 元の世界より遥かに便利じゃん! 


 今でこそ何の抵抗も無く平然と食べてるけど、最初は私と先生以外は困惑してましたねー。

 まあ、先生がいそいそと食べ始めちゃったから皆も手を付け出したんだけど。

 そこからこの世界の食事事情の解説となったわけです。

 下手すると辺境の方が食生活充実してるかもな、と思ったのは秘密。


 ……あそこまで喜んでもらうと『状態維持の魔法をかけて家に保存してあったものを使った手抜き料理です』とは今更言い出せませんな。貴族の口に合うとは思わなかった。

 先生、何も言わないでくださいよ。気付いてるのは貴方だけです。

 騎士sよ、君らはパン生地作るのに協力させたからお代わり自由だ、たんと食え。

 出発前にパン生地大量生産する為に酷使したからね……反省はしてないが。


「本当に美味しいですね、ゴードン殿は毎日これを召し上がってらしたとは……」

「居候生活なものでせめてもの恩返しです」

「この味付けは何でしょうね? 不思議な味です」

「マヨネーズですか?」

「まよねーず? というのですか。是非作り方を教えていただきたいのですが……」

「いいですよ?」

「は……え、いいのですか!?」

 無理でしょうね、と続けるつもりだったんだろうか?

 え、さすがにマヨネーズくらいなら構いませんよ? レシピ見れば誰でもできるでしょう。

 白騎士達の目が輝いてるってことは全員分書いた方が良いんだろうな。

 ……ん? 騎士s君達も欲しいのかい?

 あれ、そんなに凄いこと?


「ミヅキ、彼等が貴族だということは知っているな?」

「はい」

「彼等が知らないということはこの世界に無かったものということだ。逆に言えば貴族でさえ欲する価値のあるものだと覚えておくといい」


 なるほど。私にとっては当たり前でもこの世界ではとんでもない価値がある場合があるってことですね。

 凄いぞ、マヨネーズ。お貴族様の食卓に並ぶ高級調味料になるかもしれん。

 とは言っても独占させる気なんてないので。


「あの、そのレシピはできるだけ民間にも広げて欲しいんですが」

「民間に? 勿論かまいませんよ。材料が揃うなら誰でも味わえるようにしたいですし」

「ありがとうございます!」


 よし、言ったな公爵家三男。

 言質はとったぞ、忘れたとか言わせんぞ?


「しかし、何故?」

「どこかで新しい料理が生まれるかもしれないじゃないですか!」

「ああ、なるほど。階級や場所によって食事事情も異なるでしょうしね」


 ええ、全くそのとおり!

 庶民の食事だろうと美味い物は美味いのです。貴方達を見て確信しましたよ!

 庶民の料理に拍手喝采する貴族、なんという下克上な光景!! 大笑いですね♪


 ……とは流石に言えず、上機嫌のまま食事を再開しました。

 そして問題が一つ。


「ミヅキ、他にも何か作っていなかったか?」

「……」


 あああああっ!

 先生、このタイミングで言いますか。やっぱり見てましたか!

 皆さんの目が輝きだしちゃいましたよ、期待しないでー!!

 ……。

 ……すみません、先生の無言の圧力に負けました。

 バレた以上は仕方ない、さっさと出そう。


 デザートのクレープ(中身はカスタード)を皆の目の前に出しながら私は『これも聞かれたらどーしよう?』などと考えてました。

 だってねぇ?

 カスタードはともかくクレープって実演しないと理解できないと思いますよ?

 え、私もしかしてクレープの為に貴族の家たらい回し確定ですか……?

興味のある方は『鳥ハム』で検索すると作り方が出てきますよ♪

(作中では作り方の解説を若干すっ飛ばしてますが)

サンドウィッチとサンドイッチ両方の言い方が在りますが作中ではサンドイッチにしてあります。

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