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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
116/696

災厄の片鱗

キヴェラVS主人公。別名、悪党(組織)VS鬼畜(個人)。

言っている事は間違っていないのに、善人路線からは大きく外れている主人公。

 続く暴露に呆然とするキヴェラ勢。

 まあ、その気持ちも判る。魔導師が来ると思って気合を入れてたら、別方向から攻撃が来たもんな。

 でも同情なんてしませんよ。自業自得。

 

「えーと。……彼等に続く復讐者さんはいますかー?」


 一応声をかけてみるが名乗り出る気配は無い。

 ……とりあえずは打ち止めらしい。


「それじゃ、私がやっちゃってもいいかな? コルベラとの会談は終わったし、復讐者の断罪も終了っぽいし」

「そうか、まだ貴様が残っていたな……」


 疲れたように、けれど瞳に敵意を色濃く残したままキヴェラ王が私に視線を向けた。

 うふふ! そうですよー、残ってますよー、忘れちゃいやん。

 ……物凄い真面目な話の後だと余計に馬鹿っぽく聞こえるだろうけどな!?


「当然! 私にとってはエレーナ達が予想外なだけだもの。許すなんて選択肢は無いわ」

「ほう? 我等が敗北する事が前提か。……貴様にその力があるというのかね?」

「あるわよ」


 当たり前でしょ! と呆れた顔をすればややその表情が強張った。

 おお、思い上がりで済まない辺りさすが災厄の代名詞。魔導師の名は警戒させるのに十分だったらしい。


「ルーカスが宣戦布告をしたのだったな」

「それが決定打ね」

「何?」


 それだけだと思っていたのか、キヴェラ王は訝しげな顔になる。周囲の人々も同様。まさか他にも原因があるとは思っていなかったのだろう。

 そんな彼等に向かって私は指を折っていく。


「まず一つ目。ゼブレストの後宮騒動であんたの手駒達に散々迷惑かけられた。状況的には黒幕に該当するけど、下の者が仕出かしたことの責任は上に行くよね」

「それはゼブレストに文句を言うべきだろうが。側室達はゼブレストの貴族ではないのか?」

「あらあら、言い逃れ? 私は『黒幕』って言ったよね? それとも私が事件の本質に気付かないほど愚かに見えるのかな……?」

「……っ」


 笑みを浮かべたまま私は軽く首を傾げる。威圧を込めたそれに王に同意しようと口を開きかけていた貴族達は沈黙した。彼等は交渉の場に来ることはあっても戦場には行かない立場なのだ……威圧や殺気は黙らせるのに十分効果的。


「下らない言い訳ができないように言っておくわ。ルドルフは側室どころか家ごと潰したの。おかしいでしょ? 幾ら何でもやり過ぎだと思うのが普通じゃない。国力を低下させてまで『そうしなければならなかった理由がある』と考えるのが一般的よね?」


 貴方達だって同じ判断をするんじゃない? と問えば沈黙する事で肯定してくる。

 当たり前だ、これで疑わなかったら側近の立場に相応しい能力など無いだろう。


「ああ、ついでに言うとルドルフどころかゼブレストで私の周囲に居た人達は徹底的にキヴェラの名を出さなかったの。私が気付けば報復に動くと知っているからって酷いと思わない?」

「……お前は気付けば私達が止めても無駄だろうが」

「はい、無駄ですねー。で、実際行動して今此処に居ます。残念でした!」

「本当に、本っ当に危惧したとおりの行動をとったな……」


 溜息を吐きつつ突っ込む宰相様にも笑顔でお応え。内容はともかく良いお返事です、私。

 おかん、ゼブレストでは結果を出したんだからそれ以外は諦めろ。


「で、次。色々調べてたらセレスティナ姫を後宮総出で冷遇……命の危機だったし虐待かな? してるじゃない。これは面白い事になるなーと思って連れ出してみました。ちなみに誓約書を借りたのもこの時」

「やはり誓約書は奪われていたか! 姫を連れ出したならば夢も貴様なのだろう?」

「勿論! 言ったじゃない、『面白い事になると思った』って。自分の国の王太子とその配下がやらかしてる事なのよ? 民として何も知らないのは可哀相でしょ」


 くすくすと笑いながら言っても説得力などないだろう。だが、知らないまま都合の良い情報に踊らされるよりマシじゃないか。彼等だって知る権利があるのだから。


「それで逃げたんだけど。随分とふざけた追っ手を向かわせてくれたわねぇ? ……王太子の親衛隊、だっけ? それと後宮警備の連中。連れ戻す為の追っ手と見せかけて煩い彼等の実家を潰す為に使うとは」

「何故そう思う?」

「対処が早過ぎる。まるで『最初から決まっていたような、他国が納得せざるを得ない重い処罰』だしね? 他国に対し力を持つような家が簡単に潰される筈はない、事前に周囲を固められてでもいなければ」


 他の貴族だって納得しないわよねぇ、と続けるとキヴェラ王は悔しそうに顔を歪める。

 王には国を率いてきた実績と自信があるのだ、私に手の内を容易く読み取られていい気分である筈は無い。

 ……反論が来ないってことは正解か。まあ、あれがキヴェラの精鋭とか言われたら笑うが。

 ……。

 私も玩具扱いはしたけどな。賠償金ふんだくって金づる扱いとか。そう言った意味では非常に良い追っ手だったと言える。コルベラへの良い御土産ができたことだし。


「それでも逃がした以上は姫に対して責任を持つべきよね? だから十分な証拠と証言と自白によって『冷遇は事実、キヴェラに誠意が無いのも事実、姫が王太子妃でないことも本当』って徹底的に説明してあげたら逆切れして宣戦布告よ? これで怒らない方がどうかしてるわ」


 私を災厄扱いしてるけど、その災厄を焚き付けるような行動をとっているのはキヴェラ。

 他国の人達は絶対にこう言うだろう……『自業自得』と。


「交渉の余地は」

「無いわね、何でそんな優しさを見せなきゃならないの」

「儂の謝罪も無意味か」

「そんなものは何の価値も無いわ」


 軽い口調で言葉の応酬をしているが、キヴェラ王は突破口を探しているのだろう。

 私達はこれが初対面なのだ。魔王様達が徹底的に情報規制をしてくれたこともあり、私の情報は殆ど無いに違いない。だからこそ対処が遅れるのだ。


「魔導師よ、確かに我等に責があろう。だがな」


 王は一度言葉を切って私を睨みつけ。


「我等とて大国と呼ばれる意地がある! 抗う価値はあろう」

「あら、私とやり合う気なの」

「無論だ。貴様は賢いようだが、知恵だけではキヴェラは落ちん!」

「え? 実力行使するよ? つーか、落とすのが目的です」

『な!?』


 迫力満点の王の言葉に、にっこり笑って軽〜く返すとキヴェラ勢の表情に怒りが滲む。言い切った事に対する驚愕半分、軽く見られた事に対する怒り半分ってところかな。

 うん、良いぞ、良いぞ。盛大に怒るがいい。私はその状態の君達を叩きのめして心を叩き折りたいのだから。

 寧ろ大歓迎! 相手が無抵抗だとこっちが悪役にされかねないもんな!


「それでは! 皆さんお怒りのようなので少し頭を冷やしてもらいましょうかぁっ!」


 にやり、と笑い指をぱちりと鳴らす。魔力を感じ取った魔術師達が動くが遅い。

 結界があっても普通の攻撃魔法のように自分の手元からの発動じゃないのだ、ピンポイントで『直接』その場を狙う事だって可能。……見えているならね。

 結界を張ろうとも『空気』は結界内部にもある、砕くのは圧力を掛ければいい、剣は大雑把に分解すれば壊れるだろう。

 異世界の常識とこの世界の常識を同じものとして考える方がおかしいのだ。私だって彼等の魔法は理解できないのだから。


 ねえ、皆さん? 私がここに来てからどれほど時間が経ったと思います?


 セシル兄とかエレーナ達の話を聞いている間ずっと貴方達は私の目の前に居たんですよ?


 目標を認識し『発動させるだけ』にしておくことだって可能なんだよ。それに魔術師と騎士って一目で判るから非常にやり易い。

 貴族はそこまで攻撃に特化してないのか武器持ってないみたいだから、攻撃手段を封じる意味での狙いは魔術師と近衛騎士だ。


「な……う、腕がいきなり……っ」

「剣、が……砕けた……?」


 カシャン、という音と共に割れた剣と鈍い音を立てて砕けた腕に騎士達は痛みと共に呆然となり。


「ぐ……」


 魔術師達は突如襲った喉への圧迫と痛みに苦しさを覚え、思わず喉に手を伸ばし。


「騎士は剣と腕を砕き、魔術師は喉を潰す。……どう? 私は弱い? 彼等にとって誇りとも言える『強さ』と『自信』を奪ってみたんだけど」

「貴様……無詠唱、で……」

「できないなんて言って無いでしょ。ねえ、騎士や魔術師の皆さん? 圧倒的な力に誇りを踏み躙られる気分はどう? これで貴方達は主さえ守れぬ役立たずよねぇ、滅ぼされた国の騎士達の気持ちが今なら判るかな?」


 明るく問う私にエレーナ達がはっとして私に視線を向け、呆然としかけたキヴェラ王は恐怖とは別の意味で表情を変えた。


「お前、まさ、か……その為に……っ」

「エレーナ達の話を聞いたから。守りたいのに守りきれない絶望を感じてもらおうと思って」


 実際、これはエレーナ達の話を聞いて思いついた追加要素。本当は動きを封じるだけで十分だけど、是非キヴェラにも同じ体験をしてもらいたかったのだ。

 彼等は『圧倒的な兵力』で『国を守ろうとした者達を踏み躙ってきた』のだから。


「ちなみにこんな事も可能。下手に動くと危ないよー」


 更に指を鳴らして謁見の間全体の氷結を。私達の周囲と扉近辺以外は徐々に凍りつき、キヴェラ勢を巻き込みながらその厚みを増していく。

 彼等は得体の知れない恐怖に顔を強張らせるが、男が怯えても可愛くないので無視。控えていた魔術師達もその光景に呆然とするのみ。

 まあ、魔術師が硬直する理由は判る。この世界の魔法でこれと同じ事をやろうとすれば、水を作り出すことも含めかなりの魔力が必要らしいから。つまり魔力量の差に呆然としてるわけですよ。

 尤もそれはこの世界の魔法を基準にした場合。高い方だが私にはそこまでの魔力は無いだろう。それ以前にこの世界の魔法が使えない。

 私は『酸素と水素で水』程度の曖昧な知識で水を作り出し状態変化させる氷結なのでそれほど魔力はいらないのだ。……収穫したハーブを洗ったり冷たいものを作るのに使っている時点でいかにお手軽なものか知れよう。


 なお、これが黒騎士相手だと好奇心の赴くままに私の拉致が決行される。奴等なら絶対にやる。貴重な実験動物――もとい術者として協力を仰ぎ、魔法の解析に努めるだろう。


 そんな事を考えているうちに氷結が進みキヴェラ勢は王と王妃、側室を除き完全に動けなくなった。

 足しか氷付けにはしてないから心配すんな? 動きを止めるだけだから。

 ただ、室内でここまで大規模の氷結を行なうと一時的にちょっと酸素が薄くなるから息苦しさはあるかもしれないが。まあ、死なないし一時のことだ。


「派手にやるねぇ……」


 セシル兄の感心とも呆れともとれる声が耳に届く。魔王様達は呆れているようだ。どうやら『やられたらやり返すのが礼儀です!』と言い切ってあったので諦めている模様。

 キヴェラを黙らせるのにも必要だと感じている部分もあるのだろう。キヴェラ王は一戦交える考えだったみたいだし。

 怒りの表情を浮かべていたキヴェラ勢も漸く魔導師がどんな存在か思い出したのか、彼等は揃って顔色を悪くしている。私の見た目が彼等の知る魔導師のイメージと合わなかったからこそ、これまでの態度だったのだから当然か。

 顔色を悪くした理由は自分達だけではなく、国の未来を想像してのことだろう。


「じゃ、本番に行こうか」


 キヴェラ勢が静かになったところで仕切り直しを告げると、キヴェラ勢は一斉に私をガン見し、魔王様達は思わず声を上げた。


「はぁ!?」

「ちょっと待ちなさい、これが本番じゃないのかい?」

「え、これオプション。追加要素ですって。本命は別です」

「待て、これで『追加要素』だと!?」

「人は日々成長するんですよ。成長を喜んでください」


 セシル兄、魔王様、宰相様の順で呆れと驚愕の声を上げる。今回誰にも具体的な内容を言って無いから当然ですね。何の為に誤魔化しまくってここまで沈黙を守ったと思ってるのさ。


「これ以上をやる気だったから黙ってたのかい……」


 呆れた魔王様の台詞は綺麗にスルー、振り返るのが怖いので存在もスルー。

 だって、止められる可能性高かったんだもん!


「魔導師よ、貴様は何を望んでいるのだ?」


 さすがに顔色を悪くしたキヴェラ王が問う。さっきと違って交渉の席につく事を前提としているような、窺うような言い方だ。

 だが。


「キヴェラを壊したい」


 さらっと返す私の言葉に軽く目を見開く。周囲も一斉に沈黙した。

 ……彼等はこれまで『勝って手に入れる』ということが前提だった。だから私の言葉に有効な条件提示が思い浮かばない。


「キヴェラが強国・大国であることが全部の原因じゃない。だから私の敵はキヴェラという『国』。壊す事が目的よ? 貴方達だって敵は倒すでしょ?」

「欲しい物、は」

「ないわね。欲しいものは自分の手で手に入れてこそじゃないの?」


 欲しい物が無い=和解はありえない。

 当たり前じゃないか、これまでキヴェラが滅ぼした国だって何とか滅亡を避けようと手は尽くした筈だ。

 それを一切無視したキヴェラが何かを言える筈は無い。


「時間の無駄ね」


 その言葉と共に大型の魔法陣モドキを複数浮かび上がらせる。ちなみにこれは大事に見せる為のフェイク。ゲーム内で魔法を使った時に浮かび上がるエフェクトだ。


「さあ、一時的に冥府の扉を開いてあげる。還っておいで、悔しいなら!」


 一瞬、魔法陣はその輝きを増し。そして何事も無かったかのように消えた。

 誰もが息を詰めて視線を廻らすが、緊張感溢れる謁見の間に変化は無い。それが一層彼等を不安にさせているのは明らかだ。

 なお、私の台詞も十分恥ずかしい部類である事は自覚している。判り易く言っただけです、もっと簡略化すると『亡霊さん、おいでませー!』もしくは『祭りだぞ、出て来い野郎ども!』。

 ……さすがにこの場でそれを言う根性は無い。それとも『冥府に下りし憎しみに染まる魂云々』と長ったらしくも恥ずかしい、『厨二病的決め台詞』を言った方が雰囲気出たんだろうか。

 台詞自体には何の意味も無いから拘り無かったんだけど、ここまで大事に捉えてくれると凝った方が楽しかったかもしれない。


「魔導師、一体何をした」


 やや掠れた声でキヴェラ王が問うが私は笑みを浮かべたまま。

 その様子に苛立ったのか、声を荒げてキヴェラ王は再度問う。


「何をしたのだ! 只で済む筈はあるまい!」

「ふふ、すぐに判るよ」

「何……?」


 笑うばかりで答えを濁す私に周囲の焦りを含んだ視線が突き刺さる。

 実を言うと答えないのは焦らし半分、笑いを堪えてるのが半分なのだが。


 ごめん、君達の反応面白過ぎ!

 悪戯如きに必死になる姿に、気を抜くと爆笑してしまいそうだ!


 やがて彼らが待ち望んだ答えは息を切らせながら扉を開けた騎士によって齎された。

 一瞬、内部の様子に硬直した彼はそれでも使命を果たすべく口を開く。


「一大事にございます! 町に……王都に死霊達が溢れております! 奴等はキヴェラに対する恨み言を口にしており、民は混乱に陥っております……!」

「死霊だと!?」

「どういうことだ、死霊さえ操ったというのか!」

「答えろ! 魔導師!」


 騒ぎ出すキヴェラ勢に私は心の中で大爆笑! そんな姿は『慌てる我々を見て楽しむ、余裕ある魔導師』として見られ、彼等は益々焦りだす。


 いや、結構な大事になったじゃないか! 残り物だったのに!


 実はこれ、クズ魔石に仕込まれたゲームの記憶を再生させているだけ。ゼブレストの英霊様(笑)再び! なのですよ。唸り声は元々あったしね。

 勿論、クズ魔石なのでゼブレストのように長持ちはしない。魔力的にも数回再生するのが限界だろう。

 ただし。

 今回は逃亡用に作ったとあって物凄い数が町中に仕掛けられているのである。一度私が作ってしまえば仕掛けることは残った人達にもできるし。

 植木鉢の中に、小物入れの中に、店の看板の陰に、道の窪みに……といった感じで大量に仕掛けられているのだ。残っていた逃亡用の細工を更に増やし、追加要素としてキヴェラへの怨念(笑)を声優さん――アルベルダ幽霊騒動の協力者の皆様です――に演じてもらって量産。

 それをコルベラから未だキヴェラ王都に潜伏中の人々に送ってバラ撒いてもらったのだ。極々僅かな血を魔石に含ませておけば遠隔操作で発動させる程度は可能。……まあ、この小細工の為に増血作用の薬草とか持っていたわけだが。

 なお、魔血石になるともう少しできる事が広がる。予め魔法を仕込んでおくのではなく、魔血石を魔法の発動場所に出来るのだ。ある意味、自分の一部だしね。


 朽ちた騎士の亡霊+唸り声+キヴェラへの憎しみ溢れる怨嗟の声。


 即席パニックホラーが展開中!  溢れる死霊! 逃げ惑う人々!

 町はきっと大混乱。加えて大怪我しない程度に破壊活動が行なわれているので、町の住人達にとって亡霊は冗談抜きに恐ろしい『現実』だ。

 まあ、一時間程度しかもたないんだけどさ。元々町を脱走する為の騒動を起こす事が目的だったから。


「ふふ……だって、『国』がこれまでの行いの責任を取るって民も含まれるでしょ?」

「民は関係あるまい!」

「あるじゃない」


 叫んだ騎士にあっさり返すと理由が判らないのか怪訝そうな顔をした。


「だって、彼等は侵略行為を称えてきたのよ? 『自分達に恩恵がある』という理由でね」

「そ……それ、は」

「それにね、彼等は知らなきゃいけないと思うの」


 わざと言葉を切ってにっこり笑い。


「自分達の生活が屍の上に成り立っていたものだってこと。奪った果ての豊かさならば屍の上に築かれた町じゃないの、王都ここは」


 『敵を殺していない』ならば『恨まれない』……なんて言い訳は通用しないんだよ。国が侵略行為を行なってきたならば、その恩恵を与えられてきたならば十分関係者じゃないか。


「それにこれは貴方達の為だと思うよ? あれだけ他国に対して優位を謳っておいて今更『対等に』なんて言って納得する? いくら王の言葉でも不満しかでないでしょ」

「と、いうことは。この騒動はキヴェラの為なのかい?」


 セシル兄が意外と言わんばかりに尋ねてくるのに首を振り。


「ううん。私が一度キヴェラの民を〆たいだけです。ほら、民間人ボコるわけにはいかないでしょー? 一応、建前的には悲劇の姫君を救い出した善意の魔導師ですし」

「うん、君はそういう子だよね」


 呆れるどころか納得した御様子。そうか、私に正義の味方はそんなに似合わないかい。

 保護者二人は最初からそんな善人モードを期待していなかったのか、呆れた目を私に向けている。

 いいじゃん! 結果的には必要なことなんだから!

 それに私は十分我慢しているのです。今現在、町中がリアルにパニックホラーな状態……


 狡い! 私もそっち行きたい! 混ざりたぁいっ!


 町一つを使っての大掛かりな仕掛けって今後無いよね!? 

 普通に考えて砦一個が限界じゃん、これ滅多に無い機会ですよ!?

 いいなぁ、小細工担当の人達。この話をした時、キヴェラを混乱の渦に叩き落す事も含めて凄く楽しそうだったもん。

 あの人達も翼の名を持つ騎士なら黒騎士連中と通じる部分があっても不思議は無い。きっと今頃大はしゃぎ。

 ……魔導師の私がここを脱け出すわけにもいかないんだけどさ。

 嗚呼、この羨ましさと悔しさを上層部にぶつけるしかできないなんて……!


「……。何だか別のことを考えていないかな、ミヅキは」

「やはりそう思いますか。どうも気が立っているようですが」


 ひそひそと小声で話す保護者様方、お説教は全部終わってからにしてください。

 今はこの気持ちのままにキヴェラ上層部をボコりとうございます。



『最初の一撃で戦いの半分は終わる』という言葉に従って気合を入れ過ぎた逃亡方法。改良(悪)して再利用。

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