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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編

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亡き祖国へ誓う忠誠

同じことを考える人がいても不思議じゃないですよね。

「復……讐?」


 足元に転がっていた王太子が呆然と呟く。余計な事を言えば十倍返しされると学習したのかずっと沈黙していたのだが、さすがに声を上げずにはいられなかったのだろう。

 対してエレーナは冷めた目を王太子に向けた。その口元は笑みの形をとっている。


「そうですわよ? 私は生粋のキヴェラ貴族ではありませんし、女ゆえ政に参加する事も叶いません。そんな私に出来る事といえば情報収集と政略結婚が精々ですわ。……いえ、『だった』と言うべきですわね」


 彼女の言っている事は事実だ。女性を認めていない国も多く、女が政に関わるのは政略結婚の駒しかないだろう。

 とは言っても悲観する必要はない。貴族令嬢は『そういうもの』なのだから。生まれた時からそれが常識と教え込まれているのだ、身分を捨てる恋に溺れない限りは何の疑問も抱かないだろう。

 寧ろ身分を捨て恋を選んだ場合の方が悲惨だと思われる。何一つ自分でやったことのない御嬢様に愛の逃避行とその後の二人だけの生活が我慢できるとは思えないし、相手が貴族だったとしても周囲からは非常に厳しい目で見られるからだ。

 下手すると立場が危うくなるし、田舎に引き篭もらない限り中傷と噂からは逃げられまい。


「私からも説明させていただけませんかな?」


 新たに加わった声はエレーナの近くに控えていた男性だ。彼もエレーナ同様、随分と落ち着いている。……本来ならば一族郎党処刑の危機だというのに、だ。


「貴方は?」

「エレーナの父です。キヴェラではアディンセル子爵と呼ばれておりますね」

「キヴェラでは……ってことは実際は?」


 気になる言い方をするアディンセル子爵に問えば、彼は満足げに笑った。まるで『よく気付いてくださいました』と言わんばかりに。

 そして私に対し、何時の間にか立ち上がっていたエレーナ共々優雅に礼をする。


「ブリジアスのコンラッド・アディンセルと申します。伯爵位を戴いております」

「娘のエレーナ・アディンセルにございます」

「……。つまり貴方達はずっとブリジアスの貴族だったと」


 私の言葉に応えるように二人は笑みを深くした。それが何よりの答えだ。

 思わず私は二人に向けて拍手をする。魔王様達も二人の行動の意味が判っているのか賞賛の篭った目で見ていた。


「お見事! 私達はこの場での出来事を伝える義務があるものね?」

「ふふ。魔導師殿にそう言って戴けるとは嬉しいですな」


 誰が見ても彼等が誇っているのは今は亡き祖国だろう。それを周囲に知らしめる為にわざわざ名乗り、また礼をして見せたのだ。

 穏やかそうな顔をして中々やるな、この父親も。この場でそれをやらかすか。

 二人は自分達をキヴェラの裏切り者だと教えるだけではなく、他国の人間にキヴェラ上層部の甘さを見せ付けているのだ。


 彼等は暗にこう言っている、『キヴェラ王は己が足元に潜んだ毒にさえ気付かぬ愚か者』と。


 捉え方は人其々だろうが、キヴェラ王が馬鹿にされた事は事実として伝わるだろう。

 口にしていれば品を疑われるだろうが、彼等は『ブリジアスの貴族として』相応しい態度を取っただけ。貴族が王を罵ったわけじゃないのだ、祖国が貶められる心配は無い。

 言葉にするよりキツイよな、この方法。しかも私達は『別件でその場に居合わせただけ』なので、報告しようともキヴェラに咎められる事は無い。つまり隠蔽工作は不可能。


「我が父はブリジアス最後の王と兄弟の様に仲が良かった。実際、従兄弟だったのですが。『優しさゆえに少々頼りない、だが足りない部分は誰かが補ってやればいいのだ』と、よく誇らしげに口にしておりました」


 懐かしむ口調にそれが現アディンセル伯爵にとっても優しい思い出だったと知る。彼の父の言葉は裏を返せば王がどれだけ忠臣に恵まれ、また慕われていたのかを知ることができるのだから。


「キヴェラとの戦の折、王が最優先としたことは民を逃がすことでした。騎士達はそんな王の思いに応え、時間稼ぎをしてくれていた。……これはキヴェラ王もご存知でしょうなぁ、予定より随分時間がかかったそうですから」

「国を落とすのにってこと? 凄いわね、圧倒的な戦力差でそこまで抗うなんて」

「ええ! ……彼等は国が抗いきれぬことは理解していました。自分達の力不足を嘆くと共に最後の一人まで戦い、民を守る為に奮い立ったのです。貴族とて出来る限りの事はしておりました。国を離れる民に財を分け、新たな生活を掴むまで生きていけるようにと」


 勿論、全ての貴族が立派だったわけではないだろう。だが、民が他国に逃げ延びることが叶ったのは彼等のそういった行動があったからだ。

 逃げる事を優先するならば荷物など殆ど持ち出せないに違いない。民が無事に逃げ延び、その後最低限の生活を送れたのは『手持ちの金があったから』。


「やがて王も王太子殿下も亡くなり、王妃様のみとなった時。父は王妃様と国に留まっていた貴族達の前でこう言ったのです」


『私は息子を連れ、裏切り者としてキヴェラへ向かおうと思います。そして内側より崩し、あの国に一矢報いてみせましょう』


『屈辱の時は長いでしょう。私の命も尽きるやもしれません。しかし! 我が一族の悲願とし、ブリジアスの誇りを血に伝えて参りたい』


『呪えるものなら呪っている、殺す力があるならば殺している! それほどにキヴェラが憎く、許せないのです。……最後まで国と共に生き、国と共に滅ぶ名誉を捨てようとも』


『弱者と踏みつけられた者にも意地があるのだと、必ずや思い知らせてみせましょう』


「あの時の父は息子から見てもとても恐ろしかった。噛み締めた唇からも、握り締めた手からも血が滴って……人が憎悪に身を委ねるとは、これほどのことなのかと」

「それ、よく逃げるだけって批難されなかったわね?」

「言えなかったのですよ、あまりにも凄まじい父の気迫に。それに……父が誰より国に尽くし、陛下の死を嘆いた事は皆知っていましたから」

「一族全員が賛同したの?」

「はい。母を含めた一部は国に留まり、使用人達も私達に着いてキヴェラへ来る者と残る一族と共に国に殉ずる者に分かれました。……元々、最後まで仕えると言って逃げる事を拒否した者達でしたから」

「凄い忠誠心ねぇ」


 彼の父親の行ったことは非道と言ってもいいだろう。何も知らない、未だ生まれていない一族の在り方を勝手に定めてしまったのだから。 

 これでキヴェラが新たに支配下に置いた者達も平等に扱っていれば復讐心も弱まったのかもしれないが、実際には明らかな差が付けられている。

 結果、一族の悲願が『正しい事』であり、復讐者達の心の拠り所になってしまったんだろう。

 キヴェラの『生粋のキヴェラ人優遇』という体制が彼等の後押しをするとは皮肉な事だ。


「父は最期までキヴェラを欺き続けました。裏切り者と蔑まれるならば逆に噂を利用して野心家を装い、時には祖国を貶める発言をして復讐心を隠してきたのです。全ては悲願の為に」

「魔導師様、御爺様は確かに復讐に心を染めておりました。けれど家族や仲間を愛さなかったわけではないのです。それこそが私が復讐者であることを選んだ理由」


 父親の言葉を遮るようにエレーナが話し出す。

 根底にあるのが祖国の復讐だろうが、私としてはこっちの方が気になる。エレーナは聡明だ、見た事も無い祖国に対し人生を賭けるほどの忠誠心を持つだろうかと。


 それならばエレーナが持つ『キヴェラ憎し』という感情は何処から来ているのか。

 幼い頃から憎しみを擦り込まれたならばセシルの事すら気にしないんじゃないか?


 彼女に対し違和感を覚えるのが普通だろう。そもそも彼女は寵姫という恵まれた状況にいたのだから、部外者ゆえの冷遇が原因ではあるまい。それならば寧ろ手放さないように動く筈だ。


「私がブリジアスの復讐者であることは事実です。ですが、それ以上に私は御爺様の御心をどうにかして差し上げたかった」

「お爺さんの為?」


 首を傾げる私にエレーナは頷くと話し出す。アディンセル伯爵もエレーナの心内を知っているのか、黙って発言の場を譲る。


「お爺様はキヴェラを憎むと同時に復讐しかできぬ自分が許し難かったのでしょう。幾度も握り締めた掌に刻まれた傷は生涯消える事がありませんでした。……私は悔しかった。男であったならば御爺様や御父様の手助けができるのに、と」

「でも、それを責めるような人じゃなかったんでしょ?」

「ええ。役立たずと罵られたことは一度もございません。とても慈しみ、またこのような運命を背負わせてすまないと嘆いてくださいました」


 前アディンセル伯爵は自分の勝手に何も知らぬエレーナを巻き込んだことを悔やんでいたのか。

 だが、それでも祖国の復讐を選んだという事だろう。


「そんな御爺様の姿を目にする度、私の心にキヴェラへの憎しみが育っていきました。御爺様を知りもしない癖に悪し様に罵る貴族も、他者から奪い取る事を正義とする王族も、それを喜ぶ民も! 全てが許し難かったのです」


 エレーナの瞳に怒りが渦巻く。それは不思議と彼女を美しく見せた。

 一途、もしくは純粋。恥じる事も後悔も無いエレーナの姿はそう言われるものと通じる物があった。

 対してキヴェラ勢はやや呆然としながらもエレーナの告白を聞いている。全ての元凶は自分達の行いにあったのだと改めて突きつけられて。

 生温い状況に慣れた彼等はこれほどの憎悪を直接突きつけられたことが無かったのだろう。彼等は常に強者……弱者に直接関わる事などないのだから。


 逆に私は彼女の言い分に納得する。それがエレーナに感じた違和感の正体かと。

 彼女は祖国の事よりも祖父を苦しめた事が許し難いのだろう。悪女と蔑まれようと誰が死のうとどうでも良かったのだ、彼女にとってはキヴェラの全てが『敵』だったのだから!


「そんな時、王太子殿下から御声がかかったのです。……運命だと、私が願う余り亡き祖国の皆様が与えてくださった機会だと思いました。そこからは御存知の通りです。贅沢を重ね、王太子殿下を思いのままに操り、内部から腐らせる予定でした」

「私は貴女に詫びるべきね。姫の事があったから計画を中止しなければならなかったんでしょ?」


 気まずい思いになりながらも溜息を吐く。

 うん、私と元凶の狸様は土下座でもすべきだ。自分の人生賭けての復讐計画を潰したのは私達なのだから。

 だが、エレーナは笑顔で首を振る。


「いいえ! 寧ろ感謝しております。上層部が王太子殿下の廃嫡を画策していることには気がついておりました。私の思い通りになるのは後宮内のみ。……時間が無かったのです、私一人でどうにかなるものではなかったのですわ」

「それ、王太子が予想以上にアホだったからだよね」

「ええ……まあ」


 だろうねー! こいつがもう少し賢かったら、絶対状況が変わっていた。

 思わず二人揃って足元の王太子に視線を向ける。お前、本っ当に駄目な奴だったのね!?

 こいつが並の頭と常識を持った野心家だったら傾国の美女計画は成功していたと確信できる。


 だって、ヴァージル君でさえ寵姫の本音に気付いてなかったみたいなんだもの。


 自分の全てを賭けた演技はさぞ完璧なものだったのだろう……惜しむべきは協力者の少なさと参謀の不在だな。エレーナが役者と兼ねなきゃならなかったから、彼女が王太子に拘束されちゃうと次の指示が出せないのだし。


「ねえ、もしも私が貴女の参謀役として後宮に乗り込んでいたらさ……」

「……。成功どころか今頃は内部の突き崩しを行なっていると思いますわ」


 御互い口には出さないが『王を含めた上層部の暗殺とか追い落とし終わらせてるよね』と言っている。

 絶対に可能だった。そう言いきれる。意外と内部が脆いみたいだもの、キヴェラって。

 あれだ、ゲームで性能や適性を無視して攻撃力のみを重視した武器を選ぶプレイヤーみたいな感じ。『押さえ込める』という自信から些細な事を気にしない傾向にあるっぽい。

 そしてやっぱり空気を読まない子、王太子。


「私は……騙されていたということか……」

「シリアスに言ってるけど、そんな誘惑は何処にでもあるからね? あんたがアホなのは変わらないよ?」

「魔導師に私の気持ちなどわかるま」

「うざいぞ、お前」


 がつり、と再び王太子を踏み付ける。今度は悲劇の主人公気取りかい。


「ねえ、王太子様? どうして誰もが貴方を王子ではなく『王太子』って言うか気付いてる? ……その立場にしか価値が無いからだよ。付随する権力に従っているだけなの。貴方個人に価値は無い」

「貴様っ」

「ちなみに私にとっても重要だったのは『王太子』の肩書き。キヴェラ第二位の奴がやらかしてるから上層部も無視できなかったんだよ、王子だと逃げ道があるしね!」


 実際、王子だと架空の人物を作り上げられる可能性があった。兄弟だから似ていた、双子だった、病弱で表に出ていなかった……といった理由を仕立て上げて罪をルーカスから切り離すことが可能だ。

 だが、王太子ならばそうはいかない。それは唯一であり、兄弟だろうと詐称する事が許されないのだから。

 何処の国でも『特別』なんだよ、王太子って。『次の王』なのだから。


「気付いてなかったみたいね。だけど極一部にとって貴方は素晴らしい価値がある!」

「は? 散々貶めたくせに何を今更」

「そうでしょうか? 価値など無いように思いますが……」


 訝しげに問い返す王太子。首を傾げ、思わず本音を口にするエレーナ。

 エレーナの発言に王太子が地味にショックを受けているみたいだが気にしない!


「違うよ、エレーナ。そんなことはない!」


 エレーナの言葉に私は力強く否を唱える。


「キヴェラを崩す切っ掛けにして唯一の弱点、復讐者達の的という存在意義がある!」

『……おい』


 無言の突っ込みを周囲から食らった気がするけど綺麗にスルー。


「あら……確かにそういう意味では重要な人ですわね。魔導師様の策も王太子殿下を利用したものだったようですし」

「でしょう!? 復讐者達の踏み台にして捨て駒、行動すればするほどこちらに都合よく事態を悪化させ、しかも良心が全く傷まないという素晴らしい逸材だと思うわ」

「ちょ、魔導師殿それ扱い酷い! 無価値より酷いから!」


 ヴァージル君が思わず、といった感じで突っ込む。

 魔王様達は無言……だが、さりげなく視線を逸らしていた。

 肯定したくともできないのですね? 否定する気も無い、と。


「ちなみにその基準は私の役に立つか立たないかで、それ以外は評価しない」 

「人権とか個人の尊厳を一切無視かよ!? 何その個人的な判断基準」

「これを一般的に評価すると『無能』っていう一言で終わるでしょ? 後は個人にとっての価値のみよ」

「そ……それは……」

「ほら、褒めるべき所が見付からないじゃん。多数決で私が正しい」


 場の空気の変わり方についていけないのかキヴェラ勢は黙ったまま。敢えて言葉を挟まず、私達の情報を少しでも得ようとしているのだろう。

 まさか、王太子の価値を見つけられないから……ってことは無いよ、ね?


「魔導師様はとても素敵な発想をなさる方なのねぇ」


 拳を握って熱く語る私にエレーナはそう呟き、周囲は微妙な雰囲気になった。ありがとう、エレーナ。物は言いようだな。

 王太子はあまりの言われ様に無言……だが、私に対しては心当たりがある所為か反論できないようだった。

 物語の主役にも悪役にもなれない道化だが、本人無自覚に重要な役割を担う脇役。そう考えると王太子は要らない子じゃないと思うんだ。

 ……嬉しくは無いだろうけど。


「……で、話を戻すけど。復讐者って事は王太子妃逃亡の情報を民間に流したのってエレーナ?」


 あれは素晴らしいタイミングだった。あの噂のお陰で夢の内容が一層真実味を帯びたのだ。

 ところが。


「え? いいえ? 私は少しでもセレスティナ姫の痕跡を消して逃亡をお手伝いしようと動きましたので。御父様ではないのですか?」

「いいや? 私は何もしとらんよ」

「へ? じゃあ、一体誰が? あれはキヴェラに悪意を持っていなきゃ流さないでしょ」


 三人揃って首を捻る。どういうことさー?

 エレーナ達ではないってことは誰が? 該当者に心当たりはないぞ?

 城に出入りできる人間でキヴェラに悪意を持つ人が他にも居たってこと?  

 

「く……はははははっ! これは傑作だ!」


 突如響いた笑い声にほぼ全員がその人物へと視線を向ける。それはキヴェラ側の貴族の一人。

 場所から見て側近というほどではなくとも、それなりの立場にいると思われる人物だった。


「なんと愉快な! 私の他にも復讐者がいようとは」

「なんだ、貴殿もか。手を組めばもっと面白かったかもしれんな」


 そしてもう一人。心底楽しいとばかりに笑みを浮かべて私達の前に歩いてくる。予想外の展開に周囲は唖然。

 ……。

 おーい……もしかして、入り込んでいる人が結構いたのか、な? いや、恨まれてても不思議は無いんだけどさ。


「お初に御目にかかる、魔導師殿。そして我が同志にも挨拶を」

「ここまで事が大きくなるとは思いませんでしたぞ?」

「ってことは貴方達も復讐者? 私に協力してくれた?」

「ふむ、協力というほどではありませんが民に情報は流しましたな」

「私は仲間達に追っ手の妨害工作の依頼を」


 あ〜……この人達か。どうりで逃亡し易いと思ったよ。

 キヴェラであれだけ『黒髪で年頃の女性』という条件の捜索がされたのだ、逃亡中に『それらしい人物』の情報がキヴェラに入らないというのも妙である。

 恐らくは各地に散らばる同志の皆さんが追っ手を誘導するか、誤魔化すかしてくれたのだろう。

 そもそもあの最中に王都に滞在していた商人達はその情報を知っている。普通ならば転移方陣や国境などで呼び止められる筈だ。イルフェナに問い合わせるくらいはするだろう。

 ところが行動を起こした国はバラクシンのみ。国として動かなくとも、権力者達が独自に動く可能性はあるだろう。それが全く無かったということは、何処かで情報が止まったということじゃないのか?

 とはいえキヴェラ側からしたら彼等は当然裏切り者。射殺さんばかりに睨みつける人多数、実際に声を上げる人もいる。

 特に騎士達の視線は殺気を帯びていた。自分達の仕事を邪魔した元凶を目の前にしているのだから当然なのだが。


「貴様等っ! よくぞ平然と名乗り出られたものだな!? この裏切り者が!」

「褒め言葉だな、それは」

「大した事などできぬ小者と侮っていたのはそちらだろう? 確かに大した事はしておらんさ、精々魔導師殿が動き易いようにすることと……王太子殿下を誘導することくらいだな」


 にやり、と問題発言をかました男性が笑う。その言葉に周囲は更に騒然となった。

 さすがにキヴェラ王が声を上げる。


「どういうことだ!」

「いやいや、立場に苦しみ悩める殿下を御慰めしただけですよ? 『次期王たる貴方様が何故不自由を強いられなければならないのでしょう』『キヴェラ第二位の方に意見するとは何と思い上がった輩か』……とね」

「え、それ貴方は悪くないじゃん。その甘言を都合よく解釈して駄目な奴に成り下がったのは王太子本人でしょ!」

「ある意味そうなのですがね……結果として王太子殿下は己が忠臣を排除しているのですから。私は罪から逃げるような愚か者ではございませんぞ」


 平然と言い切る男性は『同志』と共に更に言葉を続けた。


「国の内部を食い荒らす事は出来ずとも夜会にて言葉を交わす程度は出来るのですよ、王。貴方達は強者だからこそ脅威と成り得るような存在は警戒しても、力の無い者には本当に無関心だ」

「簡単に押さえ込めると理解していたからだろうなぁ? だが、弱者にも意地がある。ほんの少しの傷を付けることしか叶わずとも、それが致命傷へと繋がる可能性とてあるのだ。何も出来ぬと侮った事がキヴェラの敗因よ」


 小父様二人は言いたい放題だ。それを聞きキヴェラ勢は悔しそうに顔を歪めている。

 『自分達ができなくても可能性のある立場にいる奴を動かせばいいじゃん?』

 『小さくとも皹入れとこ。何かの切っ掛けで亀裂に繋がるやもしれんし』

 ということですよね、御二方。気が長い上に完全に他力本願……と言うか自滅狙いの方法だが、一番バレ難く処罰もし難いやり方だ。

 だって、王族に擦り寄る権力者なんて特に珍しく無いもの。完璧に楽な方に逃げた王太子の責任です。


「あ〜、御二人さん? とりあえず貴方達も復讐者ってことだよね?」

「うむ、勿論だ」

「同志と言ってくれて構わんよ」

「ちなみに原因は? エレーナ達に同志って言うことは理由は同じよね?」


 そう尋ねる私に二人はしっかりと頷き返す。


「私は先代に滅ぼされたラティマを故郷に持つ」

「同じく先代に滅ぼされたセルザムが我が故郷だ。代々侵略行為を繰り返すとは何と業深き者達よ」

「そういえば二百年程度の間にここまで大きくなったんだっけ」

「そのとおり。……例え自治都市程度であろうとも仲間と共に作り上げてきた故郷を奪われ怒らぬ筈はなかろう?」

「戦が起こる前にキヴェラ貴族の妾となって子を成していた者もいてな。虐げられながらも内部に潜み機会を窺っておったのだ。魔導師が動いた今こそまさに好機!」


 なるほど。彼等はその妾となった人の子供らしい。一応生まれながらにキヴェラの貴族ではあるから、今この場に居たのか。

 昔のキヴェラの地図には確かに小国が沢山描かれていた。中には国というより都市に近いものもあったかもしれないが、それでも一つの集団として成り立っていたのだろう。

 それならば一世代に複数の国を滅ぼしていても不思議は無い。現に今のキヴェラ王はブリジアスを滅ぼすだけではなく、ゼブレストに侵攻、アルベルダに内乱を画策と行動的だ。

 手に入れられなかったのは偏に攻められた国の頑張りだろう。特にゼブレストには紅の英雄、アルベルダにはグレンというキヴェラにとって予想外の逸材が居たのだから。

 イルフェナにも攻め入ったっぽいしな、魔王様達の様子から察するに。


「その血を引いていようと貴様等はキヴェラの貴族だろう!? そう在れた陛下の恩情に感謝する気は無いのか!? 陛下がお前達の故郷を滅ぼしたわけではあるまい!」


 王の側近だろう貴族が声を張り上げるが、二人は冷めた視線を向ける。


「我等が怨敵は個人ではなく国だ! キヴェラという国が故郷を滅ぼしたのだ」

「個人で国が滅ぼせるか? 国が成した事ならば恨まれるも国ぞ」


 感謝など欠片も無いとばかりに言い返す二人に、怒りを募らせるキヴェラ王の側近。なおも声を上げようとするのを遮り、私は彼等に対する『ある憶測』を口にする。


「いくら直接関係が無いって言っても無駄じゃない? そもそもキヴェラ王自身が散々侵略行為を見せ付けて復讐者達の古傷抉ってるのに『陛下の恩情』って言われてもねぇ」

「何だと?」

「ここまでするってことは『そう育てられてる』んじゃないの? もしくは話に聞くもう一つの故郷を選ぶほどにキヴェラが『部外者』として彼等を虐げてきたとか。それにさ、忠誠や感謝を抱くほど大事にしてきた?」

「ぐ……」

「生粋のキヴェラ人優遇なんて政策がとられてる以上は答えが判るけどね」


 もしかしたら彼等の親達は亡き故郷を語っただけかもしれない。

 それでも二人は何の躊躇いもなく復讐者と名乗るのだ、これはもう己の存在理由と認識していても不思議は無い。


 先祖がしてきた事と自らがしてきた事、その二つが同時にキヴェラに牙を剥いた結果が現状なのだ――



『復讐(者達)』『キヴェラは小国を侵略して大きくなった』『主人公は敵は個人ではなく国だと言っている』という三つが伏線でした。

なお、小父様二人の祖国は国というより自治都市程度。

強者が踏み付けられた弱者の怒りを軽く考えた結果です。

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