望むものは
騒動から一段落。さすがに状況整理が必要だと皆が一つの部屋に集まっている。
で、当然私の傍には魔王様と宰相様。早速お説教モードです。
「……それで君はどうしたいんだい?」
深々と溜息を吐きながら私に問う魔王様。協力的というわけではなく諦めただけだ、色々と。
その結果『とりあえず協力者になって軌道修正した方がマシ』という結論に達したらしい。
ちなみに宰相様は無言。ある意味ゼブレストの後宮騒動が原因なので口を出せない状態だ。下手に動けば事態は悪化すると察しているのだろう。
さすが、保護者達。いい加減私の扱いが判ってきたようだ。
どのみち他国の使者達にも説明せねばならんだろう。ここまでやって『偶然こんな展開になっただけです』と言っても誰も信じまい。
それに彼等は彼等で役目があるのだ、今後の為にも利害関係の一致という素敵な絆で結ばれておきたいというのも本音。
……アルベルダはこの場で決断しそうだけどな。今回の件については議会の決定権持って来てるだろ、ウィル様。
「キヴェラをボコりたいです、魔王様」
「うん、それは判ってる。わざわざ宣戦布告をするよう誘導するくらいだしね。私が言っているのは『キヴェラに対しどういった決着を望むのか』ということだよ」
『誤魔化すんじゃない!』とばかりに詳しく言われてしまった。ええ〜、今からネタバレってつまらなくない? 終わってから全てを知った方がインパクトはあると思うんだ。
そんな私の考えを察したのか魔王様はぺしっ! と頭を叩く。そしてその光景に一部の使者達が戦慄した。
「エ……エルシュオン殿下!? その、魔導師に手を上げるというのは」
「大丈夫ですよ。この子は言って聞かないわけじゃなく、言われなければとことん突き進むだけですから。適度に止めないと被害が拡大します」
「被害……」
「基本的には大人しいですよ。ただ、利用しようとしたり喧嘩を売ったりすると十倍返し以上に報復されるのでご注意を」
……。
何だか危険物の取り扱いみたいになってきた。
「ミヅキは自分が認めた者の言う事なら聞きます。今回とてキヴェラ側に非があるのは貴方達の目から見ても明らかでしょう? 王太子殿下が相応しい振る舞いをしていれば何も起こりませんでした」
宰相様が一応フォローを入れると『確かに』とあの場に居た人達は頷いた。ありえない状態だったもんね、王太子。
証拠と証言による追及ならば大国だろうと権力を振り翳すべきではない。周囲に悪印象を与えるだけだ。ひたすら謝罪して周囲の同情を買い『確かに反省しているようだ』と印象付けるのが最良の方法だろう。
……こう言っては何だが、全ての罪が露見しようと王太子が『私の首で怒りを収めて頂きたい』と言えば話はついたのだ。大国の王太子の首はそれだけの価値があるのだから。
そこまでやればキヴェラも王太子の名誉を守ってくれただろう。民の印象も愚かな王子にはならなかったはず。いや、愚かだからこそ事態は悪化したんだけどさ。
「それでね、ミヅキ。君はキヴェラを滅ぼしたいのかい?」
魔王様の言葉に周囲の人々がざわり、とざわめく。下手をすれば明日は我が身――そんな危機感を抱いたのだろうか。
だが。
「え、いいえ? 寧ろ残ってて欲しいです」
「何故かな?」
「中途半端に弄ばれた事実を残しつつ存続した方が屈辱的じゃないですか! しかも今回の事はキヴェラが圧倒的に悪いと周囲に知られているんですよ? 王太子がアホな事も加えて」
「そ、それは確かに嫌な未来だね」
「でしょう!? 重要なのは私が得をする事じゃありません、私の気が済むかですよ!」
言い切ると別の意味で周囲は沈黙した。
「……つまり君はキヴェラに対し何かを要求する事は無いと? 逆に言えば許される方法が無いとも言えるけど」
「当たり前じゃないですか! 魔導師に常識なんて通用しません、感情の赴くままに行動するのみ! 目指せ、キヴェラの災厄!」
「自重しなさいっ! 君ならばやり方は他にもあるだろう!? 外交の場に出てキヴェラの担当者を胃痛で倒れさせるとか」
「民間人なので外交で黙らせる方法は不可ですね。力ずくで国を乗っ取るには人材不足ですし、何より国を管理する気はないので要りません」
「それって最悪じゃないかい!?」
「だから最悪な方法を狙ってるんですってば」
『弄ぶけど国は要らん』と断言すると魔王様も沈黙した。すると宰相様が唐突に私の頭をくしゃりと撫でる。その表情は何処となく辛そうだ。
「すまない、巻き込んだ我々の責任だ。……ミヅキ、お前は『何』を望んでいる?」
「……どうしてそう思います?」
「国を支配する気も奪う気も無い、ただ災厄となりたいだけ。お前が結果を受け取る事を前提とするなら単にお前の感情の問題だが、お前はそんな単純なことでは動かない……『意味の無いことをしない』。この場合はゼブレストかイルフェナ、もしくはコルベラが得る物があると考えるべきじゃないのか?」
瞳を眇めると宰相様は黙って見つめ返してきた。……ああ、そうか。この人は『私』の保護者でいてくれる人だっけ。
溜息を吐いている魔王様も気付いているからこそ手を引かせようとしたのだろうか。今回の事は私にとって悪い方にしか影響しないのだから。
『魔導師を怒らせた』と考えるならキヴェラに対する報復が全て。だが、『魔導師を怒らせた果てに齎されるものこそが目的』なのだとしたら?
「キヴェラを許せないのも本当ですよ?」
にやりと口元を歪める。だからこそ、王太子はボコったじゃないか。
「そうだね、でも君は無関係な者が巻き込まれることを嫌う。王太子殿下があの状態ならば後はキヴェラ王個人、若しくは国の上層部に怒りが向かうはず。なのに目的は国だと言う」
不審に思って当然だろう? 君の性格を知るほど近くにいるのだから。
魔王様が呆れたように微笑む。……レックバリ侯爵にも『子を持つ親猫』とか言われちゃうくらい過保護な保護者様は危険を遠ざけたかっただけですか。親心を理解しないアホ猫ですみません。
彼等がここまで暴露したのならば私も言わねばなるまい。元々、彼等の協力が無ければ望んだ結末にはなりえないのだから。
「キヴェラは一度敗北しなきゃならないんですよ、国の繁栄を望んだ挙句に強くなり過ぎた事が原因なんですから」
侵略や他国に対する強行な態度のキヴェラだが民は王を慕っている。侵略行為も『国を富ませる為』なのだ、あの国にとっては。ある意味それは間違ってはいない。だがその結果、選民意識が生まれ自国内でも差がある状態。
元々は奪うというより小国を纏め上げる為のものだった『侵略』も時代の変化と共に意味を違えてしまった。といっても私が起こした混乱を収め内部の平定を優先する姿を見る限り『支配した以上は自国として守る』という概念自体は消えていないのだろう。
国が広くなればそれを我が事の様に誇り傲慢に振舞う者も出てくる。それを抑えきれなかった事がキヴェラが増長した発端じゃないのかね? 他国が彼等を諌めるには国としての影響が大き過ぎるだろうし。
結果、今のキヴェラは小国を纏め上げ戦乱を平定した英雄ではなく自分達の事しか考えない侵略者となってしまった。周囲には敵だらけ。
「勝ったから奪ってきた。ならば負ければ奪われるのは当然。……イルフェナに御願いするのは『交渉によってキヴェラから他国に面した農地を奪う事』。ゼブレストは地形的な問題で管理には向きません、隔離された場所になってしまう」
「我々は無関係じゃないのかい?」
「いいえ? 私は保護者達の言う事なら聞くじゃないですか、交渉の席につく事を条件に私を諌めることだってできますよね?」
『魔導師を諌めて欲しくばイルフェナが納得するものを差し出せ』
怒らせたのはキヴェラなのだ、本来ならばイルフェナは動く必要はない。動いて欲しけりゃ出すもの出せ、ということだ。
それしかキヴェラが私の怒りを収める術がないのですけれど、と笑みを浮かべながら付け加えると魔王様は片眉を上げる。
「交渉の席に着かせる理由は? 農地の譲渡を条件にすればいいと思うけど」
「それではイルフェナが初めから私を使って領土を狙っていたみたいじゃないですか。それに……これまでの『借り』を交渉の場で平和的に返すのも実力者の国としての在り方かと」
「……交渉で奪い取ればキヴェラも文句が言えないという事かい?」
「ええ! いきなり農地を要求するわけじゃないですからね、交渉で奪われるならばキヴェラが無能なだけでしょう。その農地で生産された食料をキヴェラに頼っている国に回せば、今後キヴェラは圧倒的優位な立場での外交ができなくなりますよね?」
「そうなるね。今回の事で大人しくなるのは数年だろうが、重要な駒が無ければその数年でキヴェラに各国の認識を改めさせる事が可能だろう」
『食糧の不足をキヴェラが補っている』という事実を無くせばキヴェラに対抗する国が出る。小国でありながら生き残ってきたのだ、圧倒的に不利な立場での交渉でなければ負けはしない。
武力で、という心配も無いだろう。食糧事情が変われば兵の維持も難しくなってくる。人と武器と食料の三つは戦をする上での必需品なのだ、農地を失った状態で以前と同じ兵力を維持しつつ侵略……なんてことをすれば内部は間違いなく荒れる。
それに。そうなった場合、一番仕掛けられる可能性が高いのは農地を奪ったイルフェナなので無条件に私が参戦。私一人に手を焼いたキヴェラが勝てるとは思えないし、そもそも私とイルフェナに負けるという選択肢は無い。
「イルフェナは元々自給自足できています。生産される食料は丸々他国に回せるでしょう。利益は農地の管理やキヴェラに敵視される迷惑料ってとこですね」
「ゼブレストはどうすればいい? 確かに我が国は農地の管理には不向きだが」
黙って聞いていた宰相様が聞いてくる。そうだね、イルフェナに条件をつけた以上はゼブレストにも得る物が無ければならない。
勿論考えてある。ゼブレストにとっては『ある意味』とっても意味のあるものを。
にたりと笑う――にやり、ではない――私に宰相様と魔王様は怪訝そうな表情になり、周囲は本能で何かを悟ったのか一部以外がドン引きした。
「謝罪させます、公の場で」
『はぁ?』
綺麗にハモった。あまりに平和過ぎて予想外だったらしい。
「キヴェラ王を敗北させた上でゼブレストの謁見の間に連行し土下座。ルドルフに直接懇願させます」
「そ、それは確かに」
「ゼブレストにとっては価値があるだろうね……」
顔を引き攣らせる保護者様達。おお、納得してもらえたみたい。
単なる謝罪などと思ってはいけない。『大国の王』が『ずっと侮ってきた国』に対して縋るのだ。
十年前から多大な迷惑を被ってきたルドルフが公の場でキヴェラ王相手に優位に立つ。ゼブレストとしてはこれほど胸のすく事は無いだろう。……彼等は国を選んだからこそ『過去』に囚われるわけにはいかなかったのだから。
復讐を考える余裕が無かったことも事実だが、何も思わなかったわけじゃない。言いたい事の一つや二つくらいあるだろう。
「前を向く事を選んだゼブレストに復讐は似合いません。しかし! 私は別です。執念深いです、しつこいです!」
「あ〜……確かに君はよく覚えているよね、割と重要な事は無視するのに」
「ちゃんと聞いてますよ? 気にしないだけで」
自分に素直なだけなのです。方向性の違いとも言う。
「ルドルフだって文句の一つくらい言ってもいいと思います。懇願するキヴェラ王を足蹴にしつつ冷めた目で見るルドルフとか有りだと思うのですが」
「待て待て待てっ! ルドルフ様をお前と同類にするんじゃないっ! 内面はともかく公の場であることを意識された行動をするに決まっているだろう!」
「『這いつくばって許しを乞え! 話はそれからだ』とか超上から目線でキヴェラ王に命じるルドルフとか格好良くないですか? 圧倒的優位な立場の大物悪役みたいで」
「お前はどういう方向に持って行きたいんだ!?」
ぎょっとした宰相様からストップがかかった。え、女王様キャラのルドルフとかおもしろくね? 自信家の悪役キャラも駄目ですか?
それに王座に座っている時は割と『粛清王』っぽく振舞っているからS属性でも違和感無いと思うんだ。そもそも、あいつは私の悪戯に反対した事は無い。
それにここで重要なのはキヴェラ王を付き合わせることなのだ。後々まで笑い話の種になるぞ?
「ちなみにそれでも許さないのが私なので、ルドルフの優しさを垣間見るイベントでもあります」
「それは納得する」
ですよねー! そこが私とルドルフの違いだ。立場の違いとも言うけど。
同時に『粛清王』という呼び名が冷酷と結びつくわけじゃないことをアピールする機会でもあるだろう。何も取らずにキヴェラ王を許し魔導師を諌めれば『怒らせると怖いけど普段は話の判る王』という認識が根付くはず。
自国の立て直しに専念していたとはいえ、碌に表に出なかったことが王太子の『貴族に嘗められたお坊ちゃん』という評価に繋がったのだ。そこまで言わずとも現時点でルドルフは他国にあまり評価されていないだろう。
その評価を覆す意味でも謝罪イベントは重要です。踏み台となれ、キヴェラ王。
「ルドルフが許さなければ私は止まりませんよ? それに見合う謝罪にしなきゃ」
「……お前は自分をどう思っているんだ」
「キヴェラ滅亡の仕掛け人」
「滅ぼさないと言ってなかったか?」
「私はね? でもこれから更に災厄に見舞われる予定のキヴェラが信じると思います?」
キヴェラの認識では、ということです。敗北すれば絶対に危機感を抱く。
それにキヴェラに恨みを持ち、狙う国もあるだろう。だがそれを私は望まない。『私が望むのはキヴェラの存続』なのだとしっかり覚えていてもらわなければ。
ただし、キヴェラが内部から崩壊する場合はどうしようもないので上層部に死ぬ気で頑張ってもらうしかないのだが。
「お聞きになったとおりです。私はキヴェラの存続を望みますし、彼等が今後苦労する事も報復に含まれています。……下らない真似、しないでくださいね? 直々にお願いに行くような事はしたくないのですから」
「私からも御願いしよう。貴方達は今回何も動いていないのだから便乗し掠め取るようなみっともない真似はしないと信じているけどね」
御願いしますね、と振り返って使者達にしっかりと告げる。何だか怯えているのは背後で魔王様が威圧していることもあるだろうな。
キヴェラ勢の末路を知る所為か、私達を恐れたか。使者さん達は一斉に首を縦に振った。素直で何よりだ。
「小娘、アンタ本っ当に魔王殿下の小型版ね……」
クラレンスの言ったとおりよ! と続けた宰相補佐様。それは褒め言葉ですか?
※※※※※※※※※
(カルロッサ宰相補佐視点)
唖然とする、とはまさにこの事なのだろうと思った。だって、普通考えられないでしょ? ……キヴェラ王太子妃であったコルベラの王女の自由を勝ち取るなんて。
「王族として、人として、男として。全ての意味で徹底的に貶めてさしあげます」
にぃ、と笑った顔は毒と狂気を含み人を惹き付ける魅力に満ちていた。そう、踏み込んだらヤバいと感じるくらいには。
毒の無い人間など面白味が無いと思うのは立場ゆえだろうか。人形のように個性の無い者や綺麗事ばかり口にする偽善者も自分は嫌いだった。
だって、それが本質である者など稀だろう? 命の危機に陥ってさえ日頃のあり方を貫くのならば多少は信じてやるのだが。
そんな自分の友人であるクラレンスはイルフェナ出身ということもあり、非常に人を見る目に長けている。あの穏やかな口調と顔の裏で凄まじく厳しい審査が行なわれているのだ。その内面を知れば人間不信に陥る者も多いだろう。
その友人が『とても良い子なんですよ』と褒める。しかも何処か困った表情になりながら。
聞いた時は何故そんな顔をするのか判らなかった。『都合の良い子』なのか『余計な事をしない良い子』なのか。少なくとも普通の意味ではないと思った自分も相当だと思うのだけど。
だが、目の前の光景にその言葉の意味を悟る。
あの娘は……自分を何処までも除外するのだ。結果を得るのはこの世界の住人であるべきだといわんばかりに。
王太子を追い詰めた策もその場凌ぎでできるものではない。『最初からそうするつもりだった』ということだろう。でなければあれほど証拠は集まるまい。
その事実に背筋が寒くなり師の言葉を思い出す――『本当に恐ろしいのは初めの一手であらゆる可能性を思いつき、対策を考えられる者だ。己が策にすら対抗策を導き出すのだから』と。
最初の一手で全ての流れを掌握するなど、とんでもない先見の持ち主だ。だから師の言葉も極々少数の所謂『天才』と呼ばれる者達のことだと思っていたのだが。
違う。師は……『天才』などという曖昧な者を指したのではない、『望んだ結果に持っていく切っ掛けを与える者』の事を言ったのだと今更ながらに思う。
強制されたわけではなく最良の選択として国は望まれた道を選ぶ。……自らの選択として。ゆえに切っ掛けを与えた者は何の功績も得ず、歴史の表舞台に登場しない。
無自覚に切っ掛けを与えるならまだしも、意図的に切っ掛けを与える者はとても厄介だ。流れを全て予想しているのではなく、最初から最後まで『筋書き通りに事を進める』のだから。ある意味、歴史を操ったとも言えるだろう。小娘……ミヅキは間違いなく後者だ。
だが、それはミヅキが魔導師だから出来て当然ということではないだろう。
今回あの娘が王太子を追い詰めた方法も言ってしまえば『誰でも可能なものの組み合わせ』。魔術と外交の術を持つ者ならば役割分担が必要とはいえ十分代用できてしまう。必要なのは行動に移す覚悟と勇気だ。
望んだ結果を得る為に努力し、多くの国すら巻き込み利用して。
あの娘は極一部の者の為に必死だっただけじゃないのか?
異世界人にこの世界の知識などは無い。全てこの世界に来てから学んだ筈。それをあそこまで理解するほどに学んだのは自分の為だけではあるまい。
元からある知識とこの世界で得た強さ、そして周囲の状況。全てを『利用して』あの娘は望んだ結果へ導いた。それは偶然ではない、常に状況を窺い要所要所で最善を尽くしてきたから得た当然の結果だ。
『ちょっとお転婆ですけど、とても頑張りやさんなんですよ』
クラレンスは確かにそう言った。それは紛れも無く事実だったのだ。その結果を受け取るのが本人ではなく他者なのだから困った顔になるのも仕方が無いだろう。
保護者を自称する者達はそれを知っているからこそ、過保護としか言えない状態になる。そうしなければ自分の事を全く考えないあの娘は容易く自分を犠牲にするのだから。
「国を支配する気も奪う気も無い、ただ災厄となりたいだけ。お前が結果を受け取る事を前提とするなら単にお前の感情の問題だが、お前はそんな単純なことでは動かない……『意味の無いことをしない』。この場合はゼブレストかイルフェナ、もしくはコルベラが得る物があると考えるべきじゃないのか?」
……ああ、本当に。何処までも自分に正直な愚かな子。冷徹とすら言われるゼブレストの宰相にあんな表情をさせるなんて。
結果を受け取った者が護ろうとするのも頷けるというものだ、利用する事が当然の階級において見返りを求めぬ好意を見せられるのだから!
今だって楽しそうに魔王殿下にじゃれている。本当に保護者として認識しているのだろう。……その事実に少し安堵する。あの子が保護されたのがイルフェナで良かったと。
「うちも守護役出そうかしらねぇ」
自国にとって有益な事であり、同時に少女を気にかける台詞を呟く。
これまで数多く存在した守護役達は異世界人を何より大事にしたという。でなければ命令以上に守り、自分の人生を犠牲にするはずは無いのだから。
守護役を接点に自分も何かの助けとなれればいい。あの二人のように背に庇う事はできずとも時々は手を引いてやることくらいはできるように。
「本当に……異世界人て厄介だわ」
大人しく護られてくれないどころか、とんでもないことを平然と行なうなんてね!
そう内心八つ当たり気味に呟くと溜息を吐いて少女に視線を向ける。
悪役となることを厭わぬ娘に少々の期待と多大なる呆れ、そして……味方と言い切れない罪悪感を抱きながら。
宰相補佐の師は『歴史の影には時々暗躍する奴がいるよ!そいつらマジ怖い、掌で転がされるし』と言いたかった。
主人公はバッチリこのタイプ。
事実はともかく結果だけを見ると、自国の利益が最優先という立場からは主人公の行動は物凄く善人に見えるという……。(敵になった者以外)




