番外編2・ある村娘の話
本編6~8くらいの村娘視点。
主人公の『あれだけいた白騎士狙いの村娘どこいった!?』発言の裏事情。
彼等によって救いの手が無いばかりか外堀を埋められてました。
その方はとても素敵な騎士様だったのです。
金の髪は白い服によく映えました。
緑の瞳もとっても素敵。
まるで御伽噺に出てくる王子様のようだと皆で噂しました。
そう、『御伽噺』。私は読み手でしかないのです。
ですから。
私は自分の恋を諦めたのだと思います。
※※※※※
その日は良いお天気でした。
怖いことがあったというのに、数日で元気になるなんて。
そんな自分に呆れつつも村の変わらぬ様子が嬉しかったのです。
そう在れたのは隣村から来てくださったお二人のお陰でした。
ゴードン先生は定期的に周辺の村を見回ってくれる優しい先生です。
『怪我が早く治るに越したことはない』
そう言っていつも治癒魔法を無償で使ってくださいます。
治癒魔法を使える医者は町に行けば仕事にあぶれる事がないと誰かが言っていました。
無償で使うなど絶対にない、とも。
その先生が今回はもう一人連れてくると聞きました。
心待ちにしていたのですが……恐ろしいことがおきてしまいました。
襲撃犯は数日前に村にいらした騎士様を狙っていた暗殺者だったそうです。
女の私にできることは逃げるだけ。
庇ってくれた叔父も怪我を負い、途方に暮れていた時に先生達が到着したのです。
驚いたのはあの連中だけではなく、騎士様達も縛られていたことでしょうか。
先生にお聞きすると、同行していた魔導師様が倒してくださったとのことでした。
……耳を疑いました。
だって、魔導師様はどう見ても私と同じくらいの歳で背は私よりも低いくらいでしたから。
黒髪に同じ色の大きな瞳の小柄な魔導師様……貴族の方なのかとひっそり思いました。
綺麗な方ですが、とてもお強いのでしょう。
騎士様達にさえ謝罪させお説教をしていたほどです、村長さんなどは不敬罪がと呟いて卒倒していました。
魔導師様のおっしゃることは少々過激で……尊敬するのと同じくらい恐ろしかったです。
ですが、この方が守ってくださると思うと夜の闇に恐れることなく眠りにつけました。
あの方は私達の為に怒ってくださった、優しい人ですから。
そして数日経ったある日、今度は白い騎士様達がいらっしゃいました。
先生達が城に知らせてくれたのでしょう。
お二人と何かお話をされていたようでした。
素敵な騎士様達に女性が騒がない筈はありません。
何とか話し掛けようとしている子もいましたが、全て挨拶程度で切り上げられてしまっていました。
でも一人だけ。
美人と評判の村長の孫娘は随分と思い上がっていたのか、あまりにつれない騎士様に好きな方がいるのかと失礼にも聞いていたのです。
城に勤める方であれば田舎娘など相手にされるはずはない、美しいお姫様が相手ならば諦めもつくとでも思ったのか……。
ですが、問い掛けられた騎士様達は幸せそうに笑ってこう言うのです。
『あの黒髪の魔導師殿を想っている』
纏わりつく娘達を引き下がらせる為の嘘だったのかもしれません。
彼女はその言葉が真実だと思わなかったのか激昂し、あろうことか魔導師様を罵ったのです。
『魔力があるだけの、あんな女にどうして! 恐ろしい魔女のようなのに』
その瞬間、騎士様達から笑みが消えました。
思わず誰もが黙り込む中、金髪の騎士様がとても冷たい目で彼女を見つめこう言ったのです。
『彼女は君の様に誰かの陰口など言わない。君は恩恵を受けた身でありながらそう言うのか』
『彼女がやらねば誰が出来た? 何人が生き残れた? いい加減にしろ、恥知らずども』
『これ以上、彼女を侮辱するならば……貴族の権限をもって処罰する』
優しい方でした。いえ、優しい方だと思ってました。
ですが、私達に向けられた優しさは魔導師様を通してのものだと悟りました。
魔導師様が守った者達だから。
あの方は誰かが死ぬことを嫌うから。
彼女の為に私達に優しく接したのだと、はっきりわかりました。
だって、騎士様の穏やかな言葉遣いも笑みも……魔導師様に向けるものは全て『本物』でしたから。
それを見て自分を見て貰えるなどと思い上がれるはずはありません。
騎士様達に纏わりつく娘は誰一人いなくなりました。
最後に村を出て行かれる時……あの騎士様が楽しそうに魔導師様に抱きついていました。
魔導師様は迷惑そうで、でも振り払うことはしていません。
前途多難そうですね、頑張ってください――そんな思いで眺めていた私に騎士様は視線を向けると穏やかに微笑んでくださいました。
魔導師様に向けるものとは違っても、それは間違いなく本当の笑み。
どうか、騎士様方……魔導師様を御守りください。
そしてできるなら、幸せになってくださいませ―――
知らない方が幸せな真実もあります。
夢見る乙女は悪意無く主人公と騎士の仲を応援中。