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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
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事情説明

セシルに対する主人公の口調が今までと同じなのは本人に嫌がられた為です。

 さあ、漸くコルベラに到着です!

 ……と言っても民を混乱させない為にセシル達の帰還は城で働く人達にしか知られていない。民にはセシルが逃亡した事すら教えていないらしい。


 当たり前か。そんな事を知ったら民がキヴェラを許す筈無いもの。


 セシルが嫁ぐ事に元々反対だったっぽいからねぇ、コルベラの皆様。説得した姫本人が逃げ出すほど酷い状況だったと知れば怒り狂うだろう。

 まあ、あの扱いを許せる国は無いと思う。キヴェラ上層部もそれを理解してるから関係者の処罰をしているのだろうし。


 で。


 現在、城にて感動の再会となっているわけですが。

 セシル……お母様はだ〜れ? しかも意外と家族多いな!?


「本当に良かったわ。どれだけ心配した事か」

「行くべきではなかったのよ! 可哀相に」

「疲れていない? 貴女の部屋はそのままになっているからゆっくり休んで頂戴ね」

「よくぞ無事で……」


 セシルは四人の女性に囲まれ口々に無事を喜ばれている。多分、一人が王妃様で残りは側室だと思うけど……全員『可愛い娘が帰ってきた! 良かった!』な雰囲気全開なので誰がセシルのお母さんなのか判らん。

 仲が良いねぇ、君達。側室同士のいがみ合いとか権力争いが全く無さそう。


「母上達はセレスの事をとても心配していたんだよ。唯一の女の子だから」

「なるほど。何て言うか……物凄く仲の良い御家族ですね」

「はは! 他の国と比べると確かにそうかもね。……食糧事情もあるし、小さな国だから政略結婚を考えて王族は人数が多い方がいいんだよ」


 私達は幸いにも兄弟を亡くす事はなかったけどね、とセシル兄は付け加えた。

 ……無事に成長するか判らないし、場合によっては政略結婚の駒になるってことか。

 この国の王族って本当に民を守るという義務を当然の事と受け止めているんだな。セシルもその気持ちが強いからこそ、キヴェラに嫁ぐ事を国にとって最善と判断したんだろう。

 逆らえば国がどうなるか判らないしな、他に援助してくれそうな国との婚姻もキヴェラとの縁談を断った後では難しかろう。

 そんな事情を聞いていたら今度は私が囲まれた。セシルよ、何を言った。


「貴女がレックバリ侯爵の依頼を受けた魔導師様ですね。この子がお世話になりました」


 リーダー格らしい女性が代表して声をかけてくる。この人が王妃様で確定、かな? ……いや、全員シンプルなドレスなんだよ。美女なんだけど!


「私個人の事情もありますので御気になさらず。楽しい旅でしたし」


 色々な意味で。

 そう付け加える心の内を知ってか女性は笑みを深める。


「それでも。誰もが手を出せなかった事は事実です。動いてくれた事に私達は母として感謝したいのです」

「……非常に申し訳ない質問なのですが。何方がセレスティナ姫のお母様でいらっしゃいますか?」


 王太子妃になれるってことは普通ならば正妃の子の筈。ただし、コルベラにセシル以外の王女は居ない。

 と言うか家族構成が全然判らんのだ。セシル、解説ぷりーず!


「いや、私の母は幼い頃に亡くなっているんだ。だが、王妃様を始め皆様が私の母になってくれてな」


 セシルが何処となく寂しげに話す。すまん、既に亡くなっていたのか。

 気まずい雰囲気を察してか王妃様達がセシルの母親について懐かしそうに話し出す。


「……ブリジット様はね、とても優しく凛々しい素敵な方だったの。今のセレスとそっくりよ」

「病で亡くなってしまわれたけど、自分が助からないと悟ってからは『薬は私に使うより助かる者に与えろ』っておっしゃるような方だったわ」

「時々無茶な事を言い出すけれど自分の為だったことは一度も無かったわ。誰かを守るのが当然と考えていらしたみたい」

「私達にとって今でも大好きな家族よ……だからセレスが嫁ぐと言い出した時も無理に押さえ込むことはできなかったの。ブリジット様から受け継いだ気質そのままだったんですもの」


 セシルは外見も内面も母親似らしい。それで盛大に心配しつつもセシルの意思を尊重したのだろう。きっとセシルの母なら娘と同じ行動をしただろうと妙に納得できてしまって。

 

「だから貴女にとても感謝しているの。一度はこの子の意思を尊重したけれど二度と同じ真似はさせないわ」


 笑みを浮かべてはいるが彼女達とてそれがどういう意味か判っている。それでもキヴェラに逆らうと決めているのか。

 周囲に視線を向けると誰もが苦笑しつつもその選択に納得してる事が窺える。諌める気は無いようだ。

 だが。


「それは私の仕事なのですが」

「え?」

「私の仕事は『姫の逃亡を手助けしコルベラまで送り届ける事』ではなく『姫の逃亡を手助けしコルベラに負担が掛からないようにした上で姫の自由を獲得する事』ですよ?」


 狸様の当初の計画では姫の逃亡の手助けだけだったけど。

 親猫様達にも色々言われているけれど。

 現状では八割方が個人の思惑と復讐という超個人的要素で行動しております。


 魔導師に手加減など無いのです、異世界人だろうと魔王様の配下に敗北など許されていないのです……!

 

 『負けるくらいなら最初から行動するな』くらい平気で言いそう、あの人。そもそも止めるのを振り切って行動した私には敗北どころか何らかの結果を出さない限り説教が待っている。

 王太子よ、貴様もギリギリの状況だが私も崖っぷちの状況なのだよ。お前を蹴落とした後に追い討ちで岩を落とすくらいは決定事項に決まっているだろう!


「そこまでしてもらうわけには……」

「いえ、自分の為なので」

「……? よ、よく判らないのだけど」

「イルフェナの教育方針なんです。私に譲ってください」

「そ、そう? 判ったわ」


 よっしゃぁぁっ! これで私が堂々と王太子を〆られる!


 許可を出しつつも首を傾げるお母様達だがセシルは理解できたらしく頷いていた。言いたい事が判ったらしい。

 私の性格と魔王様の教育方針を知らないと理解できないでしょうね、これ。でも自分の意思で動いた以上は責任を持つというのは当然なのです。

 だから気にしなくていいよ、コルベラの皆様。キヴェラとドンパチやらかすのは私だ。


 貴方達の分まできっちり〆ておくから期待してて?


 さて、感動の再会も終わったし今度は事情説明ですよ。

 とりあえず『王太子〆るのは私の義務だから譲って?』と御願いはできたので後で協力を御願いしてみよう。

 これまでの証拠映像と実績で頷いてくれればいいのだけど。


「それでは皆様に冷遇の実態からカルロッサでの騒動までを見せたいと思います。その前に」


 言葉を切り、周囲を見回して。


「薄い手袋かハンカチを用意する事をお勧めします」

『は?』

「怒りを耐える余り爪で掌を傷付ける可能性がありますので」


 その言葉に周囲は顔色を変え。エマは小声で「さすがですわ!」と私の提案を絶賛した。

 そういう光景だよね、あれは。ここまでセシル達の無事を喜んでいるのだ、怒らぬ筈は無い。

 ちなみにここは城の広間だったりする。しかも城中の人間がセシル達の無事を喜び集っているのだ。


 この場でいきなり『証拠映像見せますね』なんてやろうものなら一気に宣戦布告ムードです!


 それを回避する為に先に言質を取らせてもらいました。場の雰囲気で一気に宣戦布告なんて事態になりかねないもの。

 私の御仕事に対し許可を与えたのだからムカついても静観していてください。セシルが泣き……はしないだろうけど困るだろうから。


「では、始まります。皆様、御覚悟を」


 そしてある種の緊張感が漂う中、冷遇の実態からカルロッサでの騒動までの映像公開が始まった。

 ……その結果。




 多くの人が集っている筈の広間は静まり返り、その大半が無表情という大変ホラーな状況へと変貌した。

 怒り狂うどころか全員無言。喚き散らした方が絶対マシ。




 う~わぁ……予想してたけどおっかねぇ! 美形が多いだけに怖ぇ!

 皆様、怒りが突き抜けているらしく表情を取り繕う事さえ忘れている。

 笑顔! 穏やかな笑顔作ってください、上流階級の皆様! 

 そんな心の叫びも虚しく、侍女達でさえ『お労しい』と嘆く感情はセシルの帰還前に流れ尽くしてしまったのか浮かぶのは怒りだ。

 ああ、やっぱりな~。怒らない筈ないんだよ、あれを見たら。


「まあ……随分と素敵な体験をしたのね」


 シン……とした広間に冷たい声が響く。発声元は王妃様。


「うふふ……魔導師様? 貴女、これを見た私達の反応が判っていたから最初に言質を取ったのではなくて?」

「さて、どうでしょう? 言った事は事実ですが、私は友人を悲しませたくはありませんよ」

「そう、貴女はセレス達の良き友人でいてくれるのね」


 速攻で言質を取った理由がバレたが、不敬罪は不問にしてくれるらしい。

 ええ、不敬罪云々と言われてしまえばアウトでしたとも。


「私達も娘が悲しむ事態は望みません。先程の言葉もありますから。ですが」


 一度言葉を切って、王妃様は視線をある方向に向け。


「この国の決定権は陛下にあります。それは納得してくださいね」


 セシルもやや緊張した表情で父である王を見ている。いや、セシルだけではなく全員が。

 一見穏やかそうだが、小国を守ってきた王なのだ。外見そのままの評価な筈は無い。


「魔導師殿。我等が納得できる結末を用意してくれるのだろうな?」


 それまで黙って私を見つめていた――母親達が娘に構う分、私を見極めようとしていたのだろう――コルベラ王が静かに言葉を紡ぐ。


「勿論。世界を違えてさえ鬼畜と呼ばれる人間の報復が手緩いなどと思われますか?」

「ふ、報告書とこれまでの映像を見る限りは随分と楽しい性格をしているとは思う。だが、貴女は敵を殺さないな?」

「死ぬ事は『終わらせる事』と同じです。私が望むのはそれ以上ですよ」


 そう、じわじわと続く終わりの見えない苦痛。

 国や私の恐怖に怯えながら常に周囲に注意を払い続ける生活。

 『さくっと』なんて優しさは私にはありません、利用価値が出るかもしれないし。


 情け深いわけじゃないのだ。逆です、逆。

 本心を綺麗に隠し笑みさえ浮かべて言い切る私をコルベラ王は見つめ返した。そうして一つ頷く。


「良かろう! 我等は報復を魔導師殿に譲る。ただし、納得できぬ結末ならば動くぞ?」

「御好きにどうぞ」


 その言葉が決定打。

 とりあえずはコルベラが宣戦布告をする事態は回避されたようです。セシルも安堵の表情を浮かべていた。

 場の雰囲気も随分と穏やかになったらしく、ざわめきが聞こえてくる。


「さて、魔導師殿には少々聞きたい事がある。時間をもらえるかな」

「はい、構いません」


 即答に満足げに頷くコルベラ王。

 さて、王様と対話しなければならないようです。

 何を聞かれるかなー? 

 あ、その前に。


「王様、お伝えしなければならない事が」

「ふむ、何かね?」

「近いうちにカルロッサからは賞金首の報奨金、イルフェナからは私かセシル名義で多額の金が届くと思いますのでコルベラの財源にどうぞ」

「は?」


 王は首を傾げ、セシルとエマも怪訝そうな表情を浮かべている。

 ああ、二人は賞金首の報奨金しか気付いてなかったか。


「ミヅキ、報奨金は判るがイルフェナからの金は心当たりが無いぞ?」

「あるよ? だって黒尽くめが襲ったのは私だもん、だからクラレンスさんに引き渡されてるし」

「「……あ」」


 二人ともすっかり忘れていたらしい。思わず上げた声がハモる。


「キースさん、きっと『報奨金はコルベラに届けて欲しいと言っていた』って伝えてるよ。クラレンスさんならそれがコルベラへの手土産だと悟ってキヴェラから毟り取ってくれると思う」

「何故そう思うんだ?」

「キヴェラの対応の早さを見たでしょ。あれなら二度とおかしな真似を起こさせないように依頼する金が無くなるまで毟り取ってイルフェナに賠償金として渡すよ」


 キヴェラとてこれ以上馬鹿な真似をされても困るのだ、毟り取るという表現がぴったりなくらい盛大に財産を取り上げるだろう。それならばキヴェラの懐は痛まない。

 キヴェラがやらなくてもイルフェナが代わりにやるだろう。絶対に実行する。

 反省しているようには見えないもんな、事件の直後に報復なんて。


「ちなみにクラレンスさんはバシュレ公爵家令嬢シャルリーヌ様の旦那様。どう考えても素直に賠償金払った方がいい」


 下手するとイルフェナ精鋭陣が嬉々として出てくるだろう。その後にネチネチやられるより金を払って一度に終わらせる方が絶対に傷は浅い。


「お前達……一体、何をして来たのだ?」


 逃亡生活だった筈だろう、という呆れたコルベラ王の声が周囲の笑いを誘う。

 ええと。

 逃亡生活というより単なる旅行で終わりました。しかもイベント満載で。 


※※※※※※※※※


 あれから客室に通されました。侍女と護衛は会話に加わらないから個人的に聞きたい事があると考えるべきだろう。

 さて、何を言われるやら。


「気になっているのだが……何故、魔導師殿はこの話を引き受けたのかね? 君は何の被害も受けていない筈だが」


 コルベラ王は純粋に疑問に思っているようだ。ある程度の情報は伝えられているみたいだから復讐云々の事も知っているとみた。

 まあ、普通に考えたら私怨で国を敵に回すとは思わないだろうからレックバリ侯爵に押し切られたとでも考えたのだろう。


「個人的に思う所があるのですよ」

「ふむ、ルドルフ王の為かね? 君達は親友だと聞いている」

「……それも含む、とだけ言っておきます」


 私がこの話に乗った当初の理由は十年前の復讐だ。だが、ある意味私もキヴェラの被害に遭っているのである。

 後宮破壊は邪魔な側室連中を潰し家ごと断罪する為のものだった。一度潰れれば家が簡単に再興できる筈も無い。しかも中には結構高い地位の家もあった筈。

 ルドルフはそれをばっさり切り捨てたのだ、粛清王と呼ばれるほどに。


 ……おかしくないか? これ。


 ルドルフとて王なのだから内部の結束や後ろ盾を得る意味でも側室は受け入れるべきだと知っているだろう。

 特に十年前に国が傾く事態になったというなら必要だと考えるのが普通。それなのに一切側室連中に手を付けず側近共々完全拒絶。日頃の国第一の姿勢を知る限り、そこまで嫌悪するのはちょっと異常だ。

 ここから考えられる可能性は単純に『側室達の実家に権力を握らせない為』だろう。もしくは『内部に居られると困る』から。そしてそれ以外にも少々疑問な点がある。

 侵略してきたのがキヴェラならばまず無能な貴族連中から潰し領地を掌握していく方法を選ぶ気がする。

 主要な領地じゃなくとも拠点にはなるのだ、そこを足掛かりにして内部に……と考えるんじゃなかろうか。

 あの上層部ならば数に物を言わせて攻め込むだけでなく、それも狙う。足場を築いた上で侵攻した方ができる事は多いのだから『そこに気付かなかった』という可能性は低い。

 ところが実際は無能貴族が領地共々無傷な上に十年後もしっかり生存。家の立て直しに必死どころか側室を王に押し付けられる権力を持っていた。

 ……随分と余裕だな、おい? 十年前にかなり危ない状況だったなら普通はもう少し大人しいだろうよ、余力が無いとも言うが。そんなわけである仮説が立つ。


 裏切り者だったんじゃね? 側室達の実家って。


 奴等の領地は『偶然』被害を受けなかったと? ルドルフの視察に敵の魔術部隊が『偶然』出てくるような内部筒抜けの状態だったのに? 自分の領土を守りきれるほど有能だとは思えんぞ?

 自己保身の行動しか取っていないならばその後は相当肩身の狭い思いをしている筈なので野心を抱くどころではないだろう。領地に引き篭もり状態でも不思議は無い。

 ついでに言うなら野心満載のキヴェラが今現在何もしていないというのも妙だ。退けられたから次の策として内部からの侵蝕を試みた、とかじゃなかろうか。……アルベルダの『噂』もあることだし。

 ルドルフも当時はそこまで権限が無かっただろうし、決定権を持つ王が無能では裏切りの証拠を提示してもどうにもならなかったんじゃないかと思うのですよ。それが大規模粛清に繋がったんじゃないかと推測。

 『証拠だけでは大した罪にできない』『無駄に地位がある奴が擁護に回ると無理』という言葉は過去の経験から来ていた部分もあるんじゃないかね?


 勿論、ルドルフ達は私に何も言っていないから全て私の憶測に過ぎない。だが、国の内部事情という事に加え私が報復を考える人間だと知っているから警戒して情報を渡さなかった可能性もある。

 『やられたら殺り返せ』『報復は元凶が滅ぶまでです』くらいの勢いで側室とやり合った姿を見ているのだ、依頼した仕事だけに限定するなら必要以上の情報は教えまい。

 セイルだって紅の英雄の裏事情を明かした際に侵略してきた国の名を言っていない。それは私が元凶に気付く事を警戒したからではなかろうか。


 命の危機になったものね、私。ならばやる事は復讐一択ですよ?

 手を下したのは側室やその実家でも黒幕に殺意を抱くのは当たり前。


 逃亡生活をする上でキヴェラを見る限り疑念は確信へと変わっている。だからルドルフ達の苦労の元凶に一矢報いたいという気持ちもあるけど、私個人の報復というのも間違いじゃないのだ。

 まさかルドルフ達も予想外の所から隠した筈の情報が漏れるとは思わなかったに違いない。レックバリ侯爵にそんな意図は無かっただろうが。

 万が一、仮説が間違っていても私個人の復讐はコルベラ・イルフェナ方面で残っているので問題無し。勿論ゼブレスト侵攻も許し難い。

 恨まれる要素が多過ぎて『言い掛かり! 側室騒動の黒幕じゃない!』とか言っても私の復讐は止まりません。止める気も無し。

 私は間接的な被害者の一人としてもキヴェラに復讐したいのだ……現在はセシル達やイルフェナの事も要因になっている上、王太子の存在がトドメである。


 私は執念深いぞ、キヴェラ。お人形を使った『おまじない』を実行しかける程度にはな。


 嫌がらせに始まり、誘拐、毒殺、殺傷沙汰。ついでにアホ王太子の魔王様達への侮辱。

 ここまでやられて泣き寝入りなんてする筈ねぇよ。手駒が憎けりゃ黒幕まで憎い、しかも放置すれば今後も被害を被る可能性・大。

 気合が入るってものですよ、嬉々としてレックバリ侯爵の話に乗りましたとも。ずっと疑っていた黒幕に堂々と報復できる素敵な機会を逃すものか。


「……何を言っても無駄そうだな」

「申し訳ありません。私が動く事が不自然に見える事は理解していますよ」

「すまない。この国の人間は結束が固い分、閉鎖的な面もあるのだ。セレス達とてそれは同じ」

「他者を警戒するのは王族として当然では?」

「怒らんのかね? ここまで手を貸しておいて信用せぬなど」

「怒りませんよ。国を守る上で当然だと思いますし、必要があれば私を切り捨てる事にも納得します」


 そう言いきるとコルベラ王は軽く目を見開いて言葉に詰まり。その後に何の警戒もなく笑った。


「あの子が信頼する筈だ。セレスが心配していた……『旅が終わったら今までの様に接してくれないかもしれない』と。言い切るだけでなく実行できる友人だからこそ失いたくないのだろうな」

「義務を優先したからといって嫌いになったりしませんよ? 身分的なものは仕方ないと思いますが」

「そう思ってくれる者は意外と少ないのだよ。義務を最優先と理解してはいても感情は付いて行かない」


 そう言うと座ったまま深々と頭を下げる。

 ちょ!? 侍女とか騎士が見てますよ、王様!


「王ではなく父親として感謝しよう。よくぞ無事にセレス達を送り届けてくれた」

「楽しい旅でしたよ。あと、落ち着かないので頭を上げてください」


 不敬罪的な意味で落ち着きません。この事が貴族とかに伝わったら出入り禁止にされそうです、私。

 護衛騎士が何も言わず表情すら変えないのがいと恐ろし。

 漸く頭を上げたコルベラ王は笑みを浮かべたままなのだが。


「これからもセレス達の友人でいてやってくれ」

「それは勿論」

「ふふ、貴女のような友人ができたならばキヴェラの事も悪い事ばかりではなかったということか」


 それは別問題で御願いします。

 どんなに良い要素があったとしても絶対に、絶っ対に手を抜きませんから!


親猫からの教育は『常に疑え! あらゆる可能性を考えろ』というもの。お陰でゼブレストでの側室騒動では後から色々と思う所があったようです。

ちなみにキヴェラ黒幕説は正解。

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