番外編1・村医者の話
先生視点・本編2~4くらいの頃。
先生が主人公の保護者になった経緯。
主人公は早くも順応し『リアル魔法使いだ、ひゃっほう♪』とかやってたわけですが。
『私はこの世界の人間じゃないです……異世界と言えばいいでしょうか?』
森で拾った迷子は多少の戸惑いを滲ませながらそう言った。
職業柄できるだけ平静を保ってみたが、抑えきれぬ好奇心を隠せてはいなかっただろう。
私が住まうラグスという村。そこに伝わる『狭間の旅人』の伝承は実に興味深いものである。
『異世界』
『この世界では想像さえ出来ない技術』
『魔法さえ彼等が作り出した』
勿論、全てが正しいとは思えない。伝承とは誇張して伝えられるものなのだから。
だが、それがただの御伽噺ではないことは明確。
だからこそ私はこの出会いに感謝すべきなのだろう。
少女はミヅキと名乗った。長い黒髪に大きな瞳の美しい少女。
未だ十代であろう彼女は取り乱すこともなく淡々と状況を把握しようとしている。
やはり高度な技術をもたらすだけあって異世界人は聡明なのだろうか?
時折不安げな素振りを見せるが、貪欲に生きる為の知識を得ようとする姿は実に好ましい。
自分は医者である。
職業柄、『生』に縋る者達を数多く見てきたつもりだ。
多くの患者達は突如見舞われた己の不運に嘆き、必死に足掻こうとするも諦める者も多い。
怪我は治癒魔法で治してやれるのだが、病に対してはどうも諦めがちである。
貴族ならば高価な薬を使うこともできるだろうが、民間人には手が出ないものも多い。
そんな背景事情もあり、絶望した患者は泣いて取り乱すか諦める者が大半だ。
だが、彼女は違った。絶望することも諦めることもしていないのだ。
元の世界に戻る術など見つかっていない、そう聞いたにもかかわらず。
魔法のない世界から来たということも実に興味深い。
いや、魔法のない世界にもかかわらず魔力持ちがいるということが。
最初魔法は使えないと思ったが、独自の発想で見事習得してみせたことも驚きだ。
……魔法を成功させることによってこれまでの魔法に対する概念をぶち壊してくれたのだから!
学会に発表すれば多くの魔術師達の注目の的になるだろう。
歴史に名を残すに十分な功績なのである。
だが、それは非常に危険なものであることも事実。
制御不能な魔法の被害は下手をすれば国一つが吹き飛ぶほどのものなのだ。
呪文詠唱による制御がない魔法を使いこなせる者がどれほどいるというのか。
力に焦がれた愚か者が自滅するのは自業自得だが、本人だけでは済むまい。
己が成したことに対し責任を持つことができて初めて『魔法を使いこなす』と言えるのだから。
そう言った意味では魔導師こそ本当に魔法使いというのかもしれない。
異世界の魔導師。そう在るしか生きる術がない哀れな異世界の少女よ。
私は君の良き相談役であろうと思う。
せめて少しでも君が後悔しないように、この世界の知識と警告を与えよう。
必然的に君はこの世界に『何か』を与えることになるだろうから。
仕方がないと割り切ってしまえる程、君は非情になれぬだろうから。
私は君の紡ぐ物語を誰より心待ちにする読者となろう。
新しい知識と多くの驚きに彩られた物語が幸福な結末で終るように。
必ず、君の味方であろう。
それこそが異世界に流されたという、君にとって不幸でしかない事態を喜んでしまう私にできる唯一の贖罪なのだから。
この後、常識人筆頭として主人公の御守となります。
早くも主人公との間に温度差展開中。