胸を張って言える事。
「・・・・」
勇はその紙に書かれた文字をひとつひとつ目で追った。
そして…
勇の目が変わった。
手紙をたたみながら世亜の部屋を後にした。
自分の部屋へ、足早に向かう。
バタン
部屋に入ると勇はいつものスーツに着替え始めた。
着替えが終わると先程の手紙を胸ポケットに大事そうにしまった。
それを終えると、地下から地上への階段を登り始める。
ゆっくり、ゆっくり…
その時勇が何を思ったのか…本人のみぞ知る。
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「…パ~、パ~パ~…」
桃花の泣きそうな声に重い瞼をゆっくりと開けていく。
「ん…どした?」
目をぱちぱちしながら、壁に掛かっている時計を見た。
(午前3時半って…マジかよ)
「こわい夢見た~」
そう言って桃花は少し目に涙を溜めて、俺のパジャマを少し掴んだ。
それがどうしようもなく愛しく感じた俺は桃花を引き寄せて
ぎゅーっと抱き締めた。
「…へへへっ」
桃花が不意に笑った。
「ん?何?」
笑いの原因が分からず聞くと桃花は頭を俺の胸にくしゃくしゃっと
擦り付けてこう言った。
「なんでもなーい!パパが好きなだけー!」
それを聞いた途端原因なんてどうでも良くなった。
わしゃわしゃっと髪の毛を大雑把に撫でて、そのまま後頭部を俺の体に押し付けた。
決して、胸を張って
「桃花の父親です」
とは言えない俺だけど…
それでもこれだけは、この気持ちだけは、桃花への愛だけは
誰にも負けないと。
それだけは胸を張って言うよ。
例えば、人がお前らは親子でも何でもないと言って、
桃花が泣いたとしたら、今みたいに優しく抱き締めて言ってやるさ。
「桃花、愛してるよ」
それ以外に、言える言葉なんてないけど
それだけは確実に言えるから…
そんな事を考えてると、桃花は再び眠りの世界へ…
すやすやと寝息を立てて眠る桃花は俺の宝物。
世界で一番大切な、大切な宝物…。