今なら…
「じゃあ、次は唐御くん。」
先生が俺を名指しする。
「せんせー、俺面倒臭い。」
そう言うと、後ろで母さんが「唐御、しっかり!」
と言ってくれた。
俺はのそのそ立ち上がって昨日適当に書いた作文をダルそうに読んだ。
「『僕の夢』
滝橋小学校2年 小林 唐御
俺…じゃない、僕はお母さんとお父さんと一緒に
ご飯を食べてお話してみたいです。
お父さんとは休みの日に野球をしたいです。
お母さんは仕事ばかりしてるのでお父さんが欲しいです。
おわり。」
とても作文とは言えない文章を読み上げると、
クラスは気まずい空気でいっぱいになり、シーンとしてたのを覚えてる。
ぱちぱちぱち…
人一人分の拍手が俺の耳に聞こえた。
誰だよ、と思って音のする後ろを振返ると…
「…お母さん?」
お母さんは拍手を止めなかった。
俺はすぐに前に首を戻すと、下をふ向いた。
恥ずかしかったんじゃない。
何で母さんがいつもの笑顔で拍手をしてるのか俺には
全く分からなかった。
だって…だってあの文章は、仕事で俺に構ってくれない母さんを
子供なりに皮肉ったものだったのだから。
下を向いたまま俺は歯ぎしりをしながら泣いた。
あぁ、悪い事したって心から思ったから。
自分を、初めてバカだと思った。
俺は幸せだった。幸せだったんだ。
それすらも分からなくて、歪んだ心を育て続けた俺は
色々なことに手を出しては壊して手を出しては壊して…
それを繰り返してた。
その裏で母が何を想ってたのかなんて、考えもしなかった。
今なら…今だったら、絶対に土下座して謝れる。
どうして…ずっとずっと女でひとつで俺を育てたんだろう…
母さんなら、いい男なんていくらでも居ただろうに。
疑問。
母さん、もしかして…ずっとずっと世亜のこと…
「愛してたんかなぁ」
ぼそり。呟く俺。
母さんの旅だった空は何も答えないまま。