これは誰の幸せか?
「世亜…様…?」
その温かい言葉に声を震わせて返した。
「試す様な事して悪かった。
お前の本心が知りたかった。」
「…本心?」
「お前がこの先…
“どう生きたいのか”
それを確認したかっただけだ。」
その言葉の意味がその時は分からなかった。
分かったのは、もう取り返しのつかない時で…
何故私は、世亜様の心を理解しようとしなかったのか…。
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「パーパぁ!!
朝だよー!!起きてー!」
可愛い声に目を開けるとそこには少し怒り気味の桃花。
「…ん~?
もー朝かよ…」
目をぱちぱちさせながらのたのたと体を起こした。
「あ~…ダルイ」
そんな事を呟きながら、桃花の頭をポンポンと軽く叩いた。
「パーパ?」
「んー~?」
「桃花の事好きー?」
いきなりの質問に思わず顔がほころぶ。
「好きだよ、世界で、一番…」
そう言って、桃花を優しく抱きしめた。
…勇が本当の父親…
その事実が頭を過ぎる。
それを思い出す度に、ふと考えてしまう。
今感じてる幸せは、勇が感じるべき幸せだったんじゃないかって。
俺が感じるべき幸せじゃねぇんじゃないかって。
俺は、勇の幸せを奪い続けてきたんじゃ、ないかって…
顔が、険しくなる俺。
桃花は知らない。
だって、桃花は俺に抱きしめられていて俺の顔が見えないから。
桃花は知らなくていい。
いや、知らないでくれ。
こんな情けない顔した俺を…
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―小林組―
世亜はケータイのアドレスである人を探した。
指が、止まった。
『恵』
その名前を見つめて、世亜は電話を掛けた。
『お掛けになった番号は現在、使われておりません』
もう、分かり切ってるそのアナウンスを世亜はただただ聞いていた。
そして…
一筋、涙を流した。
「…なぁ…恵。
どーしたらいいんかな、俺。
お前がいねぇと、駄目なんだわ。
情けねえよな、本当に…。
けど、だいじょーぶだから。
もうすぐ、全部終わる。
誰も不幸にさせやしない。
そろそろ、そっち、行くからな。
愛してる…。」
その言葉を聞く者はいなかった。
ただ一人、世亜は呟いた。
そして…
「うしっ、やるか」
目を変えた。
それは世亜が何か大事なことを決意したようにも思えた…。