想い出は儚くて。でも、優しかった。
頭が、痛い。
胃がムカムカして吐き気がする。
…昨夜は、少し飲み過ぎたようだ。
「次期組長はお前だ」
昨日言われた言葉は私の全てを締め付ける。
「…っ、ふざけるな」
誰にも聞こえない、響かない、そんな私の叫びを
誰が拾ってくれるのだろうか…
また、一日がはじまるのだ。
…勇の憂鬱な1日…
「おはようございます、世亜様。」
喫茶室に向かいコーヒーを一杯飲もうと思ったら先客。
「あ?あぁ、はよ。
ちゃんと寝れたかー?」
世亜様は分かって言っているのだろうか?
「はい。」
ただそれだけ答えて私はコーヒーカップを手に取った。
世亜様はそんな私を見て、自分のコーヒーをぐびり、と飲み干した。
「あー、甘っ。」
世亜様はコーヒーや紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れる。
見かけによらず甘党だ、彼は。
ちなみに私は断然ブラックだ。
甘いものは、好きじゃない。
それでも、1度だけあったな。
甘いものを食べた時が…
6年前のバレンタインに、美代が作ってきたチョコレート。
男社会で生きてきた俺に初めての出来事だった。
甘過ぎて食えたものではなかった。
だけど、美代の悲しい顔を見るのはごめんだったので
無理して食べた。
その後の彼女の笑顔が幸せそうだった…
今、彼女は何をしているのだろうか?
「おい、勇。」
その声にハッとした。
「あ、はい。何か?」
世亜様がいたのをすっかり忘れていた…
「お前、女に興味ある?」
意味が分からない…
「ありません」
きっぱり。と答えた。
「お前、そろそろ24だっけか?」
嫌な予感、、、
「そろそろ嫁探しでもすれば?」
そう言って世亜様は、私にピラッ写真を見せた。
それが…
それがどれだけ私にとって屈辱的な行為だったろうか…
彼は、それを考えた事があるだろうか?
彼は、私を人間として見ているのだろうか?
私を…どうしたいのだ。
バシャ!!
液体が物体に掛かる音がした。
ふ、と自分が震えてる事に気付いた。
そして、コーヒーカップに入っていたコーヒーがなくなっている事にも…
そう、私は、世亜様に…まだ熱いコーヒーをぶっ掛けていた。
それが分かっても私の想いは止まらなかった。
ポタ…ポタ…
「何がしたい…」
「あ?」
不意に漏れた言葉に世亜様がいらついた返事を返す。
「私を、何だと思ってるのですか?
機械ですか?ロボットですか?人形ですか?」
「…」
世亜様は、黙っている。
「私から全てをもぎ取って何がしたい…!?
私は…私は、人間です…!!
意思を持った、人間、で…す…」
涙がボロボロ溢れて来た。
止まれ、止まれ、止まれ。
情けない、こんなに私は弱かったのか…?
ポン
涙を見せないように下を向いてた私の肩に手を置く音。
「よく言ったな。」
「世亜…様…?」
私に掛けられた声は…
信じられない程、優しい言葉だった…。