彼に与えられたもの。
「桃花ー、今日はどっか出掛けっか♪」
「ほんとにー?」
桃花が嬉しそうに返事を返した。
「ん、どっか行きたいとこあるか?」
「桃花ねー!勇兄のところ行きたい!」
「・・・あ?」
楽しい会話から一転…、俺の中の何かが凍結しそうなくらい
空気が通常のものではなくなった。
なんとか桃花を説得し、その日は噴水のある公園に
行く事になった。
(…勇、あいつ今頃何やってんのかな…)
~小林組~
「…今、何と?」
勇が珍しく相手の言葉を聞き返した。
「聞こえなかったか?
唐御と桃花はこの組から追放した。
あんなんがいちゃあ、俺らにマイナスな事がある可能性が高いだろ?
お前も存分に感じてたはずだ。」
声の主は世亜だった。
「・・・」
勇は、少し間を置いて口を開いた。
「後継ぎは…いかがなさるおつもりで?」
世亜は少し目を丸くしたが、すぐに冷静な目つきに戻った。
「次期組長はお前だ。勇。」
その言葉に、勇は瞳を見開いた。
少しの沈黙の後、勇はまた口を開いた。
「です、が…。
この組の、長は歴代…世襲制です。
歴代の長が守り続けてきたものを…
世亜様は…壊されるつもりでしょうか?」
勇にしては珍しい程の途切れ途切れの言葉だった。
「世襲?それが何か関係あんのか?
んなくだらねえ歴史、俺は最初からぶっ壊す予定だった。
唐御に組長も治まりそうにねえしな。
俺は、今までこの組に貢献し続けてきたお前を
次の頭にしようとずっと考えてた。」
(ありがたいお言葉です)
今までの勇なら喜んでその言葉を言った事だろう。
しかし今は
「違う」
最愛の恋人と引き裂かれ、子供とも引き離された。
子供を育て、その子供に愛されているのは自分ではない。
その自分の子供に父と名乗る事さえ許されず、
ただただ耐え続けた日々。
次第にその日々は、「彼」への憎しみへと矛先を向け始めていた。
「彼」…そう、それは…
世亜。
ではない。
世亜の息子・小林唐御だった。
少しずつ、毎日少しずつ溜まり続けていったそれは
もう、勇の中から溢れんばかりになっていた。
その憎悪が爆発するまで…あと、少し…。
5年の歳月が彼に与えたものは…
少なくとも、喜ばしいものではないだろう。