まだ、識らない。
「…え?」
俺が戸惑っていると
「カードやる。
金はいくら掛かっても大丈夫だ。
荷物は下っ端に荷造りしてもらえ。
いいか、今すぐだ。
すぐにどっかのホテルに泊まれ。
後日俺がマンションを手配するから、そこに住め。
俺から指示があるまで余計な事はするな。
動くな、待つんだ。そこで。
何かあったら勇じゃなくて俺に連絡しろ。
唐御、分かったか?」
世亜は時間がないとばかりに、
無駄な言葉ひとつ出さずに指示だけを喋った。
その雰囲気に俺は「はい」としか言えなかった。
「理由はその内話す。
いいか、一言言っておく。
今は耐えろ。待て。動くな。」
世亜は俺の目を睨むように見つめてそう言った。
俺は世亜の部屋を出ると、桃花のもとへと向かった。
走った。急いだ。そうしなければいけない気がした。
バーン!!
俺は勢いよく自室の扉を開けた。
桃花は驚いて目を丸くした。
「パパ…?どしたの?」
目をぱちぱちとさせながら桃花が尋ねてきた。
「…。
桃花、今から出掛けるぞ。」
「どこに~?」
桃花はきょとんとした顔で再度尋ねた。
「…、桃花の、行きたい所。」
俺は少し口角を上げて回答を濁した。
すると桃花は目をキラキラさせた。
遊園地に行ったあの日のように。
俺らは必要最低限のものを持って組を出た。
戻れる?戻れない?
帰れる?帰れない?
分からない、分からない。
それでも俺らは、行かなければならなかったと…
識るのはもっともっと後の事で。
もし、この時出て行った理由を分かっていたら
違う未来が待っていたのだろう…。