パパは家庭教師!?
俺と優華はその後連絡先を交換した。
「何かあったらすぐ連絡しろよ?」
そう言って俺は車に乗り込み
帰路へ向かった。
・・・・・・・
組の駐車場に車を停め、
地下への階段を下って行く。
玄関を通り過ぎ、自分の部屋の扉の前に立った。
小さな溜め息をついて、扉を開ける。
「桃花~?ただいま…?」
いつもなら部屋で何かしらしている桃花が
見当たらなかった。
俺は桃花を探そうと部屋を出て
あたりをキョロキョロ見渡した。
すると、ふと桃花の声が聞こえた。
俺の部屋の向かい側だ。
俺は、コンコンと扉をノックした。
「は~い」
ガチャ…
その扉を開けながら返事をしたのは桃花だった。
「桃花、ただいま。
なにやってんだ?」
扉を開いて行くと、もう一人…。
(…勇?)
扉の向こうに立っていた奴は、勇だった。
「パパ~、あのね!桃花お勉強してたの!」
「…勉強?」
「うん!勇兄が教えてくれてたの~」
「はぁ?どうゆう事だよ、勇」
確かに。
確かに桃花もそろそろ平仮名くらい読めたっていい年だ。
それでも、やっぱり桃花と勇の関係を
認めたくないばかりに勇に不機嫌さ丸出しで聞いてしまった。
「…、世亜様に今後は私が桃花様の勉強を教えるよう
言われました。」
「世亜が?」
あのヤロー…、嫌がらせかよ?
俺は部屋を出て世亜の部屋へと早歩きで向かった。
コンコン
「失礼しま~す。」
世亜の部屋の扉を開けると、部下がひとり居て
何やら真剣に話をしていたようだった。
俺に気づいた世亜が、部下に「もういい」と、
言って俺の方を見た。
「なんか用か?唐御」
「桃花の勉強の事なんすけど…」
俺は少し不機嫌な声で本題を話し始めた。
「勉強?あ~、勇の事か?」
俺は少し苛つきを隠せずに世亜に不満をぶつけた。
「桃花には優秀な家庭教師を付けるって
言ったじゃないすか?
何でよりにもよってあんな奴に勉強を…」
その言葉を聞くと世亜は
「あ~あ、ヤキモチですか~。そうですか~。
別にいいだろ~。
桃花が真実を知ってる訳じゃなし」
「べ、別にヤキモチとかじゃねえっすよ…。」
俺がモゴモゴと言葉を詰まらせていると
世亜は、ふ、と顔を変え真剣な眼差しで言った。
「俺は勇より優秀な人間を見たことない。
これはお世辞でもなんでもない。
現に勇はIQ200以上ある大物だ。
頭が非常に切れる。
だから、いつも勇をお前の横に置いてんだよ。
お前はバカだからな」
最後の言葉にムッとした俺は突っかかった。
「はぁ?
俺がバカって…どこをどう見てそう判断したんすか?
それにIQ200だかなんだか知らないっすけど
俺は桃花の家庭教師に勇を付けるのは反対「じゃあ自分で教えれば?」
世亜が俺の言葉を呆れた声で遮った。
「自分がやるならともかく、
人に、しかも文字も読めない桃花に教えんのは
簡単な事じゃねーぞ?」
更にムカついた俺は
「やりますよ!
勇なんかに頼るより、自分で教えたほうが
こっちも安心だしな!」
と、捨てゼリフをはいて
「失礼します!」
不機嫌満々でドアを閉めた。
「はーあ、あいつマジでバカなんだな~。
ホントに俺の子供かよ…」
唐御が出ていった後、
世亜が呆れた声でそう言った。
俺はツカツカとさっきの部屋に向かって歩きながら
世亜の言葉を思い出していた。
(バカ、バカ、バカ…)
俺が1番言われたくない言葉だからだ。
(あのヤロー、人のこと見下しやがって!
桃花に勉強教えるくらい簡単だっつーの!
見てろよ!!)
コンコン!
「はーい!」
ガチャ…
元気な大きい声とは打って変わって、
小さい身長の桃花がドアを開けてくれた。
「あれ?パパだぁ~、どーしたの?」
桃花がきょとんとした顔で俺に問いかける。
「ちょっと待っててな~、桃花。
…おい、勇」
勇も何があったのか少し不思議そうな顔をして
「はい…」
「今後から俺が桃花の勉強見る事になったから!
もうお前は用無し!世亜にも許可もらったし!」
俺が得意げな顔でそれを言うと
勇は「なるほど」と言った様な顔をして
「そうですか、ではどうぞ。」
そう言って部屋を出ていった。
俺は(勝った!)という気持ちで桃花の方を
振り向くと
「え~、勇兄が良かった~」
と、不満気な声を漏らした。
その言葉にムッ…とした俺は
「桃花~、パパは頭がイイから勇より上手に
教えてやれるんだぞ?」
「ホントに~?」
と、疑問形の桃花…。
そんなこんなで勉強がスタートした。
まずは平仮名50文字を毎日少しずつ
覚えさせることに決めた。
今まで絵しか描いたことのない桃花は
曲線やまっすぐの線を使いこなすことが出来なかった。
勇が「あいうえお」の書き方の基本を教えてくれたらしく
勇のお手本を見ながらなら何とか書けるっぽいが
お手本を取るとかなり危うい…
「だーかーらー、『あ』は横の棒から書いてー」
かれこれ15分程、『あ』の文字と格闘している俺と桃花…
(っかしーなー。
何でこんな簡単な文字が書けねーんだ?)
桃花も頑張ってはいるが
俺に注意されてばかりで嫌になってきたらしく
少しずつやる気がなくなってきたのが目に見えて分かる。
それでも俺はどうしても「あ~お」を
今日中にクリアしたくて注意に力が入ってしまった。
「う~…、パパ、もう桃花やだ」
「だーめ、今日中に5文字書けるように
ならなくちゃダメなんだって。
さっきも言ったろ?
ほら!また違う!」
『あ』を縦の線から書こうとしてる桃花に注意すると…
「もうやだ!
パパより勇兄の方が良かった!」
と、言われてしまった…。
「あー、そうかよ!
じゃあ、勇に教えてもらえばいいだろ!
パパだってもう知らねーっつーの!」
そう言って部屋から出ていった。
(んだよ!
世亜も桃花も!
俺は必死にやってんのに!)
『パパより勇兄の方が良かった!』
桃花の言葉が頭の中でこだまする。
…ふ、と気づく。
その言葉がこんなくだらない状況で
言われて良かった…と。
もし、もしこの言葉が俺の恐れている状況での言葉だったら…
少し、怖くなった。
そんな訳で、、、
結局家庭教師は勇になったのであった…。
(どーせ俺はバカだよ。)




