真実、覚悟、混乱。
駐車場に着いた俺は勇を探した。
「あれ、おかしーな。
いねーぞ…」
てか事件って何だ?
また裏切り者か?
「唐御様、こちらです」
その時、勇の声が後ろから聞こえ振り向くと…
カチャ…
勇が俺にピストルを向けていた。
「何だよ」
俺が睨むと勇は、ピストルを懐に戻して
「いえ、何でも」
と、いつもの無表情で言った。
「「・・・」」
しばらく沈黙が続いた。
「世亜様からお聞きなさいましたか?」
開口したのは勇だった。
「あ?何を?」
「私の事です」
「あ、あ~、いや…
聞いたけど話してはくれなかったぜ…?」
「…そうですか
…唐御様は知りたいのですか?」
「あ?」
唐突すぎる質問に戸惑う俺。
さっきの世亜の言葉が頭をよぎる。
(思いもん背負ってるぜ。)
(後悔する)
(あいつも思い出したくねぇだろうし)
「べ…別に。
お前が話したくねぇなら聞かねぇけど…」
俺は少し遠慮しながら勇に返事をした。
すると勇は俺に背を向けて青空を見上げた。
「空が、綺麗ですね」
俺は少し驚いた。
こいつに綺麗っていう感情があったのか…と。
「あ、あぁ…」
俺もどうにか話を合わせる。
「唐御様、私の苗字を知ってますか?」
「え?」
(そういえば、知らない…)
1番近い部下なのに、俺は勇の苗字を知らなかった。
「私には苗字がありません。」
「は…?」
「28年前、私は生まれてから出生届けも出されずに
この組の前に捨てられました。
…望まれてはいなかったのでしょう、
この私が生まれる事は…」
「…」
俺は黙って勇の話を聞いていた。
「その私を拾ってくれたのは
若くして小林組の親であった世亜様でした。
勇、という名前も世亜様が付けてくださいました。
世亜様は19歳にして
自分の親を葬って自ら組をお継ぎになられました。
それから私はこの組の中で育ちました。
物心付いた時には既に人の殺め方までも
知っていました。
それが当たり前だと思っていました。
そして10歳になったある日
世亜様は私を呼び、
私の苗字が無い事、ここに捨てられていた事を
教えてくださいました。
その当時から私は表情をなくしました。
必要ないからです…。」
そこまで言うと勇は黙り込んでしまった。
「…勇?」
俺が声を掛けると勇は重々しく口を開けた。
「…これから話す事は、唐御様にとって
あまりにも残酷です。
しかし、いずれ話さなくてはいけない事です。
覚悟を持ってお聞きください。」
勇はそう言うと、俺がいる方向を向き
俺と目を合わせた。
「4年前に、私はある大学に入学しました。
少しその大学で調べる事があったのです。
戸籍のない私ですがそれは大学に多額の金を払い
入学を許されました。
そこである女性と出会いました。」
「女性?」
「はい、その女性の名は…
水価 美代です。」
「え?…水価?」
「ご存知の通り桃花様の産みの親である
水価です。」
一瞬、頭がパニックになった。
まさかまさか…そんな事が頭の中でぐるぐるしていた。
「私なんかが言うのもあれですが
水価美代という女性はとても素敵な女性でした。
笑顔を絶やさない、おっとりした方でした。
私はその後、彼女と恋人という関係になりました。
敵、という事は解っていました。
それでも、彼女には惹かれる所があり
私は仲間に隠し隠し美代と付き合っていました。
そんなある日、彼女は妊娠しました。
その話を聞き、私は大学を退学しました。
敵との間に出来た子供等、祝福される事は無に等しいです。
それに私には世亜様への
忠誠心の方がはるかに強かったのです。」
俺は息を呑んだ。
桃花を生んだのは水価姉…
そしてその父親は…
「正直に申し上げます。
桃花様の実の父親は…私です。」
頭が真っ白になった。
当たってしまった推測。
目の前にいるのは俺の最愛の娘の父親…。
「う…そだ。」
「…」
「そんなバカな事、が、ある訳ねぇだろ…?
なぁ、頼む、嘘だって言えよ。
なぁ…!」
「…」
勇は目を瞑って
「申し訳ありません…」
と、小さな声で呟いた。
戸籍のない父親
ヤクザの娘である母親…
桃花が、こんな事知ったら…
俺がショックを受けていると
勇が悲しい目をしてこう言った。
「私は生涯、桃花様に父だと告げる事はありません。
もしもそれを言ったとしても
父親になるつもりはございません。
望んで生まれず、幸せになれなかった私が
桃花様を幸せになど出来るはずがありません。
なので、唐御様に全てお任せいたします。
桃花様…いえ、桃花をよろしくお願い致します。」
そう言うと勇は俺の横をすっと通り過ぎ
消えて行った。
「聞くんじゃ…なかったな…」
残された俺は呆然と立ち尽くしていた。