喜びの裏に在るもの。
その後俺は勇に話をし、世亜に頼み込みに
部屋へ向かった。
「お願いします!
桃花をここで育てさせてください!」
「・・・」
世亜は少し無言になった。
そして
「別にいいけど。」
と一言だけ喋った。
「え?」
あまりのあっけなさに口をポカンと
開ける俺。
小指のひとつふたつは覚悟してたのに…。
「たださぁ、桃花を引き取ってここの事はどう
説明するつもりなん?
桃花だってその内幼稚園やら学校やら
行く年になんだろ?
その時はどうするつもりなんよ?」
世亜は俺にそう問い掛けた。
俺は世亜の目を見つめながら
説明した。
「ここの事に関しては…
俺たちがヤクザだという事は隠して欲しいです。
幼稚園や学校には行かせるつもりです…
もちろん、『普通の子供』として…。
もしそれが無理なら、優秀な家庭教師をつけて
ある程度の常識を教えさせるつもりっす。」
世亜は黙って聞いていたが
「ふーん、俺達がヤクザって事を隠す訳か。
まぁ、それは可能として問題は教育だな。
…悪いけどここに関わった以上『普通の子供』として
育てていくのは不可能だ。
残念、俺は後者をおススメだ。」
俺は少しガッカリしたが
世亜が桃花を引き取る事を認めてくれ
また、協力してくれる事に感謝の気持ちしかなかった。
「後者でも構いません!
ありがとうございます!」
俺はその気持ちを世亜に言葉で告げた。
その時世亜は何とも言えない顔をした。
何て言えばいいか解らないが
何故か、嬉しそうだった。
でも俺はその時、その事に気がつかなかった。
気付いていたなら
俺は世亜をあんな目に遭わせなかったのに。
その後、色々な手続きをしながら
桃花の元にもちょくちょく通った。
桃花の体重も徐々に戻り、
やっと色んな事が終わり
桃花を引き取る事が出来た。
それでも、俺の眉間のシワは取れる事無く
桃花も時々聞いてくる。
「なんでパパ、そんなに睨んでるの?」
まさか『ヤクザだから』と、言えるはずもなく
「なんでかな~?」
と、誤魔化し続けていた。
部下達にはヤクザのような言動を
桃花の前ではしないよう徹底的に世亜が
指導してくれた。
桃花の「なんでお家が違うの?」という問いには
「パパのパパのお家がお金持ちだから
ここでこれからは暮らすんだよ。」
そう言うと桃花は無邪気な顔で
「じゃあいっぱいいるスーツの人達は
家来なの?」
なんて言うもんだから
「ん~…家来っていうか…
桃花やパパのお友達みたいなもんかな(笑)」
と、教えると今まで友達ひとりいなかった
桃花は飛び跳ねて嬉しさを表現した。
そして俺の足元に抱きつき
「パパだぁいすき!」
…失神寸前の俺…(笑)。