育っていく憎しみ。
「ん…」
夢を、見た。
『パパ!』
(あれ?
誰だっけ?この子…)
『パパだいすき!』
(ああ、そうだ
この子は俺の…―)
ぱち
目が覚めた。
朝日が目にささる。
ふ、と気が付くと
横にヒトの温もり
(ああ…、昨日ヤッた奴か)
「………」
俺はベッドから出て、
そのまま風呂に向かってシャワーを浴びた。
(なんであんな夢見たかな…)
消したはずなのに…
そんな事を考えながら
俺は風呂から出て
背広に着替えはじめた。
そのまま部屋を出て
俺は勇にケータイで電話を掛けた。
プルル、プルル…
『はい、勇です。
おはようございます、唐御様。』
「はよ、今日は何かあるか?」
『今日は午後からの任務になります。
時間になったらお迎えに参ります。』
「分かった、じゃな」
俺はそう言ってケータイを
ポケットにしまった。
(コーヒーでも飲むか…)
そう思い、喫茶室に足を向けた。
その頃水価姉妹は、
ある話し合いをしていた。
水価姉はホロリと涙を流してこう言った。
「私には…無理だわ…。
あんなに…あんなにも
小林さんの事を待ってる桃花に
これ以上嘘はつけない。
引き取ってもらうのが、きっと桃花も…」
そこまで言って水価姉は
わっと泣きだした。
由来は悔しげに目を瞑って
口を開いた。
「分かったわ…
お姉ちゃんがそこまで言うなら
私も、お姉ちゃんの言う通りにする。」
由来達はその日、ふたりで泣き合った。
待ってれば、いつか桃花が笑顔を見せてくれると信じていた。
皆に望まれて生まれた子ではなかった。
けれど、このふたりだけは望んでいた。
男に逃げられようと
親に反対されようと
暴力を振るわれようと
このふたりだけは
桃花を愛していた…。
愛に勝ち負けは存在しないが、
悔しかったのである。
水価達ではなく
小林唐御という男の愛を
桃花は欲しがっているのだから…。
―桃花の入院している病院―
コンコン…
水価姉は静かに病室のドアを叩いた。
「桃花、入ってもいい?」
「帰って」
相変わらずの返事だった。
「じゃあ、このままでもいいわ。
話を…聞いてね。
桃花、本当に今までごめんね。
貴方を無理矢理連れ帰ったり
こんな所に閉じ込めたりして…
昨日、由来お姉ちゃんと話し合ったの。
私達は貴方を…―」
その言葉を聞いて、桃花の闇は明けた。
希望が瞳に宿った。
「本当!?
本当にパパに会える!?
嘘じゃない!?」
やっと病室に入れた水価姉は
優しく笑いながら
「本当よ、
嘘だと思うなら指切りする?」
すると桃花は、小指を出して
真剣な顔をした。
「「ゆーびきりげんまん、
うそついたら…」」
指切りが終わると
桃花は今まで水価姉妹には見せた事のない
笑顔を見せた。
ズキン…
水価姉は心が痛んだ。
どうして私じゃないのか…
その笑顔の理由は何故
母親である私ではないのか…
水価値姉は涙をうっすらと
浮かべて拳を握った。
徐々に、徐々に…
水価姉の中で憎しみが育ちはじめていた。
この時は、誰も気づく事はなかった。
本人でさえも…。