残酷なもの。
「パパ…?」
目が覚めた桃花は、唐御を呼んだ。
「パパ…?どこ?」
リビングにも、お風呂場にもトイレにも
唐御の姿は見当たらなかった。
桃花はだんだん不安になってきた。
その時、
ピンポーン
「パパだっ!」
桃花はてっきり唐御が帰ってきたのかと思い
ドアを開けた。
「…??」
しかし、玄関に立っていたのは
唐御どころか女性だった。
しかも2人。
顔がなんとなく似ていた。
「桃花…ちゃん?」
自分の名前を呼ばれて
桃花はきょとんとした。
すると、ひとりの女性がしゃがみ込んで
桃花を抱きしめた。
「やっと…
やっと会えた・・・」
女性は涙を流し
桃花を強く抱き締めた。
桃花は不安そうな顔で
「だぁれ?」
と、尋ねた。
すると女性は桃花の肩に
手をそっとおいて
「私はママよ。」
と、桃花の目を見つめて言った。
「…ママ?
桃花はママいないよ?」
不思議そうな顔で
桃花は口を動かした。
「だってだって、
パパが言ってたもん」
″パパ”と、いう言葉を聞くと
二人は顔を見合わせた。
そして、
「桃花ちゃん」
もうひとりの女性が口を開いた。
「あのパパは
本当のパパじゃないんだよ」
桃花に、電撃が走った。
(何言ってるの?
パパは、パパだよ?)
「うそ…だよ?
だって、パパはパパだよ?
昨日も帰って来たよ?
今日も…
今日も帰ってくるもん!」
桃花は、知らなかった。
もう、パパは帰らないという事を…
「桃花ちゃん、
その人はパパじゃないよ?
それに…
もう、帰ってこないのよ?」
桃花の頭は、真っ白になった。
(パパがパパじゃなくて?
パパが帰ってこない?)
「うそ…
うそうそうそ!!」
桃花は首を横にぶんぶん振って
部屋に逃げ込んだ。
「桃花ちゃん!」
バタン!!
桃花は寝室へ入り、泣き崩れた。
ふたりの女性は、急いであとを追い
寝室にそっと入った。
「桃花ちゃん…」
「えっえっ…
パパ…、パパ…」
桃花は唐御から貰った
くまのぬいぐるみを抱き締めて
唐御を呼んだ。
「ねぇ…
本当のおうち、行こう?」
桃花は首を横に振った。
それが当然の反応だろう。
ここが、桃花の家なのだから。
父親を否定され、
死んだはずの母親を名乗る人物が
現れた時、誰が混乱せずにいられるだろう?
しかし、時はもう止まらない。
少しずつ少しずつ時は動いていく。
唐御は契約書にサインをした。
桃花には、本当の母親が現れた。
世亜が養子縁組の紙を
水価家に渡し…
もう、唐御と桃花を結ぶものは
何一つ残っていなかった。
あるとしたなら、
それは想い出だけ…
その想い出もいつまで覚えていられる?
3年…
たかが3年?
されど3年?
選ぶのは運命か、彼らか…。