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そして。
バタン…
いつも聞いているドアの閉まる音が
いつもより寂しく聞こえた。
「…桃花、ばいばい」
ポツリと呟いて俺は
ドアを後にした。
あの男のいる場所へ向かう途中
色んな事が頭を駆け巡り、
心を締め付けた。
思えば…
桃花と出会ったのは、
俺にとって大きな意味があった。
あそこまでの犯罪と呼べる行為を
繰り返してきた不良が、
ここまで“人”を大切にする、愛する、
と、いう気持ちを持てたのだから。
それが、結果的にいい事だったにしろ
悪い事だったにしろ人生の中の
たったひと時にしろ人間としての幸せを
この体と心で感じる事が出来た。
そんな素晴らしい出来事を
こんな結末で終わらせてしまうのは
悔しいけれど…
決して消える事はないのだから。
俺と、桃花と、優華と
三人で過ごしたあの幸せな日々
ありがとう…
「…ここか。」
俺が止まった場所には
“小林組”と、大きく表示されていた。
まさか、自分の祖先がずっとずっと
ヤクザをやってきたなんて考えたくもないが
これが事実。
俺は、ここを継ぐんだ。
二人を、守る為に。