優しい華。
「はい、唐御君」
優華が俺に出来立ての熱いココアを渡した。
「・・・サンキュ」
俺は、それを受け取って一口飲んだ。
「・・・・・・・・・」
沈黙が続いた。
「・・・俺さ」
最初に口を開けたのは俺だった。
「・・・今、ホストやってんだ」
その言葉を聞いて優華は少し目を見開いた。
「そうなんだ・・・」
優華は一瞬下を向いてまた俺に視線を戻した。
俺の話を聞く覚悟が出来たのか優華は
「唐御君、続きを話して?」
と、言ってきた。
「・・・俺、すっげぇ桃花が好き。
それだけは今も昔も変わらない。
でも、ダメなんだよ。
俺は、桃花を悲しませて
傷付ける事しか出来ない。
毎日寂しい想いさせて苦しませてる..」
そこまで言って俺はもう一口ココアを飲んだ。
「・・・桃花ちゃんは、聞き分けがいいからね」
優華は悲しい瞳をして言った。
「俺、昨日の夜さ
・・・客と寝たんだ・・・」
「・・・え?」
「何でか、解んねぇんだ・・・
最初は断れたのに金出すって聞こえた途端
何も考えられなかった。
ただ、後ろを振り向いて・・・
その後の事何も覚えてねぇんだ。
気付いたら金受け取ってた。
でも、罪悪感とか何も感じなかった。」
「「・・・・・」」
少しの沈黙のあと、俺はまた口を開いた。
「バカだよな・・・俺。
ホントバカだよな・・・。」
そう言って俺は目を閉じた。
「唐御君・・・
確かに唐御君がした事はいけない事かも
しれないけど、時間は戻せないんだから
後悔しても仕方ないよ。」
「じゃあ・・・」
「え?」
「じゃあ、どうすればいい?」
情けない顔してんだろうな、俺。
「・・・!」
俺は優華の目を見て驚いた。
強い瞳だった
どこかで・・・
見た気がする
どこだっけ・・・
「私、唐御君はすごく大変な環境に
いるって知ってる。
普通の人よりいっぱい傷ついたり、
苦しんだり、悩んだり、泣いたりしたと思う。
でも、唐御君はどこかどこかで逃げてる所が
ある気がする。」
「逃げてる・・・?」
「うん、
唐御君は戦ってる。
それも死にもの狂いで。
でも、何かを理由にして逃げてる戦いがあるはず。」
「・・・!!」
確かに・・・
確かに俺は不良だからとか
ホストだからとか母親がいないからとかってことを
理由に他人より自分は不幸だと思い込んでた。
「それはきっと唐御君1人じゃ解決
出来ない事のはず。
でも、頼る人がいない。
結局自分1人で解決するしかない。」
・・・怖い位に当たってる。
「でも、それはただの勘違い。」
「・・・・・え?」
俺が優華の顔見ると、
優華は笑っていた。
そして、笑顔のまま俺の手を握り締めて
こう言った。
「ちゃんと、いるよ。
唐御君のこと助けたいって思ってる人、
ここに、いるよ。」
そう言って優華は俺を抱きしめた。
(あぁ・・・そっか。
この瞳は母さんに似てるんだ)
真っ直ぐで、強くて、温かみある瞳だ。
「・・・ありがとう」
俺の頬に一筋の涙が伝った。