幸せの代償。
「桃香、ただいま。」
俺はあの日から桃香の虜になった(笑)。
「たぁ〜〜。」
桃香も俺の事を求めてくれて幸せな毎日。
でも、母さんには内緒な?
「桃香、今日は一日何してたんだ?」
母さんが仕事に出かけた後、俺は桃香に話し掛ける。
「そっかそっか、寝てたのかー?」
「うー。」
こんな風にメロメロだ。
それでも、俺の生活態度は変わった訳じゃない。
別に、いつもどおりだ。
昨日だって喧嘩してきたばかりで俺の頬には生々しい傷跡がある。
女共も相変わらず寄ってくるし、教師も俺の事を注意する。
そんな何も変わらない生活の中でも一つの希望が出来た。
それが「桃香」だ。
今では生きているのが自分の為だけじゃない。
桃香の為でもある。
そんな幸せが3ヶ月続いた。
桃香も6ヶ月になってハイハイが出来るようになった。
それに俺も桃香と触れることに抵抗を持たなくなって今ではベビーカーで一緒に買い物に出かけたりもするようになった。母さん公認で。
俺は幸せだった。
こんなに幸せでいいのかって何度聞いても聞き足りないくらい・・・。
その日俺は桃香と一緒に服を買いに行ってた。
俺の服だけど・・・。桃香と一時でも離れたくないから一緒に連れてった。ただ、それだけだったのに・・・。
俺は見覚えのある人物を見かけた。
「!」
(・・・・・ヤベ・・・。)
それは不良仲間だった。
こんな所見られたら俺のイメージが崩れる・・・!!
そう思った俺は桃香を置いて逃げた。
すると不良仲間が桃香を見つけた、いや、見つけてしまった。
「おい、こんな所に赤ん坊がいるぜ?」
「マジで?なにこれ、捨て子かよ?」
「あ、俺子供高く売れる店知ってんぜ?」
「お、いいいねーそれ。」
(おいおい。話がどんどんやばい方向にいくじゃねーか!!)
それでも、俺は飛び出す勇気が出てこなかった。
「じゃ、行こーぜ、ちょうどゲーセンでも行きたかったし。」
そう言って桃香を抱き上げた。
桃香は大泣きした。
「びえーーーーーん!!」
(桃香・・・・!!)
「っんだよ!!るせーガキだな!!!」
ゴン!!!
あいつらは、あいつらは桃香を床に叩きつけた。
「・・・・!!!!!!!!」
俺は思わず口を手で抑えて目を丸くした。
「おい!!お前らなにやってんだ!?」
俺はもう我慢の限界で仲間の前に立っていた。
「ん?んだお前・・・唐御じゃねぇか。」
「おー、久しぶりだなぁ。唐御。」
「ちょーどいい、今こいつを売りに行く所だったんだ。一緒に行くだろ?」
「ふざけんな!!!手を離せ!!!!」
「あぁ?なんだよ、お前。一人でカッカしてよ。まさか、このガキおまえの子供とか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
俺は言葉に煮詰まった。
俺の子供だといえば桃香は開放してもらえるのだろうか?
「最近姿を見かけないと思ったら、どっかでガキでもつくってたのか?」
仲間が笑い出した。
全員あははははと大声を出して・・・。
俺の中の何かが切れた。
「そうだよ!!俺の子供だ!!!何か文句あんのかよ!?」
「は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
皆が黙る。
「だから、返せよ。俺の娘を!!!!」
「・・・ぷっ。」
「!?」
「あはははははははは!!!!!」
全員が爆笑した。
「な、なんだよ・・・?」
訳の分からない笑いに俺は眉をハの字にして聞き返す。
「だってよ、お前に子供なんて・・・。」
「ばかじゃねーの、お前。そんなのとっとと売っちまえばいいのによ!!」
「時間が経って情が移ったんだろ!?」
皆が俺の事を馬鹿にした。
それだけならまだよかった。俺はこのとどめの一言を後々引きずっていく事になる。
「お前に子育てなんて出来る訳ねーだろ!!!」
皆がその言葉にぎゃはははと笑う。
俺の中の何かが音を立てて崩れていった。
「・・・・・・・・・・・・・。」
俺の目からは涙が出てきていた。
「・・・返せよ。」
俺はそう言って桃香を取り返すと走った。
涙を流しながら走った。
・・・・・・・・・くそっ!!!
“お前なんかに子育てが出来る訳ねーだろ!!!”
「うっ、っつ・・・・くっ・・・・。」
バタン・・・・。
家に帰った俺は玄関に座り込んで泣いた。
「唐御?帰ってきたの・・・・?!?どうしたの?唐御!?」
「母さん・・・・いや、何でもねぇよ・・・。」
俺は痩せ我慢を言って、涙を袖で拭き母さんに桃香を渡すと自分の部屋に向かった。
「唐御・・・。」
バタン・・・・。
ドアを静かに閉めて俺は部屋で泣いた。
あの言葉が頭の中でこだまする。
「ふっ・・・・っつ、くっ・・・・。」
泣いたのなんて何年ぶりか?
俺は声を殺して泣いた。
息が詰まって苦しかった。
(俺に・・・・・子育てなんて・・・・・出来る訳ない・・・・・・?)
俺は夜まで泣き続けた・・・。
今回は唐御が泣く話を書いてみました。
桃香を、傷つけてしまった事に、
そして何よりまたもや自分のプライドを守るために
桃香を犠牲にした自分が許せないで泣いているのです・・・。
この言葉が後々にどんな形で唐御を蝕める事になるのか・・・?